そんな今夜の天気はどんよりと曇っていた。雨こそ降らなそうなものの、天の川を拝む事は絶望的だろう。
  夜になって蒼星石とベランダに出ては見たものの、やっぱり空には星一つ見えない。
蒼「あーあ、マスターと一緒に天の川を見たかったのになあ。」
  仕方ないので諦めて部屋に戻る。
マ「僕も残念だよ。でも、織姫と彦星は喜んでいるかもね。」
蒼「え、どうして?せっかく会えるのなら晴れていた方が良いと思うよ?」
マ「だってさ、下界の人々の目を気にしないですむじゃん。」
蒼「どういうこと?」
  窓を閉めながら蒼星石が聞いてくる。
マ「他人の目を気にしなくて良い状況なら存分にイチャイチャしたいよね、ってこと。」
  カーテンを閉めかけていた蒼星石の手が止まる。
蒼「イ、イチャイチャって……。」
マ「一年ぶりの再会だったらきっと凄いんだろうね。」
  僕はすっとぼけて言う。
蒼「………。」
マ「あれ、どうしたの?カーテン閉めないの?」
蒼「え、えと…。」
マ「外から見えちゃうよ?」
蒼「あ、あの。」
マ「それとも蒼星石は誰かに見られるかもしれない方がお好きなのかな?」
蒼「ち、違うよ!そんな訳…。」
マ「まあ嫌ならそのままで良いよ。別に何もしないからさ。」
  わざと突き放したように言って蒼星石に決断を迫る。
マ「どうしたい?」
  蒼星石は無言のままカーテンをぴったりと閉める。
マ「これなら絶対に見えないね。」
  頬を紅潮させた蒼星石がうつむきながらこちらの方に寄ってくる。
マ「おいで、織姫様。」
  優しく手を差し伸べる。
蒼「ボクの…彦星様。」
  蒼星石もその手を優しく掴んでくれる。
  そのまま蒼星石を抱き寄せる。
蒼「織姫と彦星か…ボクらも、いつかは離れ離れになっちゃうんだよね…。」
  蒼星石が切なげな声を漏らす。
  彼女の言うとおり、いつかは別れがやってくる。それは避けられぬ運命だ。
マ「ああ、そうだね。」
蒼「そんなの悲しいよ。もしもボクがマスターを失ってしまったら、もう、もう…。」
マ「蒼星石。」
  いつになく真剣な雰囲気に蒼星石が口をつぐむ。
マ「確かに僕も君と離れたくない。残されるのも、残していくのも、心底嫌だ。
   でも、もしも僕が君を置いていってしまったら、君には新たな幸せを探して欲しい。」
蒼「マスターの事を忘れるなんて無理だよぉ…。」
マ「ああ、僕が逆の立場でもきっと無理だと思う。二人で過ごした思い出も決して忘れて欲しくはない。
   でもね、君が僕に縛られたまま笑顔を失ってしまうのはもっと辛いんだ。
   …だから、僕が君と共に歩めなくなってしまったら、僕の事を覚えていては欲しいけど、君には立ち止まらないで欲しいんだ。」
蒼「そんなの…。」
マ「僕では君に与えられない幸せを与えてくれるマスターもきっと現れると思う。
   そして僕がそうであるように君に幸せをもらえるマスターも…。」
蒼「無理…だよ!」
マ「置いてく側だろうに身勝手を言ってごめんね。でも、君の事が、君の笑顔が好きだから、その輝きを失わないで欲しいんだ。」
蒼「マスター…泣いてるの?」
マ「君と別れる事を考えるだけでもそれだけ辛いんだ。
   でもね、それだけ悲しめるという事は、それだけ満たされていたという事でもあると思う。
   僕が君といる間は全力で君を幸せにしたい。
   ただ、もしも自分にそれが出来なくなってしまったら、それを誰かに引き継いで欲しいんだ。
   そうでなくては、結局自分が最終的にしたことは君の心に不幸を残しただけになってしまうから…。」
蒼「………。」
マ「今すぐに答えを出せとは言わないよ。でもね、限りあるものだからこそ必死になれるというのもあると思うんだ。
   その時までは…、僕は君を幸せにするために全力を尽くす。
   だから、それを無にしないためにも、その時が来てしまったら……。」
蒼「ますたぁ…っ。」
  互いにそれ以上は言葉を続けられないまま、無言で抱き締めあう。
  今の自分達は天の川で再会を果たした織姫と彦星そのものなのかもしれない。
  いつか、彦星は織姫の元を去っていってしまう。永遠に共にいるのは叶わぬ願いだ。
  それならば……、願わくは一人取り残された蒼星石が次の彦星を見つけ出し、新たなる再会を果たして欲しいと思った。