914 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2009/07/22(水) 00:48:38 ID:XA64y7eR
それに気がついたのは今から二週間ほど前だったろうか。
大会についての話をするために昼食をモモと食べた後の五時間目。眠くなる時間帯。
ちょうど担任の先生の授業だった。
彼は出席番号で答える生徒を指名することが多く、その日の日付からは倍数に当たる私が指されるであろうことは予想がついていた。
教科書を持ちながら教室内を歩き、後ろから私の横を通り過ぎた。

「ではこれについて、次は…っと…」

その時、先生はなぜか戸惑うように辺りを見回し、そして…。

「あーっとそうだ、加治木加治木。頼むぞ。」

まるで私を見失ない、そして改めて発見したかのように私に話しかけた。
薄く眠気があった事もあり、大して気にも留めなかったのだ。その時は。


だが、これがその事の始まりだった。
次の日、教室から出ようとした時に突然の衝撃を感じると、前へと突き飛ばされたのだ。
手に何か持っていたわけでもなく、大事には至らなかったのだが…。
教室の戸口に、何故か呆然とした様子で立っていた生徒は、「ごめん…なさい…」とうろたえる様に言った。
なにかあり得ない事を体験したとしか見えない表情。
この時、私の心に疑念が広まっていった。
次の日も、次の日も、また同じような事が繰り返された。
前からプリントを回した生徒は、私が受け取るとあからさまに驚く。
買い物をすると、音を立てて商品を置かないと、レジの店員が気がつかない。
等々…。

何よりも堪えた事が二つあった。一つ目は自宅のトイレでの事だ。
トイレに入った時に鍵を閉め忘れて、誰かに開けられてしまう。
誰でも一度は体験した事はあるだろう。
その日は今の自分の身に起こった異変について考えながら、トイレに入っていた。考え事などしていたから鍵を忘れたのだろう。
今自分の身に起こっている異変。どう考えてもその要因は一つしかあり得ない。モモ…。
と、ばっと無遠慮にドアが開き母の姿が見えた。以前にもあった事だ。
だがその日おかしかったのは、母がそのまま何事もないようにトイレに入ってきた事。
そして、足がぶつかるまで私に気がつかなかった事だ。
私に気がつくと母は、何か幽霊でも…つまりあり得ないものを見たような顔で謝りながら出て行った。
…私は、家族の前からも消えたらしい。
そして、もう一つは…。
何故か、モモに会えない事だった。


そして、今日も私はモモを探している。
今日こそは会いたい、今日こそは会いたいとの思いと、またいないのだろうとの思いが交錯する。
毎日モモを探していた。
どうせ見つからないのだからと授業中に教室を抜け出し、モモのクラスへも行った。
だが、いない。部室では蒲原達が私達を心配してる。だがモモはいない、どこにもいない。
学校にいないならとモモの自宅へも行った。
それでもやはりいない。夜まで待っても何故か見つからない。
私の知らないところで家には帰っているらしく、家族の様子にもおかしいところはないのに、モモにだけは会えない。
今日は朝から自宅を訪ねた。だがやはり居なかった。
それで思いつく場所を片端から尋ねることにした。
初めて待ち合わせをした神社で鳥居の前に座り、お茶を飲む。
あの時モモは後ろから腕に飛びついてきた、その感触と幸せな想いがが蘇り、力なき笑いに出る。
これからあの日のデートのコースを辿るのだ。
会えたり、手がかりがあるとは思わない。
ただ、私ともあろうものがこんな短期間の孤独にすら耐えかねて、せめて何かにすがりたかったのだろう。
…そしてやはり、モモはどこにもいなかった。

私の足は自然に昼休みの学校へと向かっていた。
モモとの思い出はやはりここが一番多いのだ。
足が自然に向くままに歩くと、自分の教室に向かっている事に気がつく。もっとも馴染んだ順路なのだから当然だろう。
特に逆らう理由もなく教室に入ると、そこに意外なものを見つけた。
自分の机の中から、わずかに白いものがはみ出している。
誰かの悪戯か…?と自分を落ち着かせるように頭の中でつぶやきながら震える手を伸ばす。
入っていたのは、表面には何も書かれていない折りたたまれたルーズリーフだった。
跳ね上がりそうになる心臓を押さえながら、もどかしくそれを広げる。

【会いたいっす】

それを見るなり教室を飛び出していた。
向かうはいうまでもなく麻雀部の部室。学校で最も多くの時間を過ごした場所。
と…突然前方が揺れた。
廊下を行き交う人の波が、自然に中央部から左右に分かれる。その間の空間が揺れる。
誰もが自然にその場所を避けているが、その事にすら誰も気がついていない。
モモ!と声を上げようとした刹那、また、視界が揺れる。
誰かが私の左肩にぶつかった。
駆けていく生徒が誰にぶつかったかと後ろを振り向くが、その視線は私を通り過ぎて後ろを見ている。
それでバランスを崩し、よろけるように前に進む。
と、何か見えないものに腕をつかまれた…。

「見つけたっすよ、先輩。」

揺らぎが次第に晴れ、見慣れた、そして求め続けていた顔が現れた。
言いたい事も、聞きたい事も山ほどあった。けれども情けないことに、ただ一言が精一杯だったのだ。

「モモ…。」

それをモモは何かの覚悟を決めた目で受け止めたように見えた。

「先輩、申し訳ないっす。こうなる事は全く考えていなかった…訳じゃないっすから。」

モモは私の手を取ると、両手で包み込むようにして自分の胸に当てた。
既にモモの言いたい事は分かっていたが、かすれるような声で繰り返すくらいしかできなかった。

「こうなる事って、なんのことだ?モモ。」

私達の左右を、何事もないように生徒達が素通りしていく。

「先輩も見えなくなる事っす。気配が移るのが牌だけって事はないっすからね。
 私と一緒にいればいずれ先輩も…。」

モモの声が心なしか震えてくる。

「だから先輩には会えなかったっす。こうなる事が怖くて、でも…手遅れ…で…。」

ポタリポタリと私の手にモモの熱い雫が落ちてくる。

「そしてこうなった事が先輩と一緒になれたようで嬉しくも感じて、自分がそう思えたことが…怖かったっす。
 そんなことを考えている自分が嫌だったっすよ。…嫌で…。でも…。」

俯いているモモの頬を優しく撫でてやると、こちらを向かせた。
泣いてぐちゃぐちゃになった顔も、こう言うのは何だが愛らしい。
そう、本当に泣いたにしては、いささか愛らしいのだ。

「モモ、それだけではないだろう?」

頬に触れた手に、びくりと震えが伝わる。
考えたくないが、恐らく私の予想は当たっている。

「モモは私の影が薄くなり始めたことに気がつき、それを待っていた。違うか?
 モモにしてはあまりにも手際が良すぎる。身の隠し方も、あの手紙もここで私を待ち構えた事も。」

かっと見開いた目が私を見る。
顔は青ざめ、唇が震え、言葉よりも雄弁に全てを物語る。

「手遅れになるまで私を観察していたんだ。本当に自分のものにするために、自分と同じ場所に立たせるために。
 身ならいくらでも隠せるからな。」

すっと、無意識のうちに手がすべり、モモの首に両手がかかっていた。
もちろん、本当に締めたり何かをしようとしたわけではない。
ただ、悔しかったのかもしれない。
モモは愛しい、愛しいが私にとってはモモが全てではないのだ。失うものも大きいのだ。

「…いいっすよ。」

目を閉じてモモはそう囁いた。
初めて聞いた、モモの「告白」だったかもしれない。
また、私の視界が揺れた。
光が、風景がにじんで、モモの顔も見えなくなった。

以上、でかじゅモモ終わりっす
お目汚し失礼しました~

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最終更新:2009年08月03日 17:51