【国がまるごと博物館・キューバの旅】
第3話)二つの通貨:人民ペソと兌換ペソ

《キューバ旅行記|ハバナ|マタンサス|トリニダー|オルギン》

キューバは中南米で例外と言えるほど治安の良い国だ。

キューバ旅行記|キューバは治安の良い国
キューバは治安の良い国

しかし、その反面トリッキーなのが通貨である。カードが使えない、ATMが使えない、といったことだけでなく、同じ国の中に兌換ペソと人民ペソという二つの通貨が存在するのだ。

兌換ペソ(Peso Cubano Convertible)は略してCUCと表記され、交換レートは米ドルと等価ということになっている。ところが米ドルからCUCに両替しようとすると、正規の両替手数料の他に10%の手数料が上乗せされてしまう。それを避けるため、今回は日本円→カナダドル→CUCと両替したので、結局1CUC=¥135くらいのレートになってしまった。

一方、人民ペソ(Moneda NacionalまたはPeso Cubano)は略号でMNまたはCUPと表記され、1兌換ペソ(CUC)=25人民ペソ(MN)ということになっている。

で、悩ましいのは、どちらも話し言葉では「ペソ」だということだ。兌換なのか人民なのか、どっちのペソか間違えるとその差はあまりにもでかい。

ただし、リゾート直行派の旅行者にはこの悩みはない。外国人向けリゾート内では、兌換ペソ(CUC)だけで買い物が完結する仕組みになっている(らしい)。

ところが、街中で地元民向けのストリートフードを楽しみたい僕にとって、人民ペソ(MN)の入手は必須である。既にオルギン空港で兌換ペソ(CUC)は両替済みだったので、翌朝人民ペソ(MN)を手に入れようと街中の銀行を訪れた。そのときである、

 「ここではない、CADECA(カデッカ)へ行け」

と老人から忠告を受けた。どうやらオフィシャルな銀行では兌換ペソ(CUC)から人民ペソ(MN)への両替はできないようだ。

キューバ旅行記|オルギンの繁華街
オルギンの繁華街、一角にCADECA(カデッカ=両替所)があった

さて、CADECAとは両替所のことだが、どこにあるのだ? すると「案内する」と老人がいうので着いていくと、

  「今日は休みじゃ」

確かに両替所と思われる事務所は閉まっていた。だがそこには小脇にポーチをさげた女や男が数名プラプラしていた。

  「あの女に交換してもらえ」

読めた! ここにいるのは闇両替商たちだな。

僕は10CUC(約¥1350)を240MN(約¥1296)に換えた。10MN分(約¥54)は私設両替商の取り分と言うわけだが許容の範囲だ。

さて、ここで手に入れた人民ペソ(MN)であるが、これで買い物をしてみるとキューバの庶民ベースの物価の安さにビックリする。

 ・豚肉サンドイッチ 5MN(約¥27)  ・アイスクリーム  5MN(約¥27)
 ・砂糖きびジュース 2MN(約¥11)  ・マンゴーシェイク 10MN(約¥54)
 ・一口コーヒー   1MN(約¥6)

キューバ旅行記|人民ペソ(MN)で買える品々
人民ペソ(MN)で買える品々

これが兌換ペソ(CUC)の世界になると、コーヒー1杯1CUC(約¥135)といきなり異次元の高さに跳ね上がるのだ。

キューバの二重通貨政策。それは本来、庶民価格で存在するモノやサービスを外国人が買いにくくするシステム、つまり、外国人からぼったくろうという国家戦術なのだ。だから、人民ペソ(MN)でチップを渡すと露骨に嫌な顔をされてしまう。

兌換ペソ(CUC)で外国人と商売できる職に就いている者と、自国民相手に人民ペソ(MN)でしか稼げない者とでは、儲けのスケールの次元がまるで違う。やがてそれは貧富の差につながり、その差が大きくなるにつれ、キューバの誇る治安の良さも失われてしまいやしないか。

自分自身が格差拡大の元である外国人旅行者でありながら、僭越にもこんな懸念を抱いてしまうのは、キューバにとって余計なお世話なのだろうか。

(続く)


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最終更新:2016年08月24日 07:48