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あらすじはこちら(笑)



  翠星石を抱えたマスターは全速力で蒼星石を追いかけた。
  が、残念なことに双子の寝ていた部屋に入るとちょうど蒼星石が鞄の中に潜り込んでしまったところだった。
 翠「とりあえず事情を説明してみるとするですか。」
        ※タイミングとしてはここであらすじの場面が入ります
 マ「ノックしてもしもーし。」
  さっきから蒼星石は鞄の中に閉じこもってしまっている。外からいくら呼びかけても何の反応も示さない。
 マ「おーい、蒼星石ー、出てきてよー!
   何か誤解しているようだけど、とりあえずちゃんと顔を合わせて話を聞いておくれよー!」
  必死でそう呼びかけるがやはり応答は無かった。
 マ「・・・翠星石、何か鞄を外から開ける方法は無いの?」
 翠「私たちドールにとって眠りは神聖なもの。だから他の姉妹といえどそれを妨げることはできねえです。
   ただ、以前に真紅が鞄に閉じこもったときは蒼星石が庭師の鋏で開けたこともありますが・・・。」
 マ「じゃあさ、今すぐ蒼星石を呼んできて開けてもらおうよ!!」
 翠「お前・・・何気にかなりテンパってますね。・・・いいですか、開けられる可能性があるのは蒼星石だけ。
   そしてその蒼星石自身が鞄の中にいる。つまり、残念ながら蒼星石が自分の意思で出てくるのを待つほかねえってことです。」
 マ「そんな・・・・・」
  マスターの顔が絶望に覆われる。
 翠「まあ、蒼星石も気持ちの整理がついたら・・・、どうしやがったですか?」
 マ「ふ・・ふふ・・ふははははは・・・!」
 翠「ちょっと・・・何をしやがるつもりですか!」
  マスターが翠星石の両肩に手を置くとそのまま自分の方へと引き寄せる。
 翠「ふ、ふざけてるですか!?くっ、きたねえ口を耳に・・・・・・んっ!?」
  そこでしばしの沈黙が生じる。鞄の中の蒼星石は内心気が気でない。
 翠「・・・・・ぷはぁっ、よ、よくも・・・お前なんかに・・・。」
 マ「元はと言えば全部お前が悪いんだ!お前も滅茶苦茶にして同じ目にあわせてやる!!」
 翠「な、てめえがそんな逆恨みをする奴だったとは見損なったですよ!」
 マ「いいじゃないか、あぶれもの同士で仲良くやっていこうや!」
 翠「くっ、お前なんかと一緒にするなです!」
 マ「はっ、そのお前なんかにこれからいい様にいたぶられるって訳だ!」
 翠「おま・・正気に帰れです!誰かぁ助けてですぅ!蒼星石ー、ジューン!」
 蒼「マスター!ひどいことはやめて!!!」
  たまらず蒼星石が鞄から飛び出してきた。
  それを待ち構えてたかのようにマスターが両腕でナイスキャッチする。
 マ「やった!天岩戸作戦大成功!!」
 翠「まさか・・・こんなくだらねえ手に本当に引っかかってくれるとは思わなかったですよ。」
  マスターの両腕に捕らわれた蒼星石はいまだぽかんとして呆気にとられている。
 翠「蒼星石、一言忠告しておきますが、こんな猿芝居に騙されるほどに動揺するのはまずいですよ。
   普段の冷静な蒼星石だったら絶対に引っかからなかったはずです。」
 マ「良かったー、蒼星石だー。もう二度と会えないかと思ったー!」
  満面の笑みのマスターが腕の中の蒼星石をぎゅうっと抱き締める。
 蒼「くっ、苦しいよ、マスター。」
 マ「良かったー、本当に良かったー。もう離さないからね!!」
  感極まったマスターは涙目でそう言うと、抱き締める力をますます強くする。
 翠「それと、てめえはてめえで、もうちょっとドール離れしやがれです。」
 蒼「ちょっと、翠星石ったら落ち着きすぎだよ!早く助けてよ。」
 翠「まあ、ここは気ぃ利かせて翠星石は外してやるですから二人でゆっくりと話し合うですよ。」
  翠星石はふっと笑うと自分の鞄を手にそのまま部屋を出る。
 蒼「翠星石、君も助けようとしてよ!」
 マ「ああーー、もう絶対に離すもんか、離すもんかぁーー!!」
 蒼「マスター、正気に戻ってぇぇーー!」





 マ「コホン・・・で、さっきの事なんだけどさ・・・・・」
  蒼星石もようやく心の平衡を取り戻したマスターから開放され、二人で話し合い始めた。
 蒼「分かってるよ。翠星石の相談に乗って慰めてくれてたんでしょ?」
 マ「えっ、分かってたの!?だったらなんで・・・。」
 蒼「翠星石のことが・・・うらやましかったのかな・・・。」
 マ「うらやましい?いったい何が?」
 蒼「・・・マスターってさ、僕といる時はほとんどいつも笑っているよね・・・。」
 マ「えっ、そうかな?そうだとしたらきっと蒼星石のおかげだと思うよ。」
  マスターが微笑みながらそう答える。
 蒼「それが・・・僕にはさびしかったんだ・・・。」
 マ「どういう・・・こと?」
  まるで禅問答のようなやりとりにマスターが頭を悩ませる。
 蒼「さっきも言ったけど、マスターはいつだって笑ってる、今晩だってマスターは疲れて帰ってきて・・・
   それでいきなり翠星石が泊まりに来ていたりして、内心ではいろいろと負担に感じていたと思う。」
 マ「そんなの平気だよ。蒼星石にとって大事な存在である翠星石のことなら僕にとっても他人事ではないんだしね。」
  にこりとしながらそう言った。
 蒼「・・・いつも・・・いつもそうだよね。そうやって、何かあった時にマスターは本音を隠すように笑うんだ。」
  蒼星石の表情が暗さを帯びてくる。
 蒼「そういったマスターの笑顔を見ていると、時々とても不安になるんだ。
   マスターが笑顔の仮面をつけてしまったかのようで。自分はマスターの本当の表情を見せてもらえていないんじゃないか、って。
   そして、大好きなはずのマスターの笑顔を見るのが怖くなってしまうんだ。本当は・・・無理してるんじゃないかと。」
  蒼星石はすっかりうなだれてしまっている。
 蒼「それなのに・・・さっき翠星石に対しては普通に、いろいろな顔を見せてお話していた。
   翠星石はありのままのマスターと心を通わせていたんだ・・・。それがうらやましくて・・・悔しかったんだ。」
  肩を震わせながら、搾り出すようにそう言った。
 蒼「僕も・・・翠星石のように自分を素直に出せたらと、その結果意見の食い違いがあったり、衝突が起きてしまったとしても・・・
   その方がいいと思ってる。そうやってお互いに相手のことを理解できることの方がうわべだけ仲がよいことよりも大事だと思ってる。」
  そこで蒼星石がマスターの方をキッと見上げる。
 蒼「僕はそんなに信用できないの?僕は・・・そんなに弱いと思われてるの?
   誰でも生きていればつらいことや悲しいこともあって、落ち込んだりするというのは僕にだって分かるよ。
   だから・・・そんな時は、マスターのつらさや悲しさも隠さず僕に見せてほしい。二人で共有したいんだ!
   だって、僕たちの心は一つにつながっているんだから・・・。」
 マ「違うよ、弱いのは・・・僕の方さ。自分は弱い人間だから理不尽なことで当たってしまったり、
   身勝手なわがままで蒼星石や蒼星石の大切なものを傷つけてしまったりするのが怖いんだ。
   それで蒼星石の心が自分から離れてしまうのが怖いから・・・だから笑ってごまかしちゃうんだ。」
 蒼「そんなこと全然気にする必要は無いのに。馬鹿だなあ、マスターは。・・・僕とおんなじだ。」
 マ「えっ?」
 蒼「僕じゃあ頼りないかもしれないし、受け止めきれないかもしれないけれど、安心してぶつけてくれればいいのに。
   ・・・その代わり、僕のことも受け止めてくれるのなら。」
 マ「蒼星石、ありがとう・・・。もちろん僕だって受け止めるさ。」
 蒼「そう・・・うれしいな・・・。」





 マ「・・・じゃあ、もう寝ようか。」
  そう言ってマスターが蒼星石を抱き上げると、蒼星石の鞄を持って立ち上がる。
 蒼「えっ、一緒に?でも翠星石が・・・。」
 マ「まあ、話せば分かってくれるさ、たぶん。それに・・・もう変な遠慮はしないと決めたんだ。」
 蒼「マスター・・・僕も、そうしたい・・・。」
 マ「じゃあ二人がかりで説得しようか。」
 蒼「うん!」
  しかし部屋の外には翠星石の姿はなく、代わりに一枚の手紙が置かれていた。
 マ「なになに、

   『今日は世話になったです。ジュンがさびしがってるかもしれないし、
    大人な翠星石は許してやることにしたです。
    またあらためてゆっくり泊まりに来てやるから覚悟しておけです。
    二人ともこれからも適度に仲良くするですよ。』

   ・・・だってさ。ふふっ、双子なのに字はまったく違うんだね。ものすごく個性的な字だよね・・・。」
 蒼「マスター、笑っちゃ駄目だよ。上手じゃなくても心をこめて書いてくれたんだから。」
 マ「おや、別に下手だなんて言ってはいないんだけどな?」
 蒼「あっ・・・翠星石には内緒だからね。」
 マ「へえ、姉妹の間でなら隠し事なんてしちゃっていいの?」
 蒼「そりゃあ、ああは言ったけれど何でもかんでも包み隠さずというのも、やっぱり・・・。」
 マ「了解。・・・じゃあ、ついでにもうちょっと隠し事を増やしちゃおっか?」
 蒼「え、マスター?」
 マ「ふふふ・・・。」
  マスターは笑うだけで何も答えずに寝室へと向かう。




 翠「ただいま・・・です。」
  翠星石がジュンの部屋へ静かに入る。
 ジ「おっ、翠星石帰ってきたのか。」
 翠「ジュ、ジュン!?お前こんな時間まで起きてたですか?」
 ジ「ああ、ちょっと普段よりも頑張って勉強しようと思ってな。」
 翠「ひょっとして・・・翠星石のことを待っていてくれたですか?」
 ジ「なんで僕が。たまたま遅くまで起きてただけだって。」
 翠「そうですか・・・。」
 ジ「まったく、勝手に飛び出して遅くまでよそに迷惑かけて・・・。」
 翠「ジュン・・・。」
 ジ「なんだよ、ほんとのことだろ?」
 翠「・・・偶然でも、出迎えてもらえて嬉しかったですよ、ありがとうです。」
 ジ「あ、ああ。・・・まあ、ちょっとぐらいは心配したんだからな。もうこんなことすんなよ。」
 翠「分かったです。ジュンも体を壊さないように気をつけるですよ。おやすみなさいです。」
 ジ「ああ・・・おやすみ。」
  翠星石が鞄に入り眠りにつく。それを見届けてジュンも寝ることにした。
 ジ「まったく・・・心配させやがって・・・。」
  口でこそ文句を言っていたが、その顔には安堵の笑みがこぼれていた。



                    [おしまい]