□Sな蒼星石との幸せな日常

【8.お買い物(1)】

翠星石に行為を見られた翌日、つまり昨日は仕事があまり手につかなかった。
まだ若いとは言え、限界まですれば相当体力を使う。
それに最近の蒼星石がどうにも気になる。
良くは分からないが、思い詰めている様な時がある気がする…
俺に迫ってくるのも無理しているんじゃないかとも思う。
気のせいであれば良いのだけれども。
人間不信なのがいけないのだろうか…最低だな、俺は。
そんな事を考え、もやもやとした気持のまま一日が過ぎる。
そして昨晩は俺の疲れを察してか、蒼星石が俺を求めてくることも無かった。
……
………

蒼「マスター、まーすーたーあ!もう10時だよ!おーきーてー!」

む…もうそんな時間か、仕事の疲れがたまっているようだな…
必死に起こす蒼星石が可愛いので薄目を開け様子を伺うことにした。

蒼「(あ、薄目開けてる…もう!起きてるじゃないのさ…そうだ!)
  んもう、買い物行くって言ったのマスターなのに。
  マスター、休みはいつも寝てばっかりだからなあ。
  まるで眠り姫みたい。そうなると…さしづめ僕はお姫様を起こす王子様と言う所かな。
  ちょっと不本意だけれども。じゃあ、起こすにはやっぱりキスで…んっ」

ベッドがギシ、と音を立てる。
甘い香りの後、蒼星石の舌が俺の口内に侵入した。
…柔らかい唇に挟まれ、吸われ、俺の唇が食べられてしまうのではないかと思った刹那、
名残惜しそうに唇が離れる。

俺「あ…」

寝たふりをするのも忘れ、思わず声をあげてしまった。

蒼「ふふ、寝たふりなんてダメですよ、マスター。」
俺「あ、あぁ…ごめん。」

にっこりと笑う蒼星石の笑顔は暗い気持ちの俺には眩しすぎる。

蒼「ね、早く買い物行こうよ?あ、あとお寝坊さんと寝たふりの罰で朝御飯抜きだからね。」
俺「む…わかった。朝ごはんはいいや、もうすぐお昼だし外食しちゃおうか?
  蒼星石の好きなものなら何でもいいからさ。」
蒼「うーん…マスター」
俺「お、俺!?」
蒼「と、一緒に食べれるなら何でもいいのだけど、どうしようかな?」
俺「あ、あぁ…ありがとな。」

意地悪っぽく微笑む蒼星石。
嗚呼、ドキドキした…すぐに性的な意味で考え、更にはそういう事を期待してしまっている
俺はダメな人間なのだろう。俺は蒼星石のマスターに相応しい人間なのだろうか…

蒼「マスター…どうしたのさ?表情が暗いよ。えっちじゃないから残念だった?」
俺「あ、いや、別に…な。」
蒼「…僕のことキライになってしまった?やっぱり他の子と比べて魅力無いもんね…」

蒼星石が切なそうな顔をする。俺のせいだ…いつも彼女には笑顔で居て欲しいのに。

俺「そんな事絶対無いよ、俺は愛してるから!いつまでもだらだらしていても仕方ないから
  支度してくるな、蒼星石も出かける準備と食べたいもの決めといて!」

気まずさと恥ずかしさに耐えきれず一息に言い切る。そして俺は慌ただしく準備を始めた。
……
………

俺「おまたせー」
蒼「僕も準備出来たとこ、お昼ごはんも決めたよ。僕はパスタが良いなぁ…
  マスター、美味しい店知ってますか?」
俺「お、パスタか!任せといて、いいお店知ってるんだよ…ってその服は。」
蒼「うん、マスターに前買って来てもらったやつだよ。」

薄いピンクのドレスシャツにグレーのジャケット、黒いブーツカットのパンツに真っ白なブーツ。
頭には白の大きめなキャスケット。
ああ、可愛いなぁ…大人びた格好と子どものような体型のギャップ、少しうつ向きに恥ずかしがる
蒼星石に思わず俺の顔は綻んだ。

蒼「マスター、急にニコニコしちゃってどうしたのさ?」
俺「いやね、こんな可愛いい子とデートに行けるなんて俺は幸せだなと思ってな。
  それに家だと中々着てくれないから嬉しいよ。」

さっきまでの気分が嘘の様に晴れやかだ。

蒼「そんな…デートだなんて…マスター///」
俺「照れる蒼星石も可愛いなあ。」
蒼「もう、褒めたって何も出ないよ!ほら、早く出かけるよ?」

顔を真っ赤にさせ、俺の手を引く蒼星石。

蒼「鍵もちゃんと閉めてね。」
俺「あいあい、分かってるよ。」

なんだかんだで家を出るまでにずいぶん時間がかかってしまった。
まあ、時間はたっぷりある。ゆっくりと休みを満喫しよう。

俺「蒼星石、まだ手繋いだままだな…せっかくだからこのまま行こうか。」
蒼「う、うん。」

夜とは全く様子の違う蒼星石。
それを言えば俺も同じか…あんなはしたなくお願いをしてしまうのだから。
……
………

自宅から最寄り駅まで凡そ1km。手を繋ぎながら歩くとあっという間だ。
隣の駅まで僅か3分、勿論電車さえ来ればの話だ。
隣駅は都内でもっとも人口が多い市の主要駅で常に人がごった返している。

俺「さて…もうすぐ12時か。先に買い物だと慌しくなっちゃうからご飯にしようか。」
蒼「そうだね、マスターおすすめのお店、期待しているよ。」
俺「う…ちょっとプレッシャーだな。すぐそこにあるんだ、んじゃ行こうか。」

蒼星石の手を引き駅ビルの中に入る。
上に昇るのにエレベーターに乗るのではちょっと味気無い。
エスカレーターでデパートの中を見ながら行くことにした。

俺「お、子供服売り場か。帰りに見ていくか?」
蒼「僕…子供じゃないですよ!」
俺「いやな、サイズ的に。あと、子供服も結構馬鹿にしたもんじゃないよ。
  ほら、今蒼星石が着ている服はそこの売り場で買った奴だしな。」
蒼「え…そうなの?」
俺「親がバブル世代なのか知らんけど、ブランド服とかも多いんだ。」
蒼「意外と詳しいんですね。まさか…」
俺「いやいやいや、違うって。蒼星石の服を選ぶときにちょっと勉強したんだよ。
  折角なら素敵な服を買って帰りたかったからな。」
蒼「ありがとう…嬉しいよ。」
俺「それじゃあ、帰りに寄って行こう。先にご飯だご飯。腹減ったぞ!」
蒼「ふふ、仕方の無いマスターですね。」
……
………

調度お昼時と言うこともあって店は少し混んでいる様だったが、
運良くすぐに席に座ることができた。

俺「さて…と、何にしようか。イタリア料理のお店だからピザもあるんだけど、
  パスタで良いかな。ここのは生パスタで食感がもちもちしてるんだよ。
  乾燥パスタよりも風味も良いんだ。いい小麦を使っているなら尚更だよ。
  それにね、ソースの絡まりも良いんだ。」
蒼「マ、マスター随分と詳しいんですね…」
俺「美味しいものを食べるのは趣味みたいなものだからね。
  蒼星石が来る前はそれしか楽しみが無かったとも言えるな…」
蒼「それじゃあ、僕がご飯を作らない方が良いですか?」
俺「いやいやいや、蒼星石の作るご飯は絶品だよ。毎日食べても飽きない。
  でも、たまにはラーメンとか食べたくなるね。あれは家じゃ作れない。」
蒼「そしたら…また今日みたいに外食しに来たいなあ。
  色々と味の勉強になるかもしれないし…ダメかな?」
俺「うん、そりゃいい。一人よりも二人で食べた方が美味しいからね。
  じゃあ、俺はシンプルなペペロンチーノにしようかな。
  ちなみに、ペペロンチーノはイタリア語で『唐辛子』という意味なんだ。
  正確には『スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ』って言うんだけどね。
  ちなみに、アーリオはにんにく、オーリオは油のことだよ。主にオリーブオイルかな。」
蒼「マスター…本当に食べることが好きなんですね。凄く楽しそうに話してる。
  また…新しいマスターの表情が見られて良かった。」
俺「はは、なんか照れるなあ。蒼星石は何にするんだ?」
蒼「そうだね…何かオススメはありますか?」
俺「うーん…そうだな、無難な所でカルボナーラ何てどうかな?
  北イタリア風のは生クリームを使わないからあまり重たくないんだ。」
蒼「じゃあそれを頂きますね。何だかマスターの意外な一面が見えたよ…」
俺「たまには外に出てみるもんだろ?じゃあ、頼もうか。ついでに俺の好物もっと。」

メニューを注文するとすぐに飲み物を持ってきた。
格好つけてワインと洒落込みたい所だが生憎俺は酒が苦手だ。
蒼星石と仲良くオレンジジュースを頼むことにしたのだ。

蒼「今日は暑いからすぐ喉が渇いちゃうね。」
俺「そうだな…俺はにんにくが入っているのを食べるから牛乳飲まないとなあ。
  とりあえず帰ってからで良いか。」

20分ほど蒼星石と会話を楽しんでいるとパスタが運ばれてきた。

俺「お、きたきた。ちなみに生パスタは冷めるとくっつき易くなるから、
  出来るだけ温かい内に食べないといけないんだ。」
蒼「それじゃあ急いで食べなきゃ!」
俺「はは、そこまで急ぐ必要も無いから味わって食べような。」

ペペロンチーノは以前食べたこともあり、期待通りの味だ。
にんにくとオリーブオイルの香り、アクセントの効いた唐辛子の辛さ。
生パスタの豊かな小麦粉の風味にもっちりとした食感。
ああ、パスタを食べに来て良かった。
そんな至福を感じながらパスタを口に運んでいると蒼星石の視線が。

俺「どうした蒼星石?口に合わないか?」
蒼「ううん、そんな事無いよ。マスターがあんまりにも美味しそうに食べるものでね。」
俺「いやはやお恥ずかしい。そうだ、ペペロンチーノ食べてみるか?
  あと、ちょっとカルボナーラも食べたいな。」
蒼「良いですよ、じゃあ…先にこちらからどうぞ…」

蒼星石がスプーンの上でくるくるとパスタをフォークに巻き付ける。
ほんのこういった仕草ですら可愛く感じる。蒼星石の可愛さは異常だ。

蒼「…はい、できた。マスター、あーん♪」
俺「あーん♪」

ベーコンに卵黄、チーズの組み合わせが何とも言えない。
下手な人間が作ると卵白が入ったり火加減を間違えたりすると台無しになってしまうが、
実によく出来ている。蒼星石に勧めた甲斐があったというものだ。

俺「うん、美味しい美味しい。じゃあ、俺のも…あーん♪」
蒼「…あーん♪」

昔夢見た恋人像はこれだったのかも知れない。ああ…幸せだ。

蒼「ところでマスター、それは何?」
俺「お、これか。これはな、俺の大好物なんだ。モッツァレッラチーズとトマトのサラダだよ。
  モッツァレラチーズは本来水牛の乳を使って作るんだけど牛の乳でも作れるんだ。
  呼び方が違うんだけどまぁ、それはいいや。
  オリーブオイルとバジリコの香りがまたいいんだ…ちょっと一つ頂こうかな。」
蒼「それじゃあ僕も頂くよ…ん、美味しいね、これ!」
俺「ゥンまああーいっ!こっこれはああーっ!この味わあぁーっ!
  サッパリとしたチーズにトマトのジューシー部分がからみつくうまさだ!」
蒼「マ、マスター?」
俺「あ、いや、すまん。ちょっと取り乱してしまったな。
  水を飲んだら涙を流したり、サラダを食べて肩を掻き毟ったりしないから安心してくれ。」
蒼「???」
俺「まぁ、良いんだ。いつか蒼星石も味に目覚める時が来るよ。
  さ、冷めてしまうと勿体無いからあと少し、食べきってしまおう。
  デザートにはプリンを頼んでおいたからさ。」
蒼「マスター、甘いもの好きだもんね。少なめにしておいて貰って良かったよ。
  マスターが食べている量じゃ…僕はお腹一杯で食べられない所だった。」
俺「ははは、でも蒼星石に満足してもらえたようで良かった。
  食後には油物いっぱい取っちゃったから烏龍茶でいいかな。」
……
………

俺「ふぅ、満足満足。美味しかったな!」
蒼「うん、凄く美味しかった。また来ようね。」
俺「まだ美味しいお店沢山知ってるからな、楽しみにしててね。」
蒼「食べ物だと凄い行動力あるんだね…凄いなあ。
俺「ははは。まあ趣味だしね。
  さっ!買い物を続けましょうか。次は約束した…洋服デス。」
蒼「(なんかいつもと違うなあ…?)うん、そうだね。」

こうして俺と蒼星石は買い物を続けることにした。
蒼星石の笑顔が見れて本当に良かった。
俺の趣味も案外役に立つものだな…
そして…家にあるジョジョは全然読んで貰えてないみたいだな。
家に居る時暇かもしれないから勧めてみよう。
ベッドの下のあんな本を見られる前に言っておけば良かったか…



→第9話に続く。