ここは・・・どこだ?
  目の前には黒いものが広がっているようだ。
  ぼんやりとした意識の中、何やら暖かく、やわらかいものが触れているのは分かった。
  なんだろう、どこか懐かしく、安らぐようなこの感じ・・・。
  鼻から大きく息を吸い込む。
  いい匂いだ・・・なんだか・・・お母さんを思い出すような。

 蒼「もう・・・恥ずかしいからあんまりかがないで?」
 マ「・・・うぇ?」

  ようやく視界に映るものが認識できてきた。
  その途端に意識が覚醒する。

 マ「あの、その、もしかして・・・。」
 蒼「でも良かった、目が覚めて。頭をぶつけちゃったから心配したんだよ。」

  蒼星石が膝の上の僕の頭を優しく撫でてくれた。
  そう、自分は膝枕をされていたのだ。
  目の前にあった黒いものは蒼星石のベストだった。

 蒼「まだ痛む?」
 マ「ううん、大丈夫だよ。」
 蒼「良かった。でも安静にはしてね。」
 マ「大丈夫だって、子供じゃないんだから。」
 蒼「まあまあ、僕ってお母さんみたいな感じなんでしょ?」
 マ「聞こえてたの!」
 蒼「ふふ、ところどころね。」
 マ「あ、あ、恥ずかしい!!」

  すぐ前にあった蒼星石の体に顔をくっつけて隠す。

 蒼「ふふっ、くすぐったいよ。それになんだか火照ってる。」
 マ「だからそういう事を・・・そう言えば、みんなは?」
 蒼「マスターがかばってくれたおかげでみんな無事だったからね、あっちで遊んでるよ。」
 マ「薄情だなあ。まあさっきのを聞かれたりしなくて助かったけど。」
 蒼「二人っきりだからもっと甘えてくれても平気だよ?」
 マ「じゃあ・・・しばらくこのままで。」
 蒼「はい。」

  蒼星石と二人だけで、少し離れたところで話をする。
  以前は普通だったのに最近はこんな事も叶わない。

 蒼「マスターは大丈夫なの?」
 マ「何が?」
 蒼「ああやってみんなの面倒を見て、大勢だし大変じゃない?」
 マ「大丈夫とは言いがたいかもしれないな。だけどもはや人数がどうとか関係ないレベルだからね。
   帰っては欲しいけど、みんな揃っても大ゲンカしないだけいいよ。」
 蒼「なんとかみんなを説得しようよ。」
 マ「みんな我は強いし言ったところで聞いてくれるかな?」
 蒼「どうだろう、だけどそろそろ僕も・・・」
 翠「おっ、無事に目覚めましたね。」
 マ「・・・どうも。」

  相変わらず狙ったかのようなタイミングでやってくる。

 翠「気絶中は目こぼししてやりましたが、目覚めたら蒼星石から離れろです。」
 銀「あらぁ、起きたの?」

  他のみんなもやってくる気配。
  大慌てで起き上がる。

 金「心配したかしら。」
 雛「おはようなの。」
 マ「うん、おはよう。」
 真「無事で何よりね。ところでそろそろお夕飯の支度よ?」
 銀「おやつの分も気合入れなさいよ。」
 マ「はいはい。頑張ってやりますよ。」
 蒼「ねえ、やっぱりみんなに話して・・・。」
 マ「大丈夫だよ。逆に考えれば勢揃いしたならそれ以上負担が増える事は無いはず・・・」

  言いかけたその時、近くにあった鏡の中から声をかけられた。

 雪「おじゃまします。」
 マ「あー・・・いらっしゃいませ。」
 蒼「勢揃いだね。」

  レアな存在なのでつい勘定に入れてなかったが雪華綺晶も居たのだった。

 銀「何しにきたの?」
 真「面倒事はごめんよ。」
 雪「ふふ・・・順番が回ってきたというだけですよ。」
 翠「順番?」
 雪「そう、第一ドールの水銀燈、第二ドール金糸雀、第三ドール翠星石の契約者と回ったのでお次は・・・。」

  そこで蒼星石の方へ視線を向ける。

 蒼「契約者を回る?」
 銀「まさかめぐに何かしたって事?」
 金「みっちゃんをどうしたかしら!」
 雪「そうですね、どこから話したらいいか・・・私が実体を手に入れたのは最近というのはご存じですね?」
 マ「確か・・・実体という縛りから解放されたらアリスになるんじゃない?って事で精神体として作られたって。」
 雪「そんな感じです。ですが、実体を手に入れたことで出来るようになった事もある。」
 真「いったい何よ?」
 雪「それは・・・」
 雛「そ、それは・・・?」
 雪「食べ歩き。」
 銀「食べ歩きぃ?」
 雪「そうです。最近になって食べるという事を始めたのですがなかなか奥が深いですね。
   いろいろな地域の料理があったり、同じものでも作り手で味が変わったり。」
 翠「じゃああちこち回ってるのは・・・。」
 雪「姉妹の縁故でいろいろと食べさせてもらってます。」

  拍子抜けしたのかみんな沈黙する。

 銀「で、めぐは何を?」
 雪「詳しくは忘れましたが『ビョーインショク』というものを。
   とっても美味しかったですよ。」
 銀「へえ、あれがね・・・。」
 雪「なんでも『ゲロ』みたいな味だとか。いつかそれも食べてみたいですね。」
 真「おやめなさい。」
 銀「あなたはもっとこの世界のことを勉強するべきね。」
 金「そう言えばカナのところにご飯食べに来たわね。」
 翠「覚えておけですよ、この鳥頭。」
 金「今回の事とは無関係と思ってたかしら!」
 マ「ちなみに何を食べたの?」
 雪「おうどんですね。」
 蒼「何うどん?」
 雪「えーと、確か・・・加ト吉うどん・・・とか言ってましたね。」
 マ「・・・いやさ、焼きうどんとか讃岐うどんとか・・・。」
 金「みっちゃんがたまたま忙しかっただけよ!本当ならとっても料理が上手なのかしら!」

  金糸雀がフォローを入れた。
  確かに忙しい人にとっては冷凍食品は必須かもしれない。
  自分は暇人でよかった。

 真「で、うちにはもう行ったのよね?」
 雪「はい。お姉様達はみんな留守でしたけど。」
 翠「ちょっとした闘争中ですからね。で、何を食べたんですか?」
 雪「肉塊を跡形もなく無残にこね回して火あぶりにした物を。」
 マ「・・・ハンバーグだね。」
 雪「そうでした。加熱して眼球に見立てた卵も乗っけていただきました。」
 蒼「・・・目玉焼きか。」
 真「!!花丸ハンバーグ!!」
 雪「あと、夢にまで見たオムライスというものも。」
 翠「それはぷりぷりハートのオムライス!!」
 雪「ああ。そんな名前でした。とっても美味しかったですよ。
   しかも翠星石お姉様と雛苺お姉様が急に居なくなったからってその分も頂いてしまって。」
 雛「ヒナの分も!?うー、翠星石のばかー!」
 翠「うるせーです!翠星石だって食べ損なったんですよ!
   ちいっ、夕飯食べてから家出すべきでした。」
 マ「どうどう。で、次はうちの番だと。」
 雪「そうです。」
 蒼「それにしてもまた急だね。」
 マ「うん。もう少し早く来てくれればそれ相応に準備できたのにね。」
 雪「ラプラスがこの国の文化では夕飯時に突撃すれば問題なくご馳走になれると言うので・・・。」
 マ「へえ。」
 銀「テレビと現実をごっちゃにしちゃ駄目よ?」
 雪「駄目でしたか?」
 マ「まあ良いけど。正直7人分も8人分も変わらないし。
   よーし、和・洋ときたみたいだから中華にしよう。リクエストは?」
 雪「良く分からないのでお任せします。」
 マ「分かった。いろいろ作ってみるよ。」
 雪「ありがとうございます。」

  そんな訳でひときわ賑やかな夕食になってしまったのだった。