516 名前: ◆UOt7nIgRfU [sage] 投稿日:2009/05/26(火) 00:52:56 ID:6icOgJ9B

   『絆』

「のどちゃんは私の嫁だからなっ!」

あぁ…ゆーきのいつもの癖が始まりましたね。あの子の性格からすると
本気なのかネタなのか、周りはかき回されてしまうのが唯一の救い
ですけれど……

「のどちゃんのどちゃん、今年は咲ちゃんも居るから夢が叶うじょ!」

そう言って笑いかけてくる明るさに、混ぜこぜになるような複雑な気持ちが
沸き起こる。確かにゆーきとしては私は『親友』という括り。
今は宮永さんも居るし、あの子なりに気を回してくれているのも分かる。

だけど―――。宮永さんが現れたからと言って、それまでの想いを
安易に消してしまうのも何か違うような……そんなモヤモヤした思いに
囚われる時間が増えてきているのも事実。

「……のどちゃん? 何か思い詰めてる顔してるじぇ…」
「…え、あ、あぁ…だっ、大丈夫です……何でもありません」
「何でもないってことはないじょ。のどちゃんがそんな顔する時はいっつも
 ひとりで何か抱え込んでる時だけだじぇ!」

無垢な瞳で覗き込んでくるゆーき。伊達に長年連れ添ってる訳では
ないんですね……全て見透かされてる……

緑が濃い土手の上を蒼い風が走っていく。舗装された道の先、
軽い足取りで5mほど駈けたゆーきが私の方に向き直る。

「…のどちゃんは惚れっぽいからなー。麻雀に興じる咲ちゃんに
 骨抜きなのは見てるだけで分かるじょ」
「な……っ そ、骨抜きだなんて、そんな……」

だめだ。発する言葉と正反対に、頬に血流が集まっていくのが分かる。
どうしようもごまかせず、進む足が止まってしまった。

「咲ちゃんが居ようと居まいと、のどちゃんは私の嫁! だけど無意味な
 争いをするほど優希ちゃんは愚かじゃないじぇ!」
「……?」
「咲ちゃんも嫁にしちゃえばいいんだじょ♪」
「……それは、どうなんですか?」
「不可能はない! 咲ちゃんだってタコスの血族にしちゃえば問題なし
 なんだじぇ!」

天に向かってテイクアウトしたタコスを掲げるゆーきの姿は、何故だか
とても頼もしく、雄大に見えたものです。

「………負けないじょ」
「えっ?」

吹き付ける風で聞こえづらかったけど、確かに耳に届いた決意の声。
いつも天真爛漫・天衣無縫なゆーきが心に定めた想い……
それがどれほどのものなのかは、今はまだ計り兼ねるけれど、
確実に彼女の中で膨らんでいる。私は…その想いを無碍にするほど
冷酷ではないけれども……気持ちが分かっただけでも今日という日に
意味はあったと思う…

「のどちゃん、絶対に…清澄のこのメンバーで全国に行こうじぇ!」
「もちろん、そのつもりです。中学校の頃からの夢…ゆーきと一緒に
 叶えるこのチャンス、逃す訳には…」

わたしがそう伝えると、ゆーきは本当に嬉しそうに笑い、小走りで
駆け寄ってきた。

「のどちゃんの夢、私と師匠で叶えてみせるじぇ!」

腰に据え付けられた長い猫のぬいぐるみを外し、私の目の前に
抱え上げ、左右に軽く振った。
…初めてゆーきと話し込んだあの日が思い起こされる。
あの時からの夢に手が届く今なればこそ、私は全てを出せる。
共に歩んできたゆーきとの絆、それに部長やまこさん…そして、宮永さんと
一丸となれば、叶えられない事はない。強くそう感じられる。

「ん。やっぱのどちゃんはその自信いっぱいの顔でなきゃダメだじぇ!」
「…うん。ゆーきが傍にいてくれれば、恐れるものなんてありません」
「お~? それはプロポーズと受け取るじょ?」
「そう思ってくれても構いませんよ。だって私はゆーきの嫁、でしょ?」
「………っ! め、面と向かって言われると照れるじょ…」

そう呟いて、腰ねこで顔を隠すゆーきのその姿が面白くて、つい笑いが
こみ上げてきた。

そう。私にはゆーきがいる。宮永さんもいる。これほど心強いことはない。
互いを支え合って、夢の実現を果たさなくては…

時は満ちた。夏を感じる青い空を仰ぎ、深まった絆を強く強く
胸に刻もう。そして、目指すべく舞台へと――――!


ーENDー

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年07月11日 15:47