• 「星の金貨」

むかしむかし、あるところに、優というやさしい女の子がいました。
 お父さんもお母さんも死んでしまって、優の持っている物は着ている服と、しんせつな人がくれた一切れのパンだけです。
 でも、この子はとてもやさしい子でした。
 たよる人のいない優は、神さまだけをたよりに野原へ出ていきました。すると、まずしい男の人がやってきて言いました。
「おねがいだ。わたしに何か食べるものをおくれ、もう、腹ぺこなんだ」
 食べるものといっても、優には一切れのパンしかありません。
 このパンをあげてしまったら、優の食べるものがなくなってしまいます。
 でも、優は持っていたパンを全部あげて言いました。
「神さまのおめぐみがありますようにー」
 そして先へ歩いていくと、1人の子どもがやってきて、泣きながら言いました。
「さむい、あたまがさむいよう。ねえ、何かかぶる物をちょうだい」
 そこで優は、自分のボウシをあげて言いました。
「神さまのお恵みがありますようにー」
 またしばらく行くと、今度は上着がなくてこごえている子どもに会いました。優は、自分の上着をぬぐと、その子どもにあげて言いました。
「神さまのお恵みがありますようにー」
 また先へ歩いていくと、べつの子がスカートとをほしがるので、スカートをあげて言いました。
「神さまのお恵みがありますように」
 とうとう、優は森にやってきました。あたりはもう、すっかりと暗くなっています。
 そこへまた1人の子どもがやってきて、下着をほしがりました。下着をあげると、優ははだかになってしまいます。
 優はすこしまよいましたが、(暗い夜だから、だれにも見えないよねー)
 優はこう考えて下着をぬぐと、とうとうこれもあげて言いました。
「神さまのお恵みがありますようにー」
 こうして、優が何一つ身につけずに立っていると、とつぜん空から星が落ちてきました。 そしてその星は、ピカピカ光る金貨になったのです。
 気がつくと、裸だったはずの優は、いつのまにかりっぱな服を着ていました。
「ああ、神さまありがとう」
 優は金貨をひろいあつめると、そのお金で、まずしい人たちと幸せにすごしました。
「みんな幸せになーれ」

おしまい



  • 「桃太郎ダイジェスト版」

ある日おじいさんが(ry

桃太郎は、犬、猿、きじを引き連れ鬼が島にとうとう辿り着きました。
桃太郎「ここが、鬼が島か…。さあ、開けろ!」
優鬼「はーい、なんですかー?」
桃太郎「かくかくしかじかで、人間はとても迷惑してるんです。死んでください」

優鬼たちは、とてもショックを受けました。優鬼たちはただ普通に暮らしてきただけでした。
しかし、鬼の生活は人間とは違ったのでした。
人間が、いやすべての生き物が大好きな優しい優鬼たちは、みなわれ先と命を絶ちました。みな、自分の保身などは考えませんでした。
そして、最後の1匹になった優鬼は桃太郎に今まで溜め込んできた金銀財宝を桃太郎に託し、迷惑をかけた人間に渡してくれと言付けました。
「今度は人間になりますように」そう言い残し、最後の優鬼は、鬼が島の埠頭から身を投げ命を絶ちました。
桃太郎は、膝から崩れ落ち自分の無力差を嘆きました。
鬼たちは、ただ人間と仲良く暮らしたかっただけなのかもしれない。
そのことに気付いた、桃太郎は、もはや鬼を憎む事は出来ませんでした。

その後、桃太郎と犬、猿、きじは優鬼がいなくなった鬼が島に沢山の花を植え、生涯暮らしました。
いつ、優鬼たちが帰ってきてもいいように。ずっと、ずっと…


  • 「泣いた赤鬼」

山の中に、一人の赤鬼が住んでいました。赤鬼は、人間たちとも仲良くしたいと考えて、自分の家の前に、

「心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます。」

と書いた、立て札を立てました。
けれども、人間は疑って、誰一人遊びにきませんでした。赤鬼は悲しみ、信用してもらえないことをくやしがり、おしまいには腹を立てて、立て札を引き抜いてしまいました。
そこへ、友達の優鬼が訪ねて来ました。優鬼は、わけを聞いて、赤鬼のために次のようなことを考えてやりました。
優鬼が人間の村へ出かけて大暴れをする。そこへ赤鬼が出てきて、優鬼をこらしめる。そうすれば、人間たちにも、赤鬼がやさしい鬼だということがわかるだろう、と言うのでした。
しかし、それでは優鬼にすまない、としぶる赤鬼を、優鬼は、無理やり引っ張って、村へ出かけて行きました。
計画は成功して、村の人たちは、安心して赤鬼のところへ遊びにくるようになりました。毎日、毎日、村から山へ、三人、五人と連れ立って、出かけて来ました。
こうして、赤鬼には人間の友達ができました。赤鬼は、とても喜びました。しかし、日がたつにつれて、気になってくることがありました。それは、あの日から訪ねて来なくなった、優鬼のことでした。
ある日、赤鬼は、優鬼の家を訪ねてみました。優鬼の家は、戸が、かたく、しまっていました。
ふと、気がつくと、戸のわきには、貼り紙がしてありました。そして、それに、何か、字が書かれていました。

「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてね。もし、わたしが、このままあなたと付き合っていると、あなたも悪い鬼だと思われるかもしれません。
それで、わたしは、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。さようなら、体を大事にしてください。どこまでも君の友達、優鬼。」
手紙には消した後がいくつも残っていました。そこには赤鬼のことが好きだという優鬼の想いが書かれていました。
でも、それを知れば赤鬼は更に悲しむと思い、優鬼は結局自分の気持ちを伝えずに去っていったのです。
村人たちに疎まれながらも。

赤鬼は、だまって、それを読みました。二度も三度も読みました。戸に手をかけて顔を押し付け、しくしくと、なみだを流して泣きました。


  • 優「おはよう、男くん」
男「おう、おはよう」

朝、俺が家のドアを開けると、優がニコニコ立っている。
簡単な挨拶を交わして、くだらない話をしながら学校へと歩く。
昨日も一昨日も繰り返した、いつも通りの朝だった。

学校へ行く途中、上下真っ黒の服を着た男とすれ違った。
葬式でもあるのかな?と優に聞くが、優は俯いて答えない。
しまった。誰にでも優しい優のことだ。
それが赤の他人でも、人の不幸は自分のことのように悲しいのだろう。
空気を明るくしようとして、そのとき俺が取った行動は酷く滑稽なものだったが、
それを見て優が笑ってくれたので、結果オーライ。
その後も二,三人、黒い服の人とすれ違って、俺と優は学校に着いた。
友「それで俺言ってやったんだよ…あ、おはよう男、優」
女「おはよう、お二人さん」
俺の席は優の後ろ。優の席は俺の前。席について友や女と話しているとチャイムが鳴る。
いつも通りの毎日だ。このまま永遠に続けばいいのに。

優「おはよう、男くん」
男「おう、おはよう」

朝、俺が家のドアを開けると、優がニコニコ立っている。
簡単な挨拶を交わして、くだらない話をしながら学校へと歩く。
昨日も一昨日も繰り返した、いつも通りの朝だった。

ん?

何か変な感じがした。寝起きで頭がボーっとしてるのかもしれない。
「どうしたの?」と優が俺の顔を覗き込む。
俺は「何でもないよ」と言った。優に余計な心配をかけるわけにはいかない。
学校へ行く途中、上下真っ黒の服を着た男とすれ違った。
葬式が二日も続くなんて、と思ったがそれだけで、優に話すことはしない。
その後も二,三人、黒い服の人とすれ違って、俺と優は学校に着いた。
友「それで俺言ってやったんだよ…あ、おはよう男、優」
女「おはよう、お二人さん」
俺の席は優の後ろ。優の席は俺の前。席について友や女と話しているとチャイムが鳴る。
いつも通りの毎日だ。このまま永遠に続けばいいのに。

優「おはよう、男くん」
男「おう、おはよう」

朝、俺が家のドアを開けると、優がニコニコ立っている。
簡単な挨拶を交わして、くだらない話をしながら学校へと歩く。
昨日も一昨日も繰り返した、いつも通りの朝だった。

なんだこれは!?

寝起きだからとかそういう問題じゃない。
そういえば今話してる内容だって、昨日も一昨日も話したことじゃないか!
「どうしたの?」と優が昨日や一昨日と同じ顔で俺の顔を覗き込む。
「なぁ、優……。いや、」何でもないと言って学校へと歩を進める。
きっと気のせいだ。そうだ。寝起きだから頭がボーっとしてるんだ!
黒い服の人が歩いてくる。昨日と同じ人だ。一昨日と同じ人だ。
男「すいません! なんだか、おかしくないですか? 昨日と同じことが起こりませんか!?」
「君は何を言っているんだ」黒服はそう言って歩いていった。やっぱり俺がおかしいのか?
その後も二,三人、黒い服の人とすれ違って、俺と優は学校に着いた。
友「それで俺言ってやったんだよ…あ、おはよう男、優」
女「おはよう、お二人さん」
ああ、こいつらも昨日と同じことを言っている気がする…。俺は一体どうなるんだ……。

昼休み。俺は黒服に聞いたことと同じことを優にも聞いてみた。
男「なあ…優はおかしいと思わないのか…? 同じ日が何度も続いてるような気がするんだ」
優は俺が話し終わるのをニコニコ待っている。
男「俺の頭が変になったのかもしれない。同じ日が永遠に続くなんて、そんなの嫌だ…」
優「いけなかった?」
俺が話し終えてから優はそれだけ言った。どういうことだ? 俺が聞くと優は続ける。
優「私、この今の生活がすごく楽しいんだー。それは男くんも一緒のはずだよ」
男「……」
優「だからね、今の生活がずっと続けばいいと思って。だけど男くんはダメだったみたいだね」
男「待て! ずっと続けばいいと思ったからって、そんなの出来るわけないだろ!」
優「出来るよー。みんな出来ないと思ってるだけで」
男「……他の人は? 黒服も友も気付いてないみたいだけど」
優「今を続けさせてるのは私だからねー。他の人は気付かないよ。あ、男くんは特別」
男「何で俺は特別なんだ?」
優「今がずっと続けばいいって思ってるって思って。あはは、なんか変な言葉だねー」
男「……確かにそう思ってないわけじゃないけど」
優「あとは、二人だけの秘密ってことでね。…でも、もうやめる?」
男「……ああ、やめてくれ」
優「それじゃあ、また明日ねー」
突如、周りが真っ白になったかと思うともう優は消えていて、何だか眠くなってきて――

朝、俺が家のドアを開けると、優がニコニコ立って――いなかった。
外に出て、学校の反対側に目をやると、こっちに走ってくる女生徒が見える。
「はっ、はっ、はっ…おとこくーん…」優だ。遅刻するなんて珍しい。
男「優ー、はやくこーい」
簡単な挨拶を交わして、くだらない話をしながら学校へと歩く。
昨日とも一昨日ともちょっと違う朝だった。

夢の内容を思い出す。あれは夢だったのか? 現実だったのか?
優にそのことを話してみた。
優「あはは、何それー」
笑われてしまった。当然だが。
家から学校に着くまでの間、黒い服の人にすれ違うことはなかった。
そのかわり捨て猫の入ったダンボールを見つけてしまい、優が張り付いてしまった。
世話は下校時にと何とか優を説得したものの、学校には遅刻してしまった。
友「よう、男。遅刻なんて珍しいな」
女「優ちゃんもね」
俺の席は優の後ろ。優の席は俺の前。急いで席に着き、教科書を探す。あ、無い。
いつも通りの毎日だ。今日はどんな日になるだろう。


  • 文化祭が近づいてきた。うちのクラスの出し物は喫茶店。
優は自分の担当以外の仕事にもいろいろ参加しているようで、毎日遅くまで作業をしている。
当番の掃除を終えて教室に戻ると、優は一人でポスターを描いていた。
「よ、精がでるな」
「あ、男くんー。掃除お疲れさまー」
「ポスターか…ほかの奴らは?」
「看板のほうが人手が足りないから、美術室に行ってるよー」
「看板は池のデザインが凝りすぎてるからな…。それにしても、担当外の優に全部任せるなんておかしくないか?」
「私がお願いしたんだよー。ポスターは持って帰ってもできるから、一人で大丈夫だよーって」
「なんか理屈がおかしいぞ…」
しかし、それでも実際に押し切って引き受けてしまうのが優だ。
こいつの仕事はウェイトレスのはずだが、昨日は会計係の計算を手伝っていたし、一昨日はメニュー担当に混じってメニューを考えていた。
「なあ、そんなにたくさん引き受けなくてもいいだろ?一つくらいやめたって誰も文句は言わないぞ」
「むー、わかってないなー。少しでもいいものにするためには、手間を惜しんでちゃいけないんだよー」
「いや、その通りだけどさ…」
だからって一人で頑張らんでも、と思うのだが。

「男くんも看板の手伝いに行ってあげてよー」
「いや、俺は…」
「もー、仕事しなさいー」
「いやだかr」
「こらー」
「…」
まったく迫力を感じないはずなのだが、なぜか教室を追い出されてしまった。

外に目をやるとすでにあたりは暗くなり始めていた。
優は何枚ものポスターを引き受けている。当然一人では終わらない量だから、家に持って帰って書くことになる。
他の奴らは看板が終わってからポスターを手伝うつもりなんだろうが、あいつは睡眠時間を削ってでも自分で仕上げようとするだろう。
優はそういう奴だ。
「…まったく」
美術室へ行き、ポスター用のペンやらなにやらを借りて戻る。
(ついでに複雑な看板デザインを考案した張本人の池を一通り殴っておいた。本人には理由はわかっていないようだが無視した)
途中で自販機のイチゴ牛乳を二つ買って教室に戻ると、優は相変わらずポスターに向かっていた。
ひどく真剣な表情で、俺が近づいても気付いていないようだ。
…ちょっといたずらしたくなった。
いちおう優の手にあるのが鉛筆なのを確認して、イチゴ牛乳のパックを優の頬にあててみる。
「っひゃうぁ!?」
ガタガタン!
30センチほど飛び上がったと思ったらイスから転げ落ちてしまった。
さすがに予想外だ。ちょっと罪悪感がこみ上げる。

「男くん!?ひどいよー、真面目にやってたのにー」
「すまん、ここまで驚くとは思わなかった」
手を貸して起こしてやる。
「差し入れやるから機嫌なおしてくれ」
「え…あ、ありがとー。わたしこれ大好きなんだー」
本気で怒ったわけではないらしい。よかった。
「これは下書き終わったやつだよな?」
「そうだよー。…あっ、看板の手伝いさぼっちゃだめだよー、戻らないと」
今ごろ気づいたのか。
「向こうはいいんだよ」
「よくないよー、1人でも多いほうが」
借りてきたポスターカラーを取り出す。
「10人が11人に増えたって大して変わらないだろ。それに多いほうがいいのはこっちも同じだ。1人が2人に増えれば二倍の早さだぞ」
「…」
「なんだよ」
「…ふふっ、変な理屈だねー」
優には言われたくない。
「でも、ありがとー」
「…ほら、下書き終わったやつよこせよ」
「うん!2人でがんばればすぐ終わるよー!」
「どうだかな…」

それから一時間半、用務員のおじさんに追い出されるまで2人でポスターを描き続けた。
画材と描きかけのポスターを手に、すっかり暗くなった帰り道を二人並んで歩く。
「しっかしおまえも頑張るよな。クラスで一番働いてるぞ」
「んー、そうかなー」
「間違いないって。当日までにバテるんじゃないかと思うくらい」
「うーん。でもねー、今がんばれば、それだけ当日が楽しくなると思うんだー」
「そうだけどさ…なにも優だけそんなに頑張らなくたっていいんじゃないか?なんか、見てて申し訳なくなるよ」
「うーん…あのね、喫茶店がうまくいったら、みんなが楽しくなれるでしょ?」
「…ああ」
「わたしは、みんなが楽しんでるところが見たいんだー。だから、これはわたしのわがままなんだよー」
「…そっか」
「みんなしょんぼりしてるより、みんな楽しそうにしてるほうが見ててうれしいでしょー?」
「…そうだな、その通りだ」
誰だって、好きな相手には嬉しい気持ちや楽しい気持ちでいてほしい。
ちょうど、俺が優に対してそう思うように。
つまり優は──
「優、うちのクラス好きか?」
「うん!大好きだよー」
やっぱりそうだ。
それなら俺は、優が嬉しくなることをしよう。
さしあたり、今の俺にできることは…

「優。続き、うちでやろうぜ」
「え、今からー?」
「ああ。明日は休みだし、多少遅くなっても大丈夫だろ。二人でやれば日付が変わるくらいには終わるぞ、たぶん」
「いいね、やろー!」
こいつのやりたいことを手伝うのが今は一番、かな。
…それだけ長く一緒にいられるし。
「ひさしぶりに男くんのお父さんとお母さんに会えるねー」

あ。
そういや、今日は家には誰もいないんだった…!
「んー?どしたのー?」
…これはちょっと、仕事が手につかないかもしれない。



ちなみに喫茶店の名前はバーボンハウスというのだが、それはまた別のお話。


  • 「ちょっと寄り道、いいかなー?」
私は意を決して、池くんに提案していた。
下校中の通学路。
学校を出て5分も歩くと、市内を流れる一番大きな川に沿って、土手沿いに道が続く。
いつもはこのまままっすぐ橋を渡るのだけど、今日はなんとなく、さっさと渡ってしまうのがもったいない気がしたし、川沿いのお気に入りの景色が見たかった。
それに―もっと大事な用事があったから。
先刻、教室で用件を告げると、池くんは帰りながら話そうと言ってくれた。
「オーケー、優ちゃんの頼みだもんな。行こうぜ☆」

私はあまり男の子の友達が多い方じゃない。
ずっと今まで、クラスメイトの男の子たちとは積極的に接してこなかったと思うし、男女一人ずついるはずの日直や委員会の仕事も、結局私が男の子の分も引き受けちゃう事が多かったから。
一緒に遊んだり、今こうやって一緒に下校するのなんて、それこそ考えられない事だった。

池くんは、そんな私に入学当初から話しかけてくれていた数少ない男の子の一人だった。
今思うと、私が普通に男の子とお話ができるようになったのは、いつも自信家で、おしゃべりも楽しい池くんが居てくれたおかげなのかもしれない。
だから池くんにはとても感謝してるし、だからこそ、私は池くんに話す気になったんだと思う。

「おー、こっち通るの、初めてかもなー俺☆」
隣で嬉しそうな池くん。はしゃいじゃって案外かわいい。
池くん、こんな顔もするんだな。
「この先に見えてくる眺めが好きで、たまに寄り道するんだー。池くんも気に入ると思うよー」
「へー、優ちゃんでも寄り道するんだ☆」
「ふふ♪寄り道くらいするよー。あ、もうちょっとで着くよー」

土手と河川敷のちょうど中間にある、ささやかな憩いのスペース。
土手沿いには桜並木が植えられ、出会いと別れの季節には一面ピンク色に染まるこの一帯の景色が私はお気に入りだった。
「…へえぇ、こんなところに公園があったんだ」
川の方を見渡せる、ここに来るといつも座ってるベンチまで行き、池くんを促す。
「ね、座って」
「ああ…うん」
池くんは黙って私の左隣に座った。
沈みかけた夕陽が、辺りを黄金色に染めようとしていた。
「…相談って?」

そう言って沈黙を破ってくれたのは、池くんの方からだった。
「…うん」
「…あ、それと俺もあとで相談、いいかな?」
「うん、いいよー」
「じゃぁどうぞ」
「うん…あのね、私、…好きな人ができちゃった」
「…!」
「池くんも知ってる人」
「それって、もしかして…」
「…」
「………男、か?」
「(こくん)」
このときの私って、どんな顔してたんだろう。
でも、もっと複雑な表情をしていた池くんに、私は気づいてあげられなかった。
きっと、池くんが相談したかった事っていうのは―。
今思うと、そういう事だったんだなって。

「…そ…そっか!」
「…うん。池くん、男くんと仲いいでしょ?だから、えっと、その」
「…」
「いろいろ、男くんのこと知りたいなーって…思ったんだけど、だめかな?」
「…な、なるほど!なーんだ、やっぱりな!ははは」
「え?」
「あ、いや、こっちの事。…えーと、うん、だめじゃないよ」
「ほんと?!」
「ああ、ホントホント☆」
「ホントにホント?」
「ホントにホント☆…優ちゃんの頼みを断る訳無いじゃん?…友達だろ?」
「よかったぁ…やっぱ、池くんに話して良かったよぉー…ふえぇん」
私は安堵すると同時に何故か泣いていた。
気づいてなかったはずなのに、自然と涙が止まらなかった。
池くんの胸を借りた。
池くんは、私が泣き止むまで、そのままで居てくれた。

私が泣き止む頃には、すっかり日が暮れてしまってた。
池くんは頭を撫でてくれて、私を家まで送ってくれた。
池くんの相談に乗ってあげられなかったけど、池くんはそんなのいつでもいいよって。多分無理して笑ってたと思う…
「―あのさ、これ俺が喋った事は黙ってて欲しいんだけど…あいつんち片親でさ」
「え?」
「頼むから内緒でよろしくな。あいつ、母親の愛情とか、そういうの知らないらしいんだ」
「そうなんだー…」
「だから、あいつの事好きなんだったら、優しくしてやれよ」
「そっかー…、うん、そうする」
「まぁ、優ちゃんに言うまでも無い、よな!」
「えへへー、そんなことないよー」
「たぶん、身近なさりげない優しさに、ぐっと来ると思うんだぜ」
「ふむふむっ。わかりました指令!」
「頑張れよ!…その、応援するぜ、俺も」
「ありがとう池くん。大好き☆」
「…おう!俺も優ちゃん大好き☆」
「こらこらぁー///」


次の日。
池くんは私の気持ちは、男くんには言わないでいてくれた。
授業中、池くんから手紙が回ってきた。
一瞬池くんを見たら、親指立てて笑ってるし…
手紙の内容を読んで、噴出しそうになった。授業中なのに。
「でも…これくらいなら私にも、できるかな…?」

「池様の恋愛成就指令その1:作戦名は名づけて―」

「男くん、消しゴム落としたよー☆」

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最終更新:2006年10月01日 14:31