【壱岐→対馬→釜山=島伝い国境越えの旅】
第1話)しまとく通貨vs生ウニ丼
《壱岐・対馬・釜山
旅行記|郷ノ浦|勝本|厳原|日田勝|影島・ヨンド》
博多から壱岐へ向かうフェリーは予想以上に混雑していた。9月の連休で大都市・福岡から2時間ほどで着いてしまう離島は、格好のレジャースポットなのだろう。
羽田発早朝便のフライトが遅れたため、博多港10:00発のフェリーの乗船はギリギリとなってしまった。既に大勢の乗客の乗り込んでいる二等船室の中に、辛うじて自分のスペースを見つけ荷を下ろす。
秋の連休を利用し壱岐→対馬→釜山と島伝いに国境を越えてみよう、そうしたら何かが見えてくるかも知れない、それが今回の旅のテーマだ。
フェリーは2時間ほどで壱岐の玄関口・郷ノ浦港に着岸した。
下船するとすぐ港にある観光案内所に向かった。するとそこには先に船を降りた観光客が長蛇の列をなしていた。
しまった!
この列には訳がある。壱岐や対馬がある長崎県 ―つい最近まで壱岐・対馬は福岡県だと思っていたのだが― が県内諸島部の経済振興のため、プレミアム商品券を発行している。その名も「長崎しまとく通貨」と呼ばれる商品券は、 6000円分の商品券が5000円で購入でき、壱岐・対馬・五島列島の旅館やレストランなどで利用できる。その「しまとく通貨」を港の観光案内所が販売しているのだ。
6000円と5000円の差額は国の交付金から挙出されているので、結局は僕らの血税が投入されているというわけで、つまりはタコが自分で自分の足を食っているということだが、自分で食わなきゃ食われっぱなし。だったら大いに食ってしまおう、と大勢の観光客がお得な商品券を求めて並んでいるのだった。
しばし混雑を極めた港だが、やがてほとんどの観光客が迎えのバスへと消えて行くと、辺りは静けさを取り戻した。
僕は郷ノ浦の街中の宿に向かう。船のなかは観光客で溢れていたようにみえても、それが島のなかに散ってしまうと街中は恐ろしく閑散としている。というか休日の昼間だというのに、歩いている人の姿がなく、少しもの悲しい。
ともかく宿に荷を下ろし、近くの「うに工場」をめざした。
新鮮な海産物に恵まれた壱岐はとりわけウニが名産で、前述の「うに工場」なる加工所はレストラン・土産物店に加え、ウニ漁に携わる海女の博物館まで併設されているというから興味深いではないか。
レストラン 兼 博物館 兼 土産物屋 =「うに工場」
しばし島の山道を昇ると「うに工場」が見えてきた。その2階には立派なレストランがそびえていた。よっしゃー、旨いウニ料理を喰ってやる! 勇んで階段を駆け上がろうとしたその時である。
「本日予約満席となっております」
な、なんだこの張り紙は。
だがコッソリ一人くらい何とかなるだろう。僕はその張り紙が見えなかったことにして2階に上がって行った。
「本日は団体の貸しきりで…」と店員がすまなさそうに寄ってくる。「ひとりだけ何とかなりませんか」とネジ混んでみると、上司に確認してみると言う。
やがて特別ということでついたてで仕切られた席に通された。
「こちらがメニューです。」
季節限定の特性「生うに丼」がメニューの表紙を飾っていた。しかし、そのお値段は驚愕の3500円!!
いや待て、オイラはしまとく通貨12,000円分を10,000円で手に入れている。つまり2,000円分は贅沢してよいということじゃないか!!
とは言え、丼一杯に3000円を越える大金を払う勇気が自分にはない、嗚呼なんという意気地のないオレ。
気づくと無難にも1500円也の「うにめし定食」を頼んでいた。むろん生ウニこそ無いものの、このウニメシはウニメシで、風味豊かなあじわいが口の中に広がり、美味であることは間違いない。
しかし所詮メシはメシ、米なのだ。ウニの味のする米なのだ。
あの生ウニの持つ、こってりと濃厚で、それでいてフレッシュな磯の薫りとふわっとした食感 ― それはあと2000円出せば手に入ったのだが ― その至高の食感はないのだ。
こうなったら想像力と創造力だ。イマジネーションにクリエイティビティを掛け合わせてウニメシと言うリアルな素材から、生ウニの味覚をバーチャルで造り上げるのだぁ!!
いやー、こんなことするなら、素直に「生うに丼」頼んでおきゃいいのに、なんのために「しまとく通貨」で得したのか、分からないよね。
最終更新:2016年08月24日 19:05