甘えんぼの続き物です



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結局、『思いっ切り甘える』と言っても抱っこをねだってきたのは一度だけ。
思わず忘れていた敬語の調子も戻って、俺達の関係は元に戻ってしまった。
ひょっとしたらこれ以上の進展は無いのかもしれない。
でも、
「・・・流石にコレはやばいかなぁ」
あの時の余りの可愛さに目が眩んだ俺は薬を買ってきてしまった。
俗に言う媚薬って奴だ。
継続的に用法用量を守って正しく使えば良い具合に甘えてくる感じになるんだろうけど、そんな関係じゃあの子が可哀想かもしれない。
オレ天使とオレ悪魔。
そいつらが迷いに迷い、今回は保留にして俺は例の場所へしまった。


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お洗濯をしていると、
「ただいまー」
お出掛けからマスターが帰ってきた。
少し急いで玄関へと向かう。
「お帰りなさい、マスター」
「あ、あぁ」
・・?
「そうだ、ほら」
マスターが僕の顔の高さに買い物袋を持ち上げる。
ビニールで薄っすらと見えるそれは、
「新しいお茶っ葉。この前のが切れてたから」
「・・心遣いありがとうございます」
袋を受け取って中を見ると、僕の好きな品種だった。
「後で淹れてみます。マスターも一杯どうですか?」
居間に入ろうとしているマスターに問いかけてみる。
もう一つの包みを抱えているようだけど、
「いや俺は遠慮しとく。蒼星石が飲めばいいさ」
とだけ言ってさっさと行ってしまった。


「ふぅ・・」
思わず溜息が出た。
ここ最近、マスターの僕への対応が、
「・・れちゃったのかな・・・?」
何となく疎遠な感じがする。
いや、決して冷たいという訳じゃない。
この前抱っこをお願いした時も断りはされなかったし、切れたお茶の葉の事も気に掛けてくれた。
今、この家でほうじ茶を飲むのは僕だけなのに。
「・・お洗濯の続きしなきゃ」
洗濯機の所へ戻りながら考える。
せめてマスターの機嫌を損なわない程度に丁寧にお話しする様に決めてるけど、ずっとそれも少し寂しい。
でも、またあの時の様にしたら今度は嫌われるかもしれない。
もっともっと甘えてみたい衝動とそれを抑える僕の恐れ。
何だか、ジレンマだ。


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そろそろ晩御飯の用意をしないと遅くなる。
洗濯物を乾燥にかけて、僕は台所に戻った。
冷蔵庫の中を見て、
「マスター、今日はロールキャベツでいいですか?」
居間に居るマスターに尋ねる僕。
「お、もうそんな時間か」
本から顔を上げるマスター。
横にはさっきの包み紙が置いてあった。
「蒼星石に任す。何かあったら呼んでくれ」
再び本に目を落とす。
「・・それって、」
「ん?」
少し怖い。
「マスターが読んでる本って、どんな本なんですか?」
けど、少しでもマスターのこと知ってみたい。
「そーだなぁ・・・」
考える様にマスターが僕を見る。
「ま、蒼星石にはあんまり関係ないけど。軽い小説みたいなもんだな」
・・・
関係ない、か。
「そうですか、変なこと聞いてすいません」
やっぱりでしゃばるべきじゃなかった・・のかな。
とにかく今は大人しく御飯の準―
「そだ、蒼星石」
不意に、呼び止められる。
「晩飯まで少し時間あるだろ?ほうじ茶、一杯貰えるか」
「え?」
思わず振り返る僕。
「いつも蒼星石が美味しそうに飲んでるから、俺も飲んでみたくなっちゃった」
照れた様にマスターが微笑む。
「す、すぐ用意します!少しお待ちください!」
即座に台所へ引っ込んで、新しいお茶の葉を開ける僕。
きっかけ、が来てくれた。
これでマスターを喜ばせることが出来たら、きっと・・!
そう思うと、普段よりずっと手を掛けずにはいられなかった。


「出来た・・!」
最高の手順で淹れたお茶。
御飯前の前菜としても使えるきんつば。
正に完璧だった。
「これできっとマスターも喜んでくれる!」
そっとお盆に載せて、急いで持っていく。
きんつばを頬張って顔が綻ぶマスターが思い浮かぶ。
「マスター、お茶が入りま・・!」

ガッ。

「・・うあっ!」
「へ?」
その時、クロックがアップした。
熱々のお茶を撒き散らして放物線を描く湯のみ。
皿と離脱を果たした二切れのきんつば。
その全てが、
「・・あ・・・」
ばしゃあっ、とマスターに降り注いだ。
「あひょおおおおおおおお!」
「きゃっ!」
長い時間をかけてこけた様に思えた。
「マスター!」
臥した体勢のまま見上げると、
「熱っ!熱ッー!」
お茶の熱さに身悶えるマスターがいた。
手前には掛からなかったお茶が水溜まりを作っていた。
それを避けて駆け寄る僕。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・!大丈夫ですか?!」
「・・ん、一応な」
服を脱いで、ヨロヨロとマスターが立ち上がる。
ちょうどお茶が掛かった所が赤くなっていた。
「ちょっと着替えて―」
一歩踏み出し、
「あっ!そこh」

ズリュッ、
と、綺麗なムーンサルトで、
「モルスァ!」
床にしたたか頭をぶつけるマスター。
ゴロゴロと転がったかと思うと、そのまま頭を抱えて丸くなった。
「ああっ・・どうしようどうしよう・・・」
取りあえず近くのタオルでその身体を拭く僕。
「ごめんなさいマスター、僕・・・」
「・・・・いい。全力で許す」
ふるふる震えて再び立ち上がるマスター。
「晩飯が出来たら、呼んでくれ」
今度は水溜まりに気を付けて、自分の部屋に引き上げていった。
座り込んだまま、僕はそれを見送っていた。


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やっちゃった。
今度こそマスターに嫌われちゃった。
まぁ、それはそうか。マスターの事を傷付けちゃったんだから。
過ぎた事は仕方な・・・あれ?
「どうして・・?」
床を拭く手にポタポタと雫が落ちる。
雨の様に少し間を置いて、それは次第に本降りとなった。
「泣くのは苦手なんだけどなぁ」
僕の泣き顔はあの子に似ているから、嫌なのに。
何だか良く解らない。
単なる怖さだったはずだったのに、
「何で、こんなに辛い・・かな・・・?」
中々、止みそうにもない。



後始末をした後に台所に戻る僕。
コンロの横には、ほうじ茶の袋がさっきのまま置かれていた。
「・・・」
無言のまま収納棚を開けてそれを戻す。
きっともう、マスターと一緒に飲むこともないだろう。
でもそれでいいのかも。
所詮僕とマスターの関係はドールとミーディアムの関係。
親密になる必要なんて、何処にもない。
甘えたいって考えていた僕が愚かだっ―
「?」
棚の奥の方に小さな包みが見える。


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「マスター・・?」
出来るだけ音を立てないようにドアを開ける。
壁に顔を向けて、僕の方は見てくれなかった。
いいや、この方がかえって楽だ。
「・・やっぱり、怒ってますよね?」
答えは返って来ない。
「虫がいいのは分かってます。けど、」
くっ、と言葉を喉に引き止める。
「僕、マスターに・・われるの、その・・・」
怖い。
こんなこと言って、もっと嫌われるのが怖い。
だけど、
「だけど、僕・・・」
ここで言わなくちゃ絶対後悔する。
少しで良い。勇気が欲しい。
僕はゆっくりと握り締めていた右手を開いた。


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ハァハァ。。。
やべぇ。目茶苦茶可愛い。
てっきりクーデレのみかと思ってたが、ドジッ子というタイプ2を保持していたとは予想外だ。
ニヤニヤが止まらなくて振り向けなかったぜ。
ま、最初からあんまり怒ってた訳じゃないしな。
精一杯の笑顔で、
「いいんだよ、気にしなくてミ☆」
振り向―


ことん、と床に小瓶が落ちた。
あり?これってまさか?
「はぁっ・・全部飲んじゃったぁ・・・」
かくん、と膝を落とす蒼星石。
「ちょ」
近寄る俺。
蒼星石は少し驚いた顔をすると、俺の目を見つめ、
「ごめ、んなさ、い、マスター」
しゃくり上げながら蒼星石が呟いた。
次第に顔が紅潮していく。
「僕、僕ぅ、こうでも、しなきゃマス、ターに素直に言え、ない気がして、」
一筋、涙がその紅い頬を撫ぜた。
二筋、三筋。
すぐにその数は増えていった。
「・・・」
「怖か、ったんだ。二度と、マスターが、悪い子の、僕を、見てくれ、ないかも、って思ったら、」
必死に、蒼星石が言葉を紡ぎ続ける。
「・・・ぅ」
「また、甘えちゃ、ったら、嫌われる、って思ったら、」
「・・違う」
「許して、マスター、僕、悪い子だけ、ど、」
「違う!」
抱きしめた。
「んぅっ!」
「謝るのは俺の方だ。蒼星石は悪くない。みーんな俺が悪いんだ。
 俺が、俺が蒼星石の気持ちに気付けなかったから、俺が、こんなもんに、頼ろうと、考えた、から、」
徐々に目の前が朧になってゆく中、
もっと乱暴に、もっと強く、俺は蒼星石を抱きしめた。
「マスター、泣いてる、の?」
「蒼星石が泣くくらい、蒼星石に、辛い思い、させちま、った」
止まらなかった。
自分の浅はかさと、
大きく渦巻き始めた蒼星石への愛しさが、
俺を許さなかった。





「・・・気分はどうだ?」
多分赤くなった目で、蒼星石を見る俺。
蒼星石の方も幾分落ち着いただろうが、薬を飲んでまだ間もない。
「うん・・何だか身体が熱くて変な気分なんだ。ね、マスター、」
以前頬を染めたままの蒼星石が俺を見上げる。
しかし自分から媚薬を飲み干すたぁ、見所あるね。
「僕も抱きついていい?もっと近づいていたいから」
・・・積極的にもなるのね。
「おう、もちろ」
「えーい!」
「ゴフッ」
俺の鳩尾を強打して、
背中に蒼星石の手が回された。
「へへ、あったかぁい」
ぐりぐりと俺に顔を擦り付けてくる。
猫か。
「好きぃ・・ますたぁ好きぃ・・・」
「・・・ほんと、甘えんぼさんだこと」
そっとその頭に手を回す俺。
何時かはわからない。
でも、
「なあ蒼星石よ」
「うん?」
何時かきっと、普段のこの子が気兼ねなく頼ることが出来る、
「今から蒼星石の事、『蒼』って呼んでいい?」
この子に一番近いマスターになりたくなった。




END








↓リストリクト微ERO無理っ子











さっきからずっと蒼星石は俺の胡坐の上に座っている。
オラ、段々足が痺れてきたぞ。
少し伸ばs
「やっ!」
びくん、と蒼星石の身が跳ねた。
「どどどうした?どこか痛いのか?」
「さっきからココが疼くんだ・・それに、」
ズボン越しに自分の下腹部に手をやる蒼星石。
「!?そ、それはだな、蒼、」
「少し湿っぽいし・・さっきの栄養ドリンクの所為かなぁ?」
・・・栄養ドリンク?
転がってる小瓶を取る俺。
確かに俺が買った薬だが・・・ひょっとして、
「僕ぅ、おかしくなっちゃったのかなぁ・・・」
勘違いktkr?
「ますたぁ・・ココ、どうなっちゃったのか、確かめて?」
そう言って蒼星石はズボンを―




ELDORADO