ドアをノックする音が響く。
 マ「みっちゃんさんたちかな?」
  そう言ってマスターはドアの方へ行った。
 マ「桜花さん!?」
  マスターが大声を出して想定外の来客を教えてくれる。
  大急ぎで僕がお茶を飲んでいた痕跡を消すと部屋の隅になるべく普通のお人形らしく座る。
 梅「お邪魔だったかしら?」
  少しばかり。
 マ「いえ別に・・・でも随分と元気になったみたいで安心しました。」
 梅「上がっていい?」
  お引取り願えませんか?
 マ「え!あのー・・・。」
  願いも空しくマスターが言いあぐねているうちに桜花さんは勝手に入ってきた。
 梅「あらお茶が入ってる。いただいちゃっていいかしら?」
  さっきまで僕が持っていたお湯飲みに手を伸ばす。どうやら僕が飲んだ事はばれていないようだ。
 マ「あ、そっちは飲みかけなのでもう一つの湯呑を!」
  何を勘違いしたのかマスターがそんな事を言った。
 梅「あら、ごめんなさい。じゃああなたの分をいただいちゃうわね。」
  桜花さんがこちらに断りを入れてくる。
  今の気持ちが表情に現れていやしないか内心落ち着かない。
 マ「まだお茶が熱いので気をつけてくださいね。」
 梅「でもお茶まで一緒だなんて本当に大事にしているのね。」
 マ「ええまあ。」
  二人がお茶を飲みながらお話している。
  本来なら僕とマスターがそうしているのにと思うとなんだか腹立たしい。
  それに一口つけただけとはいえマスターの飲みかけのお茶を飲むだなんて、あれだ、間接キスという奴だ。
  まあその程度の事を気にしてもどうにもならないが・・・待てよ。
  じゃ、じゃあ今マスターは僕の飲みかけを飲んでいて、そうすると・・・!
  そんな事を考えていたらマスターと目が合ってしまった。
  変な事を考えていた所為かなんだか恥ずかしかった。

  コンコン

  だいぶ時間が経って再びノックの音がする。
  今度こそみっちゃんさんとのりちゃん、ジュン君達だった。
  皆して部屋を出て行ってしまう。なんだか一人ぼっちになったような気分だ。
  頃合いを見計らって動き出す。
  ふと見るとマスターがいつも、外食の時でも愛用しているお箸が置いてあった。
  どうやら忘れてしまったらしい。
  もう乾いていたそれをお箸箱に入れる。
 蒼「すぐ近くだし、届けてあげたいけど・・・それも出来ないんだな。」
  距離はそんなに遠くないのに、なぜだかマスターとすごく離れてしまった気がした。
 蒼「宴会が終わるまではこのままずっと一人か・・・。」
  そんな感傷に浸っているとあわただしい足音とがして部屋のドアが開けられた。
 蒼「あれ、マスター?」
 マ「ちょっと忘れ物をしちゃってさ。」
 蒼「あ、良かった、マスターも気づいたんだね。はい、お箸。」
  マスターとこうして顔を合わせて忘れ物を手渡せるだけでなんだか嬉しくなってしまった。
 マ「あっそうか、洗って乾かしたままだった。ありがとう。」
 蒼「あれ、違ったんだ。それじゃあ何を忘れたの?」
 マ「あの、蒼星石にお見送りしてもらいたいなって。」
 蒼「それで戻ってきたの?」
 マ「はは・・・まあ恥ずかしながらなんか寂しくって。ずっと一緒に居たのになんだか落ち着けなかったからさ。」
 蒼「さっきさ、僕変な顔してなかったよね?」
 マ「はい?ああ、別にばれてはいないと思うよ。ただなんか顔が赤かった気もするけど。」
 蒼「そ、それはマスターの所為で!」
 マ「え、何か変な事してた!?ごめんね。」
 蒼「いや、なんでもない。ちょっとマスターがどっちが飲んだ湯飲みか間違えてるのが気になって。」
 マ「あ・・・あれね。ごめんね、蒼星石の飲みかけに口つけたりして。気に障った?」
 蒼「勘違いしてたんじゃないの?」
 マ「まだボケやしませんよ。まあ覚えてたんだけどさ、蒼星石の飲みかけを他の誰かに飲まれたくなくって。
   要するに僕のわがまま。本当にごめんね、こんなに独占欲が強くって。迷惑だったら言ってね。」
  マスターが苦笑する。
 蒼「そっか、僕だけじゃなかったんだね。」
 マ「え?」
 蒼「・・・のんびりお話もしたいけどもう行かないと遅れちゃうね。また後でね。」
 マ「じゃあ行ってきます。なるべく早く帰ってくるから待っててね。」
  優しく頭をなでられる。
 蒼「行ってらっしゃい。ゆっくり楽しんできてくれればいいよ。いくらでも待ってるからね!」
  マスターが出て行った。大急ぎで移動する足音がだんだんと小さくなっていき、聞こえなくなった。
 蒼「僕だって、寂しかったんだからね。」
  つい、本音がこぼれてしまった。

  背後からコンコン音がした。
  どうやら窓が叩かれているようだ。
  相手が誰か分からないので慎重に様子を窺う。
 蒼「・・・なんだ、翠星石か。どうぞ。」
  翠星石を部屋に入れる。
 翠「なんだはねえですよ。蒼星石、皆でくんくんを見る事になったから一緒に集まりましょう。」
 蒼「皆で?」
 翠「人間同士で集まってる間に私達も人形同士で集まるですよ。」
 蒼「でも騒いでたり移動したりで誰かに見つかっちゃうかも。
   それに宴会が終わって帰ってきた時に部屋に誰も居なかったら心配するんじゃ。」
 翠「人は少ないから人工精霊達に見張ってもらえばいいですよ。
   それに誰か帰ってきたら解散すれば心配もかけませんし。」
 蒼「・・・そうだね。じゃあそうしようかな。」

  そうだ、今はそばに居なくてもマスターの気持ちは近くに感じていられる。
  ともに楽しい時間を過ごせる姉妹達だっている。
  もうさっきまで感じていた寂しさは無かった。