マ「今年は晴れたね。天の川もばっちりだ。」
 翠「短冊吊るしたいです。」
 マ「まだあったの?じゃあ貸して。」
 翠「マスターでも乙女の願い事を覗き見するのは許せません!
   自分で付けますから笹飾りを下ろしてくれです。」
 マ「せめてもっと早くに・・・・・・はいよ。」

  マスターは一度結わえたのを一苦労して解き、翠星石の前に持ってってやる。

 マ「蒼星石もあるのなら一緒に付けちゃってね。」
 蒼「はーい、分かったよ。」

  蒼星石も何か残ってたようで、二人の短冊が笹に付けられた。

 マ「じゃあもう戻しちゃうよ。」
 翠「見たら駄目ですからね!」
 マ「大丈夫だよ。」
 翠「本当ですね?いくらマスターとはいえ絶対に見てはいけませんからね!」
 マ「そんなに念を押さなくても分かってるよ。その代わり処分する時も自分で外してね。」
 翠「はーい、了解です。」
 蒼「うん、そうするよ。」
 マ「じゃあお飾りが完成したところで、窓辺で天の川を見ながらお茶でも頂こうか。」
 翠「賛成ですぅ♪」
 蒼「そうだね。」

  窓辺に三人で座り空を見る。
  今年は雲一つ無く見事な星空だった。

 マ「いやー、自然ってでっかいねー。」
 蒼「なんだか飲み込まれてしまいそうな光景だよね。これなら二人も無事に会えそうで良かったよ。」
 翠「ええ、良かったですね。」
 マ「うーん、しかし彦星様と織姫様も年に一回しか会えないなんて辛いだろうな。」
 蒼「そうかもしれませんね。」
 翠「逆に考えれば年に一回は会える事が確定してるんだから幸せですよ。」
 マ「そりゃそうだけどさ。石破ラーブラブな二人だよ?翠星石だって蒼星石と年に一回しか会えなきゃ嫌でしょ?」
 翠「それはその通りですが、でも・・・別れてこそ気付ける事もありますよ。」
 マ「ほう。なんか深そうな事を言うねえ。」
 翠「大した事でもありません。単にそういった経験があったから分かる気がするってだけです。」
 マ「そうか、二人はいろんな人と契約して、それで別れてを繰り返してきたんだものね。
   僕もいつか二人とお別れか。でも二人はずっと一緒に居られるから良かったね。」
 翠「それだけじゃありません。私達も・・・別れた事があったのです。」
 マ「えっ!?二人が?」
 蒼「はい。確かに昔から僕達はマスターを共にしてきました。
   ですが、ある時にそうではなくなり、僕らはいったん袂を分かちました。」
 マ「どうなったの?・・・って、また元通りになったんだよね。」
 蒼「ええ。ですが、それまでには波乱もありました。」

  そこで翠星石の表情に少し影が差す。

 翠「そう・・・蒼星石と争う事にもなり、蒼星石はかつて戦いの中で・・・今思い出しても辛い出来事です。」
 マ「そんな事が・・・。」
 翠「それはもしかしたら、一年どころか永遠の別れになるかもしれませんでした。」
 マ「大変だったんだ・・・余計な事を聞いてごめんね。思い出したくなかったよね。」
 翠「いえ、気にしないで下さい。まったく平気ではないにせよ、もう大丈夫ですよ。」
 蒼「二人ともそれは乗り越えました。失ったものも大きかったけど、得たものもまた多かった。」
 翠「翠星石は蒼星石と過ごしてきた幸せな時の大切さと、それが何に支えられていたのかを知れました。」
 蒼「僕はいつも共に居た翠星石と切り離して考えた自分自身を。そして、翠星石への想いを。」
 翠「そしてまた共に過ごすようになり、幸せなのは勿論なのですが、盲目的になってはいけないと分かりました。」
 蒼「幸せだからといって、変化を拒んではいけない。だけど全てをひっくり返すのも良くない。そう感じたんです。」

  二人とも笑顔でそう言った。

 マ「そっか・・・二人の方がやっぱりその辺は大人かもね。人生経験の量が違うや。」
 翠「そうでもありませんよ。結論はやっぱり蒼星石と一緒が一番って事になりましたからね。」
 マ「原点に帰った訳だ。」
 蒼「もちろん二人ともそれまでとは変わって、おそらくは成長できたと思います。
   また違う立場で衝突しかける事もあるかもしれません・・・いえ、きっとあると思います。
   でも以前のように自分や相手の想いにわざと鈍感になって終わらせようとはしないはずです。
   だからもうかつてのような決裂は無いと思います。そう・・・これからの時代の旅でも。」
 翠「そうですね、今までは双子だからとなんでもかんでも揃えようとしてしまいました。
   だけど、二人とも違っていても、もっと互いに我を通しても良かったんです。
   二人の立場が異なっていても、きっと心はつながっていて、必要な時にはまた一緒になれると信じてますから。」
 マ「だったらさ、ある意味で翠星石と蒼星石も織姫様と彦星様みたいなものかもね。
   一旦眠りについて会えなくなるけれど、ちゃんと同じ時と場に目覚めて再会してさ。
   で、僕は白鳥の役だね、結果的に二人の橋渡しになるの。」
 翠「そんな感じなのかもしれませんね。私達の過ごす悠久の時の中、マスターと過ごせるのは年に一日分程度なのかも。
   だったら・・・それを大事にしなきゃいけませんね、一回こっきりですし。ねえ蒼星石?」
 蒼「それはいいけどさ、僕は彦星様ねえ。何か意図を感じる配役だね、マスター。」

  蒼星石が不機嫌そうな顔と声になって言う。

 マ「・・・そこまで具体的に言ったっけ?」
 蒼「今回だけわざわざ彦星様を後に持ってくる辺りが・・・まあ僕は男性役のほうがお似合いかもしれませんけど。」
 マ「やだなあ、違うって。機嫌直してよ、ね?そうだ、お茶をお替りする?」
 翠「あ、翠星石がお茶入れてきますよ!」

  気を利かせたのか逃げたのか、翠星石が立候補して台所へと消えた。

 マ「ありがとね。あ、笹団子もまだ残ってるよ、どうぞ。」
 蒼「そうやって物で釣ろうという魂胆ですか。」
 マ「あはは・・・どうすれば許してくれるの?」
 蒼「さっきのは撤回して下さい。」
 マ「はいはい。ちょっと変だけど二人とも織姫様で僕が白鳥さん。これでいいの?」
 蒼「まだ駄目です。」
 マ「えーっ、これ以上何をすればいいのさ?」
 蒼「マスターは白鳥なんかじゃなくって、彦星様ですよ。少なくとも・・・僕にとってはね。」
 マ「えっ!?」
 翠「お茶入りましたよー。」
 蒼「ああ、ありがとう。君にはすまないことをしてしまったかな?」
 翠「なーに、たまには姉らしいところを見せちゃりますよ。はい、マスターもどうぞ。」
 マ「うん、ありがとう。それで蒼星石、さっきのってどういう・・・。」
 蒼「さあ?聞いたままの意味だと思いますけど。・・・さしずめ白鳥はレンピカかな?」
 翠「ん?いったい何の話ですか?」
 マ「その・・・なんでもない。」
 蒼「翠星石、君の言った通りかもね。たった一日に相当する短い時間しか共有できないなら大事にしたいね。」
 翠「やっぱり蒼星石もそう思いますよね。マスターもそう思ってくれますか?」
 マ「ええ、まあ・・・でさ、さっきのって・・・。」
 翠「何を生返事してるですか!だからさっきのってなんなんですか!?」
 マ「ああごめんごめん。もうこの話は終わりでいいです。二人が一緒に居てくれて嬉しいよ!
   一分一秒、コンマ一秒たりとも無駄にしないように気をつけるから!!」
 翠「最初からそう言えばいいですのに。」
 蒼「ふふふ、二人とも仲が良くって結構だね。」
 マ「・・・・・・うん。」

  満足げな翠星石と裏腹に、蒼星石はその後もいたずらっぽい笑みを浮かべているだけだった。






  だ☆そ★く

 翠「笹飾りはもう片付けちゃったんですか?」
 マ「かさばるし今日捨てちゃうよって何度も言ったじゃない。」
 翠「えーと、短冊はつけたまま・・・」
 マ「一応外したよ。他人には見られたくないだろうしさ。」
 翠「じゃ、じゃあひょっとして何を書いたか見られて・・・ま、まあ今回は不可抗力・・・」
 マ「ああ、見ないように外すの苦労したんだよ?自分で取ってくれれば良かったのにさ。」
 翠「・・・見なかったんですか?」
 マ「見るなって言われてたから一文字たりとも目に入らないようにしたよ。
   そのせいで余計な手間がかかっ・・・あれ、なんか怒ってない?」
 翠「口には出せないからと短冊に託した乙女の想いを粗末にするなんて許せませんっ!!」
 マ「ああ、短冊は捨ててないよ。一まとめに取ってあるから必要なら自分のを探して持ってって・・・」
 翠「もういいですっ!!」
 マ「オウフ!!」

  翠星石は行きがけの駄賃にとばかりマスターの足を蹴っ飛ばすと蒼星石のところへと向かった。

 翠「まったく、『気になってこっそり見たら健気な事が書いてあってノックアウト大作戦』は失敗でした。」
 蒼「マスター、短冊の内容を読まなかったんだね。」
 翠「愛しさと切なさと申し訳なさとのハサミうちの形になって効果は抜群のはずでしたのに・・・。」
 蒼「ふふっ、マスターは好奇心に負けなかった訳だ、翠星石の読みが甘かったね。」
 翠「何を澄ましてるんですか、蒼星石の短冊だって読んでもらえてないから作戦失敗じゃないですか。」
 蒼「確かに。短冊で気持ちを伝える事は二人とも出来なかったね。」
 翠「そうですよ、ええい、次の作戦を練るです!!」
 蒼「やれやれ。」

  そう言って蒼星石は苦笑するのだった。


      ・・・蒼星石が一歩リード?