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 前回のまとめ:水銀燈を中華鍋で叩くとオギン姐さん(オーベル銀ちゃん)になる



 銀「うー、まだ頭がズキズキするわぁ。」
 マ「ご愁傷様。」
 翠「翠星石を邪険にしたバチです。いい気味ですぅ♪」
 銀「そう言えば、アレって誰が仕掛けたのよ。」
 蒼「さあ・・・?」

  ぶら下がったままの中華鍋を忌々しげに見ていた水銀燈がこちらをじろりと見る。

 銀「まさかあなたの仕業じゃないでしょうね?」
 マ「はぁ?」
 銀「上手くいけば吊り上げられた奴と助けようとした奴の二人をいっぺんに捕まえられるじゃない。」
 マ「いやいやいや!」
 蒼「それは無いよ。マスターがそんな事のために誰かを危ない目に遭わせるとは思えない。
   それにあんな仕掛けをする時間も無かったはずだろ?」
 銀「むぅ、それはそうねぇ・・・。」

  そこで今度は蒼星石の方を見る。

 銀「じゃあ、あなたじゃないでしょうね?」
 蒼「まさか。なんで僕が?」
 銀「あらぁ、大事な大事なマスターさんの為になら動機は十分でしょぉ?」
 蒼「だからと言ってあんな事はしないよ。」
 銀「それにぃ、あなたの為でもあるんじゃなぁい?写真だって持っていてもおかしくないし。」
 蒼「そ、それは・・・でも違うよ!」
 翠「そうです!蒼星石があんな卑劣で卑猥な罠を仕掛けっこないです。」
 銀「そう言うあなたも十分に怪しいわぁ。」

  今度は翠星石に疑惑の眼差しを向ける。

 翠「何を馬鹿な。翠星石だってあれの所為で恥を晒したんですよ?」
 銀「そうやって疑いを避けられるってのも込みで自分をエサにしたとも・・・ね。
   ひょっとして逆さ吊りなのも、事故で自分の頭に中華鍋が当たらないように、じゃなぁい?」
 翠「違います!憶測だけでものを言うなですっ!!」
 マ「翠星石はそもそもは着ぐるみを着て隠れ通すつもりだったし違うと思うけど・・・動機も無いし。」
 翠「ですよねー♪」
 マ「それにあの写真、無傷だったし。」
 翠「お前は翠星石をどんな根暗だと思ってやがるんですか!どつくんなら本物にします!!」
 マ「それはそれで勘弁。」
 銀「むぅ・・・でも他に怪しいのは・・・。」

  そこでちらりと金糸雀を見た。

 金「ひっ!!カ、カナは写真を撮るのはお手の物だし頭も切れる策士だけど、でも・・・」
 銀「・・・残った面子からして真紅、雪華綺晶、薔薇水晶ら辺が容疑者かしらね。」
 金「ちょっと待ったぁ!かしら!!」
 銀「何よぉ?」
 金「ここは薔薇乙女一の智将、カナが悲しくも疑われてしまう場面じゃないかしら?」
 銀「チショウねえ・・・じゃあ聞くけど、あなたならどうやってあのタイミングで仕掛けを発動させる?」
 金「えっ?・・・うーん、こっそり隠れててカナが・・・
   それじゃ見つかっちゃう・・・あ、ピチカートに頼むかしら!!」
 銀「はん。」
 金「何よ鼻で笑って!ピチカートは頼りになるんだから!!」
 銀「はいはい、分かったわよぉ。いずれにせよあなたとピチカートは仲良く冷蔵庫の中に居たんだからシロよね。」
 金「ま、まあそういう事になるかしらね。」

  水銀燈はこの中には犯人が居ないと考えたのか、中華鍋の方に目を戻す。

 銀「まあいいわぁ、アレが飛んで来た方向は分かってるんだし、そっちを調べれば何かしら痕跡があるはず。」
 蒼「確かに、調べておいた方がいい。他にもこんな罠があるかもしれないし、ね。」
 マ「ただ部屋の捜索の方もしなきゃだしなあ。」
 銀「仕掛けの方は私がやるわよ。犯人にはキッチリお返ししてやりたいしね。」
 翠「私怨が理由だから信じても良さそうですね。」
 金「じゃあ私達は誰か隠れてないか探しましょ。」


  そうして分担してすぐの事。


 銀「あっ!!」
 マ「どうしたの?」
 銀「・・・分かったわ。多分、どうやったのかも、犯人も。」
 蒼「えっ!!一体どんな痕跡が!?」
 金「水銀燈すごいかしら!!」
 翠「やれやれ、翠星石の嫌疑も完全に晴れたみたいですね。」
 銀「シロよ。はぁ・・・こいつよ。」

  その声と共に出て来たのは・・・

 雪「どうもです、皆さん。」

  雪華綺晶だった。

 銀「そこの棚の上に縮こまって隠れてた・・・あんなの隠れてたと言うのも馬鹿らしいわぁ。」
 マ「じゃあ、あのトラップは雪華綺晶がやったのかい?」
 雪「ええ、誰か来たのを見計らってロープをグイッと!!
   いやー、ずっと引っ張って宙吊りにしておくのは疲れました。
   翠星石お姉様ったら活きが良くって暴れまくりですし。」
 翠「物凄く腹立たしい物言いですね。」
 金「じゃ、じゃあ飛んで来た中華鍋も・・・。」
 雪「はい。それも私です。誰かがロープの方を処理したら手が空くのでそれに合わせて中華鍋を放る。
   後はロープを通してるのと同じところに紐が括り付けてあるから狙いとかが多少ずれても命中する。
   ただ、手が疲れててちょっと強く投げ過ぎちゃったかも・・・えーと、てへ♪」
 銀「てへ♪じゃないわよぉ!あんたの所為でエラい目に遭ったのよぉ!!」
 雪「あーん、笑ってこう言えばなんでも許されるって言ってたのに白崎の嘘つきー!」
 銀「あの駄ウサギの言う事を真に受けんじゃないわよ!!むしろ怒りの炎に油を注いでるわよ!!」
 雪「うぅ・・・ごめんなさい、もうしませんから。」
 銀「最初からそうやって素直に謝ればいいのよ。今回だけは『特別に』大目に見てあげるわ。
   まったく、本来ならあなたの頭を中華鍋でかち割ってるところよ?感謝なさい。」

  どうやら手口は金糸雀の発想レベルの単純なものだったようだ。
  だけどそれでも気になるところがある。

 蒼「で、目的は何なんだい?隠れる場所もすぐ見つかりそうな所であんな事をする。
   まるで見つけてくれと言わんばかりで何らかの狙いが無ければ不自然極まりない。」

  そう、それだ。

 雪「それは言えません。」
 蒼「何故?」
 雪「特に理由も無いのですが・・・義理立てと言ったところでしょうか。」
 蒼「ふぅん・・・義理を立てる相手が居るって事か。すると・・・」
 マ「話したら次に来た時に好きな物を御馳走しちゃる!」
 雪「真紅お姉様が『くんくんのグッズを報酬に上げるから私の為に働くのだわ!!』と仰って。」
 蒼「変わり身早っ!」
 雪「いいんですよ、口止めはされていませんでしたしトムヤンクン。」
 金「それをしたら、まず自分は見つかっちゃうのに?」
 雪「任務遂行さえすれば結果がどうであっても報酬は頂けるそうでしてチキンドリア。」
 金「語尾が猛烈に変かしら。」
 翠「珍妙不可思議にして胡散臭いですぅ。」
 蒼「・・・・・・突っ込んだら負けかな。」
 雪「だって食べたい物があり過ぎてついつい口に出てしまう、鯨の丸焼き。
 マ「流石にそれは無理。」
 雪「まあ、そんな訳で特に勝っても何をしていいか分からなかった私はホイホイとホイコーロー・・・。」
 銀「ほほぅ、つまりは真紅が諸悪の根源ね。かくれんぼが終わったら覚えてなさい・・・!」
 翠「おー、こわこわ。」
 金「とばっちりはごめんかしら。」
 マ「だけどなんだかんだでいつもの光景な気がする。」
 蒼「それが『いつもの』になっちゃってるのがいろんな意味で問題だけどね。」

  蒼星石と話しているとくいくいと袖を引っ張られる。

 マ「ん?」
 雪「あの・・・探すのお手伝いしますから・・・その・・・もっとお食事を・・・」
 マ「・・・分かった。その分は別にお礼はするよ。」
 雪「頑張ります!それで、誰か見つけたら・・・」
 マ「分かった、分かった。成功報酬でプラスアルファね。」
 雪「わーい♪」

  雪華綺晶が嬉しそうに笑う。
  こうして新たな戦力を獲得しつつ次の場所へと移るのだった。




 マ「お待たせ。」
 蒼「あれ?今その中華鍋を片付けに台所に行ったんじゃないの?」
 マ「うん、そのつもりだったんだけど・・・。」
 金「どうしたの?」
 マ「今後も何か罠がありそうで、ちょっとした防具程度にはなるかなって。」
 翠「なるほど。」
 銀「武器にもなるわね。それで真紅の頭に一発入れて欲しい位よ。」
 マ「まあ役立たないに超した事は無いんだけどね、一応装備は固めておこうかと。」

  そんなやり取りをしつつ、次の場所へと移動する。
  見通しのいい廊下、そこに異変があった。

 マ「う!!」
 蒼「どうしたの?」
 マ「あれ・・・・」
 蒼「?・・・ああ。」

  指差された方を見て段ボール箱に気付いた蒼星石が納得する。

 蒼「怪しいね。」
 マ「うん。」
 金「廊下のド真ん中に段ボールがあるわ!!」
 雪「見たところ普通の段ボールですね。」
 銀「それが・・・」
 翠「いっそう怪しい・・・。」

  見た目は何の変哲も無い段ボール箱が廊下の真ん中に伏せられているだけだ。
  しかし先程の事を振り返るにそれが疑心暗鬼を生む。

 金「誰かが隠れてるのかしら?」
 銀「あんなところに?」
 翠「チビ苺ならあるいは・・・。」
 蒼「だけどあからさま過ぎる。」
 マ「また、罠かも・・・。」
 雪「私がしたような?」
 マ「そういう事。」
 金「でもここを通らないとあっちの部屋へは行けないかしら!」
 蒼「どうする?」
 マ「うーん・・・とりあえず反対側を先に探そう。
   逆に言えばそっちにさえ居なければあとはあっちに居るしかないんだからね。
   残った二人を探すべき場所がはっきりする。」
 雪「なるほど。」
 蒼「ただ、探している間にもう探した所に移動されると厄介だね。」
 銀「私が箱を見張ってるわよ。」
 翠「私もそうします。」
 マ「そう?・・・じゃあお願いね。」

  探すのは面倒なのか志願した二人に段ボール箱の見張りを任せて移動する。
  後ろから残った二人の話し声が聞こえた。

 銀「さて、アレがさっきのと同じで罠だったらどうしてやろうかしら。」
 翠「さっきのお返しって事で逆にひどい目に遭わせてやりたいですねえ、ひっひっひ・・・。」

  なるほど。
  どことなく嬉しそうに二人が何やら物騒な相談を始めた。



 金「誰も居なかったみたいね。」
 マ「まあ隠れられそうな場所は無さそうだと思っていたけどね。」
 金「蒼星石と雪華綺晶が今探してるところも多分ハズレよね。」
 マ「おそらくは。」

  分担した場所を先に探し終わり、金糸雀と先程の場所へ戻って来る。
  すると見張りの二人が箱を遠巻きにして何やら揉めていた。

 銀「翠星石、あなたの植物で攻撃して反応を見なさいってば!」
 翠「ちょ・・・さっき翠星石はたかが写真に手を出してどえらい目に遭ったんですよ?
   あんな怪しい箱に手を出したらまたカウンターで碌でもない目に遭いかねないじゃないですか。」
 銀「いいからおやりなさいよ。」
 翠「イヤですよ、お前が羽根でも撃ち込んでやればいいじゃないですか。」
 銀「私だって嫌よ。」
 翠「自分が嫌なものを人にやらせるなです!どんな性格をしてるんですか!」
 銀「人の嫌がる事を積極的にする性格よ。悪い?」
 翠「うおっ!開き直りやがったです。」

  二人は今にも喧嘩し始めてしまいそうだ。

 マ「進展は無しか、それはいいけど見張りの方は大丈夫?」
 銀「なんら動きは無し。ここに張り付いているのが馬鹿みたい。」
 翠「ええ、誰も通ってませんよ。」
 マ「ふうん。」

  話していると金糸雀が突然声を上げた。

 金「あっ!!」
 マ「どうしたの?」
 金「あそこ・・・壁の高いところに何か書いてあるかしら。」
 マ「壁に?誰かのいたずら書きかな。」
 金「うーん・・・カナの勘が何かを告げようとしてるかしら。」
 マ「へえ。」
 金「近くで見たいから抱き上げて欲しいかしら!」
 マ「はいはい。」
 翠「・・・あ!金糸雀だけじゃ頼りねえので翠星石も見てやるですっ!!」
 マ「翠星石も?」
 翠「二人くらい根性で持ち上げろです。・・・じゃあ水銀燈、その間に段ボールを処理しておけです。」
 銀「ちょっと!!」

  ああ、そういう魂胆か。
  翠星石が返事も聞かずにこちらへ寄ってくる。

 銀「えーと・・・ああ、二人抱くのならその中華鍋は邪魔よね。
   その間は私が持っていてあげるから感謝なさい。」

  大急ぎで後を追ってきた水銀燈がそう言って手を差し出す。

 マ「これ?確かに邪魔だけど、重いよ?別に床に置けばいいし。」
 銀「床に置いたら油で汚れるでしょ!中華鍋の方もも汚れるし、お貸しなさい!!」
 マ「・・・はい。」

  水銀燈の剣幕に押されて中華鍋を手渡す。

 銀「仕方ないから箱の件は保りゅ・・・うっ、重っ!!」
 マ「だから言ったのに。」
 翠「無理すると腰を痛めちゃいますよ♪」
 銀「年寄り扱いするんじゃないわよ、言ったからにはきちんと預かってやるわよ!」

  見た目より重いからか、重心の関係か、両手でやっとこさ中華鍋を持っている。

 銀「時間も押してるのよ、早くなさい!」
 マ「はーい。じゃあ二人ともどうぞ。」
 金「お邪魔するかしら。」
 翠「落としたら許しませんよ。」
 マ「で、どこにあるの?」
 金「あっちよ。」

  金糸雀の指示通りに移動すると確かに壁、顔の高さより少し低い辺りに何か書かれていた。
  二人を抱え、顔を並べて壁のいたずら書きを見る。
  ・・・何やら文字のようだ。

 金「ケー、オー、エヌ・・・英語じゃないようね。ドイツ語でもない・・・うーん。
   エスペラント・・・まさかね。もしかしたら暗号かしら・・・。」
 マ「ただのローマ字みたいだよ。」
 翠「なんて書いてあるんですか?」
 マ「えーと。『この文字に気づいた時、あなたは・・・』・・・!!」
 金「どうしたの?」
 翠「早く続きを読めです!」

  二人の問い掛けも無視して必死に記憶を手繰っていた。
  さっき、段ボールはどう置かれていた?
  ごく普通、本当にただの段ボール箱だった。
  その持つために開けられた穴はこちらを向いていなかったか?

 蒼「二人を抱っこしてそんな顔してどうしたの?」
 雪「両手に花ですね、ふふふ。」

  向こうを探し終わった二人に声を掛けられる。
  ほぼ同時にバリバリッ、と何かが破れる音。
  何も考えない、瞬間の行動だった。

 マ「この二人を頼む!!」

  手の中の二人を蒼星石達の方へと放る。

 蒼「えっ!?」
 翠「わっ!?」
 金「ひぃっ!!」
 雪「おっとっと。」

  振り向くと既に目の前に数多の水晶の塊が迫っていた。
  破れて大きくなった穴からは薔薇水晶の姿が覗いていた。
  さっき放った翠星石は蒼星石に、金糸雀は雪華綺晶に無事キャッチされていた。
  それはいいのだが放られた二人はもちろん、受け止めた二人もそれ以上は動けない。
  水銀燈は・・・中華鍋を持っているために彼女もまともに反応できていない。
  だが水晶の標的にはなっていないようでホッとする。
  などと考えている間にも、水晶群はすぐ傍まで接近していた。
  要するに、これらは自分で対処しなくてはならないという事だ。

 マ「くっ!!」

  咄嗟に両腕をクロスさせて顔、特に目の辺りをかばう。

 マ「ぐぇっ!!!」

  飛んできた水晶の大半が胸にぶつかり、体が後ろに吹っ飛ばされた。

 薔「あ・・・。」
 蒼「マスターッ!!」
 マ「か・・・は・・・。」

  胸が圧迫されたため呼吸が苦しい。
  駆け寄ってくれた蒼星石に大丈夫と言いたいが声にならない。
  そのまま壁に寄りかかっているところをその場の皆も心配そうに覗き込んでくれている。
  ただ、段ボール箱の傍に佇む薔薇水晶と、彼女を睨み据えながら距離を詰める蒼星石を除いて。

 蒼「薔薇水晶!なんて事をしたんだ!!」
 薔「そんな・・・すみません・・・。」
 蒼「何が『そんな』だ、自分でしておいてどの口が言う!!」
 薔「私は・・・」
 蒼「うるさい、黙れ!!」

  蒼星石が右手をかざす。

 マ「ちょっと待った!!」
 蒼「マスター・・・?」
 マ「大丈夫だから!それに先にやるべき事がある。」
 金「何を言ってるの!さっきの水晶で壁もボロボロなのよ?
   そんな威力のをまともに胸なんかに食らったら・・・。」
 マ「ああそうだ、壁を直せる?時間を巻き戻すなら早い方がいいよね?お願いしていいかな。」
 金「へ?分かったかしら。・・・ピチカート!!」

  金糸雀がピチカートの力を使う。
  辺りに散らばった破片が吸い込まれるように壁の穴に埋まり、やがて元の姿を取り戻す。

 翠「お前は何をのんきに・・・。」
 マ「ありがとう、ついでにもう一つ直してもらえるかな?」
 金「その・・・ケガは直せないの。時間を巻き戻せるのは『モノ』だけだから・・・。」
 銀「それを当てにして余裕をかましていたのならとっとと救急車でもお呼びなさい。」
 雪「携帯電話、お借りしますよ。」
 マ「まあちょっと待った。直して欲しいのは・・・コレだから。」

  ポケットに手を突っ込もうとする雪華綺晶を制止し、上着を持ち上げる。

 金「えっ!?」
 翠「なんと!!」
 マ「これをお願い。物だったらOKだよね。」
 金「わ、分かったかしら。」

  そして金糸雀とピチカートが、今度は服の下から現れたまな板を直してくれた。

 マ「ありがとう。」
 雪「あの板のおかげで無事だった、という事ですか?」
 マ「まさにその通り。しこたま飛んできたけど幸い殆どまな板に当たってくれたし。」
 蒼「殆ど、って体にも当たったって事だよね、大丈夫なの?」
 マ「両肩に3つ、腕に1つのダメージは結構大きいな・・・。」
 蒼「薔薇水晶・・・。」
 マ「ごめんごめん、言ってみただけで本当は全然大した事ないから。」
 蒼「でもあんなに苦しそうにして・・・」
 マ「さっきのはちょっと胸を押さえつけられただけだよ。」
 蒼「本当に?」
 マ「うん。本当の本当。」
 翠「それにしてもあんなものをいつの間に入れといたんですか?」
 マ「さっき台所に行った時に装備を固めたって言ったでしょ。
   用心深くまな板を入れておいて良かったよ。」
 薔「あの・・・本当に・・・すみませんでした・・・。」

  いつの間にか薔薇水晶もこちらに来ていた。
  ただ、その表情はものすごく暗い。

 マ「薔薇水晶、なんでこんな事をしたの?」
 蒼「そうだよ、ルール違反までしてね。」
 薔「実は・・・私の能力は・・・『薔薇乙女』の能力ではないからと・・・。」
 蒼「そんな屁理屈が通るものか!」
 マ「まあまあ。で・・・それは薔薇水晶のアイディア?」
 薔「・・・それは・・・真紅が・・・。」
 マ「やっぱりね。するとくんくんのグッズを貰える事になってるのかな?」
 薔「はい、それも・・・。もちろん・・・だからといって真紅の所為だとは・・・言えませんが。
   本当に・・・すみませんでした。取り返しのつかない事を・・・しでかしてしまうところでした。」

  案の定の答えに少々自分の価値というものを真剣に考えてしまう。

 蒼「何を言ってるんだ、最初からどうなるかくらい想像はつくじゃないか。
   くんくんのグッズの為にこんな事をしたって言うのなら、君を決して許さないよ。」
 薔「申し訳・・・ありません。ただ・・・物目当てだけでこんな事をするつもりは・・・ありませんでした。」
 蒼「じゃあ、何だって言うんだ。」
 マ「まあまあ、何か理由があるんだね?怒るのはそれを聞いてからでもいいじゃない。」
 銀「当の被害者が言ってるんだから、とりあえずしばらくは静かに聞いたらぁ?」
 蒼「く・・・分かったよ。」
 マ「じゃあ薔薇水晶、話しててくれる?」
 翠「おうおう、相変わらずの甘ちゃんですねえ。」

  未だに申し訳無さそうな薔薇水晶がおずおずと口を開く。

 薔「あと・・・もう一つ・・・その条件が決め手だったのです。」
 金「その条件って!?」
 薔「真紅が見つからず、水銀燈が見つかって終わった場合・・・
   勝者としての権利・・・敗者への命令権で水銀燈をお父様に謝らせてくれると・・・。」
 銀「はぁ!?嘘でしょぉ、真紅に何の得があるのよぉ。騙されたんじゃなぁい?」
 薔「正確には・・・お父様に土下座しているところを・・・・・・写真に撮らせるよう命令すると・・・。」
 マ「それなら・・・」
 蒼「ありうる・・・。」
 翠「むしろ大喜びしそうな・・・。」
 金「ずーっとイジる気満々かしら。」
 銀「真紅ぅぅぅぅーーー!!!草の根分けてでも絶対に見つけてやるわぁぁっぁーーーー!!!!」
 マ「おお、意外なところで水銀燈がやる気を見せている。」
 翠「燃えに燃えまくってますね。」

  対照的にすっかり意気消沈の薔薇水晶が言葉を続ける。

 薔「本当は・・・ずっと迷っていて・・・止めようかとも・・・。
   だけど・・・水銀燈の声が聞こえて・・・見つかったのが分かって・・・。
   それで・・・お父様に・・・少しでも早く元気になってもらえるのならと・・・。」
 マ「そういう事だったんだ。」
 蒼「・・・だけど・・・だからって・・・。」
 薔「他の皆さんの声も聞こえて・・・誰かに防がれるかもと、つい加減を誤って・・・。
   なのに・・・自分の危険を顧みず・・・二人をかばって・・・。」

  感情が昂ぶっているのか何やら言う事が支離滅裂になってきた気がする。

 マ「まあ咄嗟だったからね。冷静に考えられたら二人に任せて自分は逃げてたかも。
   だからさ、ばらしーも落ち着いて。」

  だがそんな言葉は今の彼女には届かないようだった。

 薔「自分にとって大切な存在のために・・・他人の大切な存在を奪いかけ・・・。
   私は・・・また・・・変わる事も出来ずにまた・・・かつてと同じ過ちを・・・」
 マ「ストップ!悪いけど時間が無い。今は残った二人を探さなきゃいけないんだ。
   ・・・ただね、過去は糧にしても囚われちゃいけないと思う・・・それだけ、ね。」
 銀「そうよ!何をちんたらしてるのよ!次行くわよ次!!敵ははっきりしたんだから。」
 雪「敵は・・・」
 銀「真紅よ!!」
 金「おー!!」
 蒼「ああ、ますますかくれんぼっぽくなくなっていく・・・。」
 マ「あ・・・そう言えば、ばらしーは真紅はまだ見つかってないと確信してたの?じゃあ・・・」
 薔「はい、私がここに隠れた後・・・真紅は雛苺とこの先へ向かい・・・その後は誰もここを通りませんでした。」
 マ「なるほどね、真紅にとっては番人みたいなものか。」
 蒼「雛苺も一緒に行動してたのか。確かにあれだけの細工をするには人手が居るもんな。」
 金「じゃあ、じゃあこの先に二人とも居るのね!残り時間は・・・まだ10分以上はあるわ!!
   これだけの人数も居るし、二人見つけるのくらい余裕のよっちゃんかしら♪」
 翠「おバカ苺は見つかってるも同然ですしね。」
 銀「油断するんじゃないわよぉ!!百里を行く者は九十九里浜が半ばなのよぉ!!」
 雪「水銀燈お姉様、それ微妙にチャウダー。」
 マ「・・・ハマグリが名物だったっけね。」
 銀「下らない事を言ってないで移動よ、さあ!!」
 翠「お前が言うなですっ!」
 蒼「やれやれ。でも急いだ方がいいのも確かだ、行こう。」

  今までと打って変わって俄然やる気の水銀燈が皆を引き連れ移動する。
  それでも薔薇水晶は、気まずさが残るのかその場に残っていた。
  そんな彼女に声をかける。

 マ「まあまあ、そんなに気にするのはよそうよ。ところでさ、さっきの事って話して良かったの?
   水銀燈が見つかってたのなら黙っていた方が結果的には得だったんじゃ・・・。」
 薔「そうですが・・・やり過ぎてしまいましたし・・・・・・本当にすみませんでした・・・。」
 マ「水晶の先が尖ってなかったから良かったよ。性格なんかも今みたいに丸い方がいいよね♪」

  わざとおどけて話したが、薔薇水晶は真面目な顔でこちらを見上げた。

 薔「あの、私も・・・探すのをお手伝いします・・・もちろん、真紅も・・・見つけるつもりで・・・。
   そんな事だけでお詫びになるかは・・・分かりませんが・・・。」

  二人で話していると蒼星石に呼びつけられた。

 蒼「マスターも早くー。水銀燈がカリカリしてるよ。」
 マ「分かったー、すぐ行くから先に探しててーー。」

  移動する際、薔薇水晶にそっと耳打ちする。

 マ「ありがとう。きっと全員見つけようね。そうしたら、水銀燈にはきちんと謝るように言うからさ。」
 薔「・・・はい・・・・・・ありがとう・・・ございます。」

  まだ気持ちが解消できないのか、蒼星石は複雑な表情で薔薇水晶の方を見ていた。


      -残り時間:10分-      残ったドールは・・・2人