「お隣、いいですかー?」
 慌ててぐしぐし涙をぬぐう。
「んだよ、用がないなら隣に座るな、帰れ」
「泣いてたんだねー」
「男に向かってそれを聞くか」

「ねえ」
「うるさい」
「泣かないでよー」
 止まんないんだよ、仕方ないだろ。
「だから帰れって、今ばっかりはお前のこともウザいんだ」
「心配してるのに、もー」
 女の前で泣くなんて拷問なんだよ。鼻をすする。やべ、ほんと惨めだ俺。みっともない。

「じゃあ元気の出るおまじないやってあげるよー」
 いいかげんマジでいらただしくなってきた。
「……頼む、マジでどっかいってくれ」
 でないと怒鳴り散らしてしまいそう。そんなのはイヤだ。

「―――いいからこっち向きなさい!!」

 俺の方が怒鳴られた。
 ぐぎっ。両の手で俺の頬を包み、俯いた俺の顔を強引に方向転換させる。く、くび、首が。

 ちゅっ。

「――――」
「元気、出たー?」

「……いや全然。もう一回やってくれれば元気でるかも」
「じゅうぶん元気になったように見えるけどー? でも」

 ちゅーーっ。

「君だから特別サービスだよー」
「元気出たけど首が痛いからもう一回」
「もー、現金なんだからー」

 ちゅっ、むちゅ、ちゅーーっ。

「うはwww舌、舌キタコレwww」
 もうたまんねw

 ―――がばぁぁ

「わー、まるでさかりのついた駄犬のようだよ」
「うおー。優、すきだーー」
「やん」

 おまじないは効果てきめんでした。

  • 優「はい、消しゴム落としたよー」
男「うーん…」
優「どうしたのー?」
男「(決めた。俺、もっと自立しよう。いつまでも優に迷惑かけてるわけにいかないしな)」
優「?」
-次の日-
優「男くんまだ寝てるかなー?」
ピンポーン
男「お、優おはよう」
優「おはようー…あれー、もう制服着てるー」
男「今日はちゃんと起きたぞ。優に起こされてばっかじゃ格好悪いからな。よし、行こうぜ」
優「うん…」

コロコロコロ…
優「あっ、消しゴm…」
男「おっと、落としちまった」(ヒョイ)
優「…………」
優「…むー…」

優「お昼、今日もないんでしょー?一緒にたべよー」
男「ふふふ、今日はちゃんと弁当があるのだ。夕べのおかずを詰めただけだけどな」
優「…むー…」
男「ん?どした?」
優「…なんでもないよー」

優「男くん掃除手伝ってあげ…」
男「ふー終わった。お、優、帰ろうぜ」
優「…むー…」
男「?おいてくぞー?」
優「…むー…」

男「なあ、俺明日からも自分で起きるよ」
優「…え?」
男「いいかげん俺も自立しないとな。ちゃんと自分で起きて学校行くから、無理に起こしに来なくていいぞ」
優「…うん…わかった」
優「(私、うっとうしかったのかな…)」

-さらに次の日-
優「(昨日ああ言ってたし、起こさないで行ったほうがいいんだよね…それに先に行ってるかもしれないし)」

友「優ちゃんおはよー」
優「おはようー。(あれ、男くんまだ来てないんだ…)」
友「どしたの?キョロキョロして」
優「ううん、なんでもないよー」

キーンコーンカーンコーン
優「(もう一時間目終わっちゃったよ…もしかして風邪でもひいたのかな…)」

ガラガラガラ
男「オハヨウゴザイマス…」
優「…あ、男くんー!今朝はどうしたの?体調悪くないー?」
男「…それが、昨日夜見てたテレビが面白くてつい夜更かしを…」
優「え…テレビ見てて寝坊したの?」
男「面目ない…」
優「…くすっ」
男「明日は、明日こそは…」
優「ね、やっぱり起こしに行くよー」
男「いや、ここで諦めたら…」
優「寝てたら起こしてあげるよー。起きてたらそのまま一緒に行こー。一緒のほうが楽しいよー」
男「お、おう」
優「えへへー。ほら、次は数学だよー」
男「あ、宿題忘れた…」
優「しょうがないなー。私が見せてあげましょうー」
男「サ、サンキュー!恩に着るぜ」
優「えへへー」


あれ、なんか収拾つかなくなったような(´・ω・`)

  • 優「男くーん、だいじょーぶー?」
男「おっ、優か。このざまだよ・・・足骨折して入院(笑」
優「どうして、骨折っちゃったのー?」
男「いや、あの、ボケて歩いてたら乗用車にな・・・」
優「男くんはおばかさんだねー」
男「・・・あはは、まぁな」

子「お兄ちゃ~ん」
親「どうも、昨日はありがとうございます!」
子「僕の為にありがとう!はやく元気になってね」
親「入院費の方は私たちの方で出させていただきますので。夫も感謝していると」
男「いえいえ、僕はただ正しいと思ったことをしただけで」
親「本当にありがとうございます・・・これ、どうぞ食べてください」
男「あっ、こんなに果物を・・・どうもです」
子「お母さん、おしっこー」
親「それじゃあ、また来させていただきますね。失礼します」
男「はーい」
優「・・・」
男「・・・って、事なんだけど・・・」
優「男くん隠し事なんてひきょー。でもね、優ね、胸がこう、きゅん。てなっちゃったー」
男「そうなの?」
優「うん。あっ、優からもそんな照れ屋さんの男くんにプレゼントー」
ちゅっ
男「亜qwせdrftgyふじこlp;@:「」
優「あははー、男くん顔まっかー。優も、これからもっともっと男くんに優しくしてあげるー」
男「ゆっ、ゆう!」
優「とりあえず、退院するまで毎日きてあげるねー。ちゅーも毎日してあげるねー。それで、一日毎にちゅーの時間のばしていくねー」
男「そっ、それは!」
優「ちょっと優、家の用事があるから帰るけど、またくるねー」
男「ちょっwwwwやべぇ、この優しさに耐えられるかなwww」

  •  下校時、夕焼けの帰路をふたり並んで歩く。
「夕焼け、すごいねえ」
「ああ、眩しくてやってらんね」
「君の顔、真っ赤っかだよ」
「そっちもな」
「ふーん。わたしの顔は、どんな感じかなあ?」
「りんごみたいだ」
「―――りんご」
 驚いたように目をまるくする。なんか、まずいことを言っただろうか、俺。
「あー、えっと、すごく美味そう」
 なに言ってんだ、俺?
「なんかりんご食べたくなってきた」
 もはやなにがなんだかわかんね。
 内心テンパっている俺をよそに優は微笑む。
「うふふっ、そっか、わたし、すごく美味しそうなんだあ」
 橙色に染まった優の頬。
「なんでこんなんで機嫌良くなるんだよ」
「いま、すごぉーくいいことが、あったからだよ」

 オレンジ色の空のしたを、よく笑う、優しい女の子とふたりで歩く。
 不思議と、この時は優に異性を意識することはなく、ただ幼い気持ちになるようだった。

  • 優「わたしねー、卒業したら、海外に行こうと思うんだー」
男「は?」
優「ああ、留学とかそういうのじゃなくてねー? アフリカとか貧しい国に行ってそこの人たちを助けてあげたいんだー」
男「優らしいな」
優「で、ねー……君にも来て欲しいんだー」
男「俺?」
優「そう、君」
男「何で俺なんだ?」
優「……わたしさ、人には優しくするんだけど、優しくしてもらったことってあんまりないんだー」
優「でも、君はわたしに優しくしてくれる」
優「だから、わたしが疲れちゃって、どうにもならないときに、君に優しくして欲しいんだー」
優「……駄目かなー?」
男「……お前が行くところなら何処まででも着いて行くよ。そこまで言われて着いていかないわけがないだろう?」
優「……ありがとー」
男「だからさ、俺には他の奴よりもっとやさしくしてくれると、嬉しいな」
優「……いいよー」
男「わ、いきなり抱きつくな」
優「好きだよー」
男「……俺もだ」

デレしか書けなくなってきた(´・ω・`)

  • 「もうすぐテストだねー、勉強だいじょうぶ?」
「……正直、ちょっとやばい。手貸してもらっていいか?」
「え?」
「あ、ごめん、やっぱ都合良すぎよなそんなこと」
「ううん、君の方から頼ってくれるとは思わなかったんだよー」

「ふーん、これが君の部屋なんだー」
「お茶入れてくる、物色すんなよ」

「ふう、男のひとの部屋なんてはじめてだと思うと変に意識しちゃうよー……。
 それにしても、はじめて頼りにされたよー。わたしのこと、気安く物事を頼める仲のいい友達だと思ってくれ始めたのかな。
 ……あ、えっちな本発見~」

「おまたせ、紅茶でいいよな」
「これ、なにー?」
「ちょwwwおまwww」

「うわー、うわー、うわー、こういうのが君の趣味なんだー、おっとこのこー♪」
「ページめくんな! ニヤニヤすんな! 返せ!」
「きゃあ」
「「あ゛」」
「い、言っておくが、俺は本を取ろうとしただけでお前を襲うつもりはないからな」
「覆い被さった状態で顔真っ赤にしながら言っても説得力無いよー」
「う……」
「じゃあ、そろそろ勉強始めようかー」
「ちょwwwなんだその何事もなかったかのような物言いはwww」
「次は頑張ってね」
「へ?」
「こんな本が要らなくなるように。ここに実験台もいるんだし。
 さ、教科書出して。テストの範囲どこだっけー」

  • 優「もう日が暮れちゃうねー」
男「あー…そうだな」
 (もうこんな時間か…はぁ)

 俺と優は、夕暮れに染まる帰り道を歩いていた。

 本当なら今日は5限まで。いつもより早く帰れるハズだった。しかし、俺は先日のテストで
芳しくない点数をとってしまい、居残り補習を宣告されたのだ。
 俺は優に謝り、先に帰るよう言った…のだが、「私ものこるよー」と言って聞かず、結局この時間まで
付き合ってもらってしまった、というワケだ。

 この帰り道も、もう何回通っただろうか…
 この道を通るようになったのは優と出会ってからだが、もう居眠りしながらでも歩き通せる自信がある。
 いつの間にか俺は、優と一緒にいるのが日常になってしまったようだ。

 そんな事を考えているうちに、ふと疑問がわいてきた。

男「…なあ」
優「?」
男「前から思ってたんだが…」
優「何ー?」
 いつもの笑顔で俺を見上げる優。
 俺は、疑問をそのままぶつけてみることにした。

男「優はどうしてそんなに人に優しくできるんだ?」
 俺の質問を聞き、優は一瞬キョトンとした表情になった。
優「どうしてっていわれてもー…」
男「ほら、人に優しくしても、感謝されなかったり…逆に煙たがれる事もあるだろ?」
優「そうだねー」
男「それなのに、そこまでして人に優しくする意味は無いんじゃないか、とかさ。思わないのか?」
優「・・・・・・」
 少しまくしたてるような口調になってしまっただろうか?
 身長差のせいで、うつむいた優の表情はよく見えない。
 俺は慌ててフォローしようと試みたが…
男「あ・・・なんか変な事きいちゃったかな。ゴメン、忘れてくr」
優「…ホントのこと言うとね」
 今度は優の言葉に遮られた。
男「ん?あ、ああ」
 返事をしてくれたので俺は少し安心したが、優は今度は俺の横をすり抜け、前を歩き始めた。
 また表情がみえなくなった。
優「そういうふうに思ったときもあったよー」
男「ほう、やっぱり」
 正直この答えには少し驚いた。
 まあ一応こいつも普通の女の子のようだ。何だかほっとした。

優「でもねー」
男「?」
優「私ねー、やさしさって、お花の種みたいなものだと思うんだー」
男「…花の種?」
 今度は一体何を言い出すのか。
優「うんー。すぐに芽は出なくても、一生懸命お水をあげて大切にすれば、いつかきっときれいな花が咲くと思うのー」
 いつもの優とは少し違い、真剣に言っているのが分かった。
 言葉数も多い気がする。
男「…ふむ」
優「そんなふうにねー、私が誰かにあげたやさしさがその人に届いて、今度はその人がやさしさの種をまいて…
  それがどんどん広がっていったりしたら、それは」
 そこまで言うと優は立ち止まった。合わせて俺も立ち止まる。
 夕日が、優の小さなシルエットを浮かび上がらせる。
 優はゆっくりと振り返った。
優「とっても、とっても素敵なことだと思うんだー」
 茜色に染まった優の笑顔。
 何故だか胸がしめつけられ、相槌の言葉がでてこない。
 赤く染まったた雲が流れていく。

 一瞬のような、しかし永遠のような沈黙の後、ようやく俺の口が開いた。
男「・・・・・・前言撤回」
優「うん?どういうことー?」
男「なんでもない」
 優はやっぱり普通の女の子なんかじゃなかった。うむ。前言撤回だ。
 そう、優は…
優「あ、ねーねー男君」
男「ん?」
優「夕日、きれいだねー」
男「・・・・・・そうだな」


 優は、やさしい女の子だ。

  •  校舎の玄関の屋根から、少しだけ頭をずらして雨を見上げていた。
「雨、すごいねえ。……って顔ずぶぬれだよー。こっちむいて、ふいてあげる」
 ふきふき。
「傘、忘れたんだ俺」
「わたし持ってるけど入れてあげないよー」
「ちょwww想定してたパターンと違うwww」
「折りたたみ傘は狭いのだー」
「う、折りたたみじゃあしょうがないな」
「でも強くくっつき合えばだいじょうぶだったりするんだよー」

「俺が持つよ」
「うん」
 俺の懐に、迷い猫のように優が入り込む。
 傘の中は窮屈で、予想通りかなり密接しなければならなかった。

雨は同じペースで降り続けた。ふたりくっつきあって、いくつもの水たまりを踏んで歩く。
 道路に跳ね返って飛び散る水滴、吐き出す息を白くする高い湿度。灰色の空。
「わたしたち、他の人からはどうみえるのかなあ」
 ふと、そんなことを呟いた。
「お前でも、そんなこと気にするんだ」
「気にするよー。周りから変なふうにみられて、君が、嫌な思いしなければいいなって思ってる」
「……嫌じゃ、ない」
「え?」
「俺はお前とこうしてるのは、嫌じゃない」
「……ありがとう」
「別に、お礼なんていらん」
「うん、わたしもここはお礼を言う場面でもないと思う」
「ちょwwwじゃあなんでwww」
「なんだか、そんな気分なの」
 優は微笑しながら言った。笑っているのに、泣いているわけでもないのに、こもるような声だった。
「雨のせいかな?」
「たぶん、お前がやさしいせいだ」

 それきり会話は無かった。けどけして不快ではない、雨音に包まれた沈黙を抱えて歩き続けた。

  • 「園長先生、お久しぶりですー」
「あら、優ちゃん。まあ、すっかりきれいになっちゃって……」
「もー先生ってば、お世辞言ってもなにも出な……」

 ガッシャーン

「ん? ガラス割れたー?」
「あらあら、またあの子かしら。ちょっと待っててね」
「いえ、わたしも行きますよー」

「捨て子?」
「ええ、新しく入った子なんだけど、本当に荒んじゃってて」
「あー……なるほど-」
「ああ、思い返せばいつかのだれかにそっくりだわね」
 それは、わたしの恥ずかしい過去。
「う。い、いつかのだれかって誰ですかー? わたしはさっぱり見当もつかないですー」
「あらあら、恥ずかしがっちゃって」

 そこでは、ちいさなおとこのこが泣いていた。
「うわー金属バット振り回してるよ。そんなことしたらあぶないよー」
「なんだババァ!! また来やがって、親なんかいらねぇって言ってんだろッ!」
「うーん、なるほど、確かにいつかのだれかに似てますねー」
「でしょう?」
「なつかしいなあ、わたしもここに来た頃は君みたいにたくさん暴れたんだよー」
「うるせえ!! 出てけッ!」
「優ちゃん、下がって」
「ううん、先生、わたしがやりますよー」

目を真っ赤に腫らしながら敵意を剥き出しに、バットを振りかぶる。
 そんな彼のみぞおちめがけて、撃ち貫くような前蹴りを手加減無しで叩き込んだ。
「……ッ!!」
 よだれを吐き散らしながらうずくまる。
「ぁ……、ガ……ッ!」
 声にならない悶絶、呼吸どころか声帯を震わすことすらできない苦しみ。
 追い打ちをかける。左足を踏み込んで、右足を振りかぶる。サッカーボールキック。
 ガツン、という鈍い音と共に、おとこのこはたんこぶを作って意識を失った。

 しばらく経って、おとこのこは目を覚ました。
「……」
 おことのこはなにもしゃべらない。なにもできない。
 わたしが目の前にいる以上、暴れ回ることもできないし逃げられもしない。哀しみを、発散することができない。
「ここで暮らすといいことあるよー。園長先生も他の先生も子供たちみんなやさしいよー」
「……いいことなんて、ねえよ」
「だって君はこれからいい子になれるもの」
「なにがいい子だ」
「わたしもね、君と同じくらいの歳の時にここに来て、金属バットでガラス割ったり盗んだバイクで壁に突撃したりしたんだよー。
 そして、いまの君と同じように園長先生にボコボコにされたのー。それ以来、もう悪いことはできなくなっちゃった」
「……」
「養親に引き取られるか、ここにいたまま中学を卒業するまでか、
 どっちにしろ少しの間でも、ここにいれば君はいい子になれるよー」
「……いい子になんて、なりたくない。とーさんもかーさんもやさしくしてくれなかったのに!」
「無理、君はいい子になること確定」
「んだよそれ……しらねえよそんなこと」
「いまは分からなくていいよー。
 ゴホン。これは園長先生があの時わたしに言ったことだけど……
 『おっきなかなしみを知ってるあなたは、これからやさしい大人になっていけるの。
 明日から、少しずつ教えてあげる。だからもう暴れるのは諦めて、いっぱい泣いて、ゆっくりおやすみなさい』。
 ……さ、ほら、おねーちゃんのむねでどーんとお泣きなさい」

「……出てけ」
「遠慮しなくていいよー」
「遠慮じゃねえよ! ……ひとりで、泣く」
「わー、おっとこのこー」
「うるせえ! いいから出てけ!」

「あら、もういいの?」
「はい、いまはひとりにしてあげた方がいいみたいですー」
「そう……」
「なんですかー、そんなにわたしをじっとみつめて」
 先生は、しみじみと。
「あの小さかった優ちゃんが、こんなにやさしく大人になったのねえ……」
「先生にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいですー」

「ところで、優ちゃん」
「はい」
「結局、今日は何の用事でここに来たの?」
「ああ、そうでした。今日は相談したいことがあって来たんですー」
「まあ、どうしたの?」

「その、ですねー」
「ええ」
「そのー……」

「―――同じクラスに、好きな男の子ができたんですー」
「まあ!」
「こういう気持ちってはじめてで、どうしたらいいかわからなくって……って笑わないでくださいー」

「クスクス、いえ、ごめんなさいね。でもあなたを笑ったのではないの。ほんと、優ちゃんが大きくなったのがうれしいのよ」

俺「・・・あれ、優は今日休みなのか」
俺「・・・」
俺「・・・あっ、消しゴム落とした」
俺「・・・今日は拾ってくれる優がいないんだった。よいしょっと」
俺「・・・」
俺「・・・やっぱ寂しいもんだな」

キーンコーンカーンコーン・・・

  •  星がひとつ流れた。
「流れ星なんてはじめて見た」
「わたしもー」
 夜空に目を当てたまま、ふたりして感嘆の声。
「お願いごとした?」
「お願いごと? ああ、流れ星が消えるまでに願いを三回唱えろってやつか、そんなのもあったな」
「もったいないね、なにもしなかったんだ」
「てか無理だろ、三回も唱えるなんて。せいぜい金金金、とか女女女、とかくらいじゃないと三回も唱えきれん」
「夢がないねー」
「ほっとけ、そっちはどうなのさ」
「わたしはお願いごとしちゃったよ」
「そっか」
 星にお願いしたくらいで、願いが叶うなら苦労はない。馬鹿馬鹿しいおまじないだ、と本気で思う。
 でも、この娘の願いが叶うといいな、とも本気で思う。
「叶うと、いいな」
「いいの? そんなこと言って」
「なんでだよ」
「わたしが地球大爆発とかお願いしてたらどうするの?」
「どうもこうも、お前の願いなんてどうでもいいし」
「うわー、ひどいよー」
 本当に、どうだっていいのだ。こいつの願いなんて。

 ただ、どうか、この娘のやさしさが。
 いつか、この娘自身に報われますようにと、ほんのちょっとだけ真剣に、夜空に祈ってみる。

  • 男「なぁ、最近池って言うのとお前よく話してるよな」
優「うん、あの人ずっと話しかけてくるんだー」
男「あいつのこと、好きなのか?」
優「好きだよー?」
男「そうか……」
優「多分、男君が想像してる私の好きっていうのは違うかなー」
男「……友達として、あいつが好きってことか?」
優「そーだよー。人を好きになっちゃったら、みんなに優しく出来なくなっちゃうからねー」
男「そうか……」
優「でもねー」
男「?」
優「気になる人出来ちゃったんだー」
男「へ、えー」
優「誰だと思う?」
男「お前はみんなに優しいから分からん……誰なんだ?」
優「へへー……誰にも言わないことにしてるんだー」
男「気になる人はいる、で寸止めか」
優「うん、絶対に言わないんだー。言葉に出しちゃうともっと好きになっちゃうと思うからねー」
男「気が変わったら言ってくれよな……じゃ、帰るわ」
優「気が変わったら、ねー。ばいばーい」



優「……わたし、君だけには絶対に言わない……言えないと思うなー……」

    • 優「君は優しくないね」
男「なんだいきなり、そりゃ俺はろくなやつじゃねーだろうけど」
優「そうじゃなくてー。池面でも超池面でもそうでなくても、そんなことどうでもいいでしょう?」
男「な、なに言ってwww俺そんなこと気にしてねーよwwうぇwうぇwww」
優「はあ。わたしだって、告白されたこととかあるし、他人の恋愛の機微くらい人並みにわかるよー。
 モテたいと思ったり、かっこよくなりたいって思うの、かっこわるいと思うよ」
男「お、お前みたいに容姿も性格も備わってるやつらばかりじゃないんだよ世の中は」
優「世の中のことなんてどうでもいいよ、君のことを言ってるんだよー?」
男「へ?」

優「……だから、ね。そのー」
男「その?」
優「ああ、もう、こんなこと言うの自惚れてるみたいですっごい恥ずかしいんだからね、責任とってよー」
男「なんのことだかさっぱりわかんね」
優「だーかーらー」
男「だから?」
優「わたしをオトそうとしないで」
男「は?」
優「わたしは、もう、あなたに恋に落ちてるのっ」

優「だから、そのままで、いて」

  • 男「うおお、暑い…」
優「あついねー」
男「お前が言うとあんまり暑そうに聞こえないな…」
優「これでも暑いのは苦手なんだよー」
男「それは知らんかった…お、あんなところにアイス屋が」
優「最近できたお店だねー」
男「なんか食べていこうぜ」
優「うーん…やめておくよー」
男「あれ、アイス嫌いか?」
優「そうじゃないんだけどねー…あ、ちょっと待っててー」
タッタッタ…
男「どこ行くんだあいつ…コンビニ?」
男「あ、戻ってきた」
優「お待たせだよー」
男「なに買ってきたんだ?」
優「へへー、これでーす!」
男「これ、アイスじゃん…さっきの店で食べればよかったのに」
優「ただのアイスじゃないんだよー。ほら、こうやって半分にできるのでーす。はい」
男「ありがと。でもなんでわざわざ?確かにこっちのが安上がりだけどさ」
優「私がこのアイスを好きなのはねー、誰かと半分こできるからなんだー。アイスは一人で食べてもおいしいけど、二人で食べたらもっとおいしいでしょー」
優「それに、私はこのアイスを食べてうれしいから、そのきもちを君にも分けてあげたいなー、って」
男「…そっか」
優「二人で食べて二倍おいしいし、おんなじものを半分こして二倍おいしいからー、全部で四倍おいしいんだよー」
男「おかしな計算だな…でも、いいな、半分こするのって」
優「でしょー。えへへー、おいしいね!」

男「でも、さっきの店のアイスを半分こするんじゃ駄目なのか?」
優「…あーあーあー」
男「やれやれ…今度一緒に行こうな」
優「…うん!」

  • 男「懐かしいな……今日は優との思い出の日か…」
優「えー?そうだっけー?」
男「まぁ少なくとも俺にとってはな…」


~入学して数ヶ月たったある日のこと~

先生「おい、男!お前がやったんだろ!!」

男「は?」

先生「窓ガラス割ったのはお前なんだろ!」

男「やってないですよ」

先生「嘘つくんじゃねぇ!お前みたいな髪の色してる奴がやるに決まってんだ!」

男「ちょ、決めつけないでくださいよ」

先生「うるさい!!」

男「…(なんだよコイツ…)本当にやってないですよ」

先生「ホントにお前はクズだな…。死ねよ。一人バカな奴がいると周りも影響されんだよ」

カチン
男「…(だ、ダメだ。ここでキレたら中学の時と同じになっちまう)」

先生「……まったく親の顔が見てみたいもんだよなかw」

ブチッ

男「死ぬかお前……」

グッ
先生「カハッ…ほ、ほらみろ…すぐに暴力だ……」

男「お前は許さない…」

更に首を絞める手に力を込める…

男「(ついに俺も犯罪者の仲間い……「先生!こっちで人が暴れてるよー!」

男「!?(や、やべぇ!逃げないと!)」

全力で逃走した…

~校舎裏~
男「畜生……誰だよ……余計なことしやがって…」

優「私だよー」

男「お、お前同じクラスの!?」
優「あ、覚えててくれたー」

男「…(なんだコイツ?)」

男「なんで呼んだんだよ…。お前のせいで超走ったんだけど…」


優「呼んでないよーあれ嘘だもん」

男「は?」

優「言ってもやめてくれそうになかったから嘘ついたの。ダメだよーあんなことしたらー。お母さんとか悲しむよー」

ブチッ

男「うるせぇよ……」
優「え?」

男「うるせぇって言ってんだこのボケ!!母親はとっくに死んじまったよ!!」
(俺、中学のときもこれでキレたんだよな…)

優「ご、ごめん……でも…」

男「うざいんだよお前!偽善者が!俺なんかに構うなよ!!」

優「…うぅ……」

男「図星つかれたから泣いてんのか?何回でも言ってやるよ!偽善者偽善者!!」


優「そうかも知れないよ!!」

男「は?」

優「……確かに偽善者かも知れないよ…。でも偽善者って言われたから泣いてるんじゃないよー…グスッ…」

男「…じゃあなんだよ」

優「自分のこと『なんか』なんて言わないでよー…」

男「は?なに言ってんだ?俺はクズなんだよ」

男「中学の時も暴れて担任殴ったし、髪の毛だって金色だし、窓ガラス割ったのも最初に疑われるし、
テストでいい点とってもカンニングって言われるクズ野郎なんだ…」

優「…違うよー……君はクズなんかじゃないよー」

優「毎日バイトしてるのも知ってるし、テスト前は図書館で勉強してたよね?」

男「…な、なんで知ってんだ…?」

優「たまたまだよー。お家の事情があったのは知らなかったけど、すごいがんばってるなーって思ってたんだー…」

男「……そうか…」

優「だからそんなにがんばってる自分をクズなんて言わないでよー……グスッ…」

優「私は君のことクズなんて絶対思わないからさ……グスッ……私のことは偽善者って思ってもいいから……自分のことだけはクズなんて思っちゃダメだよー……」

男「…わかったよ……もう言わないから泣かないでくれ」

優「…ほんとにー…?」

男「本当だ。ついでに他の奴らにもクズなんて言わせないような男になりたいんだが……
……どうしたらいいと思う?」

優「…クスッ…そんなの決まってるよー」

優「人にやさしくするんだよー!!」

男「ハハハ!そうかそうか!」

優「なんだよーオカシイこと言ったー?」
男「いや、言ってないぞ……ただ……」

優「…ただー?」

男「偽善者なんて言ってごめんな!お前はほんとにやさしい奴だ」

優「べ、別にいいよー(////)」


…俺はこの日から優に惚れたんだよな……

優の本当のやさしさに……

優「えへへー照れるよー^^」


終わり。青春モノが書きたかったんだよー

  • 男「ああ、休日って暇だなぁ……」

ピンポーン

男「んー? 誰だ? 新聞なら間に合ってるぞ……って、優!? どうした、ボロボロじゃないか!?」
優「あは、は、おは、よう。男、君」
男「どうした!? 何があった!? いや、それより消毒……これは病院か!?」
優「だい、じょうぶ、ちょっと……なぐられた、だけ、だか、ら……」
男「何処がだよ! ……あった、消毒薬……!」
優「わたし、ね、道が、分からない、って、人に、道、教えようと、した、だけ、なんだ」
男「ああ、分かった! 無理して喋るな!」
優「そしたら、ね、いきなり、殴られて、ね。そのまま、リンチ、とか、され、ちゃった」
男「……くそっ」
優「……わたし、つかれ、ちゃった。人に、やさしく、するの」
男「………」
優「わたし、は、やさしく、しても、だれも、わたし、に、やさしく、して、くれないんだ、もん」
男「お前、言ってたよな。やさしさは、見返りを求めないって」
優「ああ、言ってた、かも、ね」
男「でも、辛くなることだってあるよな。当然だ。人に優しくするってことは、難しいし、時には間違えることもある」
男「だから、どうしても辛くなったら……俺が優しくしてやる」
優「……」
男「こうやって、俺のところに来い。俺は、お前がどうなっても、優しくしてやるから、な」
優「……ひっ、ぐっ……う、んっ……」
俺「ほら、辛かったら泣け。胸、貸してやるから」
優「……ひっ、う……わああああぁぁぁぁ……――――」

優「消しゴム落としたよー」
男「ああ、さんきゅ」
優「……こうやって優しく出来るのは、君のおかげだよ」
男「やめろ、照れる」

  •  二人で下校中、優が男の袖を引っ張った。
「ねーねー」
「どうした?」
「子猫ー」
 優が指差す先には、ダンボールの中に入った……五匹の猫。ダンボールには、『子猫五匹 拾ってください』と書いてある。
「うわー、かわいいねー」
「ああ、かわいいな」
 優はダンボールの前にしゃがみこんでそれぞれの頭を撫でている。
「飼えるのか?」
 男が聞くと、優は少し悲しそうに、「うちでは飼えない」と言った。
「じゃあ、あんまり触るなよ、なついちまう」
「大丈夫だよー、わたしが飼い主探すから」
「探すからって……大変だぞ?」
「見つかるまで探すから大丈夫だよー」
 あっさりと、優は言い切った。ここは、人通りの多い商店街だ。捨てられてから少しは経っているだろうが、まだ一匹も減っていない。
「手伝ってやりたいけど、俺、今日晩飯作らなきゃいけないんだよ……」
「うん、一人でやるから大丈夫だよー。早く帰ってご飯作ってあげて」
「おう、また明日な」
 男は早足で、その場を離れた。

 夕食を作り終わり、それを食べて、風呂を洗って……と、いつもの家での生活をしていると、時刻は九時。外は土砂降りの雨。
「……子猫、まだ残ってるのかなぁ……」
 まだやっているのか、では無く、まだ子猫は残っているのか、である。
 優だから、本当に見つかるまでやってるに決まってる。
 傘をさして、急いで外に出た。そのまま子猫の……優のところまで走る。
 そしてそこには、小さな屋根の下に移動させられた、一匹の猫が入ったダンボール、それに―――びしょ濡れになって、必死に飼い主を探す、優の姿があった。
 その、必死に叫んでいる少女に、男は黙って傘の中に入れる。
「子猫っ……あれ、男君?」
「お前のことだろうから、ずっとやってると思ったよ」
 すると、優は顔を崩して、へへー、と笑う。
「わたしが風邪ひいても、この子達は幸せになって欲しかったから」
「馬鹿、お前に風邪ひかれると、俺が幸せじゃないんだよ」
 男は、優に傘を渡して人ごみの中に入り、子猫を拾ってくれませんかー!?と、叫んだ。しばらく、呆気に取られていた優だが、すぐに男の下へ駆け寄って、傘に入れる。
「男くんに風邪をひかれても、わたしが幸せじゃない……から、二人で使おうよ」
 優は男に傘を渡す。
「男くんの方が背高から、持っててー」
「……おう」
 二人の体は、小さい傘の中で、必然的にくっつくことになる。雨で濡れて服が肌にくっつき、お互いの体温が直に感じられる。
 少し鼓動を早くして、お互いの体温を気にしながら、一人より大きな、二人の声で。必死に子猫の貰い手を捜した。

「見つかったな、五匹」
「うん、良かったねー」
 あのあと、最後の一匹の貰い手も見つかり、二人は帰路に着いた。そして、優の家の前。
「すぐにシャワー浴びて、暖かくして寝ろよ」
「男くんも、暖かくして寝てねー」
「じゃあな……ん?」
「………」
 男が別れの言葉を言ったにもかかわらず、優は傘を出ようとしない。
「……どうした?」
「……もうちょっとだけ、こうやってて良い?」
「……お好きにどうぞ」
 それから、また少しだけ体を寄せ合って、優は傘を出た。
「……今日はありがとう」
「いや、俺最後の一匹しか手伝えてないし」
 優は首を振る。
「あの子ね、最後まで残ったの。あんまり可愛くないって……多分、男くんがいないと、貰ってくれる人いなかったと思う」
「……なんか、くすぐったいな」
「これは、お礼ね。……目を閉じて」
 言うとおり、男は目をつぶる。……唇に温もりを感じた。
 ―――!?
 目を開けると、男の目の前には優の顔が、間近に合った。
「へへー……わたしのはじめてだよー」
 心なしか、優も少し顔が赤い。それを見られないようにか、すぐに後ろを向いて、
「じゃ、明日ねー!」
 と言って、家に入ってしまった。


 次の日から学校で、しばらく二人は目をあわすたびに顔を赤らめていたらしいが、それはまた別のお話。

  •  二人で下校中、優が男の袖を引っ張った。
「ねーねー」
「どうした?」
「お菓子ー」
 優が指差す先には、ダンボールの中に入った……うまい棒。ダンボールには、『うまい棒(20)五セット 業務用』と書いてある。
「うわー、いっぱいだねー」
「ああ、いっぱいだな」
 優はダンボールの前にしゃがみこんでいる。
「ほしいのか?」
 男が聞くと、優は少し悲しそうに、「私には買えない」と言った。
「じゃあ、あんまり見るなよ、欲しくなっちまう」
「大丈夫だよー、こっそり持ち出すから」
「持ち出すからって……大変だぞ?」
「見つかるわけないから大丈夫だよー」
 あっさりと、優は言い切った。ここは、人通りの多い商店街だ。日が落ちてから少しは経っているだろうが、まだ人通りは減っていない。
「手伝ってやりたいけど、俺、今日晩飯作らなきゃいけないんだよ……」
「うん、一人でやるから大丈夫だよー。早く帰ってご飯作ってあげて」
「おう、また明日な」
 男は早足で、その場を離れた。

  • in 屋上
ビョオオオオオオ
男子「あーー…死にてぇ」
優「死ぬのはよくないよー」
男子「誰だよお前、俺のこと知りもしねぇ癖に口出すんじゃ無ぇよ」
優「君が誰かは知らないけど、でも死んでいい人なんていないよー」
男子「うるせぇ!俺なんかもう生きてる意味なんて無いんだ!」
優「生きてる意味があるかを決めるのは他の人だよ、自分じゃないよー」
男子「お前に何が分かる!毎日が幸せなお前らなんかに俺の気持ちが分かってたまるか!」
優「男子くん……駄目だよ……!」
ドスッ
男「当て身」
優「男くん!」
男「連れてくぞ。ここは危ないからお前も早く来い」
優「私……この人を止められなかった……」
男「お前は頑張ったよ、優」

  • 「男くん、あの時の約束。おぼえてるー?」
いったいどのくらいの年月を経て、この声を耳にしただろう。懐かしさよりも先に、
胸を突いたのは困惑だった。記憶を探り、額の奥にある夢と現実の区別すら曖昧な領域で
やっと見つけたのはアイツの泣き笑いの横顔だった。優。
「どうして、今ごろになって電話を?」途切れがちな会話を続けながら
少しずつ手繰る回想。多少の脚色を混ぜつつも鮮明になっていく情景。
俺達の関係。恋人同士…だった。もう、何年も前のことだよ。
「蝉がうるさいねー。毎年おなじだねー」
夏のBGMを背に他愛の無い会話が続く。しかし、答えをはぐらかしたままの
約束だけが何故か思い出せない。「男くん?」声に怪訝な響きがある。
仕方ない、思い出そうとするあまり受け答えが多くなっていた。すまん。
「いや、別に。それより電話したのは?」手がかりが欲しい。どうしても気になる。
(約束)俺は優を愛してたよ。本当にね。なのに声を聴いたとき
どうして戸惑うほど遠く感じたんだろう。いや…違う…遠い近いじゃなく何かもっと…
「・・・寂しかったからー。優と男くん、もういい歳でしょー?
やっぱり寂しいよー。でも男くんが元気そうでよかったよー」
変わらないな。そうだった、寂しがり屋で誰にでもやさしいの優。いつも傍にいてやりたかったっけ。
ん?俺は愛してた…優を?間違いない。でも別れたんだ。
優は俺の中で過去になっていた。ついさっきまで。
別れた理由が思い出せない。『約束』も…何故?焦燥。今はもう混乱に近い
「なんでだ」声に出してしまっていた。「優、なんでだ」
好きだった。おまえが優しかったから好きだったんじゃない。本当に愛してたんだ。
「なんで、俺の前から消えた?忘れないでくれって、そんな約束守れなかったよ
苦しかったんだ。生きていられないほど苦しかった。どうして死んだ?」
気づかなかった。涙が胸まで濡らしていたこと。ずっと泣きながら喋ってたこと。
思い出せない苦痛が悲しさという感情だったこと。俺が思い出したくなかったんだ
(・・・ありがとうー、もうかけない)

それっきりだった
何度男が優の名を叫んでも
電話は長音だけを繰り返した

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最終更新:2006年08月26日 19:14