115 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:31:27.47 ID:qg/4RRk0
どんだけ☆エモーション (その3)
昼飯もそこそこに俺は母さんと実由に連れられショッピングセンターへ向かう。 理由は俺の服と下着もろもろの購入の為である。 現状の俺に合う服と下着が無いから已むを得ないわけだが 今後それを着なければならないかと思うと気が重い。 母さんは自家用車でショッピングセンターに向かう車中において 俺に今後の事について語り始める。 「でね~、あそこのタルトが美味しくって絶品なのよ~」 「…あの」 「そうだ! 今度ヒロちゃんと実由ちゃんも一緒に行こうねぇ~」 「うん! お母さん約束よっ!」 「はいはい♪」 「え~と…」 「そうそう知ってる? お母さんが持ってきたあのケーキ、実はね~」 「え~! そうなのぉ? さすがお母さん!!」 …楽しそうにやり取りをする母娘。取り残される助手席の少女。 「あのう…」 「そういえば今朝テレビでねぇ、○○が紹介されていt」 「もう! 母さんってばっ!」 「え? どうしちゃったの、ヒロちゃん? そんな恐い顔して~、 もう、折角の可愛い顔が台無しじゃない~」 「母さん、俺の今後について色々話してくれるって言ったじゃないか? なんで全然関係ない話してんだよっ!」 これじゃ俺の脳内ナレーションが全く意味ないっつーの! 「あはは、ごめんねぇ~、怒っちゃった? 今話すから機嫌直して~」 手を合わせてニッコリと謝る母さん。 …ガクっ。えらい脱力感。 この気の抜け加減はさすが天然キャラ全開の母さんだ。 「さっきお父さんと電話でお話したんだけどね、とりあえず今のヒロちゃんは 男の子のヒロちゃんとは別の人物として生活したほうがいいんじゃないかって事に なったのよ~」 「え? それってどおいう事?」 母さんの言ってることが分からず首を傾げる。 「ヒロちゃんが女の子になったのがどういう原因なのか分からないけど、 もしかしたら男の子から女の子になったのとは逆に戻ることができるかも知れない。 それを考えたら変にヒロちゃんの戸籍を変えるより新たにもう一人の女の子としての ヒロちゃんの戸籍を作ったほうがいいかも知れないって事になったのよ。」 「悪くない話だけど…そんな事できるの?」 「えー、戻るの? そんなのもったいないよ! あたしは可愛いお姉ちゃんがいい!!」 騒いで俺に抱きつく実由。冗談でも勘弁してくれ。 「ふふ、すっかり仲良しさんね。あら~、着いちゃったわ~。」 俺の問いには答えずに母さんはゆっくりと車のステアリングを切る。 俺達を乗せた乗用車はショッピングセンターの駐車場の入り口に入っていく。 俺と実由は辺りをキョロキョロしながら場内の様子を眺める。 まぁ、平日の何も無い日なのでそんなに車は停まってはいない。 車を適当な場所に停めた後、三人は車から降りる。 「さあ、行きましょうか~」 「ねぇ、母さん、さっきの話…」 母さんの話の続きが気になる俺は思わず訊ねようとする。
116 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:33:41.83 ID:qg/4RRk0
いきなり母さんは俺の口にひとさし指を立てる。 「ヒロちゃん、心配無用よ~。私とお父さんを何者だと思っているの~?」 にいっと自信満々に微笑む母さん。 ああ、そうだった。母さんは地元の有力者の娘で、父さんは某県議員の敏腕秘書だったか。 色々とコネがあるってことね…。 ◇
とりあえず俺の女性の戸籍を作り、今の学校にそのまま通うことにする。 実際のところ俺が女になった理由は不明であり、どうやったら戻るのか それとも元に戻らないのかは病院で調べることにする。 場合によっては治療してもらうことも有り得る。 今のところ解決策が無い以上、現状を乗り切るためにこうしたほうがいいんじゃないか というのが両親の提案である。 俺はどうすることもできないのでその提案に従うことにした。 他にいい方法も無いしな。
「もー、お姉ちゃん何やってんのよ! 早く来てー」 俺が色々考えていると実由が俺の腕を引っ張っていく。 「うわ、ち、ちょっと、待てよっ」 「お姉ちゃんに絶対似合う服を見つけたよっ! 早く着て!!」 「もう、実由は強引だな…」 俺は衣料売り場の試着室に押し込まれ、実由から渡された服を渋々チェックした。 「何だよコレ、えらく露出度が高いシャツだな~」 肩を思い切り出す感じの薄地のシャツ。レースのついたそれは淡いピンク色で えらく可愛らしい感じがする。 「シャツ? 何言ってんの? 恥ずかしい~。それキャミだよ。」 何故か実由も一緒に試着室に入っている。 母さんは俺に似合いそうな服を先程から物色している。 「キャミ? ああ、キャミソールね…。」 キャミの肩紐をプラプラさせながら俺はそれを眺める。 自分が着込んだ姿を想像してみるがどうしても男の姿で想像してしまうので 思わず「似合わねぇ…」と呟く。 「もう! 合うか合わないか着てみないと分からないでしょっ? 早く着てよ、まだ着てもらいたい服があるんだから!」 「さあ、どんどん入れていくわよ~」 母さんが服をどんどん試着室に入れていく。 おいおい! 何やっているんだよ!! 投入される洋服の数に思わず後ずさる俺。 この母娘、どんだけ俺を着せ替えるつもりなの!?
「お姉ちゃん次はコレ!」 立て続けに実由は俺にミニスカートを渡してくる。黄色い生地に花柄がプリントされた フリフリのスカート。思わず硬直する。これ、俺が着るの? 「時間が無いのでゴメンね、お姉ちゃんっ、えいっ!」 「ひゃうんっ!?」 実由は素早い動きで俺が着ている実由のワンピースを脱がした。 実由から借りたスポーツブラとショーツのみになった俺は慌ててしゃがみ込んでしまう。 うう~っ、恥ずかしいようっ。 「その反応女の子ぽくって(・∀・)イイ! でも時間無いんだよねっ」 実由は俺を立たせるとスカートを穿かせる。上は白いフリルの入ったノースリーブ。 「きゃー可愛いっ!」 嬉しそうに騒ぐ実由。
117 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:35:10.00 ID:qg/4RRk0
「ヒロちゃん、どんな感じ? う~ん、いいじゃない? とっても可愛いわね~」 母さんも覗きにやって来た。 「うっう~、有り得ないよ、こんなの…」 「何言ってるの? すっごい似合ってるよ! じゃ、次コレっ!」 実由は間髪入れずに白いデニムのショートパンツを寄こす。 「上は青いチェック柄のチュニックで涼やかな印象がいいわね~」 母さんも上着を寄こしてくる。 「何というか…脚や肌の露出の多いのばかり…、なんとかならないの?」 困惑の表情を浮かべる俺。ホントどうにかならんものか。 「何言ってるの!? そんな格好が出来るのは若いうちだけなのよ? 今出さないで、何時出すというの!!」 旬を過ぎたオバサンが自分の娘に対し力説しているような感じで言ってくる実由。 一体お前はいくつなんだと問いたい。 「さぁ、どんどん行くよ!」 「ええ!? こ、これ!?」 「いいからいいから~♪」 「いくないっ!」 洋服選びはこうして俺を巻き込んでどんどん進んでいく。
さらにこの後には下着選びが待っているのだが、流石の俺も 男としての尊厳というか、何と言うかそのようなものが残っているため ここでの内容については省略させていただく。
「今更何言ってるの~?」 「そうそう、ここまで可愛くなって尊厳も何もないって☆」 え!? 何故俺の脳内ナレーションが読まれているの? 「何を今更。さぁ、洋服選びも済んだし、今度は下着買いにいこっ♪」 がしっ。 「ほえ?」 母さんと実由は俺の腕をそれぞれ両側から掴むとずるずると俺を下着売り場へと 引っ張っていく。 「ち、ちょっとぉ~? い、いやぁ~!!」 下着購入描写の省略もそこそこに俺は下着売り場へ連れられる。 「ううっ、これは…」 「きゃー!カワイイ!」 「あらあら~、いいわね~」 思いっきり引いている俺を尻目に母さんと実由は下着を物色し始める。 「いらっしゃいませ、本日は何をお求めですか?」 女性の店員さんがやってきた。 「こんにちは~。今日はね、この子の下着を買いにきたの~。 まずはこの子のサイズを測って頂けないかしら~」 「かしこまりました。それではこちらにどうぞ。」 「え? え?」 事態が飲み込めない俺を店員さんは試着室へと引っ張って行く。 一畳程の広さの試着室に連れていかれて呆然としている俺をよそに 女性の店員さんはメジャーを取り出す。 「では、サイズを測りますので服を脱いで頂けますか?」
118 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:36:35.09 ID:qg/4RRk0
「ええっ!? ぬ、脱ぐの?」 思わず大きな声で反応する俺。今度は見知らぬ人の前で裸になれというの? 「ハイ、正確にサイズを測る為には出来るだけ服は脱いでもらった方が よろしいかと思います。特にバストは正確に測らないと肩こりの原因になったり、 後々形が崩れたりしますからとっても大事なんです。」 「そ、そうなんですかぁ…だ、大事なんですね…」 説得力のある言い方にどんどん声が小さくなる俺。 ううっ、そんな風に言われたら覚悟しなければならないようです…。 「…」 仕方なく服を脱ぐ俺。服を脱ぐ(脱がされる)のは今日だけで何回目なんだろうか。 スポーツブラもかなり躊躇ったのち、おずおずと脱ぐ。 試着室には当然鏡があるので目の前にはショーツ一枚のみの俺の姿が映る。 裸の自分自身の姿を見るのは考えてみると今回が初めてだ。 さっきは何だか実由や母さんのせいで落ち着いて見る暇も無かったからな。 こうしてみると一応は女性らしい身体つきになっているようで 多少小振りながらも形の良いバスト、そこそこくびれたウエスト、相応のヒップと スレンダーでまだ成熟には遠いながらも多少メリハリのある身体つきになっている。 「…」 一応自分の身体ではあるが女性の裸を直にみるのは母さんと実由以外では 初めてではないだろうか。元々男である自分にとって興味津々なのは言うまでも無い。 鏡の中の少女は恥ずかしいのか頬を赤らめながらぎこちなく身体を動かしている。 なんだかその姿が可愛らしく、さらにこの少女が自分自身であるので 妙な陶酔感に浸りそうである。 他人が今の俺を見たらどう思うんだろう? この娘が俺自身でなかったら惚れてしまいそうな程可愛いし、そそるよなぁ… 「…」 横から視線を感じる。 「あ…」 店員さんが俺の様子をさっきからじっと見ていたことをすっかり忘れていた。 やべ、今の様子をしっかり見られていたよ。 恥ずかしさのあまり顔が赤くなっていく俺。ううっ、恥ずかしいぜ…。
119 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:37:23.47 ID:qg/4RRk0
「よろしいですか、では測りますよ。」 何事もなかったように店員さんがメジャーを手に俺の胸を測りはじめる。 「…う」 店員さんの手やメジャーが俺の肌に直に触れ、その都度俺は過敏に反応する。 「えーと、アンダーが64で、トップが78なので65Bといったところですね。」 「…そうなんですか?」 バストサイズについてよく分からない俺は曖昧な返事をする。 「お客様はまだ若いのでまだ大きくなる可能性はあると思いますが、現状は このようですので今のサイズに合ったブラジャーを買うのがベストだと思います。」 「そういうものなんですか…」 「それでは次はヒップのサイズですね。…えーと、82ですのでSサイズで充分ですね。」 「はあ。」 計測は呆気ない感じで終わったが、まあそんなもんであろう。 「測ってもらったかな~」 「お姉ちゃん、試着!試着!!」 ばたばたと母さんと実由がそれぞれ思い思いの下着を持ってやって来る。 …二人の展開の速さについて行けません。 「で? どうだったの~」 「え~と、店員さんは65Bとか言ってたなぁ。」 「えー!? あたしより大きい! 羨ましいなぁ~、あたしAカップなんだよね…」 「実由ちゃんはまだ中学2年でしょ~、まだまだ大きくなるわよ~」 「そうかなぁ(///)? よーし、頑張るぞ!」 …何を頑張るのか良く分からないが流石にこの母娘、俺を置いて暴走しっ放しである。 「でね、ヒロちゃん? さっそく選んできたの~、着てみてくれる~?」 「あたしの選んだのも着てよっ! 絶対カワイイから!」 「ふぇ?」 色とりどりでレースの付いたのやら何やらと様々なブラジャーを俺に渡す二人。 これを俺にどうしろと? 「決まっているじゃない~、着けて~♪」 …ある意味、俺の自我が崩壊しかかった瞬間であった。
120 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:38:30.85 ID:qg/4RRk0
◇
洋服&下着選びは3時間にもおよび、俺はぐったりしてカフェラウンジのシートに座り込む。 「あの服良かったよね~」 「うん! 可愛かった!! あれならあたしも欲しかったかも!」 俺とは対照的に母さんと実由は楽しそうにケーキを食べつつ会話に花を咲かせている。 そんな二人の様子を見つつ、俺は横目で購入された服の詰まっている買い物袋を 眺める。一体何着買ったのだろうか。大きな買い物袋が4つ、全て俺の洋服である。 しかもその内容は俺用の服で有りながら自分の好みや希望などが一切入ってないところが 不思議なんですけど。 …これを俺が着なきゃなんないのか。思わずため息。 さらに…ため息の理由がもう一つ。 「そうそう、ヒロちゃん試験勉強は無くなったけど一応ヒロちゃんは別の人間で 学校に行くことになるから編入試験の準備が必要よ~」 ミルクのたっぷり入った紅茶を美味しそうに飲む母さんは ぼんやりと買い物袋を見つめる俺に言う。 両親の提案で男のヒロアキとは別の人間で今まで通っていた高校に通うことになった 俺だが、編入試験という避けられない問題が今俺の目の前に立ちふさがる。 勉強か。折角、試験から開放されると思ったらこれだ。
「さて、それじゃ帰りましょうか~」 「うん! 沢山買ったよね、帰ろっ!」 母さんと実由はカップの紅茶を飲み干すと立ち上がる。 「しかし、この荷物半端ねぇなぁ…」 大きな買い物袋の山を見つめる俺。 俺が男だったら、この位一人でも何とかできるかも知れないけど 今の俺じゃちょっと…なぁ。 「みんなで運べばいいじゃない~? 流石にヒロちゃんはもう女の子だし、一人で荷物は持ちきれないからね~」 母さんは買い物袋を三人で分担して運ぶように言う。 「そうそう、みんなで協力しよっ!」 「ああ、そうだな。」 俺と実由はそれぞれ荷物を手分けして駐車場の車まで運んでいく。 「あれ? もう夕方だ。」 「そうね~、もうこんな時間ねぇ~」 外に出るとすっかり日も暮れかかっていた。 結構長く店の中にいたからなぁ。 帰りの車中で俺は今後の事について様々な想いを馳せる。
121 :vqzqQCI0 :2008/07/09(水) 08:39:29.83 ID:qg/4RRk0
すっかり変わってしまった俺自身の姿。 元に戻れるのか分からない状況。 今後の俺の生活。 今分かる事は今まで通っていた高校に女として通うこと。 しかしこれまでの俺とは全くの別人として通うわけだから当然今までのようにいかない。 別の人物の俺である以上、友人も改めて作る必要がある。 友人か…そういや、サトシとはどうなるんだろうか…? 俺にとってはかけがえの無い親友だったんだけどなぁ…。 別に同じ学校に通うわけだから会う事ができないわけではない。 しかし今の俺は女の子、これは紛れもない事実。 こんな俺を奴は受け入れてくれるのかな。いや、それ以前にこんな馬鹿げた姿になった 俺の事をあいつは俺だと信じてくれるかな? 様々な想いが浮ぶが答えは当然浮ばない。 「…」 俺はうっすらと赤く暮れ始めた空を車の中からぼんやりと眺めていた。 「ふふっ、大丈夫よ~ヒロちゃん、サトシ君はきっとあなたの事分かってくれるわ~」 「そうそう、お姉ちゃん心配無用よっ♪ サトシくんはお姉ちゃんといい関係になるかも♪」 何故か分かりませんがこの母娘、さっきからずっと俺の考えていることを読んでくれるんですが。 俺は色んな意味で恥ずかしさが込みあがってくる。 「あのぉ~、俺の脳内ナレーションを読むのを止めて欲しいんですけど!!」 もう、やだ。 そうこうしているうちに車は俺の自宅に到着した。 俺と実由は荷物を車から降ろし、入り口まで歩いていく。 母さんは車庫に車を入れに行く。 「あれ?」 実由が家の入り口前に誰かがいる事に気付く。 「ん?」 俺は荷物を抱えている為、前の状況が分からないが誰かが入り口前で俺達を 待っているのは見えた。 「あれ? サトシくんどうしたの?」 「こんにちは実由ちゃん。ちょっと、ヒロアキに用事があってさ。」 聞き慣れたその声に俺は思わず身体を硬直させる。 今の俺にとって最も顔を合わせづらい相手。
そこにサトシが立っていた。