今日は土曜日。学生の誰もが休日の入り口だと喜び、そしてはしゃぐと思われる曜日だ。しかし俺は
いや、俺の通う学校の生徒はそんな気にはならなかっただろう。
あるものは明日への希望と興奮、またある者は異常な倦怠感を感じられることだろう。ちなみに俺は後者だ。
 大して気にしてないだろうが発表しよう。明日は第50回校内球技大会が開催される。競うスポーツは
毎年飽きずにソフトバレーボールだ。サッカーをやっている俺には10年に一度ぐらいはサッカーを提案して欲しいものだ。蒼星石を抱きしめるようにゴールを守ってやるのに。
 その日の夜。俺は蒼星石に日曜は家に居ることができないとだけ言う。球技大会だとは言わない。
なぜなら冷静な性格のくせに好奇心が異常に旺盛だからだ。ワガママを言われてついて来られるのも・・・悪くないな。
「というわけだ。だから明日は家でおとなしく留守を・・」
と、俺が脳内で組み立てたセリフを言い終えようとしていたとき、蒼星石が反論してきた。
「ちょっと待って、内容は?どうして家に一日じゅういないのさ?」
「む・・・。それは大人の事情だ。」
俺はハッとした。頭脳派のくせに蒼星石は物事をストレートに受け取ってしまう癖があったのだ。蒼星石は俺の想像通り、"大人の事情"を文字通りに理解してしまったようだ。
「大人・・・?まさか、マスターとうとうソー○とかいう場所で筆下ろしを!?」
「ちッッがァう!どこで知ったんだその言葉は」
「マスターが寝言で言ってたんだよ。"ソー○で(自主規制)を(自主規制)で(自主規制)したいな"って」
なんということだ。俺には寝言を言う癖があったのか。こんどからマスクでもして寝ようかな。
そして沈黙。数秒後に蒼星石が立ち上がり、静寂を破ると冷蔵庫の前へ行って、プリントをはがして持ってきた。
「じゃ、これはなに?マスター」
蒼星石が指差した先には"6月18日 球技大会"としっかりイベントの内容が記されていた。粘っこい性格の俺も観念しざるをえないだろう。
「負けだ・・・。完全・・・敗北だ。」

翌日、運命の6月18日、日曜日。1時間目は授業が入っていたので制服を俺は律儀に着こなす。うむ。制服がこんなに似合う男子生徒は俺以外にはいないだろう。
そうしている俺の後ろから蒼星石がやってきた。
「マスター、お弁当できたよ。あと水筒も。」
と蒼星石がまた台所へ戻り、弁当と水筒を1つずつ持ってきた。
結局昨晩のあと、蒼星石に小一時間ほど問い詰められた俺は蒼星石を保護者として連れて行くことになった。まさかとは思うがバレーには参加しないだろう。
保護者は生徒とは1時間ほどあとで学校に来る事になっているので、俺はさきに家を後にした。

俺が家を出てから30分後。いきなり窓が轟音をとどろかせてはじけ飛ぶ。
「うわ!?」
蒼星石は反射的に庭師の鋏を召還し、身構える。しかし蒼星石はすぐに鋏を収めた。
「いてて・・・頭打ったですぅ」
「どうしたの翠星石?僕はもうちょっとしたら出かけるんだけど・・」
「え?だったら翠星石が頭を打ってまで遊びにきた意味がないですぅ。翠星石もついていくです」
その言葉に蒼星石は心から困りつつも、性格ゆえはっきり断ることができず、結局翠星石まで保護者としてついていくことになった。
 ピンポーン。最近ではあまり聞かない、来客を知らせるチャイムの音が鳴った。お茶を飲んで落ち着いている翠星石をよそに蒼星石は来客を出迎えるために玄関へと向かい、どちらさまでしょうか、と尋ねつつドアを開いた。
「ふうん。意外と片付いているわね。」
「真紅・・・?どうしてここに?」
「あら、ジュンが季節外れのインフルエンザに罹ったの。菌が移らないように避難を兼ねて遊びに来たのよ」
といいつつ真紅は玄関へすたすたと足を踏み入れる。後ろには初めて動物園につれてきてもらった子供かのようにキョロキョロと周りを見渡している雛苺も居た。
蒼星石はこれから出かけるので、相手はできないという旨を伝えると、
「校内球技大会?おもしろそうね。私たちも同行させてもらうわ。」
と、真紅と雛苺までもがついて来ることになった。このあたりで蒼星石は大きな胸騒ぎを感じていた。
 俺が家を出てからちょうど1時間後。蒼星石は自分を含めた4人をいったん玄関外まで出し、ドアに鍵をかけた。
あらかじめ学校までの地図を俺からもらっていた蒼星石は、道筋を確かめながら学校へ向かっていった。
 学校まであと4,5分とかからないところで、蒼星石のいやな予感は現実となり、彼女たちを襲った。
空からカラス、いや黒い翼をはためかせてやってきたそれは、列を引率している蒼星石の目の前に降り立った。
「お馬鹿さん4人が集まってどこへ行くのぉ?季節外れの花見かしらぁ?」
「どうしたの水銀燈。何か用?」
蒼星石は遠い目で水銀燈に質問した。その態度に水銀燈までもが白ける。
「あ・・・えっと。何しに来たのか忘れたわ。」
「そう。じゃあ一緒に学校までついて来る?」
真紅がかけなくてもいい言葉をかける。水銀燈はしばらく考えていたが結局、OKしてしまった。
 それは実に異様な光景だった。世で言う"ゴスロリ"服装の、それも幼稚園児並の身長の人間と思わしきものが群れを成して
歩いていたからだ。ちょうどその時間帯は学校を目指して保護者が集まっているときだったので彼女たちはなおさら目立っていた。
人見知りをする翠星石は列を先導する蒼星石の肩に隠れ、真紅は騒ぎ立てる雛苺をあやしながら歩く。水銀燈は背中の翼に
対する視線を気にもせずに学校への距離を少しずつ縮めていく。


ちょうどそのころと同じ時間。
「みっちゃん、今日はこの学校で仕事?」
「そうよ。この今日は50年続いている校内球技大会があるのよ。しかも内容が50年間ずっとバレーボールなの!
 どう、すごいと思わない?」
「確かにすごいけど・・・カナまで制服を着る意味はあったのかしら?」
「あるわよー。ありまくりよ!それで学校の球技大会にまぎれて参加するのよ!」

「つれてきてよかったの?」
漫画に出てくるような小さなめがねをかけた小柄な男が、もう一人の金髪で後ろでそれをくくっている男に聞いた。
「ああ。たまには薔薇水晶にこういうことをさせたほうがいい。」
「ん~。本当にこの学校の球技大会に参加させる気かい?」
「そのつもりだ。僕たちは傍観する側だけどね」
金髪の男は太陽の光を浴び、翼を休めているような小鳥を見ているような目で、薔薇水晶と呼ばれた彼女を見つめると
口元を緩めた。


午前10時。校内球技大会の開会式の時間だ。俺は身長が高いがためにチームの最後尾に並んでいた。
ふと保護者たちが待機しているテントを見ると、ついブッと噴出してしまった。周りの目が俺に集中する。
俺は何事もなかったように手を振り合図し、周囲の目を本来あるべき位置に戻す。俺が噴出してしまった元凶。それはどうみてもコスプレした幼稚園児の集団がテントの下に居たからだ。
目で数えると5人は居る。どれも一度はあったことのあるドールだ。これ以上そのことを考えているとまた噴出しそうだったので俺は開会挨拶を務めている校長の長話に耳を傾けることにした。
 午前10時30分。
ついに試合開始。我がチームは生徒の保護者が2人居る。1人はガタイのいい親父さんで、もう1人はいかにも学生時代はバレーやってましたな女の人だ。実際、実力もすごかった。俺たちのチームはこの調子で勝ち進んでいった。
ちなみに俺は身長の因果で壁役だった。

「おまえら、張り切っていくぞーですぅ!」
とコートの真ん中で仕切る翠星石が円陣を組むように促す。人数は7人に膨れ上がっていた。
「ちょっと水銀燈!肩が高すぎるわ」
「腰が痛くてこれ以上下がらないわぁ」
「だったら僕が真紅と位置変わるよ。真紅もえっと、誰だっけ。そうだ金糸雀だったら組めるよね」
仕切っている翠星石の補佐に蒼星石が加わる。細かい説明のおかげでうまくまとまったようだ。円陣を組んで掛け声をかけた。
「チーム"ローゼンメイデン"、しまっていくですぅ!」

「なあ、俺たち決勝戦出場決定だとよ」
と俺に友人(仮にAとする)が笑顔でやってきた。
「そいつはよかったな。俺なんて何回ボールを頭に受けたと思うんだ?」
「いいじゃん。ウドの大木から少しは格があがったんじゃないの?さすが、ポジションはキーパーだけあってブロックの
 タイミングは絶妙だったぜ?」
友人Aは慰めなのか、それとも本心なのか俺を褒めちぎる。あまりうれしくない。
「それで、決勝戦はどこの組だ?もしくはどこの保護者チームだ?」
「それそれ。すごいのなんのって。確かチーム名は"ローゼンメイデン"だったっけ、そんなのでさあ・・・」
俺は口に含んでいた麦茶をブーッと消火器顔負けの力で友人Aの顔にぶつける。どうやらバレーに出場していたらしい。
友人Aが怒鳴っていたような気がしたが俺はとりあえずその場を離れ、チームの元へ向かうことにした。

「嘘・・・じゃあないのか。」
試合前の円陣を組むとき、相手はやはりローゼンメイデンのドールズだった。しかも服はそれぞれのままだ。俺はチラチラと
向こうに目をやりつつも円陣を組み、自分のポジションへ向かった。
 試合開始のホイッスルが鳴る。ボールはこちらからだ。一応ポジションの説明をしておこう。

   ○ ○

   ○ ○

  俺 A ○     A=友人A
ネット-------------ネット
  蒼 銀 翠     金=金糸雀
            薔=薔薇水晶 
   雛 金      紅=真紅

  薔   紅


こっちから向こうのコートへ向けてサーブが放たれる。蒼星石が人間にあるまじきジャンプ力でボールをセッターへとまわす。
そしてセッターの水銀燈が翠星石へトスをあげる。絶妙な力加減だ。翠星石があげられたトスをスパイクでコート内へ入れる。
左のやつが手を出すものの、ボールはそれをすり抜け、地面へ着く。ピーッと点が入ったことを知らせるホイッスル。
まずは向こうが1点先取した。
 俺にトスが上がった。高さ、位置どれをとっても最高のトスだ。ありがとうAよ。俺は力いっぱいジャンプし、ボールをたたきつける。蒼星石はジャンプのタイミングが遅れた。入った!
と思った瞬間。いきなりコートからバキバキと音を立てながら氷の壁が出現し、俺のスパイクを跳ね返した。ボールはそのまま後ろへ飛んでいき、ラインギリギリに落ちた。
相手の誰かが力をつかったようだ。誰かは知らないが・・・。
 それからはというものの散々だった。まさに杖をついている老人から杖を奪い、腰を殴って立てなくするような試合だった。
たとえば、俺が再びスパイクを入れようとした瞬間、薔薇の花びらが俺の腕を拘束したり、はたまた翠星石が如雨露で水を
ぶっかけて邪魔をしたりと、とにかく卑怯だった。審判はそれをなんとも思わずに機械的に判断をしている。
 4分後。得点はこちらが0で向こうが24。向こうはすでにマッチポイントだ。とにかく1点だけは入れたかった。
そう思っていた矢先、友人Aが俺に最高のトスを再び上げてくれた。俺はがらあきである水銀燈の斜め後ろを狙い、思いっきりボールに手をたたきつける。
ボールはうなりをあげ、狙い通りの方向へ飛んでいく。誰もが初めて「入った」と感じた瞬間だっただろう。しかし無残にもそれはズタズタに破られる。
「ねぇ、知ってる?バレーは体の一部ならどこを使ってもいいのよぉ?」
水銀燈が翼を広げ、思いっきり俺のスパイクしたボールを下から斜め上へとスイングする。バチッとボールがすさまじい音をあげながらジャンプしたまままだ空中に留まっている俺の顔面に直進してくる。
「ちょwwww」
俺が発言したのはそこまでだ。発言後、目の前が真っ赤になる感覚に溺れた。おそらく鼻血だろうな。友人Aによると俺は2~3m吹っ飛んだらしい。それにしても鼻がよく折れなかったものだ。

 全試合が終了し、表彰を兼ねた閉会式が始まった。1位はいわなくてもわかるだろうが、とりあえず報告させてもらおう。
1位はチーム"ローゼンメイデン"。2位は我が1組。3位は覚えていない。
表彰状を受け取る際、翠星石が表彰状をもらおうとして、それを真紅がを止め、水銀燈が行こうとしたが雛苺がそれを全力で阻止する。
姉妹たちのリアルファイトが始まりそうだったその時、ドールズ達を説得し、蒼星石が表彰状を受け取ることになった。この場でアリスゲームを阻止した蒼星石に乾杯。

 その日の夜は俺は貧血気味で苦しんでいた。頭がポワ~としてはガンガン痛む。これの繰り返しだ。
「大丈夫、マスター?」
と蒼星石が心配そうに尋ねてくれた。表彰状をしっかりと脇に抱えて。よっぽど嬉しかったのだろう。
「今からマスターが元気になる料理を作ってくるね。だからちょっと待っててね。」
蒼星石はそれでも表彰状を離さずに台所へと向かっていった。料理の内容はなんとなく察しがついた。