33 : ◆AjotIQkrmw :2009/07/24(金) 22:56:26 ID:pDNISlrf
和咲ss投下させてもらいます。
9レスほどお借りします。おそらく途中でさる食らうはずなので今日は前半、明日の朝に後半を投下する形になると思います。

注意事項

視点が咲→和→咲→和と3回ほど変わります。
ですが基本的には咲→和と思って下さい。

話の展開上、和父が出しゃばります。
親父・男イラネな方はスルー推奨です。

では前半部、咲視点を投下開始です。


卓の上に手紙が置かれていた。
そこには『麻雀部の皆様へ』と書かれていて、裏には原村和と書かれていた。

「原村さん?……なんだろ、これ」

勝手に中を見ていいものかどうか迷ったけど、結局見ることにした。


親愛なる麻雀部の皆様。
突然で申し訳ありませんが、この度父の仕事の都合で東京に引っ越すことになりました。
今日に至るまでの皆様の御厚情、仇で返す私をお許し下さい。
皆様と一緒に戦ったインターハイ、決して忘れません。
今まで有難う御座いました。
皆様の御健康と御多幸を祈念して。
                                  
P.S.
宮永さんへ。
あの日、貴女が麻雀部に来られた日から
ずっと、ずっと貴女が好きでした。
こんな形でしか想いを伝えられない事、どうかお許し下さい。


え?

原村さんが東京に行っちゃう?

もう二度と会えない?


「い、やだ」

そんなの、そんなの…

「絶対に嫌ぁーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

ドアが勢いよく開けられる音がして、そっちに振り向いた。

「咲!?」

「部長…まこ先輩…」

原村さんじゃなかった。もしかして、なんて一瞬でも思ったけど。

「何なの一体…?階段まで聞こえたわよ」

「原村さんが…原村さんが…」

「こんちはだじぇ~」

震える手で手紙を渡すと同時に、優希ちゃんが入ってきた。
どうでもいい。挨拶を返す気にもなれない。

「ん?みんなどうしたんだじぇ?」

「……和が東京に転校する、らしいわ」

「ほへ?」

「和のことじゃ…会えば咲への気持ちを振り切れんと思ったんじゃろうなぁ」

だからって。
だからって、さよならも言うことができないなんて。

「で、でものどちゃん、さっき見たじぇ?」

「どこで!?どこで見たの!?優希!」

「裏門のバス停でバスを待ってた…んじゃないかなぁ。音楽室に忘れた鞄取りに行った時に外を見たら
 のどちゃんがいて、大声で呼んだらこう、小さく手を振ってたじぇ」

優希ちゃんが原村さんの行動を再現するように手を振った。
それを聞いて、部長が左手のブルガリを見てブツブツ言い出した。

「だとすると……バスは…時間は……まこ!」

「な、何じゃ!?」

「咲と優希を連れて橋のバス停のとこまで行って!それから貴女の自転車貸して!」

「な、何を言いよるんな?」

「いいから!説明してる暇はないの!!」

「あ、ああ…ほれ、鍵」

自転車の鍵を受け取った部長が脱兎のごとく駆け出して行った。

「ほれ、咲。いつまでもメソメソしよっても仕方ないじゃろ…」

先輩には分からないよ。

原村さんがいなくなる。
それは私の存在意義がなくなるってこと。
私の心が死んじゃうってこと。

「そうそう。人生は山あり谷あり…のどちゃんの選んだ選択だじょ。私達がどうこうできる筋合いはないじぇ」

「……優希ちゃんは寂しくないの?」

「そりゃもちろん、寂しいに決まってるじょ…まぁまぁ、そんな睨まないでほしいじょ」

とてもそうは見えない。
はっ…結局優希ちゃんはタコスがあれば何だろうと、どうでもいいんだ。
今だってタコスを美味しそうに頬張ってるし。

「出会いがあれば別れも必ずある…だけど人と人の繋がりってのはそんな弱いものじゃないじぇ。
 どんなに遠く離れてても出会う時はどんな状況だろうと出会うのが必然…
 のどちゃんが東京だろうとレイキャビクだろうと、行く場所なんか関係ないんだじぇ。
 要は次に会う時に、のどちゃんに胸を張って会える自分でいることが大事なんだじぇ」

「……」

「泣くだけなら子供でもできるじぇ…失いたくないなら、もがいてあがいて…全てをやりつくして初めて泣く権利があるんだじぇ」

ああ、優希ちゃんは大人なんだね。
そして私は癇癪を起こして拗ねてるだけの駄々っ子なんだ。

「それにしても…ここで待ってて何がある…ん、な!?」

一台の車が猛スピードでこちらにやってきて――私達の目の前で急ブレーキで止まった。

「さぁ、早く乗りなさい!時間がないわ!」

全員が乗ったと同時にアクセルを全開にして車が発進した。

「お、おい。この車ぁ藤田さんのインプレッサじゃ…」

「ええ、貴女の家に行って常連の人の軽トラ借りようと思ったんだけどね…
 よかったわぁ、靖子さんの車なら多少の無茶が出来るから」

「ぶぶぶ部長!ちょーっと飛ばしすぎだじぇ!?」

「これでも貴女達が乗ってるから抑えてるのよ?怖いのなら寝てなさい」

事も無げに言う部長。
……え?まだ本気じゃない?

「おい、駅は国道の方じゃろ!?何で峠の方に行くんな!」

「このスピードで警察署と駐在所を抜けて、見逃してくれるなんて思う?」

「…思えんの」

「部長!」

「何!?ここから路面が荒れるから口を閉じてなさい!」

「もっと急いで下さい!」

「…OK、本気で行くわよー!」

祈る思いで時計を見ていた。
デジタル表示の数字が一分、また一分と変わっていく度に、私の心がズキンと鋭い痛みを発していた。

私、原村さんに何も言えてない。

どれだけ原村さんの麻雀に惹かれているのか。
どれだけ原村さんの強さを、麻雀だけじゃなくて何事にも折れない心を尊敬しているのか。

そして、どれだけ原村さんを愛しているのか。

優希ちゃんの言う通りだね。
何もしないで何かを手に入れようなんて、虫が良すぎる話だったよ。
今の私には諦めないことしか出来ないけど…祈ることしか出来ないけど…

お願いだから待ってて、原村さん――!!



「……?」

「どうした?和」

「いえ…」

宮永さんに呼ばれたような…

まさか、そんなはずがありませんね。
私が乗ったバスの次の便は…まだ清澄高校にも着いていないはず。
宮永さんがここにいるはずがありません…

これは、私の未練…ですよね。
いい加減に断ち切りなさい、私。




無人駅の駐車場に車が静かに止まった。

「何とか間に合ったわね」

時間は――11分前。

「死ぬかと思うたで…おい、優希。着いた……あかん、気ぃ失うとるでこいつ」

「しょうがないわね、そのまま寝かせときましょう。それより和に会うのが先…って、ちょっと咲!?」

シートベルトを外すのももどかしく、やっと外した私は一目散に車外に躍り出た。
そう、今は原村さんに会うほうが先。
ごめんね、優希ちゃん。今は貴女に構ってられない。

駅の入り口を潜ると、反対側のホームに原村さんがこちらに背を向けてベンチに座っていた。
私は声の限りに叫ぶ。

「原村さん!!!」






「原村さん!!!」

また空耳ですか。

「和、友達じゃないのか?」

え?
空耳じゃ、ない?

後ろを振り向くと、宮永さんがこちらに向かって駆け出していた。

「み、やなが…さん?」

どうして!?どうして宮永さんがここに!?

信じられない思いで構内踏切の方に走った私を、一足早く渡りきってホームに上がった宮永さんが抱き付いてきた。

「原村さん!」

「どうして、ここに?」

「部長が、車で飛ばしてくれたの」

駅舎の方を見ると、まこ先輩が軽く手を上げて笑った。
部長はどこかに電話していた。

「行かないで…」

「っ!?」

私だけに聞こえる、宮永さんの声。

「私も、原村さんが好き…」

「で、でも…」

「誰にも渡したくない…ううん、絶対、誰にも渡さない!」

ずるいです、宮永さん。
それはずっと、ずっと私が望んできたことじゃないですか…!
貴女を、私のそばで縛り付けていられるなら、私は私の全てを捨ててもいいと……え?

「…そうですよ」

「え?」

「あ、はは…私、馬鹿ですよね。何でこんな簡単なことに気が付かなかったんでしょう」

そうだ、全てを捨てればいいんですよ。
私だってもう16歳、その気になれば働く事だって出来ます。
貯金だって20万ぐらい有るからアパートぐらいは借りられます。
何も問題ないじゃないですか!

「お父様!」

何だ?と言いながらお父様が近づいてくる。

「私、ここに残ります」

「和…馬鹿な事を言うんじゃない」

「申し訳有りません…でも私、決めたんです」

「住む所はどうするんだ?あの家の賃貸契約は解除したんだ。もう、戻れないんだぞ」

「貯金が有ります。当面はそれでアパートを借りるなりして生活出来ます。その間に働き口を見つければ…」

「未成年者が賃貸契約を結ぶには保証人が絶対的に必要なんだ。言っとくが私は保証人にはならんぞ」

保証人…そんな…

「あの~、ちょっとええですかいの?」

「まこ先輩…」

いつの間にか部長とまこ先輩が後ろに来ていた。

「雀荘roof topでは住み込みで働けるメンバーを募集っちゅうか、急募しとるんですわ」

「何を言っとるんだね!?君は!」

「藤田さんがうちの店に来てくれるようになってから『プロと打てるメイド雀荘』言うて有名になってのう。
 今のメンバーだけじゃもう手が回らんのじゃ。かと言うて、その辺の馬の骨レベルじゃ客が満足せんしの。
 その点、和なら実力もルックスも人格も折り紙付きじゃけん、来てもらえるとごっつ助かるんじゃわ。
 その代わり、住居と食費と光熱費をこっちで持つんじゃ。休日なんぞない思えよ」

「駄目だ許さん!!高校にも行かずに麻雀で生きていくだと!?親として、そんな人生を送ることは絶対に許さんぞ!!」

「いや、うちもそこまで鬼じゃ…清澄に通いながらでええんじゃけど」

「もう退学届も出してるのに通える訳がないだろう?」

「通えますよ」

「部長!?」

「今、電話で確認したわ。和、まだ貴女の退学届は受理されてない。
 明日の朝の職員会議まで保留になってるわ…我が校初のIH優勝メンバーに辞めてもらいたくないってのが本音みたいね」

「原村さん!」

「ええ…ええ…!……お父様、私」

「ここに何があると言うんだ!?麻雀なら東京でも出来るだろう!?
 私はお前の将来の為を思って言ってるんだ!何故分からないんだ!?」

私の腕を掴む宮永さんの手に力が込められる。
大丈夫です。と宮永さんに微笑み、お父様に私の思いを告げる。

「私はこの素晴らしい仲間達と、今、この時しか出来ない事をやりたいんです――!!」

お父様が雷に打たれたかのように硬直し、2秒ほど経った後太く、短い溜息を吐き出した。

「……私の負け、か」

「お父様!」

「条件が3つある。1つ、まこさん…と言ったかな?彼女の家でお世話になること。しかし勉強に支障をきたす程働くことは許さん。
 学生の本分は勉学に励む事にあるからな。2つ、大学は東大・御茶ノ水女子大のいずれかを受験すること。それ以外は許さん。
 3つ、毎日声を…いや、メールでもいい。私に連絡すること。私を安心させること。
 これが条件だ。1つでも不履行になった場合は理由を問わず東京に連れて行く。いいな?」

「…はい!必ず!」

カーブの向こうから警笛が聞こえて――やがて列車が姿を現し、17時21分発長野行きが静かに停車した。

「それじゃあ、元気でな…生活費は毎月お前の口座に振り込んでおく。ああ、もう1つ条件追加だ。長期休暇には東京に来る事」

そして宮永さんを見やり軽く咳払いをした。

「……そちらのお嬢さんも一緒に連れてくるといい」

「え?」

「……いくら私が鈍感でも、それだけあからさまにしてれば、分かる」

そう言った瞬間、体がドアの向こうに移りドアが閉じられ、列車がゆっくりと動き出し――トンネルの中へと消えて行った。

「原村さん……もう、絶対に離さないから…!」

力いっぱい抱きしめてきた宮永さんに負けない力で。

「ええ…ずっと一緒です……ずっと」

ありがとう……お父様…


おまけ

「ええんか?あいつら置いて帰って」

「あんな世界に二人だけの空気にしてる所に居ろっての?……優希、起きてるー?」

「ぅん…究極…タコスも………至高のタコスが…くー…くー…」

「「美味しんぼかい!!」」

以上です。
お目汚し失礼しました。

そういえば今日でしたっけ?6巻の発売日。

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最終更新:2009年08月03日 18:16