386 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/30(木) 21:59:12 ID:W5TuQpvw
ともきーとアニキの話。井上のアニキはノマカプだと思う人はスルーして下さい。

どこまでも蒼い世界。電車に揺られて30分の湖よりも、昨年見た東京の海よりもはるかに蒼い。
世界中にはここよりもよっぽど蒼く澄んだ場所があるのだろうが、生憎な話、俺はそれを知らない。
目が眩みそうなまぶしさが心地よくて俺は指先へと込める力をほんの少しだけ強めた。

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キッカケはいつも通りの衣の一言だった。

「衣はイルカが見たい!!友達になるんだ!!」

今時小学生でも言いそうもないようなことを、あのキラキラとした笑顔で言うも
のだから、透華がなにもしないはずもなくて、気がついたら5人揃ってリムジンに詰め込まれていた。
俺が昔信じていたお嬢様というやつは、透華よりもずっとお淑やかなヤツか、
もしくはイルカが見たいと言うのなら庭に水族館を作ればいいじゃないとのたまうような、透華よりもずっと我が儘なヤツだった。
しかし、初めて会ったお嬢様であるところの透華は、随分と庶民的なお嬢様で。
イルカが見たいというならば、まずすることは自ら水族館を検索することだし、そしてその営業時間を確認すること。
お嬢様だということを鼻にかけることなどない、等身大の少女。それが俺の知っている龍門渕透華。
しかし俺は、そんな彼女のもとに集まったこのメンバーを、知らぬ間にいたく気にいっているようだった。

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ワイワイガヤガヤと騒いでいると、特殊スタントばりのスーパーアクションをもってリムジンが停車する。
萩原さんのいつも通りの笑顔での到着の合図を契機に、
テンションの上がりきった衣がとてとてと走り出すものだから、透華もそれを追いかけるし、もちろん一が透華の側を離れることがあるはずもなく。
すっかりと取り残されてしまったなぁ、とは考えても、無駄に走る気にもなれず、俺はノロノロと歩みを進める。
水族館の入り口につくまでの僅かな時間でも、ギラギラと輝く太陽から光が容赦なく降り注いできて、帽子をかぶってこればよかったな、と今更遅い後悔をした。
そういえばアイツは大丈夫だろうか。
駆けていった面子の中にアイツの姿があるはずもなく、それはつまり後ろには俺よりもノロノロと歩くヤツかいるってことだ。

気になって振り返るとやっぱりモタモタと歩いている。
ふわふわとしたロングのワンピースに、つばの広い純白の帽子。
この夏に何度か見た私服のどれとも異なる初めて見る装い。
見た目も性格も、どっちかといえば透華よりもコイツの方がお嬢様っぽいよな。
ただひとつ、いつも小脇にノートパソコンを抱えていなければの話だが。

「ともきー、急がねーと透華たちにおいてかれるぜ?」

聞こえているのかいないのかよく分からないような薄いリアクション。
心持ち歩みが速くなったかなという程度のそれでは、いくら衣といっても走っている状態では追いつかないだろう。
だからといって智紀を置いていく訳にもいかず、仕方なしに歩みを合わせた。

「それってさ、暑くねーのか?」

夏の盛りだというのに、膝下まであるようなロングスカート。
俺にとっては見ているだけで暑そうで、とても着る気にはならない。
…似合わないことは明白だから着るつもりもないのだが。

「生地が薄手だから見た目ほどは暑くはない。それに、日にあたりたくないから。」

ぼそぼそではあるけれど、それでもちゃんと答えが返ってきた。
見た目は暑そうだって分かって着てんのかコイツは。

「やっぱ日焼けとかって気を使うもんか?」

正直な話、俺は日焼けなんて気にしたこともないし、むしろ多少焼けた方が都合がいいとすら思っている。
なぜならその方が学校での差し入れが増えるから。
けれど周りのヤツらが美白やら美肌やらの売り文句にのせられて、
ひっきりなしに新発売の化粧品やスキンケア用品に手をだしているのは知っているし、それに魅力を感じる気持ちが分からないでもなかった。
だのにこんな問いを投げかけた理由は、どちらかといえばそういったことに頓着の無さそうな智紀が、日を浴びることを忌避していることに驚いたからだ。

「ヒリヒリするの嫌だから。」

一度こくりと頷くと、智紀はそうこぼした。
随分と色気のない理由。けれど、それが俺には随分と智紀らしく思えた。

「そりゃ違いねーな。」

なんだか意味もなく楽しくて、抑えようとしてもクスクスと笑いが漏れた。
今の俺は機嫌がいい。衣の無駄に高いテンションに付き合ってやってもいいぐらいには。
けれど、アイツらはバタバタと駆けていってしまったから、代わりに智紀の手を取って歩いた。
随分と細い腕だ。俺の手が大きい方だということを差し引いても、あまりに華奢だ。
力を込めたら折れてしまうのではないかと思えて、力をすっと抜いた。

「ちゃんと飯食ってんのか?」

目線を右上の虚空に向けて、どうやら悩んでいる様子。
無駄に難しく考えることばかりが得意な智紀のことだ。きっと同年代の平均摂取カロリーとここ一週間の献立の比較でもしているんだろう。
もっとシンプルに、大体のニュアンスを伝えるということはできねーのかコイツは。

「萩原さんの献立には特に栄養の偏りはないと思うけれど。」

おっ、長い台詞。まー、そりゃそうだな。
あのスーパー執事さんがそんなお間抜けな仕事をするはずもない。
ほんと何者なんだありゃ。

「同じもん食ってるはずなのにな。」

智紀だけに限らず、衣だって一だって透華だって同じ食事をとっているんだ。
あれ?あいつら揃いも揃って発育悪くねーか?
それに比べりゃ智紀はまだマシな方か…栄養が送られてそうな、風船みたいに膨らんだ部分もあるしな。


「純は買い食いとおかわりで余分なカロリーを摂っているだけ。」

おお、ズバリ言うねー。俺に言わせりゃあんな小皿料理と数切れのパンじゃ腹の足しにならねーんだ。丼こそ料理の皿に相応しい。
おっと、やっと着いたみたいだな。ふと気がつくと既に水族館の入口前。
自動ドアの向こうの少し薄暗い空間は、随分と涼しげで気持ちがよさそうだ。
しかし、中の様子を窺ってみても透華たちの姿は見えない。
あいつら…俺たちを置いてさっさと入場しやがったな!!

「透華たちも勝手にやってるみたいだし俺らも適当に回るか。」

智紀の返事も待たずに、俺は彼女の腕をグイと引く。
まぁ文句があるようなら黙ってついてはこないだろうし、これは了承ということでいいっぽいな。

ウィーンと機械的な音をたてて自動ドアが開く。

一歩足を踏み入れると、空気からして違う。
まるで1枚の薄い壁を突き抜けたかのように、その一歩が別世界に導いてくれる。

「あー、暑かった。」

一応、娯楽施設としての側面が強い水族館だ。
冷房はガンガンに効いていて、零れ落ちる汗がスッと冷える。
あぁ、生き返る。最近の暑さには流石の俺でも堪えるぜ。これが地球温暖化というやつなのか?

「うぉっ!?」

たいして知識もないようなことについて考えていると、文字通り目と鼻の先に智紀の顔があって、俺の心臓はドキリと大きく音をたてた。

「汗…。」

グイッと顔を引き寄せられ、バランスを崩しそうになる。あぁ、そういうことね。
いつの間に取り出したのか、白で無地というどこまでも地味なハンカチで汗を拭かれる。
無表情でふきふきと顔やら首筋やらを拭かれているだけなのに妙にむずかゆい。
気のせいか、頬が少し熱かった。

「もういいっ!ありがとーな。」

そう告げるて頭を撫でてやると、智紀は少し眠たげな眼で俺の顔をじっと見つめ、ポシェットにハンカチをしまった。
どうも変に意識しちまっていけねーな。
まぁさっさと入場してテンション上げれば気になんねーか。


「大人2枚で。」

チケットカウンターにそう申告して三千円払う。
どうして水族館ってのはこう結構な値段がするのかね?
動物園やら植物園の仲間だと俺は思っているんだが、それらに比べると二倍や三倍の値段もザラだ。

「それは設備維持費の差。大量の海水の用意や、それを清潔に維持するコストは存外に高い。
それに魚類の治療は薬以外では困難…動物や植物とはそれこそ住む世界が違う。あとは動物園は稀少動物の保護の観点から考…」
「もういい…。」

それになんで俺の考えていることが分かるんだよ。
気付かずに口にだしてたか?

「口にはだしていない。顔に書いてあった。」
「だからなんで分かるんだよ!!」

智紀はなにも言わずにニコリと微笑んだ。
あぁ、こりゃ答えちゃくれねーな。まぁどうでもいいか。

「ほら行くぞ。透華たちはほっといてもいいか。どうせ衣が2時半のイルカショーに行くんだろうし。」

そこで見つけりゃいい。それに基本的に一本道だからな…じきに追いつくだろ。
俺は智紀の手を掴むと、ぐいぐいとその身体を引っ張る。
そうでもしないととぼとぼと歩いているんだコイツは。

「おお、でかいでかい。」

早速現れた巨大水槽。
キラキラと光り輝く小魚が群れをなして泳いでいるが生憎俺には秋刀魚とか鯖とかぐらいしかわからねー。鰯も分かるかな…。

「生憎な話だけれどアレが鰯。純は鰯すら分からない。ちなみにマイワシ。」

ぐっ…鰯の缶詰なら分かるんだが。あとは蒲焼だな…。

「だから勝手に心を読むな!」

智紀の頭をコツンと軽く叩く。
送られてくる恨めしげな視線は無視する。

「ほら次行くぞ次!!」

それから次々に、どう見ても食えそーもねぇ魚やら食ってもまるで美味そうじゃない魚やらを眺めた。
うん。随分と色とりどりだ。まぁ俺は食いたくはないがな。
それでも意外と智紀はこういった場所が好きらしく、聞いたこともない呪文のような魚の名前を聞いてもいないのに教えてくれた。
適当に言っているんじゃないかと疑って、ちらりと水槽の前に設置された魚の紹介を覗いたんだがこれがまぁ全部あってるんだ。
実の所そんな長ったらしい魚の名前なんて聞いたそばから忘れているんだが、智紀が楽しそうだったからまぁいいか。


という訳で現在、俺と智紀は水族館備え付けのレストランにいるわけだ。
どういう訳か分からない?グダグダと蟹やら海老やら魚やら蛸やら烏賊やらを眺めていたら腹が減ったんだ。
ところでこういう場所なのにやたらとシーフード押しなのはどうなのかね?
小魚を見てキャーキャー可愛いと言っている子供達への昼ごはんが魚。牧場でやるバーベキューといい勝負になりそうだ。
衣とかもしかしたら泣くんじゃないだろーか。

まぁ俺は残さずスモークサーモンのサンドイッチをたいらげたんだがな。
智紀は俺と同じコーヒーだけ。よく腹へらねーな。

「ん?」

腹に物を詰めたら失われた精神力だって戻ってくる。
だからそこで初めて俺はあることに気づいたんだ。ちびちびと苦そうにコーヒーを飲んでいる智紀に。
あれ、だってそういやコイツ…

「なんで今日はコーヒーなんだ?」

いつもコイツは紅茶派だ。というか俺以外は、特に透華は紅茶派だ。
それがなんでコーヒーなんて頼んでんだ?

「純がいつも美味しそうに飲んでるから。けれどやっぱり少し苦い…。」

あぁ。なんだこりゃ。
ちくしょー可愛いじゃねーか!!こんな場所でスイッチ入れるようなこと言うなよ!!
ギュッと胸が痛んだ。けどこういう場所でちょっかいだすとこえーんだよ智紀は。
それに一応透華たちには秘密にしてるしな。一は気づいてるっぽいけど。

「んー決めた!!今夜お前の部屋行くから!!」

仕方ないからそう告げる。夜までは我慢我慢。

「どうしてそういう話になったの?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけれど。」
「じゃあ決まりということで!!」

ふぅ…もう2時をとっくに過ぎ去っている。急がねーと透華たちと合流できなくなるな。
まぁ俺はそれでもかまわないけれどな。それでも今日は全員で楽しむ予定だ…仕方ない。
ギュッと智紀の手を握る。やはり血の気の薄い冷たい手。
ひんやりとして気持ちがいい。ショーの会場の前まで手を握っていても罰は当たらないだろう?
そんなことを思いながら俺は手に込める力を少しだけ強めた。

Fin.

ともきーと純さんとか絶対自分ぐらいしか興味ないと思っていたからグダグダと書いていたらいきなりの祭りで歓喜!!
前スレでトリとかのアドバイスくれた人ありがと。
自分もトリは苦手なのでつけない方向でいきます。
もっとともきーと井上のアニキがいちゃいちゃしますよーに!!

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最終更新:2009年08月03日 19:06