549 :名無しさん@秘密の花園:2009/09/02(水) 17:31:03 ID:q2Net4uU
部キャプだけど部まこ。
部キャプがうまくいきすぎなので悲恋にしようとしたがなぜかまこ失恋ものになった。


―――最近の部長はちょっと変じゃ。
このごろまこは思う。
確信持って変だという訳でなく、どこか雰囲気が変わった気がするのだ。
ほんの微かで一年の頃からずっと久のことを見てきたまこだからこそ感じとれた、その程度の違和感。
「まぁ、あの怒涛の夏の大会を終えた後じゃけぇのう」
そうだ。あの人の三年思い続けてきた夢が今叶っているのだ。全部ひとりで一から清澄の麻雀部を建ててきたあの人の夢が。
そんなひとが進化せずに変わらない訳がない。
「…あの人も進化してるっつーことか」
一人ぼやいてなんとなく寂しくなった。

風が吹く。麻雀部のベランダは風通しがよく、風がよく感じられる。
久はここをえらく気に入っているらしく、屋根の上に椅子まで備え付けていた。
あきれるまこに『ここはわたしのお気に入りの場所なのよ』と子供じみた口調で久が自慢したのはいつだったか。
初めは冷やかしてたが、いつしかまこのお気に入りの場所にもなっていた。




まこはずっと久を目指していた。
久が気に入るもの、見ているもの、嫌いなもの全て一緒に見てきたつもりだ。
いつか自分が成長して久の肩を並べて歩くために。いつか久が自分に肩を預けられるようになるために。
そして、お互いがお互いを影響しあうために。
まこは今でもずっと久を追い続けている。

 だが、久もまた着実に進化している。一体、自分たちの差はどれくらいなのだろう。
急に感情がネガティブな方向に向かい出す。また久との距離が遠ざかったのではないか。
もしかしたら、久がもう見えないくらいの距離が開いていて、自分の前から消えてしまう
のではないか。
不安で不安で仕方ない疑問。まこは無理やり思考を停止させた。

「わしがもっと頑張ればいいだけの話なんじゃ」

自己完結して終わりにしようとした。
考え込んでいたせいか、当の本人がまこのすぐ後ろにに立っていることに
気付かなかった。

「何の話―?」「うぉ!?」

「お、おったんか!?」
「ええ。さっきから。なぁに?独り言ぶつぶつ言ってー」
「なんにもないけぇの」
「あら、そう?」

 意味深げな目をまこに向ける。相変わらずどこまで知っているのかわからない。
もしかしたら、このひとは全部知っているのではないかと疑ってしまう。
久は当然のようにまこの隣にならぶ。




また、風が吹く。まこに不安を煽らせるように吹き通る。
秋の風だ。
もうすぐ受験のシーズンになる。高3の受験生はこの時期必死に勉強してい
るはずで、それを全く感じさせない久は進学しないのではないかと思ってしまうほど。
いや、ひょっとしたらもう一年この学校にいるのではないかと期待させられるほど。

しかし、そんな淡い期待はすぐに残酷にも最悪にも打ち破られてしまう。
なんでもない、まこ自身によって。


「ねぇ、まこー」
「なんじゃ」
「私ももう引退ねー」

風が久の髪をそっとゆらして過ぎていく。
かすかに乱れた茶色の髪を久がかきあげる。それだけ。
それだけの動作だった。

「…あ」

 それだけでまこはある人物を思い返してしまった。
その動作はまるっきりあのひとのものと重なってしまう。鮮明に。明確に。
眼鏡を外さなくたってわかる。
だって、まこはずっと久のこと見てきたのだから。

「―――風越の、キャプテン」

まるで何かに乗り移されてしゃべらされたようだった。



驚いた顔。でも、それも一瞬。すぐに普段の余裕のある顔に変わった。
しかし、その一瞬はまこが理解するのに十分な一瞬だった。

―――最悪じゃ。本当に、最悪じゃ。

気づいていたはずなのだ。なぜか風越と交流試合しようとしていたことを。
放課後、麻雀部に入れびたっていたあの久がなぜか通常の部活の時間が終わると
帰っていったことを。
あのキャプテンが久に惹かれている一方で久も少なからずあのキャプテンに惹かれていることを。

わかっていながら、信じようとしなかった。信じられなかった。
無意識に意識の奥に追いやっていた。

まこは何か身体からこみ上げるものを感じた。
鼻の奥がつんとするのをむりやり押し込めようとぎゅっとまぶたを閉じる。

「まこ」

待って。待つんじゃ。お願いじゃ。
まだ、追いついていない。
ずっと、ずっと追いかけてきたんじゃ。

こみあげてくるものがあふれそうになって必死に食い止めようとする。
なんじゃ、と震える声をなにげなく装う。いつものように笑うつもりだった。
もう、限界だった。

「ごめんね」

その声はその人のひと際優しい声で。まこのやせ我慢を崩れさせるのに十分な声で。
嫌ほど誰かに重なっていて。この人は本当に全部気づいているのではないかと。

まこは抑えきれない涙をながし大声で泣いた。
もう一度、ごめんね、といった久の声は聞こえなかった。




風がまた吹いていく。久とまこを越えていく。どれだけ泣いたのかわからない。
きっと、自分の顔はむちゃくちゃなのだろう。
今となっては乱れた髪も、顔もどうだっていいと思った。
久にはこの顔を見せたくないと少し思ったが、もう動く気力もなかった。

「…まこ、麻雀部をよろしくね」

久はまこの方を見ずいつも通り外を見ながら言った。
おう。まかしときーと努めて明るい声を出す。
すると、ふっと久が微かに笑った。そして、いつも通りの口調で言った。

「わたしは本当にまこのことが好きよ。私の一番の、可愛い可愛い後輩。」

殴りたくなった。どうして今になってこの人はこういうこと言うのか。
望んでいるのはその位置ではないと知っているくせに。
しかし、もうどうでもよくなった。この人はこういう人なのだ。

「なぁ、部長」
「んー」
「わたしぁ、あんたのことが――」

最後は風にかき消された。

ああ、本当に最悪じゃ。

「――いんや、なんでもない」
「そっか」
「そうじゃ」

ベランダから可愛い後輩が手を振っていた。
まこは小さく振り返す。
もう少ししたら、まこは部長と言われるようになるのだろう。
久が呼ばれていた名前で呼ばれるようになるのだろう。
そして、まこは部長となっていくのだろう。

一番望むものは得られることは出来ないけれど、久からもらったこれだけは守ろうとまこは小さく決心する。


ひと際大きい風がまた二人を越えていった。




以上。無駄に使ってすまない。

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最終更新:2009年09月07日 17:27