薔薇水晶は不測の事態に未だ固まっていた。
薔「え・・・ありがとうございます。・・・部屋に入ってもいいですか?」
マ「ああ・・・驚かしてごめんね。どうぞどうぞ。」
蒼「あ、いらっしゃい。」
薔薇水晶がいらっしゃいましたね、そういえばさ。
薔「お邪魔します・・・。なにやら・・・賑やかですね。」
マ「ローゼンメイデンの皆さんが集まられております。」
薔「では・・・もしかして水銀燈も・・・ここに?」
銀「居るわよぉ。何か用かしらぁ?」
姿を現した水銀燈を険しい表情で見つめる。
薔「水銀燈・・・あなたこの間・・・ブローチを貰い・・・投げ捨てた・・・。」
銀「そうよ。不愉快な事を思い出させてくれるじゃない。」
薔「不愉快なのは・・・あなただけではない・・・。」
真「どういう事なの?」
薔「水銀燈が放り投げたブローチ・・・あれはお父様の作品です。
そして・・・それを届けに行った帰りのお父様に・・・直撃した・・・。」
真「特異点クラスの不運ね。」
薔「お父様はそのまま短期入院する事になりました。」
蒼「まさか打ち所が悪かったの?」
金「まさに悲劇!かしら。」
薔「いえ外傷はそんなに・・・精神的なショックで・・・だとか。」
雛「ちょっと大げさな気がするの。」
翠「軟弱者ですぅ。」
薔「まあ不健康な生活も・・・影響していたみたいですが・・・
作品を否定された精神的なショックも・・・大きかったようです。」
マ「意外にあの人って繊細なんだね。」
薔「クリエーターの宿命とはいえ・・・お父様の装飾品が否定されるのは・・・これで三度目ですから。」
蒼「三度?」
薔「ええ・・・三度・・・渡したものがつけてもらえずじまいに・・・。
それもことごとく・・・薔薇乙女にですので・・・ローゼン氏へのコンプレックスもあるのでしょう・・・。
水銀燈以外にも・・・真紅、そして・・・」
ばらしーが言いにくそうに僕と蒼星石の方に目を向ける。
蒼「・・・あー・・・」
マ「・・・ごめんね。」
先日貰った『お礼』の品を思い出す。
結局もっともらしい事を言ってばらしーに渡してしまったのだった。
薔「正直あなた方のは・・・仕方ないです。・・・私もつけませんでした・・・。」
さらっと言ったがひょっとしてそのショックもかなり大きかったんじゃないだろうか?
薔「だけど・・・水銀燈、あなたは許せない・・・あなただけはお父様の作品を・・・邪険にして放り投げた。」
銀「で、謝れっての?」
薔「その様子じゃ・・・素直に聞いてはもらえないようですね。」
銀「当然よぉ、馬鹿らしぃ。ジャンクは粗末に扱われて見捨てられるのが当然でしょう?」
薔「そうですか・・・まあそういう反応は・・・予想できていました・・・。」
そこでばらしーがこちらに向き直る。
薔「あの・・・すみませんが・・・ここにおいて下さい。」
マ「別にいいけどなんで?」
正直この期に及んでばらしーだけ断っても仕方が無いのだが理由は気になる。
薔「住所不定無職の水銀燈に・・・逃げられるとまた探し出すのが・・・面倒なので。」
マ「ああ、心で理解した。」
銀「犯罪者の枕詞をつけんじゃないわよ。」
真「似たようなものじゃない。」
薔「水銀燈、あなたが・・・お父様に対して謝るまで・・・そばに居させてもらいます。」
銀「ふん、なんで私があのお父様の馬鹿弟子に詫びを入れなきゃいけないのよ。
そうしたいって言うんなら永久に付きまとってれば?」
薔「望むところ・・・お父様のために・・・私はけして退きません・・・。」
何やら険悪なムードになりつつある。
真「水銀燈、ホットケーキ冷めるわよ?」
雛「食べないならヒナが食べてあげるの。」
金「カナも一枚手伝うわよ。」
銀「食べるわよ!・・・まあいいわ、あなたの好きになさい。
私にとってはホットケーキの方が重要だけどね。」
薔「私のお父様よりも・・・ホットケーキを温かく食べる方が・・・大事だと・・・。」
銀「そうよぉ?」
小馬鹿にしたように水銀燈が言う。
マ「あ、あのさ。落ち着いて、ね?」
二人を少しでもなだめようとする。
薔「ふぅ・・・まあそうですね。あせっても・・・仕方ありません。」
思ったよりも薔薇水晶が冷静で安堵した。
薔「ただ・・・一つだけ言っていいですか・・・?」
マ「な、何?」
真剣な顔つきで薔薇水晶に問われた。
薔「ホットケーキのお替わりは・・・いえ、焼かずとも余りでいいのですが・・・いただけますか?」
マ「え?あるけど。」
もしかして薔薇水晶の中でも槐さんの優先順位って低い?
薔「厚かましくて・・・すみません。最近・・・何も食べてなくて・・・。」
そういえばずっと水銀燈を探して飛び回ってたって言ってたっけ。
マ「あ、ごめんね。だったら食べたいものを言ってくれれば可能な限り用意するよ。」
薔「いえ、そこまでは。」
マ「まあまあ、気にしない気にしない!しばらくは僕がお父様の代わりだ!」
変な事を疑った申し訳なさと不憫さとから思わずそんな言葉が口を飛び出していた。
薔「じゃあ・・・流しソーメンをお願いします。一度・・・やってみたかった・・・。」
マ「ごめん、無理だわ。・・・少なくとも今は。」
蒼「今度、皆でやろうね。僕もやってみたいし。」
薔「そうですか・・・無理を言って・・・すみませんでした・・・。」
しょんぼりした薔薇水晶の顔を見て安請け合いはするものではないと思ったのだった。
最終更新:2007年06月24日 02:04