第2章(10)
心臓に刺さったのかどうかわからないが、イシュダルは仰向けになってぐったりとしている
ヴェルンは少し引いている、まぁ人であろうがなかろうが、自分が殺めたのだ、無理はないだろう
しかし、イシュダルはまだ死んだわけではなく、少し力が残っているらしく
「く…口惜しや…再び、レオコーンと私だけの世界がよみがえるはず…だったのに…」
と、言った、その声をエフィータ達は聞き、再び戦闘態勢に入る
しかし、イシュダルはそんなものを見ておらず、レオコーンに視線をやった
「でもね、レオコーン…数百年の時は、もう戻すことはできない…つまり、愛するメリアはどこにもいない…」
その言葉を聞いた黒騎士は、何も聞こえてないようなそぶりだった、が、心の底ではメリアのことを考えたりしてるのだろう
顔を横にそむけ、少し悲しみのような動作をしていた
「クク…ク…絶望にまみれ、永遠に彷徨い歩くがいいわ…」
そう言った後、イシュダルは首がカクンと横に向いた
その後、からだから黒い煙が出て、からだが消えてしまった
イシュダルの胸に刺さったままだったヴェルンの短剣が、さみしく地面に落ちる音がした
「…メリア姫…そんな…まさか…」
そう呟く、レオコーンを見つけた、イシュダルが倒された時、呪いが消えたのだろう
エフィータ達は、レオコーンに近づいた、サンディも妖精の姿になって出てきた
「…そなたらの手まで借り、ようやくルディアノに辿り着いたというのに…時の流れとともに王国は滅び…私の帰りを待っていたはずのメリア姫ももういない…」
最後に言った言葉は、涙でこもっていたようだった
エフィータ達も、さすがに無言になっていた
「…私は…かえってくるのが遅すぎた…」
そうレオコーンは言い、膝をついた
すると、王の間の扉の方から、か細い声で
「遅くなど、ありません…」
と、聞こえた
レオコーンが後ろを向くとそこには、大きな赤いルビーの金の首飾りをした姫がいた
「その首飾りは…ッ!!」
ゆっくりと、レオコーンに近づく姫、そばまでやってくると、レオコーンは驚いているそぶりを見せていた
「メリア姫…メリア姫なのですか…?!そんな…あなたはもう…」
その言葉を聞いた姫は、首を横に振り、ゆっくりと
「約束したではありませんか、ずっと、ずっとあなたのことを待っている、と…」
そう姫が言うと、手を差し出し
「さあ、黒薔薇の騎士よ…私の手を取り、踊ってくださいますね?かつて果たせなかった、婚礼の踊りを…」
といった、黒薔薇はゆっくりと立ち上がり
「メリア姫…この私を、許してくださるのですか…?」
と聞いた、姫は微笑むだけだった
レオコーンは手を取り、2人で婚礼の踊りを踊り始めた
その踊りは、幸せを体で表現してるようで、2人は幸せで満ちているようだった
不思議と、ヴァイオリンのような音が聞こえている…
踊りの途中で、レオコーンの体が青白く光りだした
姫が握ろうとした手が宙をよぎる
黒騎士は天井を見つめた後、姫を見つめながら宙に上がった
「…ありがとう…異国の姫よ…あなたがメリア姫でないことは、もうわかっていた、しかし…あなたがいなければ、私はあの魔物の意のまま…絶望を抱え、永遠にさまよっていたことでしょう…」
レオコーンがそういうと、ヴェルンが驚いたように
「うえぇえ?!メリア姫じゃないのか?!じゃあ誰が…」
そう言った後、フィリムがヴェルンの耳元に近づき
「普通にわかるでしょ?あのお姫様は…」
そう言ったのと同じくらいの時、エフィータが前に出て
「あなたは…フィオーネ姫ですね?」
といった、フィオーネ姫はこくりとうなずいた
そして、黒騎士の方を見て
「あなたは…やはり、黒薔薇の騎士様だったのですね…はじめてお会いした時からずっと、運命のようなものを感じておりました…」
「メリア姫の記憶を受け継ぐ貴方ならば、そのように思われたのも不思議なことではありません…」
と、黒騎士はうれしいようで、どこか小さく別れの悲しみが入っているような声で話した
そのとき、フィオーネ姫は驚いたような顔をして
「私が…メリア姫の…!!」
と、言った
その言葉を聞いた後、空中を半回転してエフィータの方を向き
「エフィータ…そなたのおかげで、すべての真実を知ることができた…もう思い起こすことはない、ありがとう…」
と、エフィータに言った
「僕も、貴方の力になれてうれしかったです、さよならなんて悲しいけど…元気でいてください…」
エフィータも、少し恥ずかしげに話した
その後、黒騎士はまばゆい青白い光の球になったかと思うと、そのまま消えてしまった
エフィータ達とフィオーネは、しばらく天井を見つめていた…
エフィータは、感傷に浸った後、フィオーネ姫に近づき
「何故、フィオーネ姫がここに…?」
と、フィオーネ姫に言った
「ごめんなさい…貴方にお任せしたはずなのに、あの方のことを考えていたら、ここまで来てしまいました…」
と、フィオーネがつぶやく
その後、しばらく空白の時間が流れた
その空白の時間を再び動かしたのは、フィオーネ姫だった
「…不思議なことがあるものですね…あの方と踊っている間、どこからか声が聞こえてきたのです…優しい女の人の声で、よく来てくれましたね、フィオーネ…ありがとうって…」
「そう…ですか…でも、危ないですから、早く帰りましょう」
「それもそうですね、それでは私は一足先にお城に戻りますわ、このことを皆様にお伝えしないと…エフィータ様、貴方へのお礼もお城で改めてさせていただきますわ、必ずお城まで来てくださいね」
といい、フィオーネ姫は一足先に、部屋から出て行った
エフィータ達も、城まで、急いで帰った…
エフィータが城に戻り、王の間に行くと、フィオーネ姫と王様が話していた
王様は、その後エフィータに気付き
「おお、エフィータか!!よく戻った!!話は、すべてフィオーネから聞いておる!」
そういうと、王様は椅子に座りなおして
「思えばあの黒騎士も、哀れな奴だったのう…わしも少し反省しておるよ」
と、少し悲しみがこもった声で言った
「それにしても、お主は実に哀れな旅人だ!!わしはお主が気に入ったぞ!よし、それでは約束通り、褒美を授けよう!!」
そういうと、王様を怖がっていたはずのヴェルンがこっちにやってきて
「おぉ!!ついにお宝がもらえ」
と言ったが、すぐにフィリムに口を押さえられた
「だ…誰じゃ…?あやつらは」
「えーっと…僕と一緒に旅しているものです」
「そうか、では城の宝物庫のカギを開けておくから、そこにある宝をすべて持っていくがいい!!」
そういうと、王様は今度は椅子に深く腰掛けた
さすがに今回は水を飲み干す行動はしなかった
「それでは…わしらはここで、お主の無事を祈っておる!!また会おう、セントシュタインの救世主、エフィータよ!!」
でも、そう大声で言われたので、エフィータは照れたように少し顔を赤らめるのだった
宝を授かり、城を出たエフィータ達
そして、サンディが妖精の姿になり出てきた
「グッジョ~ブ♪エフィータ!!この国の人たち、みーんなあんたに感謝してるっぽいネ!!その証拠に、ホラ!!」
そういうと、サンディは町を見渡した
「今、この国の周りには星のオーラがいっぱい出てんのよ!!」
「え…そうかな…?わからないけど…僕には」
エフィータがそっけなく返す
「あ、そっか、あんた星のオーラ見えないんだっけ!!超ウケル!!…まぁ、ここまでやればさすがに神様もアタシらのことを見つけて天使界まで返してくれるっしょ!!…ってなわけで、天の箱舟がある峠の道まで戻るよ!!オッケー?エフィータ」
「うん、そうだったら、一回戻ってみよう」
「ふーん、時の箱舟ねぇ…なんか気になるな!!早く行こうぜ!!」
そう言い、足早にヴェルンは行った
呆れたような表情をしながら書けるフィリムと、それを追うようにエフィータが走り、ゆっくりとほほ笑みながらミリアが歩く
その後ろに、小さな男の子がついてきた
最終更新:2009年12月01日 20:33