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前回


  浴場へとやって来た。
  今日は脱衣所に誰も居なかった。
  さっさと汚れを流すと湯船に入る。
  なんとなく誰にも会いたくなくて端っこの方へ歩いていたら声をかけられた。
  「あらあら、お久し振りじゃないの。」
  周囲には他に誰もいないし、どうやらこんなタイミングと場所で知り合いに鉢合わせてしまったようだ。
 マ「あ、どうもお久し振りで・・・す!?」
  適当な返事を返したところで凍りつく。
 銀「なーによ、その反応。失礼しちゃうわぁ。」
  水銀燈が森を背負い、露天風呂を囲う岩場に腰掛けていた。
 マ「いや、ちょっと驚いて・・・。」
 銀「何そんなに距離を取って警戒してんのよ。話し相手も欲しかったしこっちに来なさぁい。」
 マ「いや・・・警戒してるんじゃないけどさ。」
  半ば仕方なくお呼びに答える。
 マ「二人とも何でこんなところに?」
  その疑問に答えてくれたのは水銀燈のすぐそばで湯に浸かっていた少女だった。
 め「湯治よ。」
 マ「湯治!?」
  求める効果は正しいが手段が激しく間違っている気がする。
 め「もうかなり前のことだけど、パパがね、クリスマスプレゼントに何が欲しいかなんて聞いてきたのよ。
   あまりに見え透いたご機嫌取りだったんで困らせてやろうと温泉に行きたいって言ってやったんだけど・・・
   真に受けちゃったみたいで私も忘れた頃に行っておいでって言われたの。」
 マ「よくお医者さんが許してくれたね。」
 め「大方グルなんでしょ。経過が良好だから、とか言ってたけど内心では厄介払いしたくてたまらないんじゃないのかしらね。」
 銀「あなたって相変わらずね。」
 め「それともどうせすぐ死ぬならその前にやりたい事をやっておけって事かしらね。」
 マ「しかしこんなところまでじゃ移動も一苦労でしょ。」
 め「まあね。いろいろと乗り継いで休み休み来たけど結構疲れたわ。」
 マ「体への負担も大きいんじゃ・・・。」
 め「そうね、命に関わるかもね。もっともいっそ死んじゃえばいいと思われてるのかもしれないけど。」
 銀「いい加減になさいよ。」
 め「だってそうでしょ!都合がつかないから一緒には行けないけど、たまには気ままに一人旅でもしろって・・・。
   そんなの放任じゃなくって放棄じゃないの!
   離れていてもお前の事は大事に想っている?想ってくれただけで何かが叶うって言うの?」
 マ「確かにいくら想っていても、結果的に何もしてあげられなかったら意味がないのかもね。」
 銀「めぐ、それはあなたが看護する人の同行を断ったからでしょ。わざわざ予定まで合わせてくれたってのに。」
 め「義理や義務でそばにいられても息苦しいだけよ。一方的に何かしてもらうだけなんてごめんだわ!」
 マ「・・・そうかもね。」
  相手がいろいろと与えてくれるのに何一つ返せない、その苦痛は分かる気がする。
 め「あなた珍しいわね。大抵はこんな事を言うと無理しなければいつかきっと良くなるさ、だとか
   そんなの手を差し伸べるのが当然だ、とか上から物を見た無責任な慰めや綺麗事が返ってくるのに。」
 マ「まあ・・・ちょっとね。とりあえず帰りも無理しないで気をつけなよ。」
 め「別に構わないわよ。あんなところで死ぬまで閉じ込められるなら広い空の下で水銀燈に看取ってもらうのもいいかもね。」
 銀「馬鹿言わないでちょうだい。そこまでお付き合いする義理は無いわ。
   それに帰りは場所が特定できるから、あんな面倒をせずnのフィールドを利用して帰っちゃうわよ。」
 め「そう・・・それは残念ね。」
  水銀燈がこちらを向いた。
 銀「ところで・・・あなたがここに居るって事は当然蒼星石は居るのよね。他の連中も来てるの?」
 マ「それを聞いて・・・どうするんだい?」
 銀「さあ?まあローザミスティカの一つもあればめぐに力を与えながら一緒にのんびりと帰るのもありかしらね。」
 マ「・・・それは・・・本気なのかい?」
  もしも彼女がそのつもりなら、自分は・・・他の全ては犠牲にしても、せめて蒼星石だけでも・・・。
 め「水銀燈、私が生きるためにあなたの力を使わないで。」
 銀「確かにあなたがそんな事を望むはずも無かったわね。」
 め「そうよ。それよりも早く、私の命を使って・・・。」
 銀「それはあなたが決める事じゃない。まだ得体の知れない第七ドールの存在がある以上、軽はずみには動かないわ。」
 め「さすが水銀燈ね。私も・・・その時まではなんとか生きているわね。」
  再び水銀燈が話しかけてきた。
 銀「それにしてもさっきのあなたの目、あなたもあんないい目ができるのね。」
 マ「え?」
 銀「何かを求め、飢え、そのためになら他の全てを踏みにじっても構わないという闇を帯びた目・・・ぞくぞくしちゃぁう。」
 マ「・・・・・・。」
 銀「でも残念ね、あなたにはそんな目が致命的に似合わなぁい。」
 マ「どういう・・・意味だい?」
 銀「・・・さあね。ところでめぐ、もう上がりましょう。ここに居るのも飽きちゃったわ。」
 め「はいはい、じゃあお先に失礼するわね。さような・・・ら・・・?」
  こちらに別れの挨拶をしていためぐちゃんの体が力を失いぐらりと崩れる。
 銀「めぐ!」
  自分も立ち上がって倒れそうになるところをとっさに受け止めた。
 マ「しっかりして!大丈夫?」
  力なくだらりとする体を抱き留めつつ声をかける。
  まさか・・・
 め「の・・・」
 マ「の?」
 め「のぼせた・・・。」
 マ「・・・・・・二人はいつから居たの?」
  拍子抜けしながら水銀燈に尋ねたところ、のんきな答えが返ってきた。
 銀「そうね、めったに来られないし、なるべく良くなるようにって大体一時間ってところかしら。
   でも本当に人間ってだらしないわねぇ。・・・あら?」
 マ「あのね、湯治の効果ってのは入浴時間に比例するわけじゃないんだから。」
  そりゃのぼせるわ。水銀燈には分からない感覚だろうが。
 マ「とりあえず介抱しよう。水銀燈、手伝って。」
  しかし水銀燈は呼びかけを無視するかのように星空を見上げている。
 マ「おーい、水銀燈ー!」
 銀「・・・悪いけど用事が出来ちゃったわぁ。後は任せたから。」
 マ「え、そんな!用事って何さ?」
 銀「野暮用ってやつよ。詮索するもんじゃないわ。」
 マ「でもさ・・・」
  こちらの言葉をさえぎり水銀燈が口を開く。
 銀「さっき、想いだけじゃなんにもならないって言ってたわね。」
 マ「え?ああ、まあ・・・。」
  なにやら唐突な質問が投げかけられた。
 銀「でもね、何かするには想いがまず必要なのよ。こうありたい、こうあって欲しいという想いが。
   そして私は自分の想いの実現のためになら誰からも理解されずとも、全てを敵に回してもいいという覚悟だってある。
   実際に今までそうしてきた。たとえ・・・想われた当人がそれを望んでいなかったとしてもね・・・。」
 マ「・・・何が言いたいのさ?」
  今彼女が口にした事、それは彼女の強さなのだろうか、それとも弱さなのだろうか。
  あるいはその両方なのかもしれない。
 銀「ふふ・・・ずいぶんとくだらないおしゃべりをしちゃったわね。
   めぐの面倒、しっかりと見なさいね。もし何かあればあなた自身もとんでもない目に遭うわよ。」
  ご丁寧に脅しをかけて水銀燈は飛び去ってしまった。
  仕方が無いのでめぐちゃんの体を抱え上げて運び出す。
  その体は想像以上に軽かった。