【イラン、ここは本当に悪の枢軸国?】
第6話)揺れるミナーレ

《イラン旅行記|ゴム|マライヤ|エスファハーン|テヘラン》

ザーヤンデ川に架かる橋の下にはとても居心地のよいチャイハネがある。ここでぷらぷらしたりして、いつしかエスファハーン3日めを迎えていた。今日の午後は郊外にでも行ってみるか。市バスで西に20分ぐらい行くと、ミナーレ(イスラム寺院の尖塔)が揺れる不思議なモスクがあるという。名前はミナーレ・ジョンバーン。あまり大きなモスクではないので注意してバスの車窓を見ていないと見落としてしまう。

椰子の木に囲まれた一角にその不思議なミナーレはそびえ立っていた。一見するとエスファハーンのどこにでもありそうなミナーレではあるが、揺れるとはいったいどういうことなのだろう。入り口で入館料を払うと、係員が「午後3時にミナーレが揺れる」と言う。今は午後2時。あと一時間だ。

でも、決まった時間に尖塔が揺れるとはこれはいったいどういう超常現象によるものなのだろうか?興味はつきない。モスクには僕のほかに欧米の団体客がやってきて、早くもモスクの屋上に上がってミナーレが揺れるのを待っている。とりあえず僕も屋上に上がってみよう。

屋上の高さは3階建てほどであるが、あたりに高い建物がないのでエスファハーン近郊のパノラマが楽しめる。抜けるように青い空の下、潅木の大地にザーヤンデ川の清流に沿って緑が広がる。遠くにはエマーム広場のモスクの尖塔が天に向かって突き出し美しい。

屋上の観光客が20人ほど集まったところで、スーパーマリオに瓜二つのイラン人親父が屋上に上がってきた。親父はミナーレの鍵を明けると、すたこらすたこら尖塔を上っていった。

  「あれ、地震かな」

気づくとモスクの屋上の床にかすかな揺れを感じた。一瞬で揺れはおさまったが、またユラリと揺れだす。どういうことだ。

すると欧米人たちがカメラを取り出し尖塔を見上げてシャッターを切り出した。何だろう? ミナーレの明かり窓から人の影が見える。あっ、さっきのスーパーマリオ親父ではないか。親父は手に軍手をはめているぞ。あ"っ、また床が揺れた。おおお、尖塔も揺れているぞ。というか、揺れているのではない。

 マリオ親父が尖塔を揺すっているのだ!!

要するに観光客が集まったらマリオ親父が塔を揺らす、それが揺れるミナーレの秘密であった。なんともプリミティブな仕掛けに僕は笑いを押さえ切れなかった。

しばしミナーレの揺れを楽しむと欧米人たちはさっさとツアーバスで帰ってしまった。このミナーレの下に一軒のチャイハーネがあったので僕はそこで一休みする。するとさっきのマリオ親父もお茶をしに入ってきた。

 「どこから来た。」
 「日本からさ。」
 「そうか。よく来た。個人旅行か?」
 「そうだよ。」
 「そうか。団体じゃないんだな」

マリオ親父は僕がツアー客じゃないことを確かめると

 「1万リアルでどうだ?団体じゃないなら特別OKだ」
 「OKって何が?」
 「ミナーレを揺らすのさ。」

なんとマリオは1万リアルの袖の下でミナーレを揺らせてやるというのである。「OK」と僕は承諾すると、マリオ親父は事務所からこっそり鍵を持ち出してきた。二人してひっそり屋上にあがると、「さあ行け」と尖塔の鍵を明け僕を中に入れる。尖塔の中は狭い螺旋階段になっていた。足を踏み外さないようそろりそろりと僕は上っていった。

頂上の窓から下を見下ろすと、マリオがさあ揺らしてみろとジェスチャーする。よし、僕は塔の一部を掴んで尖塔をゆらしてみる。マリオ親父は簡単に揺らしていたように見えたのだが、僕がやってみると塔はびくともしない。そこで思いっきり力を入れて揺らしてみようと思うのだが、あんまり力を入れすぎると塔が崩れてきそうな感じもして、なかなか力が出し切れない。それでも意を決して揺らしてみる、えい!。 ダメだびくともしない。

「もっと力を入れろ」とマリオ親父のゼスチャーが熱くなる。僕も全力を出したいのだが、壊れてしまうのではという疑念と、螺旋階段の足場の悪さが、なかなか僕に全力を出させようとしない。結局、塔を揺らせないまま僕は降りるしかなかった。

トホホな僕に対して、1万リアル(約140円)の臨時収入を得たマリオはもうホクホク顔。なんとも情けない結末の揺れるミナーレであった。

(続く)


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最終更新:2016年08月27日 10:15