なぜだろうか、ふと目が覚めた。
  鍵穴からは外の光が入って来ている。

    ことり・・・

  時間が時間だと思うので音を立てぬようそっと鞄の蓋を開けた。
  落とした照明が辺りを照らしていた。
  鞄を出て静かに移動する。

 蒼「マスターが電気をつけたまま寝ちゃったのかな?」

  夏とはいえどこかその辺で眠りこけたら風邪でもひくかもしれない。

 蒼「だけど、なんでこんな中途半端な明るさで・・・」

  いつもなら起きていればもっと明るくしているはずだ。
  しばらくして窓辺に座って本を読むマスターの姿を見つけた。

 蒼「何を読んでるの?」
 マ「ん?ちょっとした雑学の本、暇潰しにね。」
 蒼「暇潰し、って暇なら早く寝ないと。いつもいつも夜更かしして朝寝坊・・・」
 マ「ちょっと待った。いつもの事はおっしゃる通りだけど今日は特別なんだ。」
 蒼「特別?」
 マ「さっきお得意の夜更かしをしてたらさ、ペルセウス座流星群ってのが来るってニュースを見つけたんだ。
   どうももう少ししてから明け方にかけてが流れ星のピークらしい。
   それで星について読みながらその時間を待ってたってわけ。」
 蒼「流れ星が・・・?」
 マ「そう。たくさん流れるから普段よりも見やすいんだってさ。」
 蒼「でも早く寝ないと・・・」
 マ「一日くらいなんとかなるさ。それよりも蒼星石はどうする?
   わざわざ起こすのもと思ったけれど、どうせ起きちゃったなら見てみない?」
 蒼「えーと・・・じゃあ、そうするよ。」
 マ「わかった、じゃあちょっと待っててね。」

  答えを聞いて微笑んだマスターが立ち上がって移動する。

 蒼「どうしたの?」
 マ「すぐ戻るよ。」
 蒼「?うん。」

  言われたままにその場で待っていると明かりが完全に消えた。

 蒼「ひゃっ!?」

  いきなり星明りだけになって視界がほとんど利かない。
  しばらくするとカラコロと透き通った音と、ひたひたという足音が聞こえた。

 蒼「な、な・・・レンピ」

  そしてレンピカに照らしてもらおうと思った瞬間、

 蒼「うわぁっ!!」

  頬にひんやりとした物が触れて声を挙げてしまう。

 マ「・・・びっくりしたぁ。」
 蒼「そ、それはこっちの台詞だよ!」

  ぼんやりとだが少しずつ見えてきた。
  マスターが手にしていたのは氷の入ったコップ、さっきはそれを当てられたらしい。

 マ「はい、麦茶。長丁場になるかもしれないからね。」
 蒼「ありがとう。」
 マ「レンピカとも一緒に見るの?」
 蒼「え・・・いや、やっぱ二人が・・・いいかな・・・。」
 マ「え、でもさっき・・・」
 蒼「あれはいきなり暗くなったから・・・」
 マ「ああ、怖かったんだ。」

  マスターが愉快そうに笑い出す。

 蒼「な!笑うなんてひどいよ。」
 マ「道理で麦茶程度で可愛い悲鳴を上げた訳だ。」
 蒼「うぅ・・・マスターが急に電気を消すから・・・」
 マ「だってその方が夜空を見やすいし、流れ星を見逃しにくいでしょ?もう本も読まないしね。」
 蒼「そうだけど・・・本はもういいの?」
 マ「だってもう暇を潰す必要は無いもの。」

  マスターが僕を抱き上げて座った自分の膝に乗っけた。

 蒼「何かお話しする?でも僕はそんなに話題が無いかも。」
 マ「構わないよ、何も話さなくたってこうしているだけで満足だから。」
 蒼「うん、僕も・・・。」

  マスターの大きな大きな胸に体を預けながら夜空を見守る。
  温かいものに包み込まれていてなんだか心地良い。

 マ「あ!流れた!!」
 蒼「え、本当!?」
 マ「うん。あ、まただ!ほら、あっちの方!!」
 蒼「わぁ・・・。」

  指差された方に目を向けると星屑がきらきらと降り注ぐ様子が見えた。

 蒼「三回お願い事をすれば叶うんだよね。」
 マ「そうだったね、まだ期待できそうだし何か考えるかな。」
 蒼「僕もそうしようかな。」

  ・・・お願いか。

  僕は何を望む?

  姉妹が戦い、傷つけ合う事も無く平和な日々を過ごすこと?

  それともアリスが誕生し、お父様が悲願を成就させること?

  それともこの人が本当の意味で幸せを見つけてくれること?


  そんな風に、大事な人達の幸福を星に託す事しか出来ない無力な自分を変えてもら・・・


  ・・・馬鹿らしい、それを星に願っては本末転倒というものだ。
  自分を変えられるのは自分だけだ。
  そして・・・その限界も自分自身で分かる。
  何をこれ以上に高望みするのか・・・なるようにしかならない。
  これが僕の身の丈に合った分際なのだ、だから、その時が来たら・・・。


  でも、せめてその時が来るまでは・・・・・・



 蒼「・・・ん・・・」

  顔に当たった朝日の光と鳥のさえずる声で目が開いた。

 蒼「・・・あれ?」

  周りを確認すると座ったまま眠りこけるマスターの顔がなんとか見えた。

 蒼「ちょっと、マスターったら起きて。こんな所で寝ちゃったの?」
 マ「んが・・・ああ、おはよう。」
 蒼「おはようじゃないよ。こんな風通しのいい所で寝ちゃって風邪でもひいたらどうするのさ。」
 マ「うう、ごめん・・・もうこんな時間なんだ。朝ごはんにしよっか。」



  二人で大急ぎで昨日のコップの片付けと朝食の支度をする。

 蒼「時間も無いし、ピザトーストとコーヒーだけど・・・夜はその分も頑張るからね。」
 マ「結構結構、こうして一緒に食べればなんだってご馳走ですとも。」
 蒼「そういえば体調は大丈夫?睡眠不足な上にあんな場所であんな姿勢で寝ちゃってさ。」
 マ「ああ平気平気。」
 蒼「本当?無理はしないでよね。」
 マ「だっていいものいっぱい見て元気を貰っちゃったもーん。」
 蒼「ああ、昨日は流れ星たくさんだったんだね。」
 マ「ちがう、ちがーう。蒼星石の可愛い寝顔いっぱい見ちゃったぁ♪」
 蒼「えっ!?そ、そんなものを見て何が楽しいのさ!!」
 マ「だって普段はあまりお目にかかれないしさー。
   それに自分の腕の中で安らいでくれてるのが嬉しくって。」
 蒼「もう・・・で、流れ星の方はどうだったの?」
 マ「ああ、そういえば寝顔見てたらいつの間にか自分も寝ちゃってさ。
   鞄に入れてあげられなくってごめんね。」
 蒼「・・・一体なんのために起きてたのさ。」
 マ「あはは・・・ところで蒼星石こそきちんとお願いできたの?」
 蒼「え・・・?」

  結局のところ何もお願いはしていない。
  考え込んでいて眠りに落ちてしまったのだから当然だが、起きていても同じ事だったろう。

 蒼「いや、何も。マスターは?」
 マ「いやー、僕もなーんにも。」
 蒼「もう。変なものを見ていないで星空を見ないからだよ。」
 マ「でもさ、するお願いも思いつかなかったし。」
 蒼「あ、そうだったんだ。それじゃあ仕方が無いよね。」

  マスターも僕と一緒だったんだろうか。
  星に託すには希望があまりに儚すぎて・・・。

 マ「まあね。でもいいんだ。今のままで十分に幸せだって思えたから。」
 蒼「えっ?」
 マ「腕の中で気持ち良さそうに寝てる蒼星石を見てたらさ、こうして蒼星石が幸せそうにそばに居てくれて、
   みんながやって来てわいわいと楽しく騒いでくれて、もう何を望めばいいんだろうなって。」
 蒼「でもマスターだっていろいろと欲しい物があるんじゃないの?
   お洋服だとか、遊び道具とか、その・・・他にも・・・例えば・・・素敵なお、お嫁さ・・・んんっ!?」

  一瞬だがマスターに口を塞がれて言葉が途切れる。
  気づかぬ間に接近していたマスターの顔がすこし遠ざかる。

 マ「そりゃあ欲しい物はあるよ?ゲームのソフトとかマンガとか圧力鍋とか・・・まあいっぱいね。
   でもさ、そんなの蒼星石の存在に比べれば下らないし、
   そんなのを望んでしまったら自分から相対的な重要度を下げちゃうみたいでね。」
 蒼「どういう事?」
 マ「んーと、何を失ってもいい!って気持ちの逆かな。他には何も要らないから今のままで居られたらなって。」
 蒼「ふふっ、だったらそうお願いすればよかったのに。」
 マ「確かに!!えーと、すると『蒼星石がずっと一緒に居てくれますように!』って事か。
   それってさ・・・わざわざ星に言う必要ないんじゃない?」
 蒼「・・・かもね。」

  そこでマスターが真剣な顔を近づけてきた。

 マ「ついでだから蒼星石のお返事を聞きたいな。
   その・・・一緒に・・・これからもずっと一緒に、居てくれる?」
 蒼「マスターは、それで幸福なの?」
 マ「蒼星石が幸せなのかで決めて欲しいな。」
 蒼「・・・分かった。」
 マ「・・・・・・。」

  マスターは緊張した面持ちで僕の次の言葉を待っている。

 蒼「じゃあこれが返事ね・・・」

  両手を静かにマスターの顔へと近づける。

 マ「ん、んっ!?」

  僕は目の前の唇に、言葉にはできない長い長い答えを返した。




    -以下はおまけみたいな感じ-


 蒼「ほら!早くしないと遅刻しちゃうよ!!」

  未だにぽかんと固まったままのマスターに声をかける。

 マ「ああ・・・はい。でも名残惜しくて。」
 蒼「起きるのが遅かったんだし仕方ないでしょ。
   まあさっきも言ったけど夜は期待してくれてもいいから早く帰ってき・・・」
 マ「夜・・・期待・・・なんと大胆な・・・。」
 蒼「・・・怒るよ?」
 マ「い、いってきまーーす!!」
 蒼「はい、いってらっしゃいませ!」

  大慌てで出かけるマスターの後姿を見送りながら、どうすれば喜んでもらえるかと
  今夜の趣向を考えるのだった。