【陸路で水路でアンコールを目指せ!!】
第4話)アンコール遺跡の中心で、壊れる
《カンボジア旅行記|ポイペト|バッタンバン|シェムリアップ|プレアヴィヒア|》
「これからカンボジアに行ってきます」と知人たちにメールを投げたのはバンコク行きの便に乗る直前であった。すると直後に「私もカンボジアに行きます。8月7日からシェムリアップに入ります。」と友人Kさんから返信が届いた。
え"っ、8月7日。
それは奇しくも自分がシェムリアップに入る日と同じであった。なんという偶然!! それではということで8月7日に現地で落ち合い、夕飯を食うことにした。
個人情報保護の観点から人物を特定しうる詳細は差し控えるが、友人Kさんは、一流企業に勤務され、加えて近年はフルマラソンにも挑戦されている優秀なお方。また美人の奥様Iさんは書道の師範でもある。要するにオイラとはクラースが異なる高貴な方々なのだ。
そんなカーストの高い一家の泊まる瀟洒なホテルをオイラが訪れたのは8月7日の夜7時。
「フロントで待ってます」という約束で、格式の高いホテルのフロントに薄汚い格好のオイラが座っていた。すると「どうぞ」と冷たいジュースが振る舞われた。
え"っ、自分は宿泊客じゃないのにドリンクをもらっていいのだろうか?
さすがだ、クラースが違う。オイラが普段泊まる安宿ではありえないサービスに、ノーブルな世界の一端を垣間見ることができた。
ほどなくして、アンコールワット観光を終えたKさん一家がやってきた。利発そうな10歳のお嬢様・Rちゃんも一緒だ。
「この子ったら人見知りなのよ」
RちゃんはいつもKさんの後ろに隠れて、オイラの前に顔を出さない。うん、子供の直感は正しい。怪しげな人物を怪しいと感じること - それは人生においてとても大切なことだよ。
Kさん一家とシェムリアップ随一の繁華街パブストリートに繰り出し、楽しく食事をさせていただいた。
本格的な寺院巡りを明日に控えた僕は、先に遺跡を巡ってきたKさんたちに色々と尋ねる。するとKさんと娘のRちゃんはアンコールワットの第三回廊に登ることができなかったと言う。何でも階段が急すぎて子供は登れないということで、RちゃんとKさんは回廊の下でお留守番、奥様Iさんだけが登ったという。
それではKさんとRちゃんの分もおいらが明日まとめて登ってあげようようではないか。リベンジは任せたまえ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - -
翌朝5ドルで自転車を借りて遺跡めぐりに出かけた。アンコールワット周辺はアップダウンがほとんどなく、また街路樹の整った道も整備されていて、サイクリングには持って来いのコースだ。
(上)アンコール周辺の道 (中)タプローム遺跡 (下)アンコールトム
タプローム遺跡では巨石を破壊する植物の力に驚き、アンコールトムではバイヨン仏の微笑に東洋の神秘を感じつつ、ゆっくりと遺跡群を見て回った。自転車を漕ぐのに疲れたら屋台のかき氷で涼を取る。うだるような暑さの中、わずか0.5ドルの氷の冷たさが爽やかに疲れを癒してくれる。
そして僕は思った。遥か昔この壮大な遺跡の建設に携わった人々は、どうやってその疲れを癒したのだろうか?と。当時この地に「氷」などという自然の摂理に反した物質があるわけがない。冷たいビールやかき氷なんて想像すらしえないはずだ。
一体何を身近なモチベーションとして、いにしえの民は汗を流したのか? 個人的には興味が尽きないテーマだ。
さて、いくつかの遺跡を巡り、昼飯をとり、時刻は午後3時前。いよいよ本命アンコールワットに突入だ。観光写真でよく見かける西門の堀の前に差し掛かった。さあ、あと一漕ぎだ。
歩道のブロックとブロックの間の空間にチャリンコの車輪を通したその瞬間であった。
ギッギッギッギー、カラ カラ カラ カラ~
一瞬鈍い音を上げ、自転車は前に進まなくなった。ブロックと変則器がぶつかってひん曲がり、チェーンが外れてしまったのだ。全くなんということだ。本命の遺跡を目の前にして自転車が壊れた。必死にチェーンを引っ張って直そうとするが、びくともしない。
ここで治らなければ、トゥクトゥクをチャーターして自転車ごと宿に運んで、修理代を払ったりすることになるだろう。そうすると金銭的にも痛いが、なにより今日はもうその後の観光の時間が取れないことになる。
カンボジアに行ってアンコールを訪れないことはあっても、シェムリアップを訪れてアンコールワットに行かないという話はない。「さて、この自転車どうする」と途方にくれていると「ちょっと見せてみろ」と警備員のおじさんがやってきた。
おじさんは路傍の石を取り出し、変則器のギアボックスにガシガシ打ち付けた。
「大丈夫なのか!! そんな乱暴な取り扱いで!!」
だが幸いなことに、今回はギアボックスがブロックに当たった弾みで位置が上にズレただけであった。叩いて下におろすと元に戻った。お陰で無事アンコールワットを見学することができた。優しいカンボジアのおじさん、どうもありがとう。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - -
こうしてアンコールワットを一通り巡ったオイラは、最後にKさんとRちゃんが登ることのできなかった第三回廊に向かった。2人の無念をはらすべくイザ登るぞ! ん、ん、ん、何だ!!
「CLOSED」
が~ん、なんと今日は月に4回ほどあるブッタの日。その聖なる日、第三回廊は見学不可となるのであった。< 聞いてません。
無念にも2人のリベンジを果たすことなく、オイラもアンコールを後にするのであった。
最終更新:2019年09月16日 09:33