第1章(6) 宿王
村の宿屋に着くと、そこには何やら話しているリッカとルイーダさんが見えた
僕は気付かれないように、そっと話を聞いた
「…さすがリベルトさんの宿屋ね、細部にお客さんをもてなそうって心づかいが感じられるわ」
「お父さんのお知り合いの方で…あ…!もしかしたら、あなたがルイーダさんですか?」
「ええ、そうよ?」
話をさらりと受け流す
「私、心配してたんです、ルイーダという名前の女の人が村に来ようとして行方不明と聞いて…」
「…そう、ありがとう、あの頃、あなたはまだ幼かったけど、私の名前を覚えてくれていたんだ…」
深く、しみじみとした感じで聞いている
「…ところで…リベルトさんはどこかしら?」
「やっぱり…お父さんに何か用があったんですね…でも、お父さんは2年前に…はやり病で…亡くなりました…」
「ええ?!はやり病で?!ってことは、もうここにいないのか…」
少しがっくりしていたが、すぐに何かを思いついたようにリッカの目の前まで駆け寄り
「ねぇ?リベルトさんが亡くなったってことは、この宿屋、あなた一人でやってるのよね?」
「え…ええ、そうですけど…それが何か…?」
そういうと、ルイーダさんは目つきをこわばらせ、リッカのほうを見つめた
「ここって、小さいけどいい宿ね、お客さんへのもてなしの心が細部まで行きとどいているわ」
「あ…ありがとうございます、お父さんが私に残してくれた自慢の宿ですから」
そういうと、少し考えて、ルイーダさんが
「…うん、さすがは伝説の宿王の娘ってところね!!」
「あの…伝説の宿王って…?」
でも、リッカの話は耳に入ってないらしく、自分勝手に話は進んでいく
そして、ルイーダさんは、リッカを指差し叫んだ
「ねぇあなた!!セントシュタインで宿屋をやってみる気ない?!」
「…へ?」
「えええええ?!」
僕は結局見つかってしまい、客間で僕を交えて話をすることになった
「じゃあ…お父さんはセントシュタインにいたころ、伝説の宿王って呼ばれていたんですか?」
「ええ、そうよ、そりゃあすごかったんだから!!」
「えーっと…たとえば…?」
「全部よ全部!!若くして宿屋を立ち上げ、並みいるライバルたちを押しのけてたちまち宿を大きくしたわ!!」
と、大声で興奮気味に言う
「そんなの…とても信じられません!!…私の知ってるお父さんは穏やかで、小さな宿屋でも私と一緒にやれるのがうれしいって…」
「そこがわからないのよね、どうしてあの宿王がこんな田舎にひっこんじゃったのかしら?」
この話が終わるが、少し場に張りつめた空気が流れた
しばらくすると、ルイーダさんが最初に口を割った
「…とにかく、宿王の去ったセントシュタインの宿屋は今、大ピンチなの!!そこで伝説の宿王に復帰願って立て直してもらおうって話になったんだけど…まさかリベルトさんが2年も前になくなっていたなんてね…知らなかったわ、ごめんなさいね…」
「いえ、こちらこそ…せっかく来ていただいたのに…」
「謝ることはないのよ、セントシュタインの宿屋には代わりにあなたを連れていくから」
いかにも「完璧!!」といった風な表情のルイーダさんとちがい、リッカは
「…その話…無理がありません?私じゃこの宿屋をやってくのさえ精一杯なんですよ?それに…やっぱり私、父さんが伝説の宿王だったなんて信じられません!!」
「そう言われてもねぇ…事実は事実だから…」
そう困った表情をするが、すぐににこやかな顔を取り戻し
「しかも、あなたは宿王の才能を確実に受け継いでるわ!!私には人の才能を見抜く力があるのよ!!」
困り果てた末に、リッカは
「…あ、いけない、もうこんな時間!!そろそろ失礼しますね、夕食の準備がありますから…」
そう進むと、扉の前で
「それと…私、セントシュタインになんて行きませんから!」
といい、バタンと扉を閉めてしまった
「…結構頑固な子ねぇ、これは長期戦になるかな…?」
最終更新:2009年08月20日 21:29