548 名前:へたれ[sage] 投稿日:2009/05/26(火) 22:01:52 ID:/OK1I2Sm
>>356 の続き

時計の音だけが室内に響いていた。

彼女の手から力がぬけ、私の手からすべり落ちる。

しばらくして、自分が何を言ったのか気がつき、慌てて顔をあげると涙にくれた原村さん
の顔が見えた。

あぁ、やっぱり…

「ごめんなさい。こまらせ」

「ちがうの、私……」

彼女の言葉は最後まで聞こえなくて、時計の音にまぎれて室内に消えていった。

何を言われたのか分からず、何と答えたらいいのか分からなかった。

でも、今はただ、彼女に泣いてほしくなくて、彼女の頬を伝う涙をぬぐいたくて。彼女に
近づき、手をのばす。手に冷たい頬を感じ、指で彼女の涙を拭くと、彼女の手が私の腰に
回された。潤んだ瞳の彼女はとても綺麗で…。
自然と彼女との距離は縮まり、どちらからともなく、瞳を閉じた。


感じたのは、彼女のくちびるの柔らかさ。
伝わってきたのは、彼女の不安ととまどい、優しさと。 …想い。

あぁ、なぜ気がつかなかったんだろう。
なぜ不安になんかなったんだろう。
彼女も不安だったんだ…。
ずっと…。

体で感じる原村さんは思っていたよりも小さくって、柔らかくって、普通の女の子で…。
そんな彼女をもっと感じたくって、くちびるをかるくはむと、もれてきた吐息に心をか
き乱された。腰にまわされた手に力がこもり強く抱きしめられた。

やわらかい体に包み込まれ、甘い香りに包まれて…。

不安や後悔。
喜びや愛おしさ、さえ。

なにも考えることができなくなって…。

感じられるのは、ただ、彼女のことだけ…。




しばらくして、聞こえてきた小さな吐息で我にかえる。

たがいにゆっくりとくちびるをはなし、見つめあう。
涙で頬を濡らしながらも、彼女はとてもやわらかい表情をしていた。それを見て、一つの
ことを心に決める。

さっきは、はっきりとした自覚のないまま言ってしまった言葉。
彼女の目を見ないまま言ってしまった言葉を,今度はちゃんと彼女の目を見て言おう。


彼女を不安にさせないように。
彼女を困らせないように。
だって私は…。


「原村さん。私,あなたのことが好き」



ーーーーーーー

そのころ部室の扉の前では…


「いい感じじゃない」
「ほんまになぁ。ところでいつ迄わしらはここにおるんじゃ? 優希を抑えるのはもう限
界なんじゃが」
「そうねェ…。あとちょっとだけ、がんばって!」
「のど……、今、行…じょ…。放……!!」


終わり

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最終更新:2009年07月11日 14:35