711 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2009/07/17(金) 17:25:38 ID:Mq2mNZmi
ちょいと流れを切ってしまうけど、部長×キャプテンを妄想の赴くままに書いてたらそれなりにまとまったので、場をお借りさせていただきます。

題名:昨日の敵は今日の友
(副題:いかにして部長←キャプテンは成立していったのか)
内容:「竹井さんと福路さんが同じ大学に入ったら」というIF話
百合度:かなりソフト
長さ:たぶん4レス

部長を早く見たい方は1レス目全部、百合を早く見たい方は2レス目の最後あたりまで、流し読みしてください。

 県に唯一の国立大学。学力は看板に相応しい県トップレベル。しかし麻雀部は一部私立に劣り、県の八強が最近の精一杯。
 四月、福路美穂子が入学した大学は、そんなところだった。
 県の名門風越高校のキャプテンとしての名声は、県外からの誘いの声すら引き寄せたりもしたけれど、美穂子の選んだのは、実力で通った県下の大学だった。理由はいくつかある。
 周囲からは翻意を促す声がいくつも届いたが、美穂子の中にあるその理由は、それらをはねのけるほどに大きかった。
 前日に入学式を終え、今日本校舎にて簡単なガイダンスを経て解放された新入生たちに、待ってましたと部活・サークルの勧誘が殺到する。美穂子は列をなして待ち構えている上級生の手をなんとか退けて進んでいく。
 頭の中には事前に入れておいたキャンパスの地図があり、目的地への道のりも何度もシミュレートしておいたので心配ない。
 目指す先は、文化系の集まる部活棟。三階建ての二階部分、そのほぼ真ん中。さすがに部活棟の中でまで勧誘することは禁止らしく、時折すれ違う上級生も興味深い目でこちらを眺めるだけだった。
 すぅ、と息を吸い、ふぅ、と息を吐く。目的の扉を前にして、緊張が顔をのぞかせる。その緊張に笑みを返して、美穂子は右手をあげてノックする。
「失礼します」
 さあ、私の四年間を、始めよう――。


 週終わり、授業前の最後のガイダンスを終えた美穂子は、今日も麻雀部の部室で待機していた。
 二十と少しいる上級生の大半は最後の勧誘へと出かけており、部室にいるのは数人の上級生と、勧誘を受けた十に少々届かない数の新入生。部室に直接押しかけたのは美穂子だけらしく、数日経った今もその時いた上級生にからかわれている。
 今、美穂子は麻雀経験のない新入生にルールブックの内容を説明している。雀卓では上級生がそれぞれ新入生と力試しの一局を行っている。美穂子も初日に試しの一局を受けた。
 こちらも試すつもりで手加減せずに相手した結果、翌日から美穂子は新入生のまとめ役にさせられ、対局を敬遠されるようになった。
 体の良い腫れもの扱いだが、美穂子としては望むところだった。
 性格的にも世話をするのは得意だし、新入生のまとめ役ということは、大手を振って同期の力を伸ばすことができるからだ。今教えている同期の子も、もしかしたら一年経つ頃にはエースとして君臨しているかもしれない。そう思うと、教え方にも力が入る。
 それでも、と考えてしまう。それでも、せめてあと一人、力のある人がいれば、と。
 美穂子のレベルまでを期待するつもりはない。しかし、ある程度の力――そう、例えば去年の県予選の決勝戦、美穂子の人生を左右したあの戦い、あそこに残れる力があってくれれば。
 それは、単純な平均値の向上だけではない。美穂子の手の届かない誰かに、その人の手が届くということになる。育成の成果は格段に上がり、一年を考えていた計画を半年にできるかもしれない。
 そこまで考えて、美穂子はそっと吐息した。どれだけ考えても、結局それはないものねだり。一年かかる計画は、まず一年で完成できるように、焦らずに進めるのが先決だろう。
(あの人も、こんな気持ちだったのかしら)
 脳裏に浮かぶ、その姿。高校三年間のうち、二年間を捨てて、それでも最後の一年で駆け上ってきた彼女。
 その彼女が――、
「失礼しまーす」
「上埜さん!?」
 旧姓上埜こと竹井久が、目の前にいた。

「ほら、他にも何個か麻雀サークルあったじゃない? そこらへんを回ってたのよ。もしかしたら面白い人でもいないかな~って。でも駄目ね。どこ行っても、みんなして遊びの麻雀しかしてないの。てなわけで、最後に本命の部活に来たんだけど」
 まさか貴女がいるなんてねぇ、と久は笑った。
 突然の再会を終えた帰り、美穂子は久の誘いを受けて並んで歩いていた。そこで久は、最終日まで来なかった理由をそう説明した。
「名門のキャプテンだったら、もっと上の力もった大学からもお誘いとかあったんじゃないの?」
「ええ。多いかは分からないけれど、いくつか」
 答えながら、美穂子はそっと久を窺った。その視線に気づいているのかいないのか、久は気楽な笑顔を美穂子へ向けている。その顔をなぜか直視できなくて、美穂子は視線を前へ戻した。一歩遅れて頬が熱を持つのを感じて、ごまかすように尋ね返す。
「上埜さんは? 去年の大会を見た大学から、声が来たりはしなかったの?」
 問う先、久の顔が一瞬驚きと困惑を見せる。
(名字……!)
 瞬時に自身の失言を悟った美穂子が、慌てて訂正しようとするところに、久の声が被さってくる。美穂子を咎めることもない、変わらぬ口調で、
「声かけてきた奇特なところもあったけど、もとから国公立って決めてたのよ。こう見えて勉強できるから、私」
 だから、と好奇に満ちた瞳で見つめてくる。
「聞いてもいい? 貴女が、ここにいる理由」
「…………そうね。県内っていうのは、決まっていたの。いえ、考えた時には当然だった、かしら」
 促す視線に、苦笑を返す。
「私、気付いたら風越が大好きで、皆が大好きで。だから、どうしても考えてしまうの。ああ、皆は今も楽しく麻雀できているのかな、顔を出したら喜んで迎えてくれるかな、って」
 つまるところ、まだ私は風越の皆から卒業できていない、駄目な女なのだろう。そう思う自分が恥ずかしくて、美穂子は同じく長を務めた久に聞く。
「ぅ――竹井さんには、そういうの、ない?」
「そうねぇ」
 腕を組んで何度か首を右、左と傾げさせながら、久は唸るような声をあげる。
「うちの場合、下の子たちは皆しっかりしてたし、状況的にはこっちが助けられた感じだしなぁ。放っておいても楽しくやってるんじゃないかしら?」
 その、後輩を想う楽しそうな表情が、美穂子には眩しく羨ましい。
「私は」
 胸に手を当て、久への羨望を言葉に乗せる。
「それが欲しかったの」
 きょとんとした顔の久に、くすりとほほ笑む。
「その、竹井さん達や、鶴賀、龍門渕の人達。風越という肩書を持った私たちとは違う、肩書がないから持てた何か。それを感じて、それを知りたくて、だから私はここに決めたの」
「――そう」
 美穂子が強豪の誘いを断り、ここにいる理由。多分に感覚的で、美穂子自身でも説明が難しい理由を、久は全部とはいかずとも共感できた。久の三年間を思い返せば分かる。
(ま、名門校とやらとは正反対の三年だったわね。なら、清澄で得たあの楽しさは、風越では得られなかったものなんでしょう)
 しかし、と久の思考は続く。それを得たいが為だけに強豪を蹴るとは。
「意外と冒険家なのね、福路さん。もっと冷静な理論家かと思ってたわ」
「あなたのせいで冒険家にさせられたの、――竹井さん」
「――あ~、久でいいわよ?」

「……え?」
 思わず動きを止めた美穂子に、久はだからと繰り返す。
「どうも貴女にとっての私は上埜久らしいから。無理に竹井さんなんて言いかえるなら、面倒だから久でいいわよって。それなら、名字がどっちでも変わらないし」
 あっさりと言う久の言葉の中身が浸透するにつれ、美穂子の全身がじわじわと熱を帯びてくる。頬まで赤くなったのだろう、久はからかうような、にやけた笑みを口の端に浮かべ、美穂子の顔を覗き込んできた。
「ん? どうしたの? 美穂子さん」
 そのタイミングでそれは反則だ。機先を制され詰まる美穂子に、久の笑みはより意地悪さを増していく。
(ほんとうに、そういう顔がよく似合う……)
 窮地の美穂子を見て、その反応を楽しんでいる久に拗ねた視線を向けようとして、調子づかせるだけだとやめにした。
 これが久でなければ、美穂子は何もためらうことなく名を呼べる。しかし美穂子にとって久の存在は、少々特別だった。
(憧れ、なのかな)
 中学では互角に戦い、突然消え去った。高校では突然現れ、自分をここに導いた。それぞれ強烈な印象を残した久の存在は、美穂子の心で抗えないほど大きくなっている。
 そんな人を前に、気安く名を呼べれば苦労はない。
(でも――)
 久の名を呼ぶのに、これ以上の舞台はないのではないか。
(そう。最初の一歩さえ踏み出せれば――!)
 細く長く息を吸い、その時間で覚悟を決める。それでも止まらぬ頬の熱の上昇を感じながら、美穂子はおもむろに口を開いた。
「……ひ、ひさ……さん」
「はい、よくできました」
 意地悪さを消し、純粋な好意のみを残した笑みで、久が美穂子の頭に軽く手をのせる。未だ残る気恥かしさと、子供扱いへの抗議の両方をこめてその手を払い、怒りのポーズとして一歩前へ出た。
「いやー、ごめんなさい。つい調子にのっちゃって、ね?」
 そのまま二歩、三歩と先行し、背後から聞こえる謝罪の声に無視を貫く。
「あ~、美穂子さんって実は結構怒ると長いの? ごめんなさいってば」
 覗き込んでこようとする久に対し、これみよがしに顔を背けてみせる。
「うわっ、その反応は傷つくわ。う~ん……」
 斜め後ろを唸りながらついてくる久を視界の外に感じて、一矢を報いたと美穂子の口が笑みを形どる。
 と、背後から「うん」と久の頷く気配。何事かと意識をそちらへと向け身構える。
「ねえ、美穂子さん」
 早足で距離を詰めてきた久が、美穂子の肩を叩きながら呼びかける。これ以上演技をし続けてもしょうがない、と美穂子は一つ溜息をつき、足を止めて振り向いた。
「なにかしら? 久さ――」
 頬に当たる柔らかい、しっとりとした感触。声を止め、横目に接近している久の顔を見、にんまりと弧を描く久の目と数秒見つめ合い、
「――――っ!?」
 思わず両の眼を見開いて逃げるように久から距離をとり、まだ感触の残る頬を手で隠して混乱の色を露わに久を見る。
「大げさねえ。欧米じゃこれぐらい挨拶らしいわよ」
 ぱたぱたと手を振りながら言う久だが、その頬にはかすかに朱が差している。とはいっても、それとは比べられない程の赤さをもった美穂子には何の解決にもならない。何も言えずにただ口をパクパク開閉させ、意味もないのに目線を四方へ飛ばして何かを求めている。
 しばらくその様子を眺めていた久は、目を合わせるたび赤さと混乱をぶり返す美穂子に呆れて肩をすくめ、やれやれと嘆息して歩み寄っていった。
「ほら、帰りましょう」
 繋いだ手から感じる暖かさに、美穂子は一瞬身を固くして、すぐに全身から力を抜いた。全身を覆う熱さは変わらないのに、気付けばあれほど混乱していた頭はすっかり落ち着いている。
 不思議な感じ、と美穂子はぼんやりと思いながら、久に引かれるままに歩みを再開させていく。さっきまでは熱さで自分のことすら見失っていたのに、今はこの熱が手を伝って久に迷惑をかけないか心配している。
「ふふ……」
 自然とこぼした笑みに、久が振り向き首を傾げてきた。
「ごめんなさい、なんでもないから」
「そう? ならいいけれど」
 納得していない表情の久に小走りに追い付き、横を歩く。前を見るふりをして、そっと久を覗き見て、美穂子はきゅっと握るその手に力を込めた。

 十分ほど歩いたところで、美穂子のアパートに到着した。
「それじゃ、私はもう少し先だから」
 繋いだ手をするりと離し、久は美穂子と向き合い背後を示す。手に残る温もりが風に冷えるのを寂しく感じながら、美穂子はそう、と相槌を返した。久はうんと頷き、
「明日から、よろしくね。一年のキャプテンさん」
「久さんが先に来ていたら、貴女がそうなっていたわよ」
 それに、と続ける。思い浮かぶのは、今日の昼、久が来る直前に考えていた、もしもの話。一年の計画を半年に縮めるような、夢物語。
「私が久さんを頼りにしてしまうから。私の手の届かない部分のフォロー、よろしくお願いしますね」
「八十人をまとめた人にしては、気弱な発言ねぇ。――ま、任されましょうか」
 頼られるのは好きなのよ、と久は気楽に、しかし強気に請け負った。
「また明日」
「また、明日」
 美穂子は言葉の意味を思い、はにかむように口元を笑みにする。美穂子に背を向け、家路へ一歩を踏み出した久は、ぴたりと止まって、そういえばと振り返った。その表情が、先ほどと同じからかいのものであると分かり、美穂子は内心なんだろうかと身を固くする。
「あのさ、美穂子さん」
「なに? 久さん」
「私がキスするたびに、私は貴女のその右目を見られるのかしら?」
 はっと右目に手を当て、その手が見えることに驚いて慌てて右目をぎゅっと瞑る。反射的に顔をそらした美穂子の耳に、あら閉じちゃった、とからかい半分、残念半分といった久の声が届く。
(いつから?)
 考え、先ほどの久の言葉で答えにたどりつく。突然のキスに驚き開けてしまった時からだ。
(あれからずっと――?)
 道のりを思い返し、ずっと右目を開けていた事実を知って、頬が熱くなる。久を窺うように見ると、満足げな笑みを浮かべて視線を合わせてきた。視線を鋭くすると、両手を掲げて降参のポーズをとってみせる。
 溜息をついて流れを打ち切ると、久は適当な謝罪の言葉を言いながら反転し、でも歩きださずに立ち尽くして、
「……えぇと、最後に一つだけ、いい?」
「? どうぞ?」
 久の声音が至って普通だったため、美穂子は首をかしげながら発言の許可を出す。
「その、さっきまで色々言っといて、調子いいかもしれないんだけれど」
 ばつが悪く頬を掻きながら、久には珍しく言いよどむ態度に、美穂子は脳裏の疑問符を増していく。
 数秒の逡巡を経て久は顔だけを美穂子へ向けて、
「私は貴女の目、どっちも気に入っているから」
 照れ混じりの笑みを浮かべて、柔らかな声で言った。
「また見せてくれると、とても嬉しいわ」
 硬直する美穂子を気にせずに、久は「今度こそ、また明日」と告げて歩き出した。
 美穂子は無意識に右目をそっと覆い、半ばふらつきながら部屋へと戻り、ぼんやりと一日を過ごし、訳も分からぬまま就寝した。
 その間、美穂子の頭の中では、常に久のセリフが脳を埋め尽くすほどに再生されていた。

以上、これも合わせて6レス分、お邪魔しました。
キャプテンのおろおろっぷりを想像してにやにやさせられたならよし。今後の二人を妄想したりしてさらににやにやさせられたなら、作者冥利に尽きる限り。
それではこれにて失礼をば。

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最終更新:2009年08月03日 17:40