149 名前:表の顔 裏の顔  ◆UOt7nIgRfU [sage] 投稿日:2009/05/15(金) 22:00:02 ID:VTCEFvbx

……今夜のメニューは拘束具を壁に固定して、両手両脚の自由を
奪い、触れるか触れないかのギリギリのラインで少しずつ理性を壊し、
自らはしたないおねだりをするまでイジメ抜いて…わたくしなしでは
生きていけないと懇願するまで調教を施して……

照明を極限まで落とした自室で、机に向かってこのような妄想を
書き記すのが、龍門渕透華の日課だった。表立って、面と向かって
言えぬ思いを書き散らかすことで、理性のタガが外れないようにする
言わば自己防衛策。もちろん誰にも見せられない、倒錯した内容
である。
しかし今夜は脳内ロールプレイに没頭し過ぎてしまっていた。
そのために、背後に近寄る者にすら気づかなかった……。

「とーか? 何書いてるの?」
「何って、めくるめく悦楽の世界………ひゃわあああぁっ!」

脳内妄想の宴から強制的に引き戻された透華は、ノリツッコミのような
受け答えの後、史上最大級の驚愕を以て椅子から転げ落ちた。

「は、……はじめ…っ! い、いつからそこに…」
「ん? ついさっきだけど、ノックしても返事がなかったから、透華
いないのかなーって思って扉を開けたら、居るから…」
「そ、そそそ、そうですの。それは気づかなくて申し訳なかったですわっ」
「…で、声かけても気付かないくらい熱中して、何書いてたの?」
机の上の例のノートに興味深い視線を投げかけるはじめの行動に、
直情的に飛び上がってノートを後ろ手に隠す。

―――コレダケハ、見セラレナイ。

透華の本能がそう囁く。

「な、何でもありませんわ! 見ても面白くも何ともない駄文の羅列で」

そう言われると逆に読みたくなるのが人情ってもので。軽い身のこなしで
透華の背後にあるノートに手を伸ばす。

「何してますのっ! つまらないから読む価値なんてないですわっ!」
「…怪しいなぁ。そこまで隠すって事は相当楽しいんじゃない?」
ひょい、ひょいっと左右にフェイントをかけながら、じわりじわりとノートとの
間合いを詰めていくはじめの動きに、刹那の隙が生まれた―――。

「…あっ!」
「へへん♪ 取ーった!」

奪い取るや否や、はじめは俊敏な動きで透華と距離を取る。
取り返そうと慌てた透華は足がもつれ、つんのめって体勢を崩し、
床に手を付く形で倒れ込んでしまった。こうなってはもう、読まれるのを
止めることは出来ない。

「どれどれ~?」

1ページごとめくられ、読み進められる。ページがめくられる度、はじめの
顔に浮かんでいた笑顔が徐々に凍り付いていく。

(…あぁ、軽蔑されて嫌われてしまう……!)

ぎゅっと目を閉じ、読まれている現実から目を背けるように、
透華は時が過ぎるのを待つしかなかった。針の筵とはこのことだろうか。

「……とーか…これって……ボクとのこと…?」

普段よりトーンの低い声が耳に届く。どう答えればいいのか。
千の言い訳、万の釈明をもってしても正解はない。透華はただ、
押し黙る他なかった。

床についた手をぐっと握り込み、顔が上げられない。
カタカタと小さく体が震える。口の中はカラカラに乾いていた。

静寂が押し寄せた部屋の中、古めかしい柱時計が時を刻む音のみ
冷酷に響く。

「……ふぅん。とーかはいつもこんな目でボクを見ていたんだ…そっかぁ」

もうどんな言葉も、自身を貫く落雷のようだ。呼吸すら乱れ始める
透華の元に、ゆっくりとはじめが歩み寄る。

「ねぇ、知ってる…? サディスティックな願望を持つ人って……」

数段冷たく、重い声が広がる。

「自分がそうされたい、っていうのの裏返しなことが多いんだよ」

はじめのそんな言葉が終わると共に、透華の豊かな金色の髪が
強い力で引き上げられた。

「…あぅっ!」
「フフ、なかなか良い声じゃない? 素質あると思うよ、とーかは」
無理矢理見上げさせられたはじめの顔は、冷たい笑いが貼り付いて。

「こんな妄想を書いてさ、実は自分がこういうことされたいって裏返し
 なんじゃないの? とーかはSを演じてることが多いけど、本性は
 マゾだってみんな知ってるよ?」
「……っ! そ、そんなこと…」
「ないって言えるの? 髪を引っ張られてるだけでもう顔が上気してちゃ
 説得力ないよ、とーか… Sならとっくの昔にボクの手を振り払ってる」

幼い顔立ちが歪曲に笑む。主従関係で言えば下克上の状態だが、
本性を見透かされた今、拒むことは出来ないまま現状を享受せざるを
得ない。

「ほら、すっごく物欲しそうな顔してるよ、とーか。変態さんだったんだね」
「……う…」
「変態さんにはお仕置きが必要かな? まずはだらしなく緩んでる
 お口を塞いであげなくちゃね…」

髪を掴んだ状態のまま、強引に唇を重ね、無理矢理舌をねじ込まれる。
呼吸すら押しとどめられるような激しいキスに蹂躙され、合わさった箇所
からくぐもった声が幾筋も宙に舞う。

「…は…っ、こんなんじゃお仕置きにならないかな? やっぱり体に
 刻み込まれるほうが悦んじゃう?」

体を起こし、はじめは手元の手錠をいとも簡単に外して、それをそのまま
透華の腕に装着する。後ろ手に填められたそれは、自由を奪うのには
充分すぎる働きをした。

「さて…と。とーかはボクにどうされたい? このノートに書かれている事を
 頭から順にやっていこうか?」

普段の勝ち気な透華ならば、一笑に伏す言葉だが、今はもう隠す
事も出来ず、ただただ疼く体を目の前のはじめに鎮めてもらいたい
気持ちで覆われてしまっていた。

「……はじめに…壊れるまで愛されたいですわ……」

潤んだ目をまっすぐ向けて、心の奥底にしまっていた本心を吐露する。
素直な感情をぶつけられたはじめの心臓も一段と鼓動を早めると、
被虐の心の中に、愛おしい感情も湧き上がってきた。

「よく、言えました。ちょっといじめ過ぎちゃってごめんね、とーか。
 素直にさせたい一心だったから。ここからは優しくするからね…」

ゆっくりとひざまづき目線の高さを合わせると、先ほどとは違う、柔らかい
キスを与えた。粘膜がこすれ合う、淫靡な水音が波紋のように広がる。

「……んっ! ふぁ……そ、そこはぁ…っ!」
「ここ? とーかはここが好きなんだ……覚えとく。とーかの中、熱いよ…」
「そんなこと、言われると…っ、は、はずかし……っ」
「とーか、可愛い……ボクだけの、とーか……誰にも、渡したくない」

透華の白い肌を、はじめの細い指がくまなく這ってゆく。全てを晒し、
主従逆転の関係で深く激しく睦び合うはじめと透華。他人には見せられない
裏の顔を見せ合い、心までも結ばれた。

隠し通せない心の襞を求め、ふたりはいつまでも互いの体を貪り、
悦楽の海へと沈んでいくのであった。

-ENDー

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最終更新:2009年07月11日 16:23