【太陽がいっぱい過ぎ-夏のチュニジア】
第3話)ドライブインは屠畜場

《チュニジア旅行記|チュニス|カイルアン|トザール|タメルザ|スファックス|シディ=ブ=サイード》

今日はカイルアンからバスでトザールに向かう。昼前に出発したバスは10分も進まないうちにとあるドライブインに何の説明もなく止まった。

どうやらチュニスから運転してきたドライバーのランチタイムのようである。他の乗客もそれを察して、続々と車を降り、思い思いに軽食を注文し始める。鉄板で焼かれる羊肉の香りが食欲を刺激する。

ドライブインの食堂の隣は肉屋になっていた。大きな羊の肉の塊が一頭分、豪快に軒先に吊るされている。

なんだろう?
なんだろう?

僕は肉屋の先の駐車場 -そこは僕らのバスが停まっている所である- にも妙なものが洗濯物のように吊るされているのに気がついた。近づいてみるとそれは羊の毛皮であった。

首付きの毛皮!!
首付きの毛皮!!

が、それはただの毛皮ではなかった。なんと羊の生首がついている!! つまりは生きてた羊から肉だけをはずした残り物のようであったようだ。待てよ、ということは、、、あの肉屋の軒先に吊るされた肉の塊。それは、もしかしてこの羊の中身の方かぁ!


 「メェー、メェー」

突如悲しそうな泣き声が聞こえると、肉屋の親父が生きたヤギを駐車場の方に引っ張ってきた。お”お”!! まさかここで屠るのか?

 そのが、「まさか」は的中した。

2人がかりで地面に押さえつけられたヤギののどにナイフが走り、鮮血が流れる。押さえつけられたヤギは2~3分もすると抵抗しなくなり絶命した。


その様子を観察していた僕に、バスの乗客がさもフツーのことのように話しかけた。

「お前は日本人か、日本ではどうやって家畜を屠るんだい? ナイフかい?ピストルかい?」

どうやってと言われても、四足動物の屠畜をナマで見たのは今日が初めてなのだから知るわけがない。

しかし、こんなシーンを目の当たりにすることはこの先ないかもしれない。僕は勇気を出して肉屋の方に歩み寄り観察していい旨、許可を得た。(さすがに写真は断られたが、、、)

さて、屠ったヤギの解体であるが、これが見事な包丁さばきとでもいのか、実にプロの技である。

まず後足の足首のところにナイフで穴を開け、皮と肉の隙間にナイフをあてる。そして、その穴に肉屋は口で息を吹き込みだした。するとどうだろう、ヤギ全身の皮と肉の隙間に空気が入り込み、ヤギが風船のように膨らみだす。こうすることで後で皮を剥がし易くするのであろう。

膨らんだヤギは、後足からフックに吊るされる。そして後の両足首からお尻にかけてナイフで皮に切れ目を入れ、そこから、まるでアンコウの吊るし切りのように、皮を剥いでゆく。

膨らませた空気と、吊るした状態の重力を上手く使っているのだろう。皮と肉をつなぐ筋の要所にススッとナイフを当てるだけで、ヤギの皮は簡単に剥かれ、5分もしないうちに下半身丸裸状態だ。

 「さあ、もう行くぞ」

全てを見届ける前に、バスの出発が迫ってしまった。

この目の前で行われている事実に回りのチュニジア人たちはさしたる関心も持たない。そう、日本人が魚屋で魚がさばかれているのが当たり前と感じるように。

生まれてから今まで、僕は多くの獣肉を食べてきた。でもその肉がどうやって肉になるのか、さして意識することはなかった。

肉。それはスーパーでパックされた状態で生まれてくるワケではない、という当たり前の事実を、今日僕は初めて実感した。

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 09:59