581 :確かな思い:2009/09/02(水) 22:36:30 ID:anryUJE2
確かな思い
全国大会への切符を手に入れ、前進あるのみの充実した毎日を送っているはずなのだが、原村和は上の空だった。
和は部室のベッドに寝そべり、天井の板ばりを意味もなく見つめていた。
彼女が考えることはただ一つ。でも、それは全国大会のことではない。何よりも気になっているのは、同級生で同じ麻雀部の宮永咲のことだった。
和は、咲が全国に行きたがっている理由を知っている。
家庭の不和で離れて暮らしている姉と、もう一度話をするのが目的だ。
家族が仲直りできるのなら、そんな素晴らしいことはない。和はそう思うのだが、どうしても心に引っ掛かりがあった。
(もし、お姉さんとうまくいったら、私はお払い箱なのでしょうか……)
和は僻みとも取れる思考を繰り返しては、そんな考えを消そうと頭を振り払う。
それでも、和は不安を消せなかった。
全国行きが決まってから、咲は前より明るく活発になった。
姉に会うのがそんなに楽しみなのかと、咲の笑顔を見るたびに思うようになってしまった。
(これではまるで嫉妬みたい)
そこまで考えて、和は霞の掛かっていた自分の気持ちがどんどん見えてきた。
和は咲を取られたくなかったのだ。相手が姉だろうと家族だろうと関係ない。
咲の笑顔は、自分にだけ向けられればいい。
不安の根源を知った和は、思わず笑ってしまった。
(私が恋をするなんて、そんな可能性、考えもしなかった)
恋する自分がおかしくて、しかも相手が女の子なのがさらにおかしくて、和はベッドで仰向けになって笑った。
「どうしたの、原村さん」
一人で笑う和に気づいて、咲がベッドまで来て上から見下ろした。
不思議そうに見る咲の無防備な顔が、和はうらやましく思えた。
(私の気持ちを知ったら、宮永さんはどんな顔をするのですか)
胸の内で問いかけて、そのまま言葉にはしなかった。
だけど、秘めた心の一部だけでも伝えたかった。
和は決心して力強い笑顔を作り、咲の目を見た。
「宮永さん、私を見ててください」
「え? 今見てるよ」
「今だけじゃなく、この先も――全国大会の先も。私、絶対に負けません」
「うん、全国でも勝とうね!」
無邪気に笑ってガッツポーズを見せる咲。
咲の純粋な笑顔が、和は少しずるく思えた。
でも、今はこの笑顔だけで十分だった。
和は、この恋を本気で勝ちに行くと決めた。
終
最終更新:2009年09月07日 17:30