マ:「さぁ、みんな乗った乗った」
   降車駅近くのレンタカー屋からファミリーワゴンを借り、俺は駅前で待ってる皆の前に乗りつけた。
   もちろんレンタカーは予め予約しておいたものだが、オプションに
   チャイルドシートを五つも頼むというのはなんというか。
   車を受け渡しする従業員に「もしかして五つ子さんですか?」と好奇の目で訊かれちまった。
   さて。
   俺は蒼星石を助手席に乗せるため、一旦ワゴン車から降りて反対側に廻った。
マ:「ん?」
   助手席の扉前では蒼星石ではなく、なぜか翠星石が待ち構えていた。
マ:「あれ?」
   車中に視線を移すと、蒼星石は後部座席のチャイルドシートに収まっている。
蒼:「翠星石、助手席がいいんだって」
マ:「へ?」
翠:「ほら、ボケっと突っ立ってないでさっさと乗せるです!」
マ:「あ、ああ」
   先程の列車内でのこともある。
   下手に事を荒立ててはあれだ。俺は素直に応じることにした。
   あたふたと翠星石を抱き上げて助手席のチャイルドシートに座らせる。
翠:「あとは自分で付けれるですぅっ」
   俺の手を払いのけ、自分でチャイルドシートのベルトを装着する翠星石。
   ううむ。いったい何を考えてんだろか。
   俺は一抹の不安を覚えつつも、大人しく運転席に戻った。


   まいったねぇ、こりゃ。
翠:「………」
   俺は想像以上に翠星石のご勘気を蒙ったらしく、運転している今もずっと助手席の
   チャイルドシートから睨みつけられている。
   助手席に乗った狙いもだんだんわかってきた。
   恐らく、俺を監視するためか、俺と蒼星石を少しでも遠ざけるためといったとこだろう。
   それにしても、翠星石もそろそろ妹離れしてくれないものか。
   ジュン君がもっと構ってやれば少しは翠星石も落ち着くと思うんだが…。
   俺はチラッと後部座席に座るジュン君をバックミラー越しに見やった。
   女性陣に囲まれて居心地悪そうにしている。
   あんな調子じゃあなぁ…。
   はやいとこ女の子をまめに気遣う器用さを身につけて欲しいもんだ。


   軽快に車を走らせてたところ、前の方で軽い渋滞が起こっていることに気付いた。
翠:「なにかやってるですよ?」
   助手席の翠星石がそう言いながら前方を指差す。
マ:「ありゃりゃ、ありゃあ検問だ」
   遠くの方で警官が車の中を覗き込んで運転手とやりとりをしている。
   パトカーも傍らに停まっていた。
真:「検問とは、なに?」
マ:「まぁ、警察による抜き打ち検査みたいなもんだ」
翠:「なんでそんなことするですか?」
マ:「ちゃんとシートベルトやチャイルドシート着用してるかとか、
   お酒飲んで酔っ払ったまま運転してないかとかチェックするんだよ」
翠:「じゃあ翠星石達は平気ですねぇ~」
マ:「………」
   動く人形は検問に引っかかるだろか。
蒼:「マスター、僕達、大丈夫かな? 怪しまれない?」
マ:「大人しくしてれば大丈夫だと思うが」
   ぶかぶかの冬着に身を包んだ蒼星石達は人間の幼児に見えなくはない、が……
マ:「まじまじと見つめられたらやばいかなぁ。捉まったら厄介そうだな」
巴:「引き返せないですか?」
マ:「もう無理だね」
   そうこうしてる間に俺らの車はどんどん検問に近づいていく。
蒼:「どうしよう、マスター?」
マ:「まぁ、なんとでもなるべ」
   あまり緊張しないよう気楽に言ったつもりだが、ちと無責任過ぎる発言だったようだ。
   車が前進するたび、蒼星石をはじめ、皆だんだんと不安気な面持ちになっていく。
   いかんな、この空気。
マ:「こういう時は笑顔で乗り切りゃいい。ほら、みんな笑顔の準備しなされ」
蒼:「え、ええ?」
   なに言ってるの? と言いたげに一同は戸惑った。
マ:「相手に警戒心を与えないようにするには笑顔が一番だ。ほら、皆も笑顔作って。もうそろそろだぞ」
   もうすでに、すぐ前の車が検問を受けている。
   俺はバックミラー越しに笑顔作りに悪戦苦闘するみんなの様子を眺めた。
蒼:「こ、こうかな?」
   必死に笑顔を作る蒼星石。
み:「ちょっと表情が硬いわね~、もうちょっとリラックスして~、はい、ニッコリ笑って」
金:「金糸雀を見習うかしら。ニコッ」
   難無く自然な笑顔を作る金糸雀。
   さすが日頃からみっちゃん専属のモデルをやってるだけあるな。
蒼:「こ、こう?」
   パシャ!
み:「いい表情が撮れたわぁっ。カナと蒼星石ちゃんの笑顔のツーショット、いただきぃ!」
   こら、どさくさに紛れて写真を撮るな、写真を。けど後で焼き増しお願いな!
巴:「桜田君、どう? 私、自然な笑顔になってるかな?」
ジ:「え? あ、ああ、うん」
の:「私もどう?」
巴:「とても素敵な笑顔ですよ、のりさん。ほら、桜田君も笑顔作らないと」
ジ:「は、はは」
   笑顔作りに勤しむ若人達。いいねぇ。
雛:「うゆ~? みんな何かいいことあったの?」
   事態をよくわかってない雛苺は皆の笑顔につられてニコニコ顔になっている。これはこれで問題無い。
   一方問題なのは……
マ:「なにむくれてるんだい、真紅?」
真:「誇り高いローゼンメイデンが、いちいち人間達の都合で愛想笑いなど、振り撒いてられないのだわ」
翠:「真紅の言うとおりです。アホ人間がうまくやり過ごせば済む話ですよ」
   いやはや、手厳しいことで。
   そうこうしてる間に俺らの番になった。
   応対するためウィンドウを下げる。
   若い婦警さんが二人、車の横に立った。
婦警:「一斉検問です。ご協力お願いしま~す」
マ:「お疲れさまです」
婦警:「免許証拝見できますか~?」
   なんとも間延びした喋り方をする婦警さんだ。
マ:「どうぞ」
   前もって出しておいた免許証を提示する。
婦警:「ご旅行ですか?」
   片方が免許証を見てる間、もう片方が話しかけてきた。
マ:「はい、そうです」
   俺は後ろの座席を振り返りながら答えた。
   みんな精一杯の愛想笑いを浮かべている。
   だが蒼星石とジュン君の笑顔が酷くぎこちない。双方ともこういうことに関しては要領悪そうだ。
   真紅だけはいつも通りの澄まし顔をしている。
   隣の翠星石はと見てみると、
翠:「くうーっ、くうーっ、くうーっ」
   あ、寝たフリしてやがる。
婦警:「可愛いお子さんがたですね~」
   婦警さんが車内をしげしげと覗き込んできた。
   ドールズ達を順に見やっている。
   眠ったフリしてる翠星石、雛苺、金糸雀、蒼星石……
   雛苺と金糸雀は変わらずごく自然な笑みを浮かべているが…、
   蒼星石……、そんな引きつった笑み浮かべちゃ駄目だって……。
   そして最後に真紅と婦警さんの目が合った。
   ツンとした表情を崩さない真紅だったが…
真:「………」
   ニコニコと真紅に手を振る婦警さん。
真:「………」
   真紅は表情を変えない。
   それでもニコニコと手を振り続ける婦警さん。
   これには真紅も根負けしたのか、ニコっと笑顔を返した。
婦警:「きゃー、かわいい~」
   照れくさいのか、少し真紅の頬に朱が差した。
婦警:「ほんと、お人形さんみたいですね~」
   やべ。
マ:「ハハ、もう行ってもいいすかね」
   とうに免許証のチェックは済んでいる。      
婦警:「あ、はい。ご協力ありがとうございました~」
マ:「いえいえ」
   そそくさと車を発進させ、ホッと息をつく俺と一同。
の:「やっぱり間近で見られると緊張しちゃいますね~」
マ:「皆よく頑張ったよ」
真:「ただニヘラニヘラ笑ってただけじゃないの」
ジ:「そういう真紅だって結局愛想笑いしたじゃないか」
真:「っ……」
巴:「でも婦警さんとっても喜んでたよね」
真:「そうね……」
   真紅もまんざらでもないようだ。
マ:「それに引き換え、翠星石。一人だけ寝たフリしてたのはズルいんでないかい?」
ジ:「なんだ、お前。寝たフリしてたのかよ」
翠:「う、うるさいです。翠星石はいちいちこんな茶番に付き合ってられないのですっ」
マ:「くかーくかーって、そりゃもう必死に狸寝入りしてたぞ」
皆:「くすくす」「ははは」
翠:「きぃーー!」

   その後、スーパーで食料などの買い物を済ませ、再び車で移動を開始する。
   それから数十分後

   辺りはもう一面の雪景色になっていた。
   雪化粧した木々から醸し出される一種の静謐さに一同はしばし心奪われているようだ。
マ:「もうすぐ着くぞ」
   それから十分もしない内に目的地であるログハウスに到着した。
蒼:「あそこが今夜僕らが寝泊りするところ?」
マ:「ああ、そうだ」
   ログハウスに車を横付けすると、次々と一同は降車した。
金:「やっと着いたかしら~。…う~~ん」
   長いチャイルドシートの呪縛から解放され、思いっきり体を伸ばしてる。
翠:「寒いですぅ~~」
蒼:「息真っ白だ」
   俺は車のトランクから荷物を引っ張り出し、次々にジュン君達に渡した。
   片手に荷物を持ち、玄関の鍵を開ける。
   扉を開けると俺が入るよりも早く雛苺と金糸雀が突入していった。
雛:「わぁ~、木のお家なの~」
   壁から天井、家具に至るまで、全て木材で出来てることに甚く感動してるようだ。
真:「思ったより広そうね」
蒼:「木のいい香りがする……」
   うむ、評判は上々だ。
マ:「いいとこだろ~」
蒼:「うんっ、すごいや、マスター。こんなとこに泊まれるなんて」
マ:「へっへっへ」
   得意げに胸を逸らす俺に対し、翠星石は冷ややかな声で
翠:「凄いのはこの家をタダ同然で貸してくれるアホ人間の友達の方ですぅ~」
蒼:「それはそうだけど」
   ま、名目上はな。
   さて、
マ:「寝室は二階な。案内するよ」
   階段を上り、各々に割り当てられた部屋に案内し、荷物を置く。
   俺はジュン君と同室だ。蒼星石と別々の部屋なのが残念至極だ。
   防寒具の用意をゴソゴソとしてると同じく防寒具を用意してるジュン君が話し掛けてきた。
ジ:「マスターさん、僕よりも蒼星石と一緒がよかったんじゃないですか?」
   俺の心を見透かすな。
マ:「まぁ、部屋数の関係上しょうがない……、って
   ジュン君だって巴ちゃんや真紅達と一緒がよかったんじゃないのかい?」
ジ:「な、そんなことないですよ」
マ:「言っておくが不純異性交遊は駄目だぞ。俺、今回は一応保護者だからな」
ジ:「そんなことしませんって」
   慌てて否定するジュン君。
   純情なことだ。それに比べて俺はなんと擦り切れてしまったことか。
   身支度を整えリビングに降りてくつろいでると他の皆も降りてきた。
   皆それぞれ防寒具に身を包んでる。蒼星石も。
   耳当て、毛糸の帽子、毛糸の手袋。
   雪国ファッション蒼星石だ。
蒼:「どうマスター、似合ってるかな?」
マ:「うむうむ、似合ってるよ」
   自然と自分の顔が緩んでしまうのがわかる。
   ああ、モフモフしてやりたい。
   服装に関してはみっちゃんに任せっきりだったが、さすがだな。
蒼:「ほんと?」
マ:「ああ。みっちゃんもよく見繕ってく…」
み:「フフフフ、あたしのコーディネートに狂いは無いわ……」
   みっちゃんのメガネがここぞとばかりに光っていた。



   皆揃って外に出る。
   雪国特有の肌を刺す寒さと息の白さ。
   雪は申し分なく積もっていた。
   絶好のスノーレジャー日和だ。
   ふっふっふ。
   この瞬間を楽しむために、わざわざこんな遠出までしたのだ。
マ:「うし、遊ぶぜぇ…!」
雛:「遊ぶの~!」
金:「かしら~!」
蒼:「ふふ」
翠:「ひっひっひっ」


   この後、俺は死にかけることになる。


                                     「スノーレジャー その3」に続く