【イラン、ここは本当に悪の枢軸国?】
第8話)落とし穴は最後に待っていた(2)

《イラン旅行記|ゴム|マライヤ|エスファハーン|テヘラン》

「カメラ!カメラ!」

僕は大声をあげて少年たちを追いかけた。だが、敵は複数。四方八方に散ってしまい、誰を追いかけていいのか直ぐに分からなくなってしまった。

もう諦めるしかなかった。そうと分かると急に悔しさがこみ上げてきた。これまで出会ったイラン人たちがみな本当にいい人たちばかりだったで、気持ちにスキがあったのだろう。なによりもあのカメラには、マライヤやエスファハーンで出会った人たちとの大切な思い出がいっぱい詰まったデータが入っていた。それがよりによって、ここテヘランでイラン最終日に盗まれてしまうとは。

しばらく呆然としていたが僕だが、気を取り直して、せめて盗難届だけでも出すことにした。カメラ本体分の保険金ぐらいはなんとかしないと気がすまない。よし警察に行こう。僕は反対方向から来たタクシーを止めるとツーリスポリスに行くよう命じた。幸いタクシーの運転手はかろうじて英語が通じる。事態をなんとなく理解した運転手は近くの警察署へと飛ばした。

 「まったく、ああいうのガキどもはイランの恥だ。OK、アイ ヘルプ ユーだ。」

テヘラン北側の閑静な官庁街の一角にある大きな警察署らしき建物の前でタクシーは止まった。運転手は守衛のころへ行ってなにやら話し込んでいる。

 「ノー。トゥディ フライデー。ディス ポリス クローズ。」

ああそうか、今日は金曜。イランは休日だ。うむむむむ~。タクシーの運転手は守衛になにやら別の警察署を聞き出しそこに向かった。だが、次の警察署も閉まっていた。

 「ユー。トゥモロー カム!」と運転手。アホ言え、明日の朝の便で僕は帰国しなきゃならないのだ。しかたない警察の盗難証明は諦めよう。僕はタクシーの運転手に証人になってもらうことにした。「かくかくしかじかで僕のカメラが盗まれた」と書いてくれ、とお願いする。しかしこんなややこしい内容の英語を運転手はなかなか理解できない(そもそも僕の英語でそんな内容を説明できるのかい?などと突っ込まないように!)。

そこで運転手は英語ができるという彼の兄を電話で呼び出した。何とかその兄さんに「かくかくしかじか」を書いてもらった。ただしペルシャ語だ。果たしてこんなメモで保険金が降りるのか不安だなぁ、まあ何もないよりはマシか。ともかく親身にはなってくれたタクシーの運転手だったが、この一時間あまりのタクシー代はしっかりと請求された。 「アイ ヘルプ ユーだ。」といいながら、あんたの商売 「ヘルプユー」したのは僕じゃない?

散々な思いで宿に帰った。テヘランで泊まっていたのは安宿街で有名なアミーレキャビール通りにあるFホテルだ。このFホテルのマネージャ-は英語が達者で、何かと面倒見がよい。彼にはいつもロビーでチャイをご馳走になっていた。

 「どうだった今日は?」
 「実はカメラを取られた。警察に行ったが閉まっていた。」
 「この近くに警察がある。今日も空いているぞ。でも、英語は通じないから、
 何かあれば俺に電話しろ」

僕はそのすぐ近くの警察に歩いて行った。無論そこでも英語は通じないが、なんとか守衛を説き伏せ侵入成功!偉そうなひげ親父に事情を説明する。しか~し、やはり英語は通じない。仕方なく僕はFホテルに電話をかけた。ひげポリスがFホテルのマネージャーと話を終えると僕に代わった。電話口のマネージャー曰く「事態は理解されたが、その警察所は管轄がちがうので盗難証明は発行できない」とのことだった。

やれやれ、これでは保険金も下りないかもしれない。ああ、でもそんなことより、あのカメラにはお世話になったたくさんのイランの人たちの写真が入っていたのだ。とりわけ、見知らぬ外国人である僕を暖かく迎えて、泊めてくれたアリさん一家との写真は何よりも代えがたいものだったのに、、、、

僕はとぼとぼ宿に戻った。何もないよりはとFホテルのマネージャーにもペルシャ語と英語で盗難にあった旨、一筆お願いした。ふと気づくとレセプションの脇にはイランと日本の国旗が飾ってあった。

 「どうしたのこれは?」
 「お前のカメラで撮って欲しかったのに残念だなあ。」 

マネージャーの顔も寂しげであった。ともかく失意の内に僕の旅は終わってしまった。

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バンコクで一泊トランジットして、日曜日に帰国した。溜まった郵便物を片付け、留守番電話をチェックする。くだらない用件が数件録音されていた。終わりの方で一件、雑音の後ガシャッと無言で録音が切れた。おや?っと思ってその次の伝言メッセージを聞く。今度も雑音が続いた後に怪しげな英語のメッセージが、、、

 「ハロー、ディスイズ、アリ。」

おお、なんとあのアリさんからだ。僕を自宅に泊めてくれたアリさんが、はるばるイランから電話をかけてきてくれたのだ。僕はあわてて旅のメモ帳をめくる。あった、あった!アリさん宅の電話番号。僕は早速お礼の電話を入れた。切れかけた糸はまだ繋がっていた。

=FIN=


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最終更新:2016年08月27日 10:16