東名首都圏電気鉄道2000系電車
2000系電車(2000けいでんしゃ)は、1991年(平成3年)に登場した東名首都圏電気鉄道が保有する通勤形直流電車。
本稿では、派生番台である1000番代・2000番代についても記述する。
共通主要諸元
起動加速度 | 3.5km/h/s |
営業最高速度 | 140km/h |
設計最高速度 | 160km/h |
減速度 | 4.5km/h(通常) 5.2km/h(非常) |
編成定員 | 1,030(立)+548(席)=1,578名 |
最大寸法 | 20,000×2,950×3,700mm |
電気方式 | 直流1,500V |
歯車比 | 1:7.07 |
駆動装置 | WN平行カルダン歯車形たわみ軸継手方式 |
ブレーキ方式 | 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ (応荷重、遅れ込め制御、直通予備、救援、耐雪ブレーキ付き) |
保安装置 | ATS-SW・東名CS-ATC・ATC-IM 列車防護無線装置・EB,TE装置 |
概要
東海道湾岸鉄道体制移行後、初めて設計した通勤形電車である。主回路制御には同社で始めてVVVFインバータが採用され、最高速度は当時の通勤形では日本最速となる140km/h対応となった。製造当初から、地下鉄対策(後述)や耐雪ブレーキといった寒冷地対策が施されており、東名首都圏電気鉄道の直流電化区間全線での使用が可能となっている。
旧来の通勤形車両や各線での共通運用を念頭に開発されたため、東名首都圏電気鉄道の標準形通勤車両として広く導入・増備された。10年以上に渡って484両が製造され、車体は全車ほぼ共通の構造を持つものの、駆動・制御系その他機器類は製造年次によって多くの点で異なっている。また、高速運転時の蛇行を防止する台車のヨーダンパが途中から追加装備されるようになり、当初準備工事に留まっていた初期車にも拡大装備されている。
外観は東名首都圏電気鉄道の車両としては標準的な、片側4箇所に客用ドアを設けた20m車体を有する。構体の材質は800系に続いてビード加工軽量ステンレス製で、従来の通勤形電車が車体幅2,800mmだったのに対し、本系列は定員増を狙った近郊形電車に見られるような2,950mmのワイドボディが初めて採用された点が特徴である。
前面は中央に非常用貫通扉が設けられた流線形。中央が膨らみ、上下が奥まった、横から見ると扇型に見える形状で、事故時の衝撃吸収の役割を持たせて厚めに造られている。前照灯と尾灯は四角型のものが横に合計4灯並べられている。
妻面には、妻壁外面に設置された消火器を車内に取り込む経路として、また非常時の換気用の開口面積を確保する目的で大型の一枚下降窓が備わっている。この関係で車両間同士を繋ぐ客用貫通路が、中央から湾岸線走行時で北寄りにオフセット設置されており、左右非対称になっている。また、妻面壁の上部に通気孔が設けられている。
種別・行先表示器は1000系で採用した方式と同じ回転幕式と発光ダイオード(LED)式との併用である。回転幕は列車の種別・線区(後述)、LEDは行き先を表示する。1000系にあった号車番号表示は省略された。
種別表示の文字色は「普通」「団体」「臨時」「試運転」「回送」が白、「区間快速」が緑、「快速」がオレンジ、「新快速」(臨時のみ)が青色である。前面表示器ではごく稀に、「快速」が白の場合があったが、2010年度末の幕交換によって消滅した。
運行開始当時、列車種別の文字フォントはゴシック体で、その外側をラインカラーの枠で囲っていた。しかし枠線が3mm程度と細く、また列車種別の文字も細く視認性が低かったこともあり、現在のような形態に改められた。
2000番代ではそれ以前の製造車より文字が微妙に広いものとなっていたが、現在では直通快速幕追加に伴う交換で全車両が同じ幕となっている。また、それまでは英語表記がなかった車両もあったが、そちらについても消滅している。
2000番代ではそれ以前の製造車より文字が微妙に広いものとなっていたが、現在では直通快速幕追加に伴う交換で全車両が同じ幕となっている。また、それまでは英語表記がなかった車両もあったが、そちらについても消滅している。
客用ドアの室内側は化粧板仕上げで、室内照明である蛍光灯にはカバーが設置されているなど、国鉄時代の車輌よりソフトな印象になっている。座席は従来より高さが低く、前部のクッション量が多い、座り心地改善が図られた形状となり、素材も手触りの良い物となって、周辺私鉄への対抗と湾岸本線・京葉空港線での長時間乗車に対応している。一部編成にはバケットシートが試験導入され、後の2000系で本格的に採用される事になったが、その形状は全く異なる。
また、バリアフリー対策として、ドア付近への吊革設置、ドアチャイムの設定、ドア上部にLED式旅客案内表示器(1つおきの千鳥配置で1両あたり計4か所。広告媒体としても使用される)設置、2000番代のみ車端部に車椅子スペース設置などがなされている。
運転台のマスコンは1989年の1000系の設計を受け継いだ横軸ツインレバー式である。力行ノッチ6段、常用ブレーキ8段は、 後継の6000系と共に東名首都圏電気鉄道の電車として最大である。2000番代を除き、圧力計等の各計器類はデジタル表示となっている。運転台右横に設置された液晶モニタ装置では、車両の様々な状態を一度に監視したり、空調等の各設定を行うことが可能で、運転・車掌業務をサポートしている。東名首都圏電気鉄道の新系列車両にはこの0番代以降から一部の例外を除いてミュージックホーンを標準装備するようになった。
番代別概説
0番代
試作車は1991年(平成3年)に7両固定編成(F1編成)として近畿車輛で4両、川崎重工業で3両が落成した。
試作車であるが、それまで試作車が付されていた「900番台」とはされていないないので、1番台や量産先行車と呼ばれることもある。900番代とされなかった理由としては、東名首都圏電気鉄道では営業用車両に試作車としての番台区分を設けていないことが挙げられる。
試作編成のみの特徴としては、客用両開き扉にD字形の窓ガラスを使用して窓周りが黒く塗装され、2枚が大型一枚窓風に見えるような工夫がなされていた点や、運転台右横に装備のモニタ装置がカラー表示ではなく、3000系に準じた橙色の単色表示かつ非タッチパネル式で下部に10個のボタンがあった点、南海電気鉄道高野線30000系電車などに似た「デスク型」と呼ばれる独特な形状のマスコン・ブレーキハンドルが採用された点が挙げられる。これらは、後に同年登場の量産車に合わせた標準化工事が行われ、他の編成と同じ仕様となっている。
1本だけの存在であることから、長らく半ば限定運用(毎日同じ運用に充当される)状態にあったが、後継車の2000系がある程度出揃った2006年3月18日のダイヤ改正以降、6000系と共通運用されるようになり、再び東名本線主体の運用に戻っている。運用時に他編成を連結することがないので、電気連結器は装備しておらず、電気連結器用コードの干渉が考慮されていないことからスカートの鉄板面積が他編成より大きくなっている。
量産車は200系の置き換えとして1991年から製造が始まった。量産車からは4両編成および3両編成での製造となり、日立製作所が製造に加わっている。1993年には京浜相模線にも新造投入されている。試作車が1~の番号を付されているので、2以降の車体番号が与えられている。
製造開始当時、4両編成のT'c車と、3両編成のTc車およびT'c車のみが自動解結装置・電気連結器を装備していたが、1997年に6両編成のTc車(2~17)にも同装備が追加されたため、仕様差はなくなった。
1993年に製造された車両は、当初品川総合運転所(現:沼津総合車両所品川支所)に所属していた、京浜相模線用の200系の置き換えにも充てられ、6両編成8本48両あった200系のうち、4本24両が廃車となっている。このグループから仕様が若干変更され、下部が空洞の片持ち式座席となるとともに、4両編成のTc車も自動解結装置・電気連結器装備で製造された。
制御方式は、三菱電機製の前段にチョッパが採用されたパワートランジスタ素子(PTr)による3ステップVVVFインバータ制御装置で、加減速時の騒音が大幅に低減している。パワートランジスタは電流容量が低いため、従来のインバータ制御と異なり台車単位の制御を行っている。音は使用素子の差異はあるがJR東日本209系電車(910番代以外)などによく似ている。主電動機は連続定格出力155kWのM-MT100。駆動装置は東名首都圏電気鉄道の電車としては初のWN平行カルダン駆動方式が採用された。
製造当初、副都心線品川~池袋間開業前に同線以外の区間でもパンタグラフを2基使用していたことがあったが、現在では他の番代と同様に品川~池袋間のみの使用となっている。冷房装置は集約分散式のWAU702を1両につき2基搭載している。
計202両が製造された。所属車庫は品川総合車両所・川越電車区から初音電車区を経て、2000年までに全車沼津総合車両所熱海支所に変更されている。
両数 | 4両(2M2T) 7両(3M4T) |
主電動機 | 155kW(M-MT100) |
制御装置 | GTOサイリスタチョッパ制御+3ステップパワートランジスタVVVFインバータ M-PC1(1C2M) |
台車 | 円錐積層ゴム式 M-DT52(電動車) M-TR235(付随車 |
1000番代
副都心線の開業を前に東名本線の200系の置き換え、及び1997年の副都心線開業にあわせての車両投入を目的として1994年(平成6年)から製造されたグループ。このグループから電動車ユニット方式が廃止され、同時に0番代には存在しなかったクモハが設定され、一部の車両が綾瀬工場で製造された(S54/S55編成)。0番代では電動車両に走行機器を集中搭載していたが、本番台では、クモハ形式設定による床下機器設置スペースの都合から電動車両(クモハ2000形・モハ2000形)には、VVVF制御装置・補助電源装置を搭載し、付随車(サハ2000形・クハ2100形)の一部に空気圧縮機などの補機類を搭載する。
制御装置 (M-PC3A) には、パワートランジスタ素子の VVVFインバータ制御装置を搭載した0番代とは異なり、東芝製の GTO サイリスタ素子が採用され、1台のインバーターで1基のモーターを駆動する個別制御とした。この制御装置はJR東日本209系910番代をベースにしたもので10000系や3000系0番台にも採用されている。元々耐電圧の高いGTOを高周波スイッチングで使うことにより、2ステップ回路ながら独特な柔らかい音を発するが音自体は0番代より大きくなっている。
補助電源装置はGTOチョッパ+IGBTインバータで構成され、定格容量122kVAを備えるM-SC31を、空気圧縮機には0番台と同様のレシプロ式WMH3093-WTC2000Aを搭載する。
急勾配の多い副都心線に対応するため、主電動機は出力200kWのM-MT102、3・4次車は出力220kWのM-MT104にパワーアップしている。運転台パネルの計器配置も変更された。冷房装置は集約分散式のM-AU702Bを1両につき2基搭載している。角に丸いカバーが追加された点が外観上の変更点となっている。
集電装置は耐寒・耐雪性能に配慮し、耐雪用カバーと架線追従性向上を目的としたダンパー取り付けが施されたM-PS27D下枠交差式パンタグラフを製造当初は電動車両に1基搭載し、1997年の副都心線開通に合わせて2基搭載に変更された。
当初は基本6両編成と付属2両編成がそれぞれ14本ずつ112両製造され、品川総合車両所に配置されて6または8両編成で使用されていたが、副都心線開業前に組み替えと追加製造が行われ、T編成4両×19編成計76両とS編成3両×55編成計165両となっている。この時、片側(熱海・小田原側)にしか設置されていなかったパンタグラフが、0番代と同じ2個設置に変更された。その後、0番代同様に全車沼津総合車両所熱海支所に移管されている。
弱冷車は0番台の量産車以降はクハ2100のみに設定されていたが、分割併合運転が廃止され常時7両編成で運転されているため、2012年3月ダイヤ改正以降は6000系に合わせて3両編成(S編成)のクハ2100とサハ2000に設定された。
両数 | 3・4両 |
主電動機 | 1・2次車:200kW(M-MT102) 3・4次車:220kW(M-MT104) |
制御装置 | 高周波小容量GTO-VVVFインバータ WPC3A(1C1M) |
台車 | 円錐積層ゴム式 M-DT55(電動車) M-TR239(付随車) |
500+1500番台
1996年(平成8年)に改造で誕生した、0番代3両と1000番代1両で混結の4両編成を組成したグループ。副都心線開業に備えて全編成基本4両+付属3両に統一されることとなり、付属編成に1000番代が集中的に起用されたために発生した。制御装置は種車のものがほぼそのまま使われたため、電動車は同一編成でありながら走行音が異なる。機器等については上2項目を参照。
1000番台6+2両編成が4+3両編成に組み換えられた際に余ったモハ1000形1000番代が、0番代3両編成に挿入されるという方法で登場した。共にパンタグラフを持つモハ1000形0番代とモハ1000形1000番代が連結されることとなり、保守費用低減のためユニット化されて1500番代のパンタグラフは撤去された。0番代の3両編成に対し、モハの1000番代が2両不足したため、2両(モハ1000-1569・1570)が製造時からの1500番代車両として製造された。これら2両は当初からパンタグラフを持たないものの、屋根上には他の1500番代と同様のパンタグラフ用の配管が設けられている。
車両番号は元番号+500となっている。500番代+1500番代を組み込む4両編成はH編成として16編成が在籍する。
2000番台
東名本線・京浜相模線の200系置き換えと車両増備のため、2002年(平成14年)に製造された。転落防止の幌やEB装置が設置されるなど、安全対策が強化されている。また、Mc車の戸袋部分に機器冷却のための風洞が設けられ、通風グリルが空けられている点が他番台との識別点となっている。
京浜相模線普通のデータイム全2000系化のために製造された2次製造分では、窓ガラスに緑がかったUVカットガラスが採用された。このグループの製造により東名本線・京浜相模線から200系の運用が終了している。
機器艤装は基本的に3000系2000番代をベースにし、主電動機も同車のものと同型のM-MT102Bを搭載している。VVVFインバータの制御素子にはIGBT(三菱・東芝製。2000系シリーズでは0番代以来の三菱製VVVF)が採用され、発車・停車時の騒音は2000系と同程度まで改善された。ただし音は全く異なる。台車も軸バネ部が乾式円筒案内式に変更され、全車で純電気ブレーキが採用された。
それまでのグループは運転台パネルにデジタル計器が使用されていたが、このグループはコスト削減や、乗務員から日光が当たると表示が見にくくなるという苦情があったために、旧来のアナログ計器が搭載された。
T編成4両×11編成44両とS編成3両×12編成36両が在籍。編成番号は1000番代の続番となっている。これらの増備を最後に2000系の製造は終了した。
両数 | 3・4両 |
主電動機 | 220kW(M-MT102B) |
制御装置 | PWMIGBT-VVVFインバータ制御 M-PC13(1C1M) |
台車 | 乾式円筒案内式 M-DT62(電動車) M-TR245(付随車) |
編成
番代 | 編成番号 | |||||||
0番代 | F1 | クハ2000 -0 (Tc) |
モハ2000 -0 (M1) |
モハ2100 -0 (M2) |
サハ2000 -0 (T) |
サハ2000 -0 (T) |
モハ2000 -0 (M1) |
クハ2100 -0 (T'c) |
Z1 - Z15 | クハ2000 -0 (Tc) |
モハ2000 -0 (M1) |
モハ2100 -0 (M2) |
クハ2100 -100 (T'c) |
||||
Z16 - Z23 | クハ2000 -100 (Tc) |
モハ2000 -0 (M1) |
モハ2100 -0 (M2) |
クハ2100 -100 (T'c) |
||||
H1 - H16 | クハ2000 -100 (Tc) |
モハ2000 -500 (M1) |
モハ2000 -1500 (M2) |
クハ2100 -100 (T'c) |
||||
1000番代 | T1 - T14 | クモハ2000 -1000 (Tc) |
サハ2000 -1100 (T) |
モハ2000 -1000 (M) |
クハ2100 -1000 (T'c) |
|||
T15 - T19 | クモハ2000 -1000 (Tc) |
サハ2000 -1000 (T) |
モハ2000 -1000 (M) |
クハ2100 -1000 (T'c) |