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翠:「なんですかぁ、その反抗的な目は……?」
マ:「………」
翠:「まったく……、翠星石だって本当はこんなことしたくはないのですよ」
   嘘つけい。嬉々としてやってるのがありありとわかる。
翠:「でも愛すべき我が妹が辱められたとなると、さすがの翠星石も黙ってられないのです」
マ:「辱められたぁ……?」
翠:「忘れたとは言わせねぇですぅ! あんな、あんな…!」
   やべやべ、翠星石がまた興奮してきた。
   やっぱり今朝の列車内での出来事を相当根にもっていたようだ。
マ:「いや、あれはね双方合意の上でのね、スキンシッ……ぶげ!」
   弁明むなしく、ハリセンで顎を打ち抜かれた。
マ:「顎がぁっ」
み:「あ、いけない。昼食当番なのすっかり忘れてたわ」
   みっちゃんは慌てながら時計を覗き込んだ。
   昼食当番はみっちゃんとのりちゃんだった。
み:「あたしロッジに戻るわね、カナ、撮影の方任せたわよ」
金:「わかったかしら~」
   みっちゃんがいなくなった後、翠星石の目がキラリと光った。
翠:「さて、次の拷問に移りますか。金糸雀!」
金:「あいあいさーなのかしら!」
   金糸雀がポシェットからごそごそと何かを取り出した。
   緑色の液体が入った小瓶……? それとシャベルだ。
マ:「なんだなんだ?」
翠:「さぁ、たっぷり食わせてやるですぅ」
   たっぷり? 食わせる?
   金糸雀はシャベルに大盛りの雪を掬うと、その上に緑色の液体を振りかけた。
翠:「あの苦しみを再現してやるのですぅ」
マ:「……?」
金:「さぁ口を開けるかしら……!」
   金糸雀が俺の口元に雪が載ったシャベルを差し出す。
   緑色に染まった雪が毒々しい。
   甘ったるい匂いが鼻をついた。 この匂いは…
マ:「わ、こ、こら、やめんか、もが、もがが」
   金糸雀は容赦なくそれを俺の口に流し込む。
マ:「もががが…!」
   甘っ。この甘さは間違い無くメロンシロップだ。
マ:「もががががががっ」
   ああ、こんな冷たいもの、いっぺんに食わされたら……!
   キーンキーンキーンキーン……!
   きたきたきたきた!
マ:「うぐおわあああああ」
   アイスやカキ氷を勢いよくかっ食らうと起こるあの頭痛現象が俺を襲った。
翠:「さぁ、金糸雀、もっと食べさせてやるですよ」
金:「あいあいさーかしら!」
マ:「もがががが……シャリシャリシャリ……」
   キーンキーンキーンキーン!
マ:「ぐああああ!」
   なにこの拷問?
マ:「やめ、やめろぉ! もが、もががが!!」



蒼:「!」
真:「………」
蒼:「今、確かにマスターの悲鳴が……」
真:「ふふ、あのミーディアムいったいどんな拷問を受けているのかしらね」
蒼:「ご、拷問!?」
真:「捕虜と言えば拷問。そう翠星石は息巻いていたわ」
蒼:「た、助けに行かなきゃ!」
   慌てて駆け出す蒼星石。
   だが横手の真紅から雪球がすっ飛んできた。
蒼:「っ!」
   すんでのところでかわす蒼星石。
真:「無視してもらっては困るわね」
蒼:「君の相手をしている暇は無いんだ」
真:「そんなにあのミーディアムのことが心配?」
蒼:「心配さっ」
   真紅は軽くやれやれと溜め息をついた。
   そんな真紅の態度も構わず蒼星石は走り出す。
   だが、真紅は目を瞑ったままポツリと呟いた。
真:「今朝の列車内でのことなんだけど」
   蒼星石の足がピタっと止った。
蒼:「………?」
真:「ミーディアムと仲がいいのは結構なことだけど、もっと人目を憚った方がいいと思うわ」
蒼:「………え」
真:「あなたって、耳、弱いのねぇ」
蒼:「!!!」
   蒼星石の顔に驚愕の色が広がった。
蒼:「ななななな!」
   ここで初めて蒼星石は、真紅に列車内でのマスターとの情事を見られていたことを知ったのだった。
真:「レディーが自分の耳を刺激されて「はぅう」だなんて、誰の趣味かしら」
蒼:「きっ、きききき、君を倒す!!」
   見事なほどに激昂する蒼星石だった。



   雪を大量に食わされ、だんだんと寒気が俺を襲ってきた。
   ガタガタガタ
翠:「どうしたですかぁ、そんなに震えて」
マ:「見りゃわかるだろう。寒いんだよ」
   ガチガチガチ
   あまりの寒さに歯まで鳴ってしまう。
マ:「ちくしょー、蒼星石さえ来てくれれば、お前達なんぞ……一網打尽に」
翠:「それは無理な話ですぅ」
マ:「?」
翠:「蒼星石には真紅が向かっているです。 そう簡単には来させねぇですよ」
マ:「な、なんてこった。真紅の姿が見えないと思ったら……」
   俺の知らない間に翠星石は磐石の体制を整えていたのだ。
マ:「それでも蒼星石なら…、蒼星石ならきっと来てくれる!」
翠:「さぁ、どうですかねぇ…」



ジ:「………」
   ジュンが雪玉を転がす手を休めて蒼星石が走り去った方向に目を向けている。
巴:「どうしたの?」
ジ:「いや、他のやつら来ないな、って」
   一向に相手チームが攻めてこず、やることがない。
   のりもみっちゃんと一緒に昼食の準備をしにロッジに戻ってしまった。
   そこで、ジュン、巴、雛苺はしかたなく暇つぶしに雪だるま作りなんかに精を出していた。
   雛苺が小さい体ながら、頑張って雪玉を転がしている。
巴:「桜田くん、あんまり大きくすると雛苺の作ってる頭の部分と釣り合い取れなくなるから…」
ジ:「じゃあ、これぐらいでいいか」
雛:「トモエ、まだ転がした方がいい?」
巴:「うん、あとちょっとよ。頑張って」
雛:「はいなの! う~んしょ、う~んしょ」



蒼:「この、この!」
   懐に用意していた雪球を次々と真紅に放る蒼星石。
真:「ふふふ、甘いわね」
蒼:「たぁ!」
真:「こっちよ」
   だが冷静さを失った蒼星石は真紅に翻弄されっぱなしだ。
   直線的な攻撃は真紅に通用しない。
真:「こちらからもいくわよ」
   真紅は雪球を一掴みすると蒼星石に放った。
蒼:「遅いよっ」
   余裕たっぷりにかわす蒼星石だったが
蒼:「!?」
   雪球は急に軌道を変え、蒼星石に迫った。
   ありえない動きに蒼星石が戸惑う間に、雪球は蒼星石の顔面に炸裂してしまった。
真:「あと二回当てれば私の勝ちね」
蒼:「???」
   何が起こったのかわからず顔面雪まみれのまま唖然とする蒼星石。
   だがすぐに足元に赤い薔薇の花びらが落ちていることに気付いた。
蒼:「これは……、まさか真紅!」
真:「さすがは蒼星石ね、早々に気付かれてしまったのだわ」
   そう。真紅は雪球の中にこっそりと薔薇の花びらを仕込んでいたのだ。
   真紅が薔薇の花びらを自在に操る能力を持っていることは周知の事実である。
蒼:「卑怯じゃないか! ローゼンメイデンの能力を使うなんてっ」
真:「あら、自分の持てる全ての力を使って戦うのが勝負相手に対する礼儀じゃなくて?」
   言っていることの道理はともかく、あくまで真紅は冷静だった。
真:「今のあなたにかわしきれるかしら……?」
   真紅は自信たっぷりに次々と薔薇の花びら入りの雪球を放った。
   迫りくる雪球二つを前転でかわす蒼星石。
   むなしく空を切った雪球だったが、地面に当たるすれすれで急浮上し、
   大きくカーブを描いて再び蒼星石目掛けて迫ってきた。
蒼:「くっ」
   真紅はもう次の投球モーションに移っている。
   このままでは分が悪い。   
蒼:「そっちがその気なら……! レンピカ!」
   庭師の鋏を手にした蒼星石は二つの雪球を瞬時に切り払った。
真:「!」
蒼:「こちらも本気でいかせてもらうよ…!」
   真紅を見据えてゆったりと、それでいて一分の隙も無く身構える蒼星石。
   形勢が再び均衡を保ち始めた。
真:「いい眼になってきたわ、貴女。あの時のような」
   なぜか嬉しそうに真紅は微笑んだ。



マ:「さむいよさむいよ」
   ガタガタガタ
   寒気は増すばかりだ。
金:「ねぇ、翠星石、そろそろマスターさんのこと、許してあげてもいいんじゃないかしら?」
マ:「さむいよさむいよ」
翠:「いいや、まだまだ灸を据え足りねぇです。 放っておけばまたこの男は蒼星石に不埒を働くに決まってるです」
金:「でもこんなに寒がってるかしら」
マ:「さむいよさむ………、おんやぁ?」
   契約の指輪がチリチリと熱を放っている。
   蒼星石に何かあったのか?
マ:「…………。 そうか。なら、大丈夫か」
金:「何言ってるかしら?」
翠:「そうですか、まだ大丈夫ですか。いい根性してるですぅ」
マ:「いや、違う、違うって!」
翠:「さぁて、次はどんな懲らしめをしてやろうですかねぇ」
マ:「なぁ、いい加減この縄を解いてくれよ……」
   俺はなるたけ同情を誘うよう、弱々しく哀れな声で訴えた。
翠:「ダァメですぅ~。この機会にみっちりとどちらが上か教えてやるです」
マ:「そんなぁ、許してくれよぅ。頼むよぅ。ああ、さむいさむい」
翠:「………」
   翠星石の動きが止まった。
   お、もう一押しか?
マ:「ああ、凍え死んでしまう~」
翠:「まったく、しょうがねぇですねぇ」
   翠星石はそう言うと、水筒からホカホカと湯気を立てるお茶を注いだ。
翠:「ほら、さっさと飲むですよ」
   口元にお茶を差し出してくれる翠星石。ううむ。
マ:「ぐび…あちゃ、あちゃちゃ、ふー」
   あったけぇ。
   指輪も。
マ:「ありがとう」
翠:「れ、礼を言われるほどのことじゃないですよ」



蒼:「たぁ!」
   蒼星石は一振りでいっぺんに三つの雪球を払い落とし、一気に真紅との間合いを詰めた。
   蒼星石はジャンプし、太陽を背にして真紅に向けて大きく雪球を振りかぶった。
蒼:「この至近距離なら外さないよっ」
   太陽の光を手で遮りながら真紅が叫ぶ。
真:「それは、こっちも同じなのだわっ」
蒼:「!」
   もう尽きたと思っていた真紅の雪球が、なんと地面の雪から飛び出してきた。
   その数三つ。さながら対空ミサイルのように蒼星石に襲い掛かる。
蒼:「ぐっ」
   体を捻って回避しようとするが間に合わない。
   雪球が一つ蒼星石の脇腹に着弾した。
   着地動作が充分に取れず、蒼星石は雪上に倒れこんだ。
   この瞬間、真紅が一本取ったかに思われたが
真:「やるわね」
   真紅の右肩にも雪球が着弾していた。
   蒼星石は姿勢を崩しながらもサイドスローで雪球を放っていたのだった。
蒼:「まだだよ」
真:「え?」
   真紅が戸惑いの視線を投げかけた刹那
   蒼星石は帽子の中から雪球を取り出した。
蒼:「えい」
   もう雪球は持ってないと油断していた真紅はあっさりと顔面に雪球を浴びた。
真:「………。 本当に、いやらしい帽子ね……」
蒼:「お互い様だよ。いつの間に地面に雪球なんて仕込んでたんだい?」
真:「あなたがここに来る前に。ふぅ、冷たい」
   顔の雪を払う真紅。
   しかしその表情は妙に晴れ晴れとしている。
蒼:「なるほどね」
   蒼星石も体に付着した雪を払いながら立ち上がった。
   お互いに、あと一回雪球を当てられるとリタイア、それと雪球は尽きている。
蒼:「………」
真:「………」
   どちらがより先に雪球を作り、当てられるか。
   二人は互いに見据えあったまま膠着状態に入った。



翠:「蒼星石、来ないですねぇ~」
   嫌味たっぷりに翠星石が言ったが俺は満足に反応できなかった。
   寒い。寒すぎる。
マ:「うううう」
   なんだか指輪が熱くなってから、寒気がより一段と酷くなってきた。
   蒼星石、あんまり指輪から力を吸い取らんといて…。
   体温低下甚だしい。
   ガタガタガタガタ
マ:「あ、あの、茶をもう一杯…」
翠:「調子に乗るんじゃねぇですっ」
マ:「翠星石のお茶、とても美味いんだよ。頼むよ」
翠:「そ、そんなに飲みたかったらこれでも飲みやがれですぅ」
   翠星石は庭師の如雨露を俺に振りかざした。
   俺の頭に水を浴びせ掛ける。
マ:「あああああ……」
   ガタガタガタ……
金:「あー、雪が降ってきたかしらー!」
   ガタガタガタ……
   指輪は、なお熱をはらみ続けていた。



                                 「スノーレジャー その6」に続く