【アミーゴの国を行く・メヒコ旅行記】
第7話)ドブに捨てたお金

《メキシコ旅行記|グアナファト・ケレタロ・モレーリア》

あっという間に一週間のメヒコの日々は過ぎ去ってしまった。明日は朝7時の便でモレーリアを発ち、米国経由で帰国しなければならない。チェックインやら飛行場までの移動やらを逆算すると3時半起きだ。宿のおばさんにモーニングコールとタクシーの手配を頼んだところ、宿から空港までのタクシー代は200ぺソ(約2千円)ぐらいかかるとのこと。最後に何かあるといけないので、僕は少し多目にメキシコペソの現金を下ろしておいた。

モレーリアの街並み
モレーリアの街を発ち帰国する。

3時半きっかりに部屋の電話が鳴った。まだまだ眠いがここで起きないわけには行かない。気合を入れて身支度を整え、タクシーに乗った。

車は夜道を空港へとひた走る。20分ほど郊外を走ったあたりで僕は財布の中を確認してみた。あれっ、タクシー代の200ペソがない! おかしい、どこへ行ってしまったのだろう? ともかく困った。

 「あの~、米ドル払いでもいいかなかな?」
 「米ドル?まあいいけど。じゃ22ドルね。」

タクシーの言い値は1割程高い気がしたが、変に文句をつけたら「ここで降りろ!」と脅されかねない。言われるまま米ドルでタクシー代を払い、空港のチェックインカウンターへ向かった。貴重品袋からパスポートと航空券を取り出すと、あっ、あった、ここに200ペソが。そうか昨晩、この200ペソは最後のタクシー代にと、別封筒に入れておいたのをすっかり忘れていたぁ。

メキシコペソなど日本に帰ったら紙くずだ。今のうち両替してしまえ。僕は両替所を探したが、ここモレーリアは、国際便が一日1~2本しかないローカル空港である。朝7時前の銀行は硬くその扉を閉ざしていた。仕方がない。乗継のヒューストンで両替することにしよう。

ヒューストン便はほぼ時間どおり到着した。東京便との乗継には2時間弱あるので余裕と思っていたのだが、飛行機が到着するなり他の乗客たちは一目散に入国ゲートへダッシュを始めた。9.11以来アメリカでは国際線から国際線の乗継客であっても、いったん入国審査を受けねばならない。こんなに乗客が急いでいるということは、入国審査に相当時間がかかると見た。これはのんびりしていられないゾ。東京便に乗り遅れないよう、僕もあわてて徒競走に加わった。

走りながら、空港の誘導サインを確認する。サインは「奥に行け」とも「手前の階段を下りろ」とも見える。一体どっちが入国審査なんだ! ともかく、広いくせに不案内な空港を、ガラガラとキャスターを引きずって走り回り、やっとのことでパスポートコントロールの前にたどり着いた。

 なっ、何だこの行列は!

推定200人以上がズラ~と。しかも入国ブースは1/3しか稼働しておらず、おまけに一人一人指紋を取ってゆ~~っく~~りと審査をしている。10分たっても行列はほとんど前に進まない。

このペースで行ったら今日の東京便に乗継げないかもしれない、と不安がよぎる。もし今日を逃すと、次の東京行きは明日である。つまりさらに1日多く会社を休むことを意味しているが、サラリーマンにとってそれは致命的である。なんとかしてくれと願うものの、だからといって審査のスピードが早まるワケでもなく、イライラばかりがつのる。結局50分近くも入国審査で待たされてしまった。

やっとのことでパスポートコントロールを通過し、これまたダッシュで乗継便の出発ゲートにたどり着く。ゼイゼイ。東京便ゲートの前は日本人で溢れかえっていたが、ともかく無事帰国便に搭乗できた。よかったぁ。ホッとしながらシートベルトを締めた瞬間、思い出した。

  「しまった!空港で200ペソ両替するの忘れた~!!。」 

飛びたった後に気付いても遅い。残った200ペソはもはや紙くずと化すしかないのか(泣)。

ふと戯れに機内誌をめくり、ルートマップを眺める。ウムムム。この航空会社、メキシコにやたら路線が多いなぁ。あっ、そうだ! 機内販売で200ペソを使い切ってしまえ。これだけメキシコ線があるなら当然ペソでだって払えるはずだ。

僕は手を上げて乗務員を呼び、免税タバコを購入、そしてさも当たり前の顔をしてメキシコペソを差し出した。するとこの日本人乗務員は冷たく言い放った。

 「お客様、このお金は使えません」

僕は機内誌のルートマップを見せて「御社はこんなにメキシコに飛んでいるのに使えないのですか?」と反撃を試みたが、無駄であった。なんでも機内販売を仕切っている元締めの会社がメキシコペソを扱っていないのだと。トホホ。

 万事窮す。これで200ペソはドブに捨てることになってしまった。 

200ペソが無駄になって悔しい思いをしているとき、ふと隣の日本人客が読んでる週刊誌の見出しが目に入ってきた。

 「ソ●トバンク孫正義、携帯会社買収で1兆円をドブに捨てる!」

200ペソで悔しいと思う僕がいる一方、1兆円をドブに捨てられる大者も世の中には存在する。孫正義のケツの穴は、いったい直径何キロメートルあると言うのだろう? ともかく己の小ささが際立つ瞬間だった。

=FIN=


もどる < 7 > 目次へ




最終更新:2016年08月27日 16:58