•  落ち込まないで。もう少し、頑張ってみようよ。
 無責任な励ましなんて、かえって君を傷つけてしまうかも知れない。
 傷を簡単に言葉でいやせるのなら、生きるのがつらくなるひとなんていないもんね。
 でも、元気出して、ってわたしは何度でも伝えたいんだ。 

 ささやかな明かりだけど、わたしはここにいるから。
 世界に溢れる光の洪水に比べたら、わたしの灯りなんて比べものにならないくらいにちっぽけだけれど。
 でも、求めてくれたら、わたしは力の限りに応じてみせるから。

 だからもう一回、立ち上がってみてよ。
 君には、君自身がついているじゃない。
 立ち上がった君を、君自身がきっと支えるでしょう。

 君を導く頼もしい光になって、わたしはここで待ってるよ。
 だからここまで、歩いてきて。


  • DQN「おいコラお前。よく毎日学校にくるよな」ゴスッ
「来ても俺達になぶられるだけなのにな!wwwwwwww」
「げらげらげらげらwwwwwww」
男「い、痛いなー…」ズズ…
DQN「…ケッ。行くぞお前ら」
「そうだなww今日もスロやっか?wwwwwww」
「あー、その前に煙草くれ煙草wwww」
「バッカお前自分で買えwwwwwwww」
「げらげらげらげらwwwwwww」ガラガラ バタン
男「うう…さて…帰ろうかなー…」ヨロヨロ

「でさーwwwそれ超良い女でさーwwwwww」
DQN「マジかよwwwwwやらせろよwwwwww」
「げらげらげらげらwwwwwwww」
ドンッ
ヤ「おいゴルァアア!!何処見て歩きくさっとんじゃワレェェェ!!!!」
DQN「あ?チョーシくれてんなよオッサン」
「ちょ、おま、これマジモンじゃね?」
「お、俺知らねえ。帰るわ」
DQN「な、おいちょ…」
ヤ「チョーシくれてんのはどっちじゃこの餓鬼がァ!!」バキィッ
DQN「ぐ…っ」
「オイオイなんじゃテツ、なんじゃその餓鬼は」ゾロゾロ
DQN「…やっべぇ…」

男「買い物しなきゃー…ってあれ?怖そうな人が…誰を囲んで…」
「ウルアァ!!」バキィッ ドゴオッ
DQN「クソッ…うっ…ゴフッ!」
男「あれ…DQN君!?」
ダッ
男「ちょっ…ちょっと待って下さい!!」
ピタッ…
ヤ「オゥ…何や兄ちゃん…兄ちゃんこいつのツレかァ!?」
DQN「(あれは…男!?何してんだあいつ!?)」
男「…!…その人は…友達なんです。僕の…何をしたんですか。僕も謝ります」
DQN「(ハアァアア?)」
ヤ「兄ちゃんよぉ聞けよ、なぁ。こいつ他人にぶつかりよったのに謝りもせーへんのや」
ヤ「ちょっと兄ちゃんよぉ…止めに入ったって事は、覚悟はできとんのやろなぁ」
男「僕が代わりに謝ります。すみませ…ガフッ!」
ヤ「謝って済むかァァァ!!恨むんならそこの糞餓鬼を恨めやァァァ!!」ドゴォ

男「…あー、痛い…」グッ
DQN「…お前、何してんだよ…」
男「えー…だって、クラスメイトだよー…助けなきゃって思って」
DQN「お前馬鹿か!?俺はいっつもお前苛めてげらげら笑ってんだろーが!俺が憎くないのか!?」
男「…婆ちゃんがねー」
DQN「あ?」
男「婆ちゃんがね、言ってたんだ…優しくなってねって。酷いことされても許すんだよって」
DQN「…」
男「婆ちゃんはすごく優しい人でさー…昔からだったらしいんだけどー…僕は婆ちゃんみたいに、なりたくてー…」
DQN「…」
男「でも学校に行ったら苛められてばっかでさー…僕には無理だと思った時もあったけどさー…」
DQN「…」
男「でも…やっぱりさっきみたいなのは、放っておけないんだよー…婆ちゃんの、孫だからさー…」
DQN「…お前」
男「爺ちゃんが言ってたんだー…優しさは連鎖するんだってー。お前は、婆ちゃんの優しさの連鎖の最先端なんだって、いつも言ってたー」
DQN「…お前…?」
男「僕の優しさは…今まで誰かに、連鎖した、かなー…」
DQN「!!おい!しっかりしやがれ!あークソッ!携帯…!!」
男「(眠いなー…もう、良いよねー…)」

「ねえ、起きてー」
男「…誰…?」
「久しぶりだよねー。3年ぶりくらい、かなー」
男「(誰だろう…)」
「君はまだまだ優しさを繋げるよー。だってこんなに優しいんだものー」
男「…もう、疲れたよ…」
「大丈夫だよー。君の撒いた種が、やっと芽を出したんだからー」
「寄りかかれる人もなく、今までよく頑張ったねー。私には、そんなことできなかった」
「私は君を誇りに思うよー。私の孫が、私より強くて優しいんだものー。私は、嬉しいよー」
男「…婆ちゃん…?」
「さあ、起きるんだよー。君はもっともっと優しさを紡げる。私が保証するよー」
男「婆ちゃん…待って…」
優「爺ちゃんと一緒にちゃんと見守ってるよー」

男「婆ちゃん!!」ガバッ
DQN「うおっ!?」ガタッ
男「…?…ここは…?」
DQN「駅前の総合病院だ。勝手だと思ったが連れてきた。どこまで覚えてる?」
男「…確かヤクザに囲まれて…あ!DQN君怪我大丈…った!?」
DQN「じっとしてろ。お前結構重症だぞ」
男「そっか…DQN君はー?」
DQN「…おまえよりかは軽症だよ。全治3日だと」
男「…そっかー。良かったー。君が無事で良かったよー」
DQN「…今までごめん!」
男「え?」
DQN「今までお前の優しさに気づかなくて…俺、お前苛めてばっかで…!」
男「…うん。いいんだよー」
DQN「…ごめん。ありがとう」
男「えへへー…それにお礼を言うのは僕の方だよー。君が居なきゃ僕死んでたかも…死んだ婆ちゃんに会ったんだ」
DQN「そ、そうなのか」
男「うん。…この怪我じゃしばらく入院だね、僕。学校どうしようかー…」
DQN「お、俺が!」
男「ん?」
DQN「俺が、その…プリントとか…持ってくるよ…毎日…ちゃんと学校行って、先生に聞いてくるし」
DQN「お、お前は、早く体、治せよ。絶対だぞ」

優「私は、嬉しいよー」

男「…うん。ありがとう」


  •  今日は休日。別にやることもない俺は朝から今まで、ずっとベッドで寝返りをうっていた。
 本当に暇なので、ベッドの上から見慣れた自分の部屋を見回した。そして、俺の目に映ったのは、黒くて大きな

歪な形をしたケース。
 ――そういや、最近触ってないな。
 そう思って、それに触ろうとした時、

 ぴんぽーん

 と、間抜けな音がした。
「はいはーい、今出ますよーっと」
 俺がドアを開けると――
「遊びに来たよー」
 白のワンピースに、麦藁帽を被った優がいた。
「来る前に電話ぐらいしろよ。俺いなかったらどうするつもりだったんだ?」
「へへー、そのときは電話したよー」
「……とりあえず、中入れ」
「お邪魔しまーす」
 気付かれないよう、顔は向けずに目だけを優に向ける。一応、彼と彼女、と言う関係にはなっているのだが、い

つも合う時は制服なので、俺が優の私服を見るのは初めてだった。
 ―――私服着ると、新鮮で可愛いな。
「へ? あ、ありがとー……」
 どうやら、声に出ていたようだ。
「あ、どういたしまして」
「……可愛いかー……えへへー」
 やたらとにこにこしている優。……結果オーライ。

「ここがワタクシの部屋でございます、お嬢様」
 頭を下げて、優を部屋に招き入れた。
「うむっ、なかなか片付いているなー」
「掃除は一応しておりますので……なんか飲みたいものとかあるか?」
「のど沸いたから、普通にお茶が飲みたいなー」
「あいよ、適当に座っといてくれ」
「うん、分かったー」
 台所まで行き、冷蔵庫を開ける。
「麦茶と烏龍茶があるけど、どっちがいい?」
「烏龍茶が飲みたいよー」
 烏龍茶か。冷蔵庫から烏龍茶が入ったペットボトルを取り出して、コップに注いだ。
「はいよー」
 部屋に戻って、優にコップを渡す。
「ありがとー」
 コップを受け取り、こくこくと喉を鳴らして烏龍茶を飲む優。俺は優の隣に座ってその様子を見ている。
「……多いよー」
 しかし、半分あたり飲んだところで、コップを置いてしまった。
「ああ、じゃあ置いといてくれ。後で俺が飲む」
 俺がそう言った途端、優の顔が赤くなった。
「か、間接キスかなー?」
 可愛いな畜生。
「ああ、間接キスだな」
「あ、うー……」
 反応が見たくて、優が残したお茶を、目の前で少しだけ飲んでまた優の前に置いてみた。
「……」
 すると、優はそのコップに口を付けて、少し烏龍茶を飲んだ。もう顔は真っ赤だ。
「わ、わたしも間接キスー……」
 ああもう本当に可愛いな畜生。

 俺はその場で悶えたい衝動をなんとか抑えて、ぐしぐしと優の頭を撫でた。
「へ? 何、かなー?」
「なんでもない」
 しばらく頭を撫で続けてやる。悶絶するのを抑える、という理由からだったが、優は嬉しそうだ。
「なんだか気持ち良いよー」
 そう言って、優は目を閉じて、俺に寄りかかってきた。
「おい、どうした?」
「んーん、なんでもなーい……」
 寄りかかっている優の顔を見た。その顔は、いつものやさしい笑みじゃなくて、甘えているような、本当に可愛

い笑みで。
 きっと、こんな優の笑顔は俺しか知らない。そう思うと、自然に笑みがこぼれた。
「何笑ってるのかなー?」
「なんでもない」
 ああ、そう言えばさっきもなんでもないって言ったな。まあ良いか。優が幸せそうだし。
 それからまたしばらく優の頭を撫で続けていると、そのうちに優は寝息を立て始めた。
「……動けない」
 まぁ、良いか。しばらくこうやって、幸せを味わっておこう。

 それから、だいたい三時間後。優が目を覚ました。
「おお、起きたか」
「んー……あ、わたし寝ちゃってたー……?」
「三時間ほど」
「三時間も!? ごめんね……頭撫でられてると、なんだか気持ちよくて、つい……」
 本気で申し訳なさそうにしている。そんな気にすることじゃないだろうに。
「俺もお前の寝顔じっくり見れたから、別に全然気にすること無いって」
「……寝顔見たのー?」
「可愛かった」
「ありがとー」
「どういたしまして」
「ところでっ!」
 急に優の声が大きくなったので、少し驚いた。
「うおっ、何だ?」
「あれさ、ギターだよね?」
 優が指差しているのは、俺が朝触ろうとした、ギターケース。そういや忘れてたな。
「弾けるの?」
「最近触ってないけどな……それに、ある程度弾けるだけで、歌は上手くないんだ」
「いいから、とりあえず弾いてみてー。歌わなくても良いから」
「いや、別に良いけど……何でそんなに……」
「だってギター弾いてる君を見てみたいんだもん」
 溜め息をついて、ギターケースを開けた。とりあえず、チューニングを合わせておく。
「よし……こんなもんか」
「楽しみだよー」
「あんまり期待されても困るんだけどな……どんなのが良い?」
「うーん……男くんが好きなので良いよー」
 そういわれると逆に困るんだけどな……。
「じゃあ、適当に弾くぞ」

 そして俺はギターを鳴らし始める。
 俺が選んだ曲は、ゆずの、少年。
 もっと有名なのがあるだろうけど、俺はこの曲が気に入っていた。


「人生を悟るほど 賢い人ではない」
 優が歌い始めた。
「何だ、この曲知ってるのか?」
 歌うのを止めずに、うなずいて応える優。
「愛を語れるほど そんなに深くはない」
 優の声は、やさしくて、綺麗で。この曲調にはあってないと思うけど、いつの間にか俺はその声に聞き入ってし

まっていた。
 二人で、一つのものを作り上げている。そんな気がして、思わずにやけてしまう。
 この時間がずっと続けば、どれだけ幸せだろう。
 だけど、やっぱり時間は進んで、歌は終わった。
「ちょっとノってみたよー。……邪魔、だったかな?」
「いや、全然。ギターだけって言うのも寂しいからな」
「実はねー、人前で歌ったの初めてなんだー」
「カラオケとかは?」
「行ったこと無いよー。そういうのは恥ずかしいんだー」
「学校での歌のテストとかはどうしてたんだ?」
「あんなの恥ずかしくて声なんて出ないよー!」
 少し、意外。平気で困ってる人に話しかける勇気はあっても、人前で歌う勇気は無いのか。
 ……って言うか、人前で歌うの初めてってことは――

「で、どうかなー? 自分が歌ってるの、人に聞いてもらったこと無いんだー」
「綺麗だった。上手かったよ」
 今の曲調には合わなかったけど。
「ほんとー!? ありがとー!」
「で、一つお願い、って言うかわがままなんだけど」
「何かなー?」
「歌うの、俺の前だけにして欲しい」
 完全に、ただの俺の独占欲による、わがまま。
「それだけじゃない、今日みたいに笑うのとか、もたれかかって寝るとか……」
 分かっていても、他の奴らに見られるのは嫌だった。
「まったく、君はわがままだなー」
 流石にこのわがままは無理か……?
「だけどねー」
「?」
「わたしがどんな顔で笑ったのかとか知らないけど、そんなの、本気で心を許した人……好きになった人にしか出

来ないと思うよ」
「隣で寝るのもそう。歌うのなんて、君じゃなかったら絶対緊張して歌えないもん」
「だから、そんなこと言わなくても、わたしは君以外にはそんなことしないよー」
「そう、か。……お前からそんなこと言うとは思わなかった」
 まさか、あんな恥ずかしいことを普通に――
「わ、わたしだって恥ずかしいんだからねー。君がわがまま言い出すからー」
 普通には言えないよねー。

「優」
 名前を呼んで、
「なに……んっ」
 唇を重ねる。
「……いきなりはびっくりするよー」
「いや、なんかそういう雰囲気だったから……」
 少しの、気まずい沈黙。
「……あ、もうこんな時間かー。わたし、帰るよー」
 時計を見ると、午後七時。もう少し一緒にいたかったけど、あまり暗くなると危険だ。
「家まで送るよ」
「え……じゃあ、お願いしようかなー」


 夜道を二人で歩く。暗い中では、白いワンピースは目立った。
「そう言えば、何であの曲知ってたんだ?」
 唐突に思い出したので、聞いてみる。
「あの曲って……あー、少年?」
「そうそう」
「あの曲はねー、サビの歌詞が好きなんだー」
「サビの何処だ?」
「全部かなー」
 全部かよ。
「一回ね、暗いニュースとか見て、わたし何も出来てないんじゃないかって思ったことがあったんだ」
「そのとき、ちょうどラジオでこの曲が流れててねー。この曲聴いて、また頑張ろうと思ったんだー」
 そうやって話をしているうちに、優の家の前に着いた。
「送ってくれてありがとー。楽しかったよー」
「と言っても、うちに来て、寝て、歌っただけなんだけどな」
「あははー……じゃあね、ばいばーい」
「おう、じゃあな」

 家に帰って久しぶりに、少年のCDをかけた。
 ……今日一日で、改めて優を好きになった。
 初めて私服を見て、あの笑顔を見て、寝顔を見て、歌を聴いて、またキスをして、このCDを聞いて。
 こうやって、少しずつ優を知って、好きになっていければ良いと思う。
 そしていつの日か、共に人生を歩めれば……なんていうのは行き過ぎた話か。
 とりあえず、今日は早く飯を食って、風呂に入って、さっさと寝よう。寝て、また明日、優と会って、優を知っ

て、優をもっと好きになろう。
 俺は、ベッドに入って目を閉じた。



終了
実際に存在する曲を使ったのは詩を考える能力が無いからです(´・ω・`)
あと選曲ミスかもしれない。
あんまり詳しくないんだ、すまない

別に激甘でも無いし、音楽もあんまり絡んでないんだ、本当にすまない


  • 「わっ!!また男が0点とってる~!!」
「みんな近寄るなよ!!バカがうつるぞっ!!」
男「………………」
「逃げろ~っ!!」
男「……くそっ…ノート…ビリビリじゃんかよ………」
優「………大丈夫ー…??」
男「……??…誰だよ……お前も俺をいじめるのか…??」
優「ち、違うよー!!えっと…わからないなら…教えてあげようかなーって??」
男「いいよ…ノートないし……」
優「私のあげるよー」
男「……いらない…もう俺は帰るから…」
優「あ……」
優「………………」

翌日。
「邪魔。どけよ男。」
男「……ゴメン…」
優「……今のは君が悪いと思うよー??」
「は??」
男「Σっ?!昨日の…変な奴……??」
「何??お前??」
優「だから、君が避けて通ればいいんだよー」
「お前いつの間に味方なんかつけたの??」
優「味方とかじゃないよー??」
「…メンドクセ……わかったよ、俺が悪かったよ。」
優「うんっ!わかれば行ってよしだよー」
「ちっ…………」
優「ふぅ…大丈夫ー??」
男「お前………なんで…??」
優「絶対に男君は悪くなかったからー」
男「………………」
優「ねっ、勉強…教えてあげようかー??」
男「……………」
優「ノートもあげるよっ??」
男「お前……名前は…??」
優「優だよー」
男「…優……ありがと…」
優「……えへへー」

それから、俺は毎日図書館で勉強を教えてもらっていた。
楽しかった。
でも、あいつらはそれを許さなかった。
男「うっす。優~??いないのか…??」
優が先に図書館に来てないのは初めてだった。
男「おかしいな……教室か…??」

ガラガラっ
男「優いるか……っ?!」
目に入ったのは、制服が泥だらけになり泣いている優だった。
男「優っ!!」
優「…あっ、男君~……」
優は、今まで泣いていたのが嘘のような笑顔で振り返った。
でも、その笑顔も、泥に汚れていた。
男「…なんだよこれっ?!なんでっ!?」
優「えと……」
優「ちょっとこけちゃったんだよ~…」
男「…嘘つけバカ野郎……なんで…逃げなかったんだよ…」
優「…だ、だってあの人達……お前が嫌がるなら男君を…って……」
男「…っ……くそっ…あいつら…」
優「…ねぇ…私…誰かに優しくしちゃいけないのかな……なんだか…恐いよ…」
男「…………そんなことないよ……」
優「………男君……??」
男「…お前はそのままの優しい優でいてくれ………」
優「うん………」
男「あいつらからは俺が守るから……」
優「…うんっ……」
優の目からは涙があふれていた。
でも、俺はその涙がなにを意味しているのかわからなかった。

  • 巌「優…」
ボソッと言う声は、教室の喧騒に紛れさせたつもりだろう。
でもあたしはそれを聞き逃さなかった。かと言って、彼女の為になるという訳では無いが。
女「何言ってるのよ巌ちゃ~ん」
巌「ん?何も言った覚えはないが」
どうやら無意識に漏れたらしい。それくらい意識しているということなのか?軽く嫉妬…はしない。
優と巌は簡単な対の存在。優が優しいなら巌は厳しく、しかし優がすぐ見える優しさなら巌は後になって理解される優しさ。
巌自身、自分のキャラクタに戸惑うことが多い。
家に帰っては家計を任されながら悩んだ。知恵熱を出す程に。
しかし巌が自分の厳しさに戸惑うなら、優は自分の行動に戸惑う。
女「あぁ…優たん…って言ってたよ」
巌「な!そんなこと言う訳ないだろ!」
女「冗談よ、冗談」
優と巌は簡単な対である。だが一つだけ優にあって巌にはないものがある。
恋だ。しかもうらやましく、歯が浮くくらいの。
だから巌が意識するのはわかる。むしろ私なら机に立って「あぁー!恋してぇー!」なんて
巌「キラキラしてるな、優は」
女「巌も恋しなさいよ」
巌「無理、恋なんてしてられないよ」
巌がそういうのも仕方が無い、巌の家は貧しい、恋をして家計簿の計算を間違えてしまってはプラスだろうがマイナスだろうがすぐに火の車になるからだ。
女「でも、あんなにキラキラしてみたいわ」
巌「…うん」
巌はそういうことには少女なんだな、しかもまだ高校生とは言えないくらい。
女「あら巌ちゃんの本性が見えたわ」
巌「また何か言ったのか!?」
本当に思ってることは意識せずとも口からポロッとでるようだ
女「んふふー、教えませーん」
巌「な、何て言ったんだよ!」
巌にはまだ教えるまい。私自身あなたに惚れる危険性があると
あなたはどこかで恋させてるのよ、って
巌「見てられん、行ってくる…」
巌は優とその取り巻きの元へ行き、色々と注意をしている。
あの様子だと同じ調子にされてそうだ。
帰ってきたら愚痴を聞いてやろうか。
あの娘に対する尊敬に近い愚痴を、そして自らの偉業に対する愚痴を。


  • 優は、のんびりとした性格だが、真面目にコツコツ努力するタイプでもあり、学校の成績もそんなに悪くはない。
一方、努力とは無縁の俺には、常に赤点との戦いが待っている。
試験前、優に頼んで、図書室で勉強に付き合ってもらった。
優「一人より、二人で勉強する方が、楽しいねー」
俺「そうだね」
優「あっ、男君、その計算間違ってるよー」
右隣に座っていた優が、僕のノートを覗き込みながらそう教えてくれる。
前かがみになった優の制服越しに、胸のふくらみが目に入る。あれっ、優って、こんなに胸が大きかったっけ。
優「・・・男君」
俺「は、はい」
優「私、優しい人は好きだけど、やらしい人は嫌いだよー」
のんびりした性格だが、鋭い部分もある優。
俺「・・・ごめんなさい。あっ、優、消しゴム落としたよ」
優「えっ?ホントだ。ありがとー」
俺「・・・」
優「・・・」
暫く顔を見合わせた後、これって、いつもと逆だね、そう言って二人で笑った。
一週間後、試験が終わり、俺はなんとか赤点を逃れる事が出来た。
自分の事の様に喜んでくれる優を見てると、一瞬でも彼女をやらしい目で見てた事を反省する。
いつもの様に、優の成績の方が良かったんだけど、いつもと逆の事もあった。
保健体育の成績が、優の成績を上回った。思春期の女性の胸がふくらんでくるとか、そういうのには詳しいんだな、俺は。


  • 優「・・・あ、消しゴム落ちたよー」
俺「あ、サンキュー」
優「えへへー。ゆあうぇるかむ!」

日常はただただ、過ぎていくだけだった。

俺は、隣の席の優に消しゴムを拾って貰う。
俺は、友達とくだらない話をして盛り上がる。
俺は、この平穏なボケた日常を過ごしている。
俺は、優への片思いを今日も抑えて学校に通う。

その日も毎日繰り返された予定を実行するつもり



の、はずだった。

それは、昼休みのこと。
俺は廊下で友とモタリ司会の人気音楽番組ミュージッ君ステーションの話で盛り上がっていた。

俺「でさ、Diru an greiがさー・・・」
友「そうそう。で、Every Little Singがさー・・・」
俺「あれって・・・だよな?」
友「そうそ―――」

女A「キャーッ!!」

いきなり、それが響いた。

友「おっととっとととっと!?」
俺「何事だ・・・?」

突如教室内から上がった悲鳴。俺と友は現場、もとい自分の教室へと突撃した。

そして、それを見た。

血。朱。血。紅。血。赤。血。丹。

教室に、その色がやけに映えている。中心に、動かない優を置いて。
すぐそばには、棒を持った俺のクラスのいじめられっ子の姿が見える。

誰がどうしたのか理解出来た。瞬間、俺は憤怒に理性を蝕まれた。

ドスッ

呆然と立っているそいつの顔に思いっきり殴り込む。

い「ぐっ・・・!」
俺「・・・優に、何しやがった・・・」

自分でも驚愕するぐらいの声の低さ。そして、震え。
俺は、完全にキレていた。

い「こ、こいつが悪いんだ! 俺がいじめられてるのを同情しやがって!!」

同情しやがって。
こいつは、今、優の、優しさを、同情扱いした。
許せない。俺は、そう思った。

俺「同情・・・同情か・・・・・そうか・・・なら、俺も同情してやるよ・・・・・」

ドスッ!ドスッ!ドカバキドスベキドサイレンスズカドスッ!!!

俺「許さねぇ・・・てめぇ、優の親切を同情扱いしやがったな・・・・・!!」
い「ぐっ・あがっ・・・ぎっ・・・・・!!」
友「お、おい・・・それ以上は流石にやめと」
俺「黙ってろ!!」
友「おい、俺・・・どうしたんだよ!?」

俺は、ただひたすら殴った。殴って、殴って、殴った。
だが、聞こえてくる消防車のサイレンを聞いて我に返り、気づく。
考えてみれば、俺は何を怒っているんだろうか、と。

俺「・・・」

優が死ぬのが怖いんだ。そう、そうだ。だからなんだというのだろう。
―――「誰にでも優しくしたい。みんな大好きだから」―――
いつの日かあいつはこう言っていた。でも俺は何をしている。
本人がこれを望むとでも言うのだろうか。そんな事はない。
あいつは優しいんだ。だから、きっとこれも、許してしまう。

い「許して・・・許して・・・・・」

何回も、壊れたCDみたいに呟き続ける謝罪の言葉。
囁かれるその声はいつの間にか、俺を悪役にしていた。
いや、していたではない。もともと悪役ではないか。
こんなの悪役だ。

俺「・・・くそっ!!」

思わず、叫んだ。悔しくて、歯痒くて、むかむかしていたからだ。

それから二日経った現在、優は、重い状態らしい。
なんでも色々と殴られてて骨折が数箇所に渡りあったらしい。
手術をするぐらいの打撃を食らったせいかまだ意識も戻っていない。
俺はと言えば学校を一週間停学。なんとまぁ軽いもんだだろう、と思う。
いじめられっ子は退学処分になったらしい。
しかし、考えてみればいじめられっ子も被害者ではないか。
みんながいじめなければこんな事にはならなかったのではないだろうか。
生きる価値無しとはよく言ったものだが本来は言われる立場ではないだろうか。

許して。

きっと、願ったところでどうしようもない。後悔、先に立たずとはこの事だ。
そんな事を思いながら、俺は優の病室に居る。

俺「・・・ごめんな・・・」
優にごめん。俺達がいじめられっ子をいじめなかったら良かったのに。
いじめられっ子にごめん。本当はこっちが悪いのに退学させてしまって。
そして、自分にごめん。理性を保つ事が出来なくて。
すべてに、ごめん。
俺「・・・生きる価値、俺にはあるのか・・・?」
そもそもが、生きることとはなんなんだろう。
価値があるのだろうか。俺には、そんなものは無いだろう。

これ以上悩みたくなかった。
何か、悩む自分から逃げられるようなものはないだろうか。
あたりを見渡す。そして、それを見つけた。

俺「・・・」

自然と、俺の手はお見舞い用の果物ナイフに伸びていた。
柄を強く握り、それを自分の腕へと持っていく。
そして、刃先をそっと食い込ませる。

ぷつっ。

皮が切れ、血が玉を作り、そして、流れ出す。

俺「・・・っ」

痛かった。だが、その間は頭の中に悩みなんて無かった。痛みだけしかない。
俺は、さらに刃先を引く。痛い。痛い。痛い。痛い。
滴る紅涙。綺麗に落ちていくのに、地に着き咲けば、なんと醜悪だろうか。
俺「・・・・・」
泣きたかった。正直、泣きたかった。

ぎゅっ

ふと、俺の手を誰かが強く握った。

優「俺くん、大丈夫?」
俺「優・・・?」
優「どうしたの? 何か辛い事あったの?」

俺は再び考え事を始め、意識不明状態から目覚めた優に驚く暇もなかった。

こいつは、どうして優しいんだろう。身を案じれば良いのに。
この優しさが、今は辛い。優にそんな怪我させた理由。
その理由をしていた俺に、優しくしないで欲しかった。
いつもみたいに、笑顔で俺に話しかけないで欲しかった。
でも、その優しさに安心できた。いくらか、心が落ち着いたのを感じている。
だが、心の堰の崩壊は免れそうにない。

優「痛いよね? 今、お医者様呼ぶか―――ひゃっ!?」

俺は、思わず優を抱きしめていた。いや、すがりついていたんだ。
その優しさに癒されたくて、自分勝手に。

俺「・・・呼ばなくていい。ただ、しばらくこうさせてくれ・・・」
優「・・・うん」
俺「・・・悪い。血が、付いちまった・・・」
優「いいよ。大丈夫だから、気にしないでしばらくこうしてれば良いから。ね?」
俺「だけど・・・」

ふわっ。

優「大丈夫。それより私は泣きそうな顔してる俺君が心配だよ。
  泣きたいなら、泣いても良いんだよ? 泣いたら楽になるから」

そう言って、優はそっと俺を抱きしめ返してくれた。
心にその温もりが染みて、俺は、恥ずかしい事に泣いてしまった。
優は服が濡れるのも気にせず頭を撫でてくれた。

優「大丈夫だよ」

そう言いながら。
俺は安らぎに浸りながら、うとうととし始め、やがてその場で眠ってしまった。


  • ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!
男「うーん、あと5分…」
…………。
男「あれ?」

友「おはよう、男」
男「ああ、おはよう。今日はあいつは休みか?」
友「あいつ?女ならいるけど」
男「いや、女なんかどうでもいいよ。えっと」
女「誰がどうでもいいって?」
友「わ、女!お、おい男、何言ってんだよ!」
男「…………」
何かが足りないような気がする……でも何だろう?

友「男、帰ろうぜ」
男「ああ……」
友「お前今日は何だか変だぞ?」
男「うーん…」
友「……。おい、男、見ろよ。あの婆さんすげえ大荷物」
男「ん? ああ、大変そうだな」
友「あんなんでこの坂登れんのかよ、なぁ?」
男「お婆さん。荷物持ちましょう」
婆「あ、ありがとうございます」
友「おい、男! お前一体どうしたんだ?」
男「え? だって困ってるんだから助けるのは当然だろ?」
友「この間は一緒に笑ってただろ。どういう風の吹き回しだよ?」
男「え……? 俺、そんなことしてた……?」
そんなはずない。そんなことしたら、あいつが怒るから。      あいつ?

ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!
男「あー、だる……」
一晩寝てもまだ変な感じが続いていたので、風邪と言って学校をサボッた。

夕方、女がプリントを届けに来た。
女「なによ、元気じゃない。やっぱり仮病だったのね」
男「そんなことないよ…。女、ありがとな」
女「なっ…! 勘違いしないでねっ!仕方なくなんだから!」

夕飯までする事も無いので、女から渡されたプリントを片付けることにした。
シャーペンと消しゴムを持って、机に向かう。

男「ったく、病人に宿題させるなよな……」
仮病だけど。
男「あ、間違った。消しゴム…(コツッ) あー、くっそ…」
(消しゴム、落としたよー)
落としたはずの消しゴムが顔の高さにあった。この人が拾ってくれたらしい。
男「きみは……」
ベッドに腰掛けているその人の顔には、見覚えがあるどころじゃない。俺はこいつを昨日からずっと探してた。
男「お前は……!」
そうだ。何で今まで思い出せなかったんだ。こいつを忘れるなんて、どうかしてる。
優「もう落としちゃ駄目だよー」
そう言うと優はベッドから立ち上がり、部屋のドアを開け、出て行ってしまう。
男「優! 昨日はどこに行ってたんだ? 何で今ここにいるんだ?」
優「今日は男くんにお別れを言いにきたんだよー。私がいなくなっても、私のこと忘れないでねー」
男「そんなっ! 待てよ、優! y……」
バタンッ!
ドアを慌てて開くと、もうそこには誰もいなかった。

ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!
男「うーん、あと5分…」
女「男! サッサと起きなさいよ! 私まで遅刻するでしょ!」

友「よう、男。ついでに女」
男「おう、おはよう」
女「ついでとは(ry」

結局、「優」は何者だったんだろう? 全部、夢だったのだろうか?
あの日以来、優に会うことはなかった。友も女も、そんな人知らないと言ってる。
でも、俺だけは覚えてる。ならそれでいいと思うことにした。
あれから、困っている人を見るたびに、優と同じことをした。
最初は見てるだけだった友と女も、今は一緒になって手伝ってくれている。
優はもうどこにもいない。でも、俺の心の中では優はいつも優しく微笑んでいる。

「あ、(コロンッ)」

男「消しゴム、落としたぞ」


前日を想像してみた

男「いつもながら幸せそうだなw」
優「幸せだよーえへへー」
優「もしもあとひとつ、願いが叶うなら、どうか忘れないでいて欲しい、わたしを…」



  • 「雨、やんだね」
「すっかり晴れたな」
 雨でザーザーうるさかった空が一転、まぶしい陽射し。
「わ、すっごくきれいだよ」
 道には水たまり。日向に撒かれた水が瞬きのように光を放つ。
 優が大股で一歩踏みだして、ひらりとひとつ、水たまりを飛び越える。
「つらいことも、こんなふうに追い越していけたらいいのにね」
 もうすぐ、卒業だった。俺達がこうして一緒に下校する機会も、もう数えるほどしか残っていない。
「君は、寂しい?」
「ああ、結構寂しい」
 というか、むちゃくちゃ寂しい。
「うふふー」
「? 笑うところか、ここ」
「うん、君が寂しいのが、結構うれしい」
「ちょwwwそれはねーよw」
 こっちは真面目に、寂しくてつらいわけだが。
「寂しいっていうのはね、心を追いつめるものじゃないの。
 いま、寂しいっていうことは、けしてなくしたくない、大切なものがここにあるって教えてくれてるってことだから」
「お前ってほんと前向きだよな」
「悲しみや苦しみは勝手にやってくるけど、楽しさ、嬉しさ、喜びは勝手にこないから」
 ふり返って、微笑する。

「寂しいっていうことは、それはあとになって大事な思い出にかわるっていう証明なんだよ」

 だから、うれしい、と優は続けた。


  • きのうよりちょっとだけ、やさしくなってみよう。
たとえばほら、あそこにいるひと、道がわからないみたい。
もちろん、放っておいてもあなたはこまらないし、きっとあのひとも誰かに聞こうとするよね。
でもね。
ちょっとだけ勇気をだして。
あのひとに話しかけてみよう。
知ってる道ならおしえてあげよう。
知らなかったら、いっしょにさがそう。
もし役に立てなくても、だいじょうぶ。
こまっている自分をみてたすけようとしてくれた。
それだけで、ひとの心はあったかくなれるよ。
あなたも、そう。
やさしくしようと思えた。行動に移せた。
相手が、よろこんでくれた。
それは、とってもうれしいことだよ。
わたしには、わかるんだ。
これって、二人のきもちをあったかくできる、チャンスなんだよ。
つかまなくてもこまらないけど、みえないふりをするのって、すごくもったいないよ。
ほら。
あったかくなるうれしさを知ってるあなたなら、できるはず。
うれしくなれること、してみようよ。
きのうよりちょっとだけやさしく、なろ。


  • 「消しゴム落としたよー」
隣りの席の女の子が親切にそう言った。
「あ、ありがとう」
僕はそう言って女の子から消しゴムを渡してもらう。
女の子が微笑みながら渡すので僕は申し訳なく感じる。
「ご、ごめんね」
と言うと女の子は少し驚いたようで
「気にしなくていいよー」と言った。
女の子は向きを前に戻し又授業を受け始めた。
僕は女の子が不思議そうな顔でこちらを見るまで眺めていた。
「なぁにー?」
気付かれたのには少し戸惑ったがなるべくおどおどしないように言った
「いや、君って優しいな、って思って」
言われると女の子は又不思議そうに
「んーそうかなー」と言った。
僕には確信があって、それを否定するのは女の子に失礼だと思って言った。
「そうだよ、優しい」
そう言われると女の子は気恥ずかしそうに「ありがとー」と言った。

静かで、当たり前の日常の小さな幸せがそこに出来たんだと思った

  • 誰かが近くで苦しんでる。
人にはあんまり見せないけど。

やさしく見守るやさしさもあるよ

でも……気付いてあげて?

絶対誰かに寄りかかりたいと思ってる。

誰かに支えてほしいんだって……

他の人が気付かなくても、
あなたなら気付けるから。

絶対、絶対気付けるから。

人の悲しみが分かるあなたなら……

きっと…きっと…。

我慢できなくなる前に……

あなたが手を差しのべてあげよー

君ならできるから。

ぜったい。ぜったい。


  • また出会うことを約束して俺達は別々の道を歩みだした。
ずっと会えないわけではないが、いつものように顔を合わせていた今までとは違うだろう。
そう思うと、少しさびしい。
しかしこの別れはそれぞれが自身の意思で決めたことだ。
将来再び顔をあわせたときに胸を張って、あいつの笑顔を見られるように頑張ろう。
そんなことを考えながら独り道を歩く。

ガシャン!
後ろのほうで何かが倒れる音がした。
振り向くと女の人が乗っていた自転車と共に倒れている。
籠いっぱいの荷物からしてバランスを崩したのだろう。
俺はすぐさま引き返しその人の元へ走る。

あぁ、そうだった。別にさびしがることはない。いつしか優は俺の中にも居るようになったんだ。
こうやって俺が困っている人に手を差し伸べる限り、俺は優と一緒に居るんだ。
と、俺の他にも自転車を起こす人や、籠からこぼれた荷物を拾い集める人が居た。

優が居た街に優が沢山居る。そう考えると妙に嬉しくなった。
この人達が優を振りまき、更に優が増え、そうしていつしか世界中に優が溢れたらいいのに。
そんなことを願った。


  • こうみえても、結構、世間から騒がれた高校球児だった。
左腕から投げ込むストレートは、140キロを軽く越える。俺を見に大勢のプロのスカウトが球場に足を運んだ。
しかし、高二の冬。突然の故障が俺を襲った。肘に激痛がはしり、どんなに頑張っても、球速は120キロ止まり。
プロのスカウトは、俺を見切り、今までちやほやしていた周りの友人も去り、恋人からは別れを切り出された。
普通ならぐれる所だが、負けず嫌いの俺には、それが出来なかった。せめて、勉強だけは頑張って、いい大学に入って、周りの奴等を見返してやる、そう心に決めた。
高三になった俺は、友人も作らず、勉強に没頭する、予定だった。
予定を狂わしたのは、新しく同級生になった優という少女。
のんびりとしていて、誰にでも優しい女の子。何故かやたらと俺に話し掛けてくる。
何故、俺にそんなにかまうのだろうか。帰宅途中、本屋で立ち読みする優を見かけた俺は、思い切って声をかけた。
男「なぁ、優」
優「あ、男君だー。どうしたのー?」
男「質問があるんだけど、なんで、俺にやたらとかまうの?俺に気があるの?」
優「うーん、なんか気になってさー。男君、凄く淋しそうだったからー」
男「淋しそう?俺が?なんで?」
優「えーとねぇ。上手く言えないけどー、好きな子が突然転校してー、さよならを言えなくてー、心にひっかかったままー、無理に笑ってる感じかなー」
男「・・・」
俺は、黙ってその場を立ち去った。その日の晩、ベットの中で、泣きながら「さよなら」と言った。プロ野球選手になるという、俺の夢に。
翌日。優に「ありがとう」と言った。
優「なんだかわかんないけどー、凄く優しい顔に変わったねー。優もうれしいよー」
そう言って笑う優につられて、俺も笑った。肘を故障して以来、こんなに素直に笑って無かったことに、ふと気付いた。


  • ずっと心に『やさしさ』を持って、過ごして欲しいな

あれ、もう時間かな?

じゃあ、お別れ

ああ、でもわたしたちはいつも心の中にいるから

完全なお別れじゃないかな?

でも、顔をあわせることはしばらく無いと思う


さようなら、じゃないよー

また、いつかねー




1000であっても、そうじゃなくても

世界中に、『やさしさの連鎖』が広がれば良いな―――

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最終更新:2006年09月01日 00:32