第43話

ゼロの銃弾は既に天へ撃ち放たれた。
ならば、そこがスタートラインだ。駆け抜けろ。



第43話 シフトラン・ゼロ



「ブラ坊―――ッ!!!!!」
ブラボーから射出されたシルバースキンは間一髪で剛太を包み、その命を護っていた。もちろん、それで闘いが止まったわけではない。散らばり落ちたムーンフェイスは、その勢いそのままに猛然と戦いを続ける。だが、それでも御前様が満面の笑みでもう一度叫んだ。防人たる彼の、キャプテンの名を冠する、もうひとつの名前を。叫ばずにはいられなかった、嬉しくて!!
「て、どうやってここまで?!」
仁王立ちのブラボーを幻のように遠い目で見ながら、犬飼が独り言のように、だが聞こえよがしに呟く。
「…ああ、なるほどな。そういうことかっ!!」
戦部が、何度もムーンフェイスによって殺されながら、それでも血を吐きながら豪快に笑う。戦いながらブラボーの肩にいる存在に気がついたからだ。

その大きな肩の上にいたのは、身長10cmにも満たない、楯山千歳だった。


全てを救う為の存在が聖者であるならば、戦士とは聖者ではないだろう。
あらゆる戦闘行為が愛に基づいてこそ戦士。それを偽善とは呼ばれない。
だが、愛失くしては、戦士の行為はバケモノ以下に堕ち果てる。

愛は歪む。その芯として貫かれるべきが信念。

剣持真希士を希望の未来へ導くために、聖サンジェルマン病院に残ることを選んだのはブラボー自身であった。その選択に後悔はなかったし、それが自分の戦いだと決めていた。だが、子供たちが戦っている場にいない自分を、悔しく思うのもまた事実。
何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。ブラボーは、聖サンジェルマン病院に残るという選択をしたことで発生した、ムーンフェイスとの最終決戦に間に合わない現実をかみ締め理解していた。それがつまり、何かを選ぶということは、何かを捨てるということなのである。
―――ならば、大切な何かを選択した結果として捨てた大切な何かを、拾ってくれる人がいればいい。捨てるのも拾うのも物質に限った話ではなく、たとえば希望といった不確定な存在であってもいいのだ。
諦めていた戦いへ続く道が、ひとつの奇跡が現実としてあなたの前に現れることがある。これは、死地で命を賭ける戦士たちの前に、守り人たる戦士が参戦する経緯である。


今にも消えそうな儚い声が、強く耳に響く時がある。諦めていた戦いへ続く道が、ひとつの奇跡が現実としてあなたの前に現れる。
「…ただいま、防人君」
その名でキャプテン・ブラボーを呼ぶ女性は限られていた。
アンダーグラウンドサーチライト内部へ侵入していた彼女が病院で指揮を執るブラボーの前に立つということはつまり、そういうことなのである。星が照らされるときが、星を照らすときが来たということ。こうやって朝は確実に歩み寄る。

聖サンジェルマン病院にいたブラボーの前に現れた女性は、楯山千歳。彼女は、かつて所属していた照星部隊からの仲間であり、戦友という存在。もしくは、それだけでは済まない繋がりもあるだろう。
その彼女の武装錬金がヘルメスドライブ。その特性は対象の索敵及び瞬間移動。彼女はこの物語において、その索敵の特性を生かし亜空間と化しているニュートンアップル女学院の内部、つまりは女学院と同化しているヴィクトリア・パワードの武装錬金アンダーグラウンドサーチライトの最深部への潜入をしていた。仲間たちと共に戦士長である火渡の捜索と救出という任務についていたのである。
その彼女が目の前にいるということは、任務が果たされたこと示す何よりの根拠となるだろう。栄光と希望の輝く時間がきた。だが、それでもこの物語はそこで終わらない。なぜならこの物語の結末は全ての者に優しい結末であり、誰一人前を向けない者などいない世界が広がっているのだから。
千歳が胸に秘めるその優しさは、キャプテン・ブラボーにこそ差し伸べられるにふさわしい。
剣持真希士を希望の未来へ導くために、聖サンジェルマン病院に残ることを選んだのはブラボーである。その選択に後悔はないし、それが自分の戦いだと決めていた。
だが、子供たちが戦っている場にいない自分を、悔しく思うのもまた事実。
何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。ブラボーは、聖サンジェルマン病院に残るという選択をしたことで、ムーンフェイスとの最終決戦に間に合わない現実をかみ締め、理解していた。それはつまり、何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。
ならば、誰かが大切な何かを選択した結果として捨てた大切な何かを拾ってくれる人がいればいい。捨てるのも拾うのも物質に限った話ではなく、たとえば希望といった不確定な存在であってもいいのだ。
こうしてブラボーが諦めていた戦いへ続く道が、ひとつの奇跡が現実としてブラボーの前に現れたのである。

聖サンジェルマン病院のブラボーの目の前に現れた楯山千歳の姿は小さく、身長を吹き飛ばされていた。それは、根来のマフラーに包まれて亜空間に潜入するための苦肉の策ゆえであった。だが、それがここに来て違う意味を体現する。大切な人の顔を上げる大きな救いの鍵として、世界を守る戦士に出撃を促すための扉を開くのだ。
ブラボーの目の前にいる女性は、楯山千歳。ブラボーにとって、かつて所属していた照星部隊からの仲間であり、戦友。また、彼女の武装錬金はヘルメスドライブ、その特性は対象の索敵及び瞬間移動。瞬間移動できる質量は最大100kg。

今一度言おう。

ブラボーの目の前に現れた女性は、楯山千歳。
彼女はこの物語において、その索敵の特性を生かして、亜空間と化しているニュートンアップル女学院の内部、女学院と同化しているヴィクトリア・パワードの武装錬金アンダーグラウンドサーチライトの最深部へ潜入していた。仲間たちと共に戦士長である火渡の捜索と救出という任務についていたのである。その彼女が目の前にいるということは、つまりそういうこと。
安易には叶わなかった戦場を繋ぐ最短ルートが固く結ばれた。
彼女の武装錬金はヘルメスドライブ、その特性は対象の索敵及び瞬間移動。瞬間移動できる質量は最大100kg。キャプテン・ブラボーの体重は75kg。残り25Kgの許容範囲を、成人女性である千歳の体重は超えているのが必定だ。だがその時、ブラボーの目の前に現れた楯山千歳の姿は小さく身長体重を吹き飛ばされていて、―――つまり、奇跡が、目の前に。奇跡は今、未来へ希望を繋ぐ。ヘルメスドライブ。
身長体重を吹き飛ばされた状態の千歳ならば、キャプテン・ブラボーをゼロ時間で戦場に導くことができる!!

ブラボーが何も言う前に、誰からともなくフラスコの周りにいた戦士たちは全てを察していた。そうして、ブラボーを送り出す言葉を口にした者がいた。それらは「あなたがいなければオレ達はこうして集まることはありませんでした」という言葉だったり、「ここは任せて、まだ残っている決着があるんじゃないですか」という物分りのいい言葉だったり、戦士の数だけ多種多様のヒラヒラ舞い散るコトノハだっただろう。(ブラボーと千歳に対する余計な邪推や気遣い、冷やかしもこめながら)、憎まれ口を叩いて早くブラボーを送り出そうとする者もいた。そこで流れた全てが優しさに包まれた言葉ばかりであった事は言うまでもない。
彼らこそは武装錬金以外の手段で戦いを終わらせる希望を目指していた戦士たち。現実を嫌というほど知っている戦士だからこそ、優しい言葉に優しさの言霊がこもる。この時、希望のフラスコを置いて戦場へ向かうブラボーに対し、疑問を抱くものもいるかもしれない。だが、言える事は、キャプテン・ブラボーでなければ彼らのような戦士を集めることは適わなかったであろうということ。そして、戦いがブラボーを呼んでいるということなのである。決断力も立派な戦士の資質というのであれば、ブラボーは間違いなく戦士だった。たとえ戦士長・火渡が解放されればそれでムーンフェイスを倒す芽が出るとしても、其の芽の為に子供が犠牲になるのだけは御免だ、という願いも込めて。これが、ブラボーと千歳がゼロ時間で最終決戦に参戦した経緯である。
さぁ行こう、駆け抜けよう、飛び立とう。過去を振り切って一歩一歩、今が照星部隊の集結する夜へ。重ねて一度。『ブラボーだッ!』



温かい風が吹いた。
「ブラボー…」
再会はいつだって突然に訪れる。真希士は、叶わないと思っていた再会が死すらも飛び越えて果たされたことを強く現実のものとして味わっていた。
「戦士・真希士…」
ブラボーの瞳は、まっすぐと、今そのものを見据える。
「ハハ、見てくれブラボー。オレ様、こんな様(ザマ)になっちまったよ」
その言葉は決して自虐ではなかった。それは真希士がブラボーを思いやった上でできる、とてつもないまでの優しさ。既に自分は今の自分のありのままを受けいれたうえで戦っているという態度。それは、つらい時に人をいたわれる人間こそが、強いということなのだろう。ブラボーへの、精一杯のいたわりのキモチ。後悔を遮るは、いつだって未来を願う気持ちなのだから。
故にブラボー。ここで、慰めや自虐を吐くほどヌルい漢ではない。決して叫ぶことなく、優しい言葉で真希士を包む。
「善でも、悪でも。貫き通した信念に偽りなどは何一つない」
もしもホムンクルスが悪というのであれば、ホムンクルスと化した今の真希士はまごうことなく悪であろう。でも大事なのはそこじゃない。
「貫き通すぞ、真希士。錬金の戦士としての、信念を」
そう言うとブラボーは真希士に大声で指示を送る。それはやはり的確で、平行して放たれる犬飼の指示すらも生かす器の広さを発揮する。それはつまり犬飼がミクロの視点でブラボーがマクロの視点。キャプテンとはまさに統率者。戦士たちは最高の導き手を得たのである。

そして戦いは呼吸のように再動された。いずれ止むのが運命であるとどこかで信じて、散らばり堕ちた暴れまわる乱月を再度し止めていく戦士たち。全ては、再び真月が顔を出す時まで。真月の絶望を知って尚、できることはその先にある勝機をつかむ為に命を重ね賭けすること。『そこに、もうひとつの勝機があると今は信じて』。
それがつまり、世界を守るために彼らが今できる、戦い。
「…これが、錬金の戦士」
桜花が御前様にも聞こえない声で呟いた。その言葉の本心は誰にもわからない。“武藤クン”を思い出しているのかもしれないし、“津村さん”を思い出しているとも知れない。ひとつだけ言えることは、―――『戦士とはかくも悲しくもあり、そして素晴らしいものなのか』ということ!
ブラボーの参戦、それだけで沸き立つ勇気がある。その空気に浮き立つ事無く、この場における最善の行動をとって見せた桜花は、もはや流石と言うほかないだろう。桜花は、静かに、右腕を掲げた。あの、右腕を。
「姉さん!」
空をつんざく音を従えて鏑矢が駆け抜けた。秋水が振り向き叫ぶ声を駆け抜けて、桜花の右腕から放たれた鏑矢が、戦士を守るためシルバースキンを射出して無防備と化したブラボーに突き刺さる!!
次の瞬間、桜花が静かに儚く崩れ倒れた。ブラボーに突き刺さった天使の鏑矢から放たれた光が早坂桜花と防人衛を包み込む。傷が、桜花に移っていく…!


5100度の炎を浴びて、体機能に癒えることのない後遺症を残さぬ者など、いない。だが、それでも。五体満足は戦士の条件ではなく、また達人の定義にも当てはまらないから。桜花の行動を説明する言葉として当てはまるのは優しさ、そしてそれもまた強さなのだ。
「…完全に、治癒とはいきません。あくまでも引き受けられるダメージは疲労と負傷。つまり、時間が癒すことのできる類のものだけです」
時間をかければ完治が可能であった傷が全て、桜花に移っていく。それでもブラボーは本調子を考えれば体調不良に近いコンディションに違いはないだろう。しかし、段違いに体が軽くなっているとブラボーは実感していた。それはむしろ精神面が大きいかもしれない。誰かを守ろうとする時にこそ真の全力を発揮しなければならないというのであれば、それはまさにこの今なのだ。
引き受けた痛みをこらえて、桜花が呟いた。
「任せましたよ、キャプテン・ブラボー」
「…ああ、早坂桜花、いいや戦士・桜花。ブラボーだ」
シルバースキンで表情を隠すことができず、ブラボーは防人としての表情をさらけ出す。悲しさやそして嬉しさやで、今にも泣きそうなその顔を。ブラボーは静かに手をかざし、剛太を覆っていたシルバースキンを再装着する。
自分ではない人が自分のために身を呈してくれたとき、沸き立つ強い力がある。それは勇気であり覚悟であり、護らなければいけない大切な仲間がいてはじめて生まれるエネルギーがある。
こうして、永遠に背負うことになるだろう残された身体能力の欠損を純粋な闘志で補い、キャプテン・ブラボーが復活を遂げた!!

ブラボーの姿を見たムーンフェイスが、嬉しそうに笑う。あたかも根っからの戦闘狂のように。違う、これはきっと好奇心。
「やはり来たね、そして素晴らしい。流石は、キャプテン・ブラボー。」
時は確実に終わりへと突き進んでいた。月を倒す希望の瞬間へ向けて、確実に世界は守られようとしていた。
それでも、果たして栄光が月に代わって空に輝くその時までに。彼らが月に沈まぬ保障はどこにもない。たとえ其の為にブラボーが現れたとしても。矛盾などはありえないということ。絶対の矛も無敵の盾も、存在するはずがないのである。ならば無敵ではない盾が破られる余地は幾らでもあろう。


シルバースキンとて無敵ではない。事実、武藤カズキは無敵のシルバースキンを貫いている。
月がいつだって十字架の上に輝くと言うのであれば、それは死んだ者を笑う為かもしれない。ならば、この夜はいったい誰が為の夜なのか。今宵はまだまだ、月の時間。

静かに瞑れば、また幸せな朝が来るのは、昨日が幸せだったときの話なのである。
ならばこそ明日を幸せに近づけるために、たまには瞑らない夜もいいだろう。
折角ここまで目を開けて夜をすごしたのだ。ならば、夜明けの瞬間を


絶望を穿つことで祝おう。








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最終更新:2009年12月13日 16:41
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