蒼「ねえ、マスター?」
マ「うん?」
  黙って待っていると、何事かを考えていた蒼星石がこちらに話しかけてくる。
蒼「もしも本当に、あのゲームみたいな状況になっちゃったらどうする?」
  どうやらさっきから悩んでいたのはその事らしい。
  いや、むしろああいった緊急事態に直面した時に自分たちの関係が壊れやしないかが不安なのかもしれない。
マ「そうだなあ、蒼星石だけはなんとか守れるようにするよ。」
  これは偽らざる本心だ。自分の命だって彼女のためなら投げ出せるだろう。
蒼「でも、もしもさっきみたいにお互いが犯人って思える事態になっちゃったら?」
  蒼星石が意地悪な質問を投げ掛けてくる。
マ「僕は、蒼星石を信じ抜くさ。たとえ最後まで残ったのが僕ら二人きりになってもね。」
蒼「それじゃあ誤解したボクに殺されちゃうかもよ?」
  珍しい事に、それでも執拗に食い下がってくる。
  蒼星石がそんな事をするなんて到底考えられないが、そこが一番気になるところなのだろう。
    ― 自分の命と相手の命、どちらを優先しようとするのか? ―
  アリスゲームなんてものを背負い込んでいる以上、お互いにいつそういった選択を強いられないとも分からない。
  それこそ明日にだってあることなのかもしれない。
マ「うーん…そうなったら恨むしかないかな。」
蒼「犯人や状況を?それともボクをかな?」
マ「自分を、かな。蒼星石に土壇場で信頼してもらえないような不甲斐ないマスターでしかなかった自分を。」
  これだけでは蒼星石の求める質問の答えにならないことは分かってる。そこでこう付け足す。
マ「…そして、しっかりと対処できずに、蒼星石に要らぬ苦悩を遺してしまった弱くて愚かな自分を、ね。」
蒼「もう、マスターはいつもずるいなあ。」
マ「ずるい?」
蒼「いつもいつもこっちが用意した選択肢以外のものを選んで…、それでいて…
   それがいつも一番の正解みたいな、こちらが一番求めていたものを与えてくれるような気がする…。」
マ「そうかい?ところで蒼星石の答えも聞いてみたいな?」
蒼「さっき言ったような状況になっても、マスターの事はボクがきっと守るよ。マスターなら最後の最後まで信じ抜ける!」
マ「こらこら、僕だって男としてやるときゃやりますよ?」
蒼「うふふ、頼りにはするね。でも、もしもマスターが美樹本さんにやられそうになったらボクが出て行ってやっつけるからね!」
マ「ぜんっぜん、信用されてないのなー。」
  そんなゲームそのものの情けない展開は嫌だな…、大いにありそうではあるが。
  そこでとあることに気が付いた。
マ「ねーえ、蒼星石。さっきも言ったけどさ、これからはもっと素直に甘えてくれて構わないんだよ? 」
蒼「へ?」
マ「別に“やったことがない”ゲームにかこつけなくても、ってこと。」
蒼「…あっ!」
  やがてこちらの言った意味が理解できたようで蒼星石が赤くなる。
蒼「で、でも、怖がる振りをしてたとかじゃなくって怖かったのは本当なんだからねっ!」
マ「ふふふ、分かってるよ。何回目でも怖いものは怖いだろうし、僕が楽しめるように気遣ってくれてた、…って事だよね?」
蒼「もう、意地悪なんだからあ。」
  そう言うと、頭からタオルケットをかぶって潜り込んでしまった。
マ「おーい、腕枕させてよー。」
蒼「しらない、しらない!」
  どうやら完全にへそを曲げられてしまったらしい。
マ「せめて顔くらい見せてよ。」
蒼「やだ!もう今夜は顔を合わせたくない!」
  想像以上に怒りは激しいようだ。
  ここは素直に非を認めて引き下がるとしようか。
マ「本当にごめんね。すまなかったよ…。それじゃあ、おやすみなさい。」
  すぐ隣には蒼星石がいるというのに一人さびしく仰向けに寝る。
  しばらくして何やらもぞもぞと動く気配がした。
  そちらの方を見ようとす…
蒼「見ちゃ駄目!もう今夜は顔を合わせないんだからね!」
  まあ、見るまでもなく何をしているかは分かる。
  蒼星石はタオルケットの中を這って僕の胸の上へ移動してきていた。
蒼「マ、マスターが素直に謝ってくれたから…ボクもちょっとだけ、素直になるんだからね…。」
  そう言って蒼星石が胸に顔を当ててくるのが分かる。
  視覚なしに触覚だけに集中しているのでかえって生々しく、彼女の吐息すら感じられる。
蒼「ふう…あったかいなぁ…。」
マ「そりゃあ、蒼星石への愛がいっぱい詰まっているところだからね。」
  タオルケットの上から優しく蒼星石を包み込む。
蒼「もう、マスターったら…。でも…幸せで…すごく安らぐ…。」
  しばらくして可愛らしい寝息が聞こえてきた。
  胸の宝物を大事に抱えながら、自分もそのまま眠りに就いた。


                                             <完>