マ「ねえねえ、夏休みはどう過ごすのがいいかな?」
 蒼「うーん、朝はだらけず早起きしてご飯もきちんと食べて・・・」
 マ「ほうほう。」
 蒼「それでせっかくだから運動する時間もとって体力を付けて・・・」
 マ「うん・・・。」
 蒼「だけど勉強も疎かにせず知的な・・・」
 マ「ちょっと待った!」
 蒼「何?」
 マ「そんな模範的な過ごし方を聞きたいのではなくってさ・・・。」
 蒼「そりゃあ別に聖人君子みたいになってくれなくてもいいんだけど・・・
   言っちゃなんだけどさ、マスターって夏休み最終日に徹夜で宿題を仕上げてたタイプでしょ?」
 マ「そんな事無いぞ!」
 蒼「あ、そうなんだ。失礼な事を言っちゃってごめんね。」
 マ「徹夜しても終わらなかったなんてのもザラだった!」
 蒼「威張らないでよ。」
 マ「ごもっとも。・・・で、聞きたいのはそういう事じゃなかったんだって。」
 蒼「じゃあどういう事?」
 マ「蒼星石は自分の夏休みをどう過ごしたいのかなって事。」
 蒼「夏休み?別に僕には夏休みも何も無いじゃない。」
 マ「いやあ、そりゃそうだけどさ、何かしたいことは無い?海に行きたいとか。」
 蒼「海ねえ、何をしに?」
 マ「え、ああっと・・・イルカさんとお友達になるとか?」
 蒼「そんな事できるの?」
 マ「ごめん知らない。でも希望があれば調べるし、場合によっては翠星石とかにも呼びかけるから。」
 蒼「マスターが?」
 マ「うん、たまには翠星石と水入らずでしばらく過ごしたいとかあるんじゃない?」

  それを聞いて蒼星石がちょっと考え込む。

 蒼「あのさ・・・厄介払いなら・・・普通に言ってくれれば・・・」
 マ「え?」
 蒼「たまの長期休みだもんね。誰かとどこか行くの?別に僕は独りで居ればいい・・・」
 マ「違う違う!そんなんじゃないよ。ただちょっと思いついたから・・・。
   本当に何でもいいんだよ?香港に行って美味しい物いっぱい食べたい!とかでも。」
 蒼(ああなるほど、今日見に行った映画の影響か)

  ようやく唐突な発言の理由が分かり安堵する。

 蒼「それなら別にいいよ。わざわざそんな時間を設けてもらわなくても不満も無いし。」
 マ「たまの機会にやってみたいなって事の一つや二つは・・・」
 蒼「無いよ。」
 マ「でもさ、自分でこうしたいって事があっても普段はなかなか思うように出来ないでしょ?」

  きっぱりと断言するもマスターの方も一向に引き下がる気配が無い。

 マ「いつも良くしてもらってるからさ、ちょっとしたお返しって事で可能な限り力になりたいんだ。
   例えば思い出の場所があるならそこまでは連れて行けるかもしれないし、
   もっと単純にこれ食べてみたいなとか欲しいなってのとかがあれば買って来るとか出来るだろうしさ。」
 蒼「うーん、気持ちはありがたいんだけど、特に無いなあ。」
 マ「別に難しく考えなくてもいいよ?夏休みなんて言い方も意識しなくていいし。
   こういう事したいってのがあればそのために時間と労力は割かせてもらうよって事だからさ。」
 蒼「時間と労力か、でもそんな長くは無理だよね?」
 マ「二、三日くらいなら余裕でなんとかなると思うよ。出来る限り頑張るからさ。」
 蒼「・・・そうだなあ・・・翠星石やみんなには内緒にしてもらえる?」
 マ「もちろん。細かく話したくなければ詮索したりもしないよ?」
 蒼「約束だよ?」
 マ「うん、約束ね。」
 蒼「じゃあね・・・」





 翠「翠星石、満を持して参上!」
 マ「あ、いらっしゃい。」

  テーブルに着いたマスターが元気よく現れた翠星石を出迎える。

 マ「今日は何の用?」
 翠「夏休みだから真紅の提案でくんくん尽くしを開催するですよ。」
 マ「ほう。」
 翠「くんくんが名探偵としての開花を遂げる劇場版『くんくん、誕生!』から時系列に沿ってマラソン上映をするのです。」
 マ「そりゃあハードだね。」
 翠「まあ夏休みですからね。で、蒼星石はどこです?お誘いに来たんですが出かけてるんですか?」
 蒼「いや、ここに居るよ。説明も聞いてた。」
 翠「ありゃりゃ?」
 蒼「残念だけど今回は参加を見送らせてもらうよ。」
 翠「んー?」

  翠星石が声を頼りにテーブルの周りを回り込むとさっきまで隠れていた蒼星石の姿が見えた。

 翠「おやまあ、そんな所に居たんですか。」
 蒼「うん・・・変かな?」

  さっきまでは丁度テーブルの陰に隠れている形だったが、蒼星石はマスターに抱っこされていたのだった。

 翠「いや、別に変じゃないですけどね、今までそうしてるのにお目にかかった事は無かったので・・・。」
 マ「あはは・・・」
 翠「で、なんでそんな事をしてるんですか?」
 マ「え、ああそれは・・・」
 蒼「・・・・・・。」

  蒼星石がマスターを見上げてくる。
  その目が何を言いたいかは言葉で聞かずとも分かる。

 マ「えーとね、夏休みしか一緒にこうして過ごせないし、たまにはゆっくり一緒に過ごさせてって・・・“僕の希望で”!」
 翠「お前が、ですか?」
 マ「うん、“僕が”!!」
 翠「・・・ふむ、あまり蒼星石を振り回すんじゃないですよ?」
 マ「はい。」
 蒼「ごめんね、そういう事だから今回は不参加で頼むよ。」
 翠「仕方ないですね、くんくん尽くし第二部にまた誘いに来るです。
   ちなみにくんくんカムバックの劇場版『ミッシングくんくん』から開始ですよ。」
 蒼「了解。わざわざごめんね。でも四、五日の間は無理だから。」
 マ「四、五日!?・・・いや、そうなんだよ。」
 翠「四、五日ですか・・・まあいいですよ。代わりに年中夏休みの人間で妥協しときますから。」
 蒼「あ、それと・・・」
 翠「大丈夫ですよ。他の連中には適当に説明しておきますから。それじゃあ失礼しますよ。」

  翠星石が踵を返す。

 マ「もう帰るの?お茶くらい出すけど。」
 翠「他の連中が待ってるし結構ですよ。それにせっかくわがままに付き合ってくれてるのなら時間を大事にしろです。」
 マ「あ・・・分かった。」
 蒼「じゃあここからでごめんね。」
 翠「構いませんよ。じゃあまた。」

  翠星石がそう言って部屋から出て行った。

 蒼「ふふっ、ばれなかったみたいだね。」
 マ「怒られなくて良かった・・・。」
 蒼「そうだね、もっと何か言われるかと思ったよ。」

  蒼星石がほっとしたようにマスターに寄りかかった。
  そんな蒼星石を見てマスターも思わず微笑むと、改めて蒼星石を抱き寄せる。

 翠(やれやれ、双子の姉をないがしろにして・・・腹に据えかねるのも確かですが・・・
   隠してたつもりかもしれませんが、蒼星石が幸せそうなら姉としては引き下がるしかありませんね)

  そんな風にして蒼星石は一週間程の楽しい夏休みを過ごしたのだった。

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最終更新:2007年08月09日 02:04