キラキラ星なら吹けるよ

タイトル「キミだけの音色」


♪~

部屋に響くハーモニカの音。時折音程が外れるそれは不恰好な音を出しながら可笑しな曲を奏でる。
何か一つ、自分にしか出来ない物が欲しくてハーモニカを始めた。蒼星石にはキザだと笑われたが。
「うっせ」と笑いながら返すと俺は練習を始めた。これがなかなか難しい。特に息の強弱とかが。

始めは曲どころではなかった。一つ一つの音階を極めるだけでも難しかった。間違える度に手を見て顔をしかめる。
一週、二週経つごとに徐々に音階も取れ、簡単な曲も途切れ途切れに吹けるようになってきた。
不恰好ながらも自分の努力が報われていく瞬間はとても嬉しくて、夢中で吹き続けた。人間目に見えて実感できる成長の証があると嬉しい物だ。

♪・・・♪・・・

「キラキラ星、で合ってる?」

後ろからの聞きなれた声にハッとして振り向く。そこには見慣れたアイツがいた。

「聞いてたのか。まあご名答と言っておくよ」

「でもキラキラした感じじゃないなぁ。何かデラデラ星って感じ」

「止めろよ恥ずかしい」

ふふ、と笑いながら近づいて来た。そして「前よりマシになったね」とパチパチと手を叩いた。
俺は素直にそれが嬉しくて、今にも空から落ちてきそうなキラキラ星をまた吹き続けた。

「他にも何か吹いてよ」

「俺が吹いたら、枯れた「チューリップの花」や死にかけてる「蜂が飛ぶ」になるぜ」

「やっぱりいいや」と蒼星石は他の曲を聴くのを諦めると「上手くなったら聞かせてね」と言った。
そして3ヶ月が過ぎた今、俺はほぼ完璧にハーモニカを扱えるようになった。
夜、いつもと同じように部屋でキラキラ星を演奏していた。もはやデラデラ星などとは言わせない。

♪~

「すごいじゃん。つい聞き惚れちゃったよ」

パチパチと後ろから拍手が聞こえる。3ヶ月前と同じように蒼星石がいた。どうやら素直に俺の事を褒めているようだ。
そして俺の隣に座ると「約束したやつを聞かせてよ」と言った。俺は一呼吸置くと「チューリップ」曲を吹き始めた。

♪~

「どうよ、黄金のチューリップって感じだろ」

「自分で言うなって」

ぺチンと軽く頭を叩かれると俺は照れ笑いをした。すこし図に乗った俺は「リクエストは」と蒼星石に聞いてみた。

「んー、じゃあ「くんくん探偵のテーマ」とか」

「ゴメン無理」

図に乗った俺が間違いであった。蒼星石が無理難題を押し付ける癖があるのを忘れていた。
その後も2、3曲無理な注文をされ、全て断ると「つまんないの」と頬を膨らませて見せた。
その時自作した曲がある事を思い出した。

「じゃあさ、これ聞いてくれよ。俺が考えたんだけどさ」

「「」君の考えた曲?どうせエッチな感じの曲なんでしょ」

「まあ聞けよ」と蒼星石を宥めると曲を吹き始めた。自分のガラではないが青い薔薇をイメージして作った曲だ。
優雅で、華麗で気高い中にも優しさと憂いを込めた青い薔薇。そう、まるで蒼星石のような。
冷静でクールな青と、燃えるような情熱の赤が曲の中でクロスする。伝わるか分からないが蒼星石の性格を表現したつもりだ。
。曲が終わった時、俺ははあはあと息を切らしていた。思えばこの曲を吹くのはこれが始めてであった。

「どうよ」

「凄いじゃない。少し見直したかな」

決していつものポーカーフェイスを崩さない蒼星石に、俺が頭を下げるような気持ちになった。
だが今蒼星石はすごく興奮している。

「それは良かった。では拝聴料をいただきましょうか」

「拝聴料?・・・ゴメン!!今ボクお金ないんだ」

パン、と手を合わせ頭を下げる蒼星石に、「いや、そうじゃなくて」と言おうとした時、蒼星石の顔が俺の頬に近づいてきた。
蒼星石の柔らかな唇が俺の頬に触れた。蒼星石の匂いが鼻腔をくすぐる。俺は情けなくも固まったまま動けなかった。
暫くすると俺の頬から唇を離すと恥ずかしそうに言った。

「これで勘弁してくれるかな?」

突然の事で、俺は只こくこくと首を縦に振る事しかできなかった。それにしても俺が求めようとした拝聴料を自ら払ってくれるとは。
頬を染めながら部屋を出て行こうとした蒼星石がピタリと立ち止まった。そしてクルリとこちらを向くと笑顔で言った。

「また曲ができたら聞かせてね。もっと聞いてみたいな。君だけの音色をさ」

実はもう考えてある、とは恥ずかしくて言えなかった。一人の部屋にハーモニカの音が響く。
陽気な、でもどこか涼しげで寂しげなその曲は隣の想い人の元に届いているだろうか。
聞こえますか、これがアナタへの思いを綴った曲。タイトルは・・・「孤高の青薔薇」です。

fin