787 名前:名無しさん@秘密の花園 投稿日:2009/06/27(土) 23:00:13 0GYwRXUz
出てくるのは溜め息ばかり。
お気に入りのタコスをかじっても、いつものような味がしないよ。
別にタコスか不味いからじゃなくて、それは自分が…恋をしちゃったからなんだ。
「はぁ…切ないじぇ…」
私は部長に恋をした。好きになっちゃった。
あの日、慰めてくれた、部長。
優しくて、頼れる、強い人。
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「……最近なんかありました?」
久しぶりに、のどちゃんと2人だけになった時。
のどちゃんは私に聞いてきた。
「……何もないじょ」
嘘。本当は日に日に増す想いを抱えてる。
でも、誰にも言いたくない。
特に…同じ歳の人、例え親友ののどちゃんでも、言いたくない。
「…そうですか。ならいいんですが…最近、元気ないですから」
胸が痛む。のどちゃんに嘘をついて、自分の気持ちを隠そうとしてる。
のどちゃんはそれ以上はなにも聞いてこなかった。
「部活、行きましょう?」
のどちゃんは私を誘う。
…正直、行きたくない。
部長の顔が、見れないんだ。
部長に会いたくて仕方ないんだけど、でも会ったら…多分今までのように振る舞えない。
そうすれば絶対怪しまれる。
現にのどちゃんに感づかれてるくらいなんだから、他の部員――特に部長――もわかっちゃうんだろう。
「…きょ、今日は…」
「…?」
「…た、タコス買いに行かなきゃだから、部活休まなきゃだったんだじぇ!」
うぅ…苦しい言い訳。
今日は何とかごまかして帰らせてもらった。あんまりごまかせてない気がするけど。
「はぁ…切ないじぇ…」
相も変わらず、出てくるのは溜め息ばかり。
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その日の夜、私はお風呂の中で考えた。
部長へのこの想い、忘れちゃえばいいんじゃないか。
ほら、麻雀に熱中して、のどちゃんたちと沢山遊んで、タコス沢山食べて、そうすればきっと、いつか昔のことになる。
告白しようか考えたこともあった。
でも、やめた。
もし、振られちゃったら…私はあの部活、もう通えない。通うのが辛すぎる。
只でさえギリギリのメンバーなんだ、私が辞めたら、次に入ってくる新入部員を待たなきゃだ。
そんな不安定な状態にしたくない。
みんなに、迷惑かけたくない。
だから、忘れちゃおう。
忘れて、私も楽になるんだ。
お風呂から出て、携帯をみると…着信一件。
部長からだった。
ドキッとした。
心臓が高鳴る。
顔が熱くなる。
やだ、さっき忘れるって言ったばかりなのに。
なんで部長が私に電話を?
今日休んだから、多分怒ってる?
どうしよう、こっちから電話しなきゃ。
でも、緊張してしまって。
指が震える。
たったボタンを数回押すだけなのに!
私が携帯を開いたり閉じたりしていたら、突然携帯は鳴り出した。
…また、部長から電話がかかってきた!
私は震える指を、通話ボタンにあてる。
これが押されれば、部長と…話せる。
ああ、緊張する。
…意を決して私は出た。
「も、もももしもし……」
『もしもし、優希?今電話して平気?』
「は、はい、大丈夫だじぇ…!」
『?…何でそんなに焦ってるのよ?まあ、いいわ…今日、どうしたの?』
「あ…あの、今日は…タコスが…」
『心配したのよー、今日来なくって。明日は来れそう?』
心配……部長、私に、心配してくれたんだ。嬉しい…!
『明日も来れなそう?』
「あ、いえ、行けます!必ず行くじぇ!」
『ならよかった。最近、元気ないからそれも心配だったのよ』
え……部長にも、気付かれてた…?
「…そ、そんなこと…ないんだじぇ…」
『…本当に?』
言及してくる部長。
あぅ…、どうしよう。私は部長には嘘をつけそうにない。
あの鋭い観察力で、多分見抜かれちゃう…。
『なんか、ヤなことでもあった?』
「………」
答えられない。答えたくない。
多分、一言でも言えば、何かしらバレちゃう気がして。
『まぁ、無理には聞かないわ。人に言いたくないことだってあるわよね。でも、あんまり溜め込むのは良くないわ…私以外、例えば和や咲とか、相談しやすい人に聞いてもらうのも悪くないわ』
部長は私のことを心配してくれてるんだ。もの凄く嬉しい。
反面、戸惑っちゃう。部長は今まででも、私にとって一番相談出来る相手なんだ。
のどちゃんに咲ちゃん、京太郎とか同級生には…あまり相談したくないから。
意地っ張りなんだ、私は。
『あ、ごめんね…嫌な気分にさせちゃった…?』
私は何か言わなきゃだと思った。
「…あ、あの…」
心配してくれた部長に、何か言わなきゃなんだ…だけど何を言えばいいのか、緊張が原因なのか出てきてくれない…。
「…ぶ、部長が…一番、相談出来る人…です……」
何を言っているんだろう、私は。
こんなこと言ったらバレちゃうかもしれないじぇ…。
『…ありがと。相談したくなったら、いつでもするのよ?』
「…はい……」
『じゃ、明日待ってるね。おやすみー』
そう言って、部長は電話を切った。
後には、ツー、ツー、とだけ無機質な音が残った。
次の日からは部長への気持ちを忘れるように頑張った。
これ以上、部長やのどちゃんに心配させたくない。
部活でも、何回もみんなで卓を囲って、麻雀に集中した。
した、ハズなんだけど…
「あ、次私入っていいかしら?」
部長が加わった。京太郎が抜けて、私と部長が対面。…これでは私が死んでしまう。
部長と向かい合うのは、私にはまだ早い…!もう少しだけ、忘れてからにして。
私は参加していなかった咲ちゃんに席を譲って麻雀をやめた。
「…はぁ…」
やっぱり、出てくるのは溜め息ばかり。
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忘れようとしたあの日から一週間がたった。
あれから一向に、タコスが美味しくなる気配がない。
タコスどころか、私はご飯が食べられなくなった。
胸が苦しくて、喉を通らない。
今日も朝ご飯が全然食べられない。
両親も心配し出して、私は迷惑かけてばかり。
「はぁ…どうしちゃったんだじぇ…私……」
忘れようとするも、それに反比例するかのように、想いは大きくなっていた。
「……部長…」
つい呟いてしまう、あの人。
「……竹井、久…」
顔が熱くなる。
…馬鹿みたいだじぇ。
ふと、時計を見ると。
「……遅刻だじょ!」
急いで制服を着て、慌てて玄関に駆け出した。
そうしたら…
「…あれ?」
体が突然、動かなくなって。
足がもつれ、その瞬間、世界が暗転した。
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目が覚めると、そこは病院だった。
時刻は夕方四時。
私は朝、倒れちゃったのだと初めてそのときわかった。一日中、眠っていたらしい。
原因は栄養不足、過労によるものだと医者に言われた。心の状態が一番の原因だそうだ。
親には悩み事はないのか、聞かれた。
だけど親には言いたくない。
部活の先輩、しかも女の人に恋して、ご飯食べられなかった、なんて。
ごめんなさい、お母さん、お父さん。
申し訳ないけれど、言えそうにないよ。
その日の五時過ぎ、部活のみんながお見舞いに来た。
のどちゃん、咲ちゃん、京太郎、染谷先輩、そして……部長。
今日は部活を休んで、みんなで来てくれた。
みんな凄く心配してくれて、私は最近迷惑ばかりをかけている。
私はただ、謝ることしか出来なくて。
「でもよかったよ、優希ちゃんそんなに悪くなくて」
「直ぐに退院できるみたいだじぇ?」
「優希がいないと、部室が静かすぎて困るけんねー」
「そうっすね。いればいたで騒がしいけど、いないとやっぱりあれっすね」
「…あれって何だじぇ、京太郎」
「早く、戻ってくるんですよ?」
「わ、わかってるじぇ……みんな、心配かけてごめん…」
少しだけ談話して、暫くしてみんなは帰ることになった。
お見舞いに持ってきてくれて、飾られた花は、やけに赤くて眩しかった。
みんなが退室して行く中。
一人残った人がいた。
部長だった。
私がいるのは個室で、つまり狭めな部屋に、部長と私は二人だけ。
鼓動が高まる。
「…優希、やっぱり…話してくれないかな?」
「………」
何も答えられない。
私はベッドの上で上半身だけ起こしてて、部長はベッド横にあった椅子に座ってる。
「ほら、今回倒れちゃったのって、やっぱり……前言ってた、悩み事が関係してるんじゃないかしら。……誰かに、酷い事とかされた…?」
「……部長…あ、あの…その…」
私は…迷っていた。
もうこれ以上、耐えられそうになかったから。
気持ち忘れようとしたら、自分の体は壊れてしまった。
色んな人に沢山迷惑かけて、心配させてしまった。
だから、言ってしまおうか。
部長、あなたが、好きです、と。
言ったら私は楽になりそうだ。
でも言ったら…もう、部活に行けないかもしれないんだ。
そう思うと、怖い。
「……ぶ、部長は…恋、したこと…ありますか……?」
部長は少し驚いて、納得した様子で言った。
「…そっか。恋の病、ってやつか…」
顔が赤くなる。うう…恥ずかしくて死んじゃいそうだじぇ…。
「そんなに恥ずかしがらくなくていいわよ。恋は別に恥ずかしいことなんかじゃないんだから、ね?」
「……どうすればいいのか、わからなくて…それで、無かったことに、しようとして、そしたら…、段々、く、苦しくなって…」
今まで思っていたことが、溢れ出す。
矢継ぎ早に、どんどん口から出る。
「…い、一週間前に、部活休んだのも、それが、原因で…ぐすっ、部長と顔、あわせらんなくて……いつも通りに、できそうになくて………」
私は知らない間に涙が溢れていた。
「…ふぇ、ひっく……わ、忘れようとして…でも、す、好きな気持ちが、強くなっちゃって…、っ………部長のこと、考えるだけで、な、何も食べられなくて……っ、ぇっ…」
すると、部長は私を抱き締めた。
驚いてしまって、だけど私もギュッと抱き締めたくなってしまって。
「…辛かったね…よしよし」
私の背中をさする部長。
もう、私は涙を堪えるのは無理だった。
「うわぁぁぁぁぁん…!!!」
堰を切ったかのように、涙は溢れた。
暫くして、落ち着いた私。
抱き締められたまま、私はさっきのことを思い出す。
私は部長への気持ちを言ってしまった。
恥ずかしくて、顔をあげられない。
「…私のこと、好きなんだよね?」
「…………」
私は黙ったまま、部長の腕の中で、下を向いたまま、頷く。
もう、後には戻れない。
「…もっと早く気づいてあげなきゃだったのに…辛い思いさせてごめんね」
「そんな、部長は謝らないで…」
思わず顔をあげてしまった。
目が合う。
いつもの部長がそこにいて。
かっこよくて、優しくて、頼れる部長。
途端に顔が赤くなる。
「…ぁ…ぅ…」
私は何も言えなくなってしまう。
「……優希、お昼はタコスがいいかしら?」
「…え…?」
部長が何を言いたいのかわからなかった。
「…私はあんまり料理得意じゃないからな~…」
「…部長?」
「お昼、これからは私が作る。それで一緒に食べよう」
「………それって…」
それって、それって…。それって、そう言う意味…?
「…嫌?」
「……部長は、私のこと……す、好き……?」
だって、私だけの想いじゃ…意味ないんだ。
「…あんなに一生懸命、告白してくれたら…誰だって恋に落ちるわよ?」
恋に、落ちる…部長が?私に?
「……嘘だじぇ…」
「本当よ。…証拠、欲しい?」
そう言うと部長は…私の唇に、部長のそれを付けた。
ファーストキスは、突然だった。
「……!!!」
「……信じた?」
「あー……うぅー……ん」
「って、ちょっと、優希!?」
私は再び、気を失ってしまった。
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退院して、数日のこと。
お昼休みの前の時間の授業中、私はソワソワしてしまう。
毎日毎日、お昼休みが楽しみで仕方ないから。
チャイムがなる。
直ぐに私は教科書の類をしまう。
私のクラスの前で待ち合わせ。
少しすれば、ほら……弁当箱をぶら下げて。
部長が、今日もやってくる。
「お待たせー」
「全然待ってないじぇ!」
私たちは外へ。
屋外で、木陰の、爽やかな風邪が吹く中で、二人っきりで昼食。
たまにのどちゃんたちとも食べたりする。今日はいつも通り、二人だけ。
「どう、優希…美味しい?」
「…すっごく美味しいじぇ!!」
部長は毎日、私にタコスを作ってきてくれる。
「よかった♪じゃ、私も頂きますか…」
私と部長は、恋人同士になれた。
「…部長は何か食べたいものとか、ない…?」
「うーん…特にないかな?」
「わ、私も部長にお弁当作ってきたいんだじぇ…」
毎回作ってもらってばっかじゃ気が済まない。
「ありがと。でも…私は優希が美味しそうに食べてくれるだけでいいわよ?」
私に笑いかけてくれる部長。
ああ…ますます恋に落ちてゆく。
「あ…じゃあ、せめて…」
私からの、お礼。
「?」
「…はい、あーん…」
「え!?」
「…嫌?」
「…んも~、恥ずかしいわね…あーん…」
部長の口へ、タコスを私は運ぶ。
少しだけ頬を赤らめて、でも嬉しそうで。
「美味しいじぇ?」
「美味しいって、私が作ってきたんだけど……あれ?」
「??」
「優希の優しさの味がする」
「~~~~!!!」
頬が赤くなるのがわかる。
「…また口説かれたじぇ…」
私はどんどん好きになってゆく。
最終更新:2009年07月11日 16:08