ふと気がつくと自分は怪物に取り囲まれていた。
    見るからに凶暴で、敵意むき出しの化け物どもが二本足で立ってこちらを睨みつけている。
    絶体絶命を悟ったその時、自分が手に何かを握り締めていることに気がついた。
    それは楕円形の非常に薄っぺらいシルクハットに、閉じた鋏をくっつけたようなデザインの何かだった。
   マ「なんだこりゃ?」
    自分で持っていたものだが、正体がさっぱり分からない。
    しかし、この怪物に取り囲まれた非現実的かつ危機的状況のせいなのか
    非常識かつ希望的な考えが生まれる。
   マ「まさかっ!!」
    自分の腰を見ると、予想通り奇妙な形状のベルトが締められていた。
    やはりアレだとしか考えられない。だが、そんなものが本当にあったとしてもなんで自分が?
    悩んでいるうちに怪物たちはすぐそばまで迫っていた。
    そして、怪物が自分に跳びかからんとしたその時、生きたいという本能が直感をプッシュした。
   マ「変身!!」
    手に持っていた物体をベルトにはめつつそう叫ぶ。
      『 HENSHIN!! 』
    ベルトが無機的な声を発しながら鋏を大きく開き、その姿を変える。
    次の瞬間、体が光に包まれ、跳びかかってきた怪物たちが逆に弾き飛ばされる。
    光が消えた時、自分は蒼い鎧に包まれていた。
    間違いない、これは・・・仮面ライダーだ!!!



      今日は翠星石が泊りがけで遊びに来ている。夕食も三人でとる。
     翠「てめえが翠星石に泊まりに来いと持ちかけるなんて意外だったですよ。」
     マ「結局この夏は蒼星石をどこにも連れて行けなかったからねえ。
      せめてもの罪滅ぼしになるかと思って。」
     蒼「忙しかったんだからそんなの全然気にしなくていいのに。」
     マ「でも普段じゃできない体験って貴重だしさあ。」
     蒼「ねえねえ、マスターはこんな体験してみたい、ってことがあるの?」
     マ「えーっ、そりゃあもちろん蒼星石とラ・・・。」
      翠星石の無言の抗議を察知し、とりあえず口をつぐむ。
     マ「・・・そうだねえ、特撮に出てくるようなヒーローなんか一度なってみたいねえ。
       ウルトラマンとか、何とかレンジャーみたいな戦隊ものよりは仮面ライダーなんかがいいかねえ。」
     翠「おめえ今年でいくつになりやがるですか?今時そんなの中学生でも見てねえですよ。
       まったく幼稚なやつですねえ。一体何がいいのやら・・・。」
     マ「何って言われると確かに悩むな。何だろう・・・どことなくかっこいい気がするのかな。」
     翠「理由までもが幼稚極まりねえですね。ほんっと情けねえ野郎ですぅ。」
     蒼「ふうん、仮面ライダーね・・。あ、そうだ翠星石、
      食事が終わったらちょっと二人で話したいことがあるんだ。」



   翠「・・・で、言われた通りジュンに仮面ライダーのことを調べさせたですが役に立ってるですかぁ?」
   蒼「うん、おかげで助かったよ。」
    戦いが行われているところからちょっとだけ離れたビルの屋上、そこから見下ろす二つの影があった。
   翠「でもなんでこんな事を?」
   蒼「夕食の時に話が出たけど、マスターもどこにも行けなかったから。
    せめて夢で楽しんでもらいたいと思って。」
   翠「それでこの後はどんな風に進めるです?」
   蒼「うん、調べてもらった情報によると、最近の仮面ライダーは最初は比較的余裕で敵を圧倒、
    そのうちに新たな敵やら最初のうちだけ強そうな仲間が出たりして、ライダー同士で戦ったり
    苦戦しているうちになんだかんだでパワーアップ、
    いろいろとあって最後の敵を倒す、という流れが定番みたいだね。
    だからそれに合わせた感じで進めようと思う。」
   翠「了解です。じゃあスィドリーム、もうちょっと頑張ってです。」
   蒼「レンピカもよろしく頼むよ。」




    迫り来る怪物との間合いをすばやく詰め、正拳、フック、回し蹴り。
    次から次へと襲ってくる怪物もちぎっては投げ、ちぎっては投げ、簡単にあしらえてしまう。
    すごい、体が軽々と動く。鍛えてないのにパンチやキックも自由自在、すばらしい。
    相手の攻撃を時にはかわし、時には受け止め、反撃で確実に仕留めていく。
    どうやらこちらの方が能力的には圧倒的に勝ってるようだ。
    しかし普段できない格闘も楽しいが、せっかくだから超人的な技も繰り出してみたい。
   マ「なんか広範囲への攻撃とかできないのかな?」
    こちらの考えに呼応するようにバックルの部分がが開き、カードが出てくる。
    おそらくこれをどこかに入れてスラッシュすればテレビでのような効果が得られるに違いない。
    左手の甲の部分にそれらしき場所を見つける。
    試しにカードを突っ込んでみると例の淡々とした電子音がした。
      『 BLAST 』
    左手が強烈な光を放ち、それが辺りの空間を包み込んだ。
    ずぅんっ、という重い音が轟き爆風が巻き上がる。
    辺りに立ちこめる煙が薄れると、痛々しくえぐられた地面と死屍累々の惨状が視界に入る。
   マ「なんじゃこりゃーーーーーー!!」
    とりあえずこのカードは危険そうなので金輪際封印しよう。




   翠「でも人間、なんだかイキイキしてますねえ。」
   蒼「うん、楽しそうで良かったよ。」
    のん気に話をしていると、眼下でまばゆい光と爆音が広がり全てを飲み込んだ。
   翠「うひぃ!」
    もうもうと舞い上がった煙が晴れてくると巨大なクレーターが姿を現す。
   翠「い、一体なんですかアレは!?」
   蒼「はぁ・・強力な遠距離攻撃って憧れちゃうよねえ・・・。」
    ため息とともに蒼星石がしみじみと言った。
   翠(蒼星石の過激な一面を垣間見たですぅ。)
    どうやら今ので怪物を一掃してしまったようだ。
   翠「しかし・・・かっこいいどころか単なる弱いものいじめだった気がするですよ。」
    「あらぁ、弱いものイジメって楽しいわよぉ♪」
 翠・蒼「!?」
    「はぁい、お久しぶりね貧弱なお二人さん。乳酸菌、摂ってるぅ?」
    その言葉とともに黒い影が舞い降りる。
   蒼「水銀燈・・!」
   翠「何しに現れやがったですかぁ!」
   銀「あらあら、私は夢の扉が開いていたからちょっと遊びに来ただけだわ。」
   翠「そんなの信用ならねーです。」
   銀「ふふふっ、そんなに身構えなくても今はあなた達のローザミスティカをいただく気はないわ。
     それよりも、ぬるいお遊びに刺激を与えてもっと楽しくしてあげようと思ってよ?」
   蒼「刺激?」
   翠「どうせろくでもねえ事に決まってるです!」
   銀「あらぁ、とってもとっても楽しい事よ。」




    ようやく土煙が収まってきた。どうやらさっきの爆発で怪物は全滅・・・・していない!!
    たった1体、無傷のやつがいる。あの大爆発でノーダメージだったというのか!?
    そいつは他の連中よりも一回り大きく、どことなくだが一層凶悪そうで凄みがある。
   マ「くそう!」
    間合いを詰め、パンチやキックを連打するが全く手応えが無い。
    怪物が腕をなぎ払い反撃してくるのを両腕でガードする。
   マ「なにぃっ?」
    だが、受けきることができずに大きくよろけてしまう。その隙に逆の腕でがら空きの腹部を殴られる。
    自分の体が大きく宙に舞い上げられる。
   マ「うわあぁぁああ!!」
    したたかに地面に叩き付けられる。
   マ「かはっ、ライダーって・・・仮面の中で吐いたら大変だろうな・・・。」
    どうやら接近戦では分が悪いようだということは文字通り痛いくらい分かった。




   蒼「マスター!!」
   銀「うふふっ、あの子強いでしょう?なんてったって私の力も与えて上げたんですもの。
     あの人間の姿、レンピカが力を貸してるようだけどそれでもただの人間ごときじゃ勝てやしないわぁ。」
   蒼「君の仕業か!早くあいつを止めてマスターの夢から出て行け。」
   銀「まあ怖い。凛々しさが三割り増しくらいになっちゃって、ただでさえ少ない色気が五割くらいダウンよぉ。」
   蒼「もう僕はそんな事を気にする必要は無いんでね。君がやらないなら力ずくでやらせてもらうよ。」
   銀「ふふふ、だーめ。あの子にいたぶられてあなたのミーディアムはイッちゃうの。
     滑稽よねぇ、夢の庭師のマスターが自分の夢の中で壊れちゃうだなんて。
     どうかしらぁ、想像しただけで刺激的でゾクゾクしてきちゃわなぁい?」
   蒼「そんな事させるものか!」
   翠「夢での狼藉は私たちが許さねえですぅ!」
   銀「あらぁ、あなた達ごときに」
    邪悪な笑みとともに水銀燈の翼が巨大に膨れ上がり、無数の漆黒の羽根を辺りに吐き出す。
   銀「私を止められるとでも思ってるの!!」




    さっきの一撃でダメージは受けたが、距離をとることもできた。
    なんとかこのままの間合いを保って遠距離攻撃で戦うしかない!
    怪物が突進を仕掛けてくるところを、カードを取り出し迎撃する。
      『 SHOOT 』
    蒼白い光弾が左手から放たれる。
    真正面から命中し、爆煙が上がる。
    だが煙の中から勢いを落とすことなく怪物が現れ、そのまま突っ込んでくる。
   マ「ぐわぁ!!」
    体がほぼ水平に吹っ飛ばされる。行く手にあったショーウィンドウをぶち破ってやっと止まった。
    こいつ・・・強い、強すぎる・・・・・。
    やっとこのことでショーウィンドウから這い出た。
    もう体がボロボロだ。
    怪物はとっておきのダメ押しなのか、一目で切れ味が良いと分かる爪を生やした。
    あんなのでまた腹部を殴られでもしたらどうなるかは火を見るより明らかだ。
   マ「くそっ、来るな、来るな、来るなぁぁーーーー!!」
      『 SHOOT 』
    自分に残された全エネルギーを放つ。先ほどよりも巨大で、高速な光弾が怪物に飛んでいく。
    これで駄目なら・・・。

        バ チ ン!!

    だが、無情にもその一撃は怪物の腕の一振りで上空へと弾き飛ばされてしまう。
    力尽き、その場に膝から崩れ落ちる。もはや体が言うことを聞かない。
    怪物がゆっくりと歩いてくる。振り下ろしてくる腕を何とか横っ飛びでかわす。
    すぐさま次の一撃が繰り出される。もはや起き上がる事もかなわず、
    無様に横に転がるのがやっとだった。かわしきれず、肩をかすめた。
    そこに目をやると、鎧の肩の部分がまるでバターのようにさっくりとえぐり取られていた。
    そして、怪物は余裕で次の一撃を繰り出そうとしている。体が動かない。
   マ「もう・・・だめだ・・・・・。」
    胸めがけて巨腕が襲い掛かってくる。




    黒い羽根の嵐の中、翠星石と蒼星石は身動きが取れない。
   銀「ほらほらぁ、早くしないと手遅れになっちゃうわよぉ。」
    下の方で爆発が起こる。その後、ガラスの砕け散るような音。
   蒼「そこをどけ、水銀燈!」
    たまらず蒼星石が飛び出し水銀燈に斬りかかる。
   銀「ほんとにほんとにおばかさぁん。」
    水銀燈は斬撃を剣で受け止めると、伸びた翼の一方で蒼星石を捕らえてしまう。
   蒼「う、わぁぁあっ。ぐっ、ますたぁ・・・。」
   銀「あらぁ、この期に及んで自分よりもあの人間の心配をするなんて・・・妬けちゃうわぁ。」
    からかいながら巻きついた翼の力を強める。
   蒼「ぐわぁっ、ま・・・ます・・た・・ぁ。」
    ぎしぎしと何かがきしむ嫌な音を立てる。
   翠「やめろですぅ、蒼星石を放しやがれですぅ!!」
    翠星石が植物を伸ばし攻撃する。
    が、水銀燈のもう片方の翼であっさりと防がれてしまう。
   銀「無駄無駄ぁ・・・。じゃあ蒼星石には愛するマスターさんの最期を特等席で見せてあげようかしら。」
   翠「ううっ、あきらめねえですぅ、蒼星石を放せですぅ・・・。」
    その時、水銀燈が背後から迫る気配に気づいた。振り向くと巨大な光弾が目前に迫っている。
   銀「これは・・・レンピカ!!」
    蒼星石をいましめていた翼を戻し防御を図る。が、一瞬間に合わずに直撃を受けた。
   銀「くっ!!」
    すかさず再度仕掛けた翠星石の攻撃を辛うじて両翼で止める。
   銀「・・・予想外のダメージね・・・覚えてらっしゃい!」
    捨て台詞を残して水銀燈が立ち去る。
    だが解放された蒼星石は力なくビルから落下したままだ。
   翠「蒼星石、しっかりするですぅー!目を覚ますですぅ!!」
   蒼「・・・・・はっ、・・・マスター!!」
    そのままビルの壁を蹴り、マスターの方向へと飛んでいく。
   翠「蒼星石、そんなボロボロの状態じゃ無茶です。戻るです!」




    殺られる・・・。だが不思議と恐怖は無かった。
    やるだけやったんだからな。
    ヒーローになるのって・・・大変なんだな・・・。
   蒼「マスタァァーーーーー!!」
    どこからともなく現れた蒼星石が繰り出されかけた腕に斬りつける。
    しかし、鋏はわずかに食い込んだところで止まってしまう。
    ブンッと怪物が腕を振り払うと蒼星石は地面に打ち付けられる。
   蒼「ぐうっ!・・マスター早く逃げて。」
    そのまま怪物がくるりと向き直る。
    怪物が矛先を蒼星石に変えたようだ。
   蒼「マスター、早く!僕が襲われているうちに早く逃げて!」
   マ「そんなこと・・・できるか!!」
   蒼「いいから早く!!」
    蒼星石のそばで怪物が腕を高々と掲げる。
    ・・・ヒーローなんかじゃなくっていい。ただ、彼女だけは何に代えても救いたい!
   マ「うおおおぉぉぉ!!」
    渾身の力で蒼星石のもとへと飛び込む。

       ザ ン ッ !!

    鋭利な爪が大地に深々と突き刺さる。
    間一髪で蒼星石が両腕の中に収まっていた。
    体が・・・動いた・・・?
   蒼「マスター・・・逃げてって言ったのに・・・。」
    もう・・・指一本動かせないと思っていたのに・・・。
   マ「良かった・・・君が無事で本当に良かった・・・。」
    そのまま蒼星石を抱きしめ、安堵の涙を流す。
    ああ、そうか・・・ヒーローの何に憧れていたのかが分かった気がする。
   翠「大丈夫ですか!?」
   マ「翠星石、蒼星石を頼む。」
    腕の中の蒼星石を翠星石に託す。
   翠「お前はどうするですか?」
   マ「大丈夫、もう負けない。安全なところに離れていて。」
    左手が蒼く光り輝き、再び全身を包み込んだ。
   翠「姿が・・・変わった?」
   蒼「あれは指輪の光だ・・・。
    ここはマスターの夢の中、マスターの心が強さを取り戻せば力もそれに応える!」
    咆哮をあげながら怪物が再び突進してくる。
       『 EXCEED CHARGE 』
    それを迎え撃つように全身のエネルギーが両足に集まっていく。
    怪物の腕が振り下ろされた時、自分の体はすでに大空にあった。
       『 RIDER KICK! 』
    高々と舞い上がりつつ身を翻し頂点から一気に急降下、蒼い矢と化したキックが怪物を貫いた。

        グァァァアアッ!!

    断末魔とともに、怪物は爆発、四散した。
    それを見届けて気が緩んだのか、今度こそ本当に力尽きたのか、
    変身も解け前のめりに倒れこんでしまう。
    すんでのところで蒼星石が優しく受け止めてくれる。
   マ「いやあ、やっぱり見てるのと違って実際にヒーローになるのって大変だわ。」
   蒼「マスターはもう僕のヒーローだよ。」
   マ「え、なんで?」
   蒼「だって、いざと言う時には助けてくれて頼りになるし、・・かっこいいし。」
   マ「ふふん、それくらいでヒーローとはまだまだ青いですな蒼星石さん。」
   蒼「え、だって昨日は・・・。」
   マ「あの後、ヒーローの何が良いか気づいちゃったもんね。」
   蒼「えっ、何だったの?」
   マ「ヒーローはね、大事な存在のためなら、愛する存在のためになら決して諦めることなく強くなれる、最後まで命懸けで戦える。
     そういったところに痺れて憧れてたんだ。」
   蒼「それなら・・・やっぱりマスターは僕のヒーローだよ・・・。」
   マ「蒼星石・・・。」
    その時背中に凄まじい衝撃が走る。
   翠「てめー、何雰囲気出してやがるです!そもそもお前を守るのにずっとレンピカを使ってたせいで蒼星石が苦労したですよ!」
    どうやら翠星石のドロップキックが炸裂したようだ。翠星石はなおも攻撃の手を緩めない。
   マ「痛い、痛いです義姉さん、五体がバラバラになりそうです!ギブ!ギブ!!」
   翠「けっけっけ、とーんだしょぼしょぼヒーローですぅ。
    これじゃあとても蒼星石のことは任せられねえですね。」
   蒼「あーあ・・・。」
    まあ、しょぼくとも、何も特別な力は無くとも、心だけは君にとってのヒーローであり続けたい。
    自分が、君のマスターとして存在している限りは・・・。

  
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