【国がまるごと博物館・キューバの旅】
第2話)オルギン-日常に馬車が存在する街
《キューバ旅行記|ハバナ|マタンサス|トリニダー|オルギン》
すっかり日の暮れたオルギン空港。その駐車場には意外にも何台もの観光バスがツアー客たちを待ち構えていた。
「私は何度もキューバを訪れているのよ」
機内で隣り合わせたカナダ人のオバチャンにとって、キューバはお気に入りのリゾート地になっていた。日本人の感覚ではどこか秘境の趣のあるキューバだが、カナダあたりではもはやポピュラーな観光地なのだ。
オルギン-街外れにあるロマ・デ・ラ・クルス(十字架の丘)
オバマ大統領とカストロ議長の歴史的首脳会談が実現し、長年犬猿の仲だったキューバとアメリカが急接近し始めている。いずれ国交が結ばれれば、米国からも大量の観光客がどっとキューバに押し寄せることだろう。
そうなる前に生のキューバを見てみたい。この思いが今回の旅のモチベーションになり、今、僕はこの国に居るのだった。
カナダから乗り会わせた乗客の殆どはツアーバスの車内に吸い込まれ、そのまま近くのビーチリゾートに直行していった。
さて、それではオイラは街に向かうとするか。
両替を済ませ、タクシーと交渉する。15兌換ペソ(約¥2025)で手を打つと運転手は満面の笑みを浮かべていた。しまった! もっと値切れた。
電灯のない高速道の暗闇を、タクシーは己のヘッドライトの灯りのみでぶっ飛ばす。おいおい事故を起こさないでくれよ、といささか不安になる。
だが、道路を走っているのは、このタクシー以外に見当たらない。ならば、簡単に事故が起きるものでもないであろうと思った矢先、タクシーが妙な小型車両を追い抜いた。
「え゛、まさか… 今の、、、、、、馬車!?」
僕は自分の目を疑った。いったいこの時代、高速道を馬車が闊歩するなどという事があり得てよいのか!!
「セニョール、宿の住所はこれか。よし任せとけ。」
馬車とは対称的に、タクシーの運ちゃんはITを駆使。スマホに宿の住所をインプットすると、
「200m先を右に曲がってください」
とでも言っているのだろう、スペイン語のカーナビ音声が聞こえてきた。
最先端のITデジタルの世界と、馬という100年前のアナログ世界。その二つが奇妙に同居している。そんな国、キューバをおいて他にあるまい。
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翌朝オルギンの街中を散策する。
碁盤状に整備された街中のあちらこちらから「カポッ カポッ カポッ カポッ」と蹄の音がなり響く。観光用ではなく、日常生活の庶民の足として、当たり前のようにこの街では馬車が行き交っていた。
加えて、人力の自転車タクシーも溢れている。キューバでは博物館クラスの古~いアメ車がバリバリ現役なのは広く知られるところだが、馬や人といった究極のエコエンジンも交通の主役だとは驚いた。
浮世離れしたこの光景、米国との関係が正常化し、効率化だの資本主義だのが押し寄せてくると、あっという間に消滅してしまうのかも知れない。その前に目撃できたのは貴重な体験となることだろう。
最終更新:2016年08月24日 07:46