その日ものんびりと二人でテレビを見ていた。

 マ「面白い番組ないね。」

  次々とチャンネルを変える。

  『シンクロニシティという・・・』
  『大家族スペシャル・七人姉妹と親せ・・・』
  『・・・本日は不思議な双子の世界についてごらん頂こう!』

 蒼「そうだね、どれもいまひとつかなあ。」

  膝の上の蒼星石が答えた。

 マ「じゃあ、ポチッとな。」

  テレビを消す。

 マ「さてどうしようか?」
 蒼「何がいいかな?」
 マ「あ、そうだ。今日買ってきたくんくんのDVD見ようか?」
 蒼「買えたの!?」
 マ「うん、ちゃんと限定版を買えたよ。」
 蒼「わあ、ありがとう。」

  蒼星石が嬉しそうな顔をする。

 マ「ちゃーんとオマケも貰ってきたからね。」
 蒼「やったあ。だけどそのオマケのせいで値段が急に高くなっちゃうんだよね、ごめんなさい。」

  せっかくのまぶしい笑顔が曇ってしまった。

 マ「まあこんな商法はよくあるしね。それにお金の問題じゃないよ。
   さっきみたいな蒼星石の笑顔が見られるのならいくら出してもいいくらいさ。」

  そう言って蒼星石の頭をそっと撫でる。

 蒼「うん、ありがとう。」

  蒼星石がこちらに身を預けてくる。
  なんとなくいいムードになったところで立てかけてある鏡が光を放ち来訪者を知らせる。

 マ「また翠星石かな、やれやれ。」
 蒼「いつも急に来るんだもんな。」

  後ろ髪を引かれる気持ちで蒼星石を横に静かに下ろす。

 マ「・・・おや?」
 蒼「あれ?・・・いらっしゃい。」

  現れたのは意外な人物だった。

 真「あら、私がお邪魔しちゃまずかったかしら。」
 マ「いや、ようこそ、真紅。」
 蒼「てっきり翠星石かと思って。」
 真「まあ連絡もせずに急な訪問になった非礼は詫びるわ。
   ただそうせざるを得ないちょっとした事情があったのよ。」
 マ「事情ってのはその大荷物と関係も?」
 真「何も無い訳じゃないわね。」

  真紅は両肩からバッグを提げ、風呂敷包みまで背負っている。
  まるでピクニックにでも行くかのような出で立ちだ。

 蒼「これからどこかに出かけるの?」
 真「違うわよ。ここに出かけてきたの。」
 マ「ここが目的地?なんでそんな荷物があるのさ。」
 真「それはしばらくご厄介になるからだわ。」
 マ「はあ?」
 蒼「どういう事だい、真紅?」
 真「ジュンが・・・」
 蒼「ジュン君の身に何か?」
 マ「お受験のための勉強とか?」
 真「違うわ、下僕の立場を忘れて逆らうから家出してきたの。」
 蒼「家」マ「出?」

  真紅の口から思いもよらぬ単語が飛び出た。

 真「そうよ、しばらくあの家には帰らないわ。」
 マ「なんでまた家出なんて・・・。」
 真「事の起こりは今日発売のくんくんのDVDよ。」
 蒼「買えなかったとか?」
 真「いいえ、通販というヤツで手に入れたの。だけどジュンがそれで怒ったのだわ。」
 マ「勝手に買ったとか?」
 真「いいえ、買ってもいいとは言っていたわ。ちゃんと約束済みよ。」
 マ「そりゃあまあ、ジュン君の方がひどいのかなあ。」

  確かに安い買い物ではないがその位は認めてもいいのではなかろうか。

 真「挙句の果てに返品するとまで言い出したのよ。
   だから大急ぎで荷物をまとめてDVDを持って逃げてきたのだわ。」
 蒼「それでほとぼりが冷めるまでは家に帰らない、と。」
 真「そういうこと。せっかくだし今から鑑賞させてもらってもいいかしら?
   あなた達はテレビは見ていなかったみたいだけど。」
 マ「ああどうぞ。ちょうど僕らも今そいつを見ようとしてたし。」
 真「じゃあ決まりね。私のDVDで見せてあげるわ。」

  真紅が荷物から包みを取り出して開く。

 蒼「ありゃ?」
 マ「ちょっと待った。」
 真「何かしら?」
 マ「そのDVDさ、翠星石や雛苺たちの分も買ったの?」
 真「まさか。あの子達には私のを見せてあげればいいのだわ。
   わざわざ別個に買っても無駄じゃないの。」
 マ「ですよねー。」
 蒼「だけどどう見ても複数枚あるよね。」
 マ「うん、4つあるようにしか見えない。不思議!」
 蒼「ああ、ジュン君に取られないようにダミーを用意したとか?」
 マ「ああ、箱だけの偽物ね。」
 真「全部私のもので本物よ。」

  真紅がきっぱりと言い切った。

 マ「・・・・・・。」
 蒼「・・・・・・。」

  蒼星石も半ば予想してはいたようだが、信じられない答えに二人して言葉を失う。

 真「あら、ネットというもので仕入れた情報では複数買うのが基本だそうよ。」
 マ「そんなに買っても意味無いでしょ。」
 真「そんな事は無いわ。『観賞用』、『保存用』、『予備用』、『布教用』の4つ。
   これらはコレクターには必須だそうよ。
   まあ私の場合はコレクションのためというよりは愛情からかしらね。」
 マ「布教ってそいつを誰にあげるのさ。」
 真「あげるだなんてもったいない事する訳ないでしょ。」
 蒼「それも無駄じゃないの?」
 真「くんくんへの愛情で一介のコレクターごときに負けるわけにはいかないのだわ!」
 マ「あっそう・・・。」
 蒼「4つとも限定版だよね、結構な金額になるんじゃないかな。」
 真「そうかもねしれないわね。でもジュンは限定版を買ってもいいと確かに言ったわ。」
 マ「4つも買うとは思ってもなかったと思うよ。」
 真「だったらはっきりと確認しないのが落ち度なのだわ。」
 蒼「そりゃ暴論だよ。」
 真「生きる事は戦い、いわば騙し合いでもあるのだわ。」

  なんだかおっかない事を言ってのけた。

 マ「とにかく!今回はジュン君に賛同するよ。早く謝ってきなよ。」
 真「あらあら随分と薄情じゃない。」
 マ「損得勘定で動くわけじゃあないが、真紅を泊めて私に何か得があるのか?」
 真「ふふ、メリットならあるわよ。」
 マ「え?」
 真「たとえば・・・あんな子がおいたしに来たら守ってあげるわ。」

  真紅に指差されたほうを見たまさにその瞬間、鏡がまばゆい光を放つ。
  そして鏡面の波紋から現れる一体のドール。

 真「なんの御用かしら、水銀燈。」
 銀「真紅・・・。」
 真「一宿一飯以上の恩が出来る予定だから蒼星石達の替わりに私がお相手するわよ?」
 マ「勝手に数泊の予約を入れるないの!」
 蒼「仲直りするなら早い方がいいよ?」

  そんなやり取りを見ていた水銀燈が静かに口を開いた。

 銀「あなたがこんなところに居たとはね、真紅ぅ・・・。」

  忌々しげな水銀燈の鋭い視線を真紅が正面から受け止めた。