第1章(2) 土砂崩れ
外に出てみると、いろんな話が聞こえる
「…エフィータさんって、怪しいわよね」
「本当、峠の道に魔物があふれるように出たのも、土砂崩れが起きたのもエフィータさんが来てからだったし…」
「本当、もしかしたら…エフィータさんが不幸を連れてきたのかも…」
という話が聞こえたときには、正直、胸が痛んだ
でも、ここでダメージを負ったら、かえって怪しまれるかもしれない
ひどい時は、この村を追い出されるかもしれない
だから、何も聞こえないふりをして、村人の会話を聞こえないふりをして聞き流す
だけど、村長さんの家の前を通った時、大きい声がしたから
ついつい窓から聞いてしまった
「…まったく、お前はいい年して遊び呆けてばかりおって!少しは宿屋のリッカを見習って村のために働こうとは思わんのか!!」
村長さんの怒鳴り声が聞こえる
「リ…リッカは関係ないだろ?!俺は今、本当にやりたいことを探してるんだよ!!」
負けじとニードが言い返す
「それくらい見つかれば、おれだっていくらでも働いてやるさ!!…たぶん…」
最後のほうは、すごく小声になった、自信は少しないのだろう
「ふぅん、その台詞は何度も聞いた気がするがな」
「うぐ…」
…この親子喧嘩は、村長さんに軍配が上がったようだ
僕は、その場をそそくさと離れた
もう夕方か…リッカの家に帰ろうかな…
僕が二階のベッドで寝てると、リッカが上がってきて、ドアを開けた
少し寝ぼけていたようで、何を言ってたかほとんど覚えていない
でも、「ニードが用事でうちに来ている」ことは覚えている
さっそく、眠い目をこすりながら、下に降りて行った
「ようエフィータ、今起きたばっかりか?」
少し冷やかしたように言う
「…まぁ、いいや、ちょっとお前に話があってな、ここじゃなんだから、外に出ようぜ!ついてきてくれ!」
そう言って、外に出る、リッカの家の裏まで来たところで、ニードが話す
「…さて、話ってのはほかでもねぇ、土砂崩れで峠の道がふさがってるのは知ってるだろ?」
確か、昨日村人も話していたと思う
土砂崩れが起きた…とか、道がふさがっていたのは知らなかったけど
「あの道は、このウォルロ村とほかの土地を結ぶ大切な架け橋なんだよ、おかげでリッカ…いや、村のみんなが迷惑してるんだ」
またリッカという…きっと、好きなんだろう
「そこでニード様は考えた!!俺が土砂崩れの現場まで行って、何とかしてやろうってな!!そうすりゃ、親父もおれのことを見直すと思うし、リッカも大喜びってわけだ」
「それだったら、一人で行ったらいいんじゃないの?」
「それがなぁ…この完璧な計画にも、一つだけ問題があってなぁ…大地震の後、外はやたらと魔物が出るようになっちまって、危なくてしょうがないんだ
…でまぁ…そういうわけで、お前に峠の道まで一緒に行ってもらいたいんだよ、旅芸人ってのは結構腕のほうも立つんだろ?一つ頼まれてくんねーかな?」
僕は少し考えて
「…わかった、その計画、手伝ってあげるよ」
「よっしゃー!!そうこなくっちゃ!!それじゃあ、さっそく峠の道に行こうぜ!!」
そう言って、半ば半強制的に始まった小さな旅
でも、これが世界を巻き込む事態になっていくことは、僕はまだ知らなかった
僕らは、ようやく峠の道についた
でも、少し異変に気付いた
(あれ…?あんなところに、金色の汽車がある…もしかして…?)
そう考えてると、ニードが
「なーにボケっとしてるんだよ?普通に木が倒れてるだけだろ?どれがそんなに珍しいのか?変わったやつだなぁ…」
と言ったので、僕はこの汽車は、普通の人間には見えないのがわかった
そして、自分にはまだ、天使の力があることに気がついた
「土砂崩れは…こっちだ!!」
とニードが走りだしたから、僕も付いて行った
「なに?アイツ…もしかして、この天の箱舟が見えたわけ…?」
「…ん?何だろう…何かが聞こえた気が…」
でも、それは空耳だろうと、自分の中で止めておいた
「…なんてこった…」
土砂崩れの場所に行ってみると、そこには大量の土砂と、愕然としているニードがいた
「土砂崩れって…これかよ…?正直、舐めてたぜ…」
そう絶望したかと思えば
「…こんなの、おれとエフィータだけじゃどうにもなんねーじゃねぇか!!どうすんだよ、この土砂の山を!!」
と、逆切れのように怒り始めた
「…くそ…ッ!!うまくすりゃ、親父の鼻を明かしてやって、村のヒーローになれたってのに!!」
そう言い、土砂の山に1発蹴りを入れた
すると、土砂が少し崩れ、そのあとに、もう少し土砂が崩れた
2回目の土砂が少し崩れたとき、ニードはびっくりしたのか
「うひゃっ!!」
と、奇声を上げた
その奇声が届いたのか、向こう側から、声が聞こえる
「…い、おーーい、そっちに誰かいるのか?!」
若い男の人の声が聞こえる
「おーーい!!いるなら返事してくれ!!」
「…おい、エフィータ、向こうに誰かいるみたいだぞ!!おーーい、ここにいるぞ!!ウォルロ村一のイケメン、ニード様はここだぞ!!」
…すこし余計な言葉が入っていたが、向こう側に届いていることを祈った
少したった後
「やはりウォルロ村のものか!!我らはセントシュタイン城に使える兵士だ!王様からの命じにより、この峠の道の土砂を取り除きに来た!!」
「…おい、聞いたか?セントシュタイン城の王様が動いてくれたらしいぜ…ってこたぁ、問題は解決したも同然だな!!」
そういうと、つまんなさそうに
「なぁーんだ、おれたちがわざわざ来るまでもなかったってことか」
とつぶやいた
と、話してるとセントシュタイン城の兵士さんが僕らに
「ウォルロ村の者よ、一つ取り急ぎ確認したいことがあるのだ!!地震の後、お前たちの村にルイーダという女性が来たという話は聞いてないか?
酒場に勤めるご婦人だが、ウォルロ村に行くといって町を出たっきり、消息が知れないのだ」
「…ルイーダ?しらねぇな!!だいたい、そんな女がうちの村に何の用があるってんだ?!」
そういうと、少しの間が流れ
「…そうか、実は彼女はキサゴナ遺跡からウォルロ村へ向かったといううわさもあるのだ!
だが、その遺跡も、いつのまにか道がふさがってしまったようで、確かめる方法がないのだよ」
「…キサゴナ遺跡?」
「昔、この道が開通する前使われていた古い遺跡の通路さ、ま、今は魔物が出るし崩れやすいしでだーれも近付かねーけどな」
そうぶっきらぼうに言うが、この村の歴史は一応村長の子供として、ちゃんと知ってるらしい
「まーさか、女一人であの遺跡を抜けようとはしないだろ?何かの間違いじゃねーのか?!」
「そうか…わかった、とにかく村人たちにはもうまもなく道が開通すると伝えておいてくれ!!
できれば、ルイーダさんのことを聞いてもらえると助かる!!」
「オーケイ、わかった!!このニード様がきっちりバッチリ伝えておくぜ!!」
そういうと、僕のほうを向いて
「さぁ、帰ろうぜエフィータ、この話をもちかえれば、村の連中きっと喜ぶぜ」
少しニヤケ笑いをしながら、ニードは言った
僕ももう疲れたので、「賛成、早く帰ろう!!」とだけ言って、ニードと一緒に村に帰った
後ろから、ピンク色の光がついてきたことは、僕は知らなかった
最終更新:2009年08月18日 22:03