続いての質問は、「先生ご自身が一番思い出に残っている、好きだったゲームは何か?」ということ。


ゾ そうですね、結構中に描いちゃったので、描いてないもので挙げてゆくと『マーカム』っていうサン電子のがすごく好きでしてね。ボタンを押してる間は降下して、離すと水平に飛んでくミサイル、あれがカッコいいのよ。(現実の)世の中にそんなミサイルないんだけどね。


編 『グラディウスIV』のミサイル(6番装備)みたいですね。


ゾ こっちのほうが早いんだよ!(笑)『マーカム』は当時にしては珍しくメロディが長かったの。ゲームサウンドの。普通はせいぜい4小節とか8小節ぐらいだけどあれは延々やってたのね。もちろんアカデミックな人が書いたわけじゃないから、どこかで破綻してる音楽なんだけど、すごくカッコ良くって。あんまり盛り上がってなかったけど、個人的にはとても大好きなゲームです。『4Dウォリアーズ』と『マーカム』は速攻で基板買って。でも遊ぶかっていうと遊ばないんだけどな(笑)。

何であんなにミサイルが気持ち良かったかっていうと、狙って当てるっていうのは実は楽しいけどやるのは大変なんですよ。『マーカム』の場合、実はY軸見てるだけなので、狙った気持ちになれるという。求められるスキルとリターンが割といいバランスにあるのね。


編 “操作してる感”ですね。


ゾ そうそう。基板買ったら15分で飽きたけどな(笑)。というわけで『マーカム』は割といいゲームだったかなと。


編 もう一つの『4Dウォリアーズ』は。


ゾ あれはいいよ! 卓球場になぜか『4Dウォリアーズ』が置いてあったんですよ。俺しかやってなかったんだけどね。もう帰れといわんばかりのチョイス。あれすごいんだよ、もう。客を呪ってるとしか思えないようなゲーム内容で(笑)。グラフィックといいサウンドといい、全体的に俺の大好きなグロテスクでドロドロとしてサイケデリックなのがいろいろ詰まってるのよ。それがあまりにも最高でね、周囲では俺しか遊んでなかったんだけれども、1ヵ月ぐらいで消えちゃって、後から一生懸命基板探したんですよ。

当時ファミコンが流行ってた頃で、これも隠しステージとかこだわってるんですけれど、何がすごいって、たとえば『ゼルダの伝説』ならわかるじゃない、爆弾置いたら穴が開いて入れるとか。でも無茶苦茶よ『4Dウォリアーズ』は、地面からイソギンチャクが生えてくるから入りましょうとかそんなのばっかりで(笑)。説明も一切なし。うっかり入ったら死ぬ所まであったりしてね。

何でそういうゲームが僕らの心を惹きつけたかというと、漫画とかアニメとかは、周囲に事前情報があったでしょ。こうやったらどうなるっていうのがある程度分かっていて。でもゲームはとにかくオリジナルで、俺たちが体験しないと分からなかった。そういった意味で特に参加人数が少なかった『4Dウォリアーズ』は最高。気持ち悪いボスキャラが出るでしょう。あの時のアイテムを99まで集めて倒すとものすごい点行くよ。プレイヤー人口少ないからハイスコアにあんまり意味ないんだけどね(笑)。あれはいいゲームだと思います。


編 思わぬ攻略法も聞けましたね。


ゾ 先に言っとくけど、つまんないです(笑)。



 体験ゲームはアーケード中心だったかというと、決してそんなことはない、とゾルゲ氏。


ゾ うちのママは賢くてですね、こいつがゲームやった瞬間に全てが崩壊するだろうなと見抜いて、ファミコンを買ってくれなかったんですよ。当時ですね、ブルーチップってあるでしょう。貯めるといろいろ交換してくれるやつ。あれを貯めてたわけですよ。何冊か貯めるとファミコンがもらえたんだね。で、一生懸命貯めたのよ。

「そろそろファミコン!」と思って家に帰ると、見たことのない地球儀と真新しい鍋が置いてあってね(笑)。「ちょっとお母さん、この鍋と地球儀は……」みたいな。その時ファミコンは手に入らなかったんだけど、そのおかげであまり人生誤らずに済んだというありがたい教訓のお話でございます。



編 でものちにファミコンは手に入れるんですよね。


ゾ そうです。おかげで留年しました。ほかにもいろいろありましたけど(笑)。


編 ではファミコンの中で一番好きなタイトルは?


ゾ そうですね……。そうだね……。どれか一本と言われると『ドラクエII』になるのかもしれません。


編 『ドラクエII』、いいですね。


ゾ PC持ってなかったからね。(最初にやった)RPGは『ドラクエ』だったのね。ほんとに目から鱗が落ちた。

何たって仮にネームエントリーで「ゾルゲ」って打ったら「おお ゾルゲよ!」って呼んでくれるじゃん、名前。そんなんないもん、オレの今までのゲーム人生で。何てことないんだけど、初めて見た人間はあれはビビるね。というか、あれでビビるぐらいのセンスだったのよ、当時のバガガキは。

多分、俺はゲームっていうのは何がいいかっていうとインタラクティビティ、双方向性ね。あれが一番グッと来ると思ってるんだけども、それを個人的に一番端的に示してくれたのが『ドラクエ』の入れた名前を呼んでくれる、物語がそこにあって自分がその中に入れるというのをやってくれたことだと私は思います。


編 結構執筆作品の中ではアクション、シューティング系が多いので、RPGが好きだというのが意外なんですけれども。


ゾ 実は私RPGが大好きでして。


編 そうなんですか。他にもRPGで『ドラクエII』以外に面白いのがあれば。


ゾ 『ヘラクレスの栄光』でしょう! あれは最高です。「闘人魔境伝」だよ、全くわかんない(笑)。「闘人」って何? 戦士とか勇者とかはわかるよ、でも闘人って何する人だっていう。しかも「魔境」だよ。


編 腰巻ひとつですからね。主人公。


ゾ しかも(パッケージで、主人公の)横にホステスみたいなおばさんがしなだれかかっていて「こいつを助けろ」って言われても「全然助けたくないよこんなの」っていう(笑)。たとえば『ドラクエ』を岩波書店の「ゲド戦記」とするなら、『ヘラクレスの栄光』は、ひばりコミックスの「侵略ガニ」みたいなドロドロしたものを味わわせてくれたというか(笑)。


編 その頃からデータイーストがお好きなんですね。


ゾ そうです。ただ、データイーストは、流線堂のRootさんっていう本当の先駆者がいらっしゃって、その人の同人誌を読んで面白いと知ったってのがあります。それから糸がつながっていくんですが、世の中の面白いゲームや変なゲームは大体デコに集まってゆくという。

最初駄菓子屋で見た『アストロファイター』っていうのは、敵を逃すと自機が段々上がってゆくっていう。最初はいいよ。逃すとドンドン上がっていって、ゲームにも何もならなくなっちゃうっていう(笑)。



 と、データイーストについて語りだすと止まらなくなるゾルゲ氏。


ゾ ただデコについては、私はどっちかというと後追いなので、あれは流線堂のRootさんの功績がでかいと思います。



 次の質問は、「8bit年代記」の登場人物はすべて実在か? ということ。


ゾ 大変微妙です。そのまま持って来たやつもいるし、2、3人混ぜくりかえしたやつもいるし、でも一応みんなフィクションということで。


編 登場人物の中で一番お気に入りのキャラっているんですか?


ゾ ノリでしょう!


編 ノリというのは、バーモントカレー事件の。(第六回「ゼビウスの衝撃」)


ゾ そうです。面白いやつでね、学校で調理実習ってあるでしょう、あれでカレーを作るんだけど、あいつはハナから作る気がないの(笑)。懐にバーモントカレー忍ばせておいて、ズルする気マンマンなのね。意味無いじゃん、そんなことやったってさ。先生怒るしさ、匂いでモロバレでさ(笑)。いや、こんなことで笑い転げてもしょうがないんだけどさ、ホントにあいつは最高だった。


編 ノリは実在の人物がモデルなんですね。


ゾ そうです。でも皆さんも中学校時代の友達って、一番バカで面白かったでしょ? たとえば今日ここで僕らが、そんなバカなことなんてもうしないからね。若い頃のバカセンスって本当に大事だと思う。


編 主人公の「ぼく」というのは、やっぱり先生がモデルということでいいでしょうか?


ゾ 最初は考えたんだよ、こういう漫画で野郎が主人公って、それだけでダメじゃん。だから萌え萌えの女の子にしようかなと思ったんですよ。でもこれまで8年ぐらいの間、萌え萌えの女の子を描いてきても、いっぺんも受けた試しがなかったので、多分やっても無駄だろうという気がしてきて(笑)。そうこうしてるうちに締切も迫ってきて、しょうがないかなと。一人称が「ぼく」とヒネリも何にもないのは、割と時間切れでしょうがなかったというのがあります。


編 でも逆に無個性だからこそ、読者さんが感情移入しやすい、重ねやすいっていうのはあると思うんですよね。


ゾ でもあれ描いてるうちに、主人公キャラだからというかひいきの引き倒しで、実物より5倍増ぐらいに美少年に描いたりして、かえって良くなかったかなと思うこともあるんですけども、本当はもっとキャラとして練り上げるべきだったと思います。当時の80年代のクソガキ像を抽出して面白く作ったような。

 また「ピコピコ少年」の話に戻るんですけど、多分あの主人公がベストだと思う。ああいうようなやつを設定できていれば、もっと面白くなったと思う。


編 では今後の「8bit年代記」ですけれども、今ちょうど連載のほうでは主人公が大学に進学したところで終わってると思うんですが、今後大学編ということでどのような展開があるでしょうか。


ゾ 端的に言いますと、ファミコンにハマってダブります。これが大まかなストーリーですね。あとこれまでは、読者の年齢層から見ると古すぎる話だったんですけれども、ファミコンが出てきて、PCエンジンが出てきて、メガドライブが出てグッときて、更にスーファミが……っていう一番面白かった頃ですね。あの頃の話を中心に描けたらいいなと思います。ただファミコンに来るまでに3年もかかったので、そこまで行くかしらというのはあるんですけど。


編 これが週刊連載だったらもっと進んでますね。



ゾ これが週刊連載だったらヒロインとか出てくるよな。恋とかあるよな。どっちが面白いゲームをするか勝負だ、みたいなとかさ。でも絶対我慢しきれなくて発狂漫画になってる(笑)。


編 発狂漫画といえば、「8bit年代記」が始まる前の「忍者芸夢済度」の一話はひどいもんでした。


ゾ ひどいですね、あれ(笑)。自分で言うのもなんだけど、あれで原稿料もらうという根性がひどいね。


編 せっかく「ユーゲー」から「ゲームサイド」になったのに、社運をかけた新創刊というところでですね、あんな漫画をかましてくれるなんて。


ゾ どっちが悪いかといったら、多分俺が悪い。ごめんなさい。だけどね、面白いでしょ、あれ。俺多分ね、こんな真面目な漫画描いてるよりは、首切られるような漫画描いてるほうが一番輝いてるんじゃないかなと思うんだけど。

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最終更新:2012年01月07日 19:37