85 名前: ◆UOt7nIgRfU [sage] 投稿日:2009/05/13(水) 23:07:44 ID:GHTLI6hU

ここは風越幼稚園。おひさまぽかぽか、いい天気。
今日はご近所の龍門渕幼稚園のお友達との交流教室の日。

イベント事となると俄然張り切って、前日の夜には興奮しすぎて
鼻血を出しちゃう華菜ちゃん。今も鼻には脱脂綿が詰まってます。

「お砂場はあたしのてりとりーだし!」

あらあら、お子様用スコップを天に掲げて得意顔です。可愛い猫耳も
ぴょこぴょこ動いて、ごきげんな様子です。

「お砂でお城を作るんだ♪ きゃぷてんといっしょに住めるお城を!」

ポン、ポンと、音符とお花が華菜ちゃんの周りを踊っています。
さぁ、お城の完成まであと少し!

その時…………

「おい、おまえ。ころもに場所を貸せ!」

何ということでしょう。ご近所の龍門渕幼稚園の天江ころもちゃんです。
腕を組んで仁王立ちで、華菜ちゃんの前に立ちはだかりました。
ですが、そこはお砂場プリンセスの華菜ちゃんも黙っていません。

「うにゃ、なんだよう! お城が出来るまでここはあたしの場所だし!」

「……お烏滸言を! ころもが遊びたいんだ。こんなお城なんて、
 こうしてやる!」

ぐわあっと持ち上げられたころもちゃんの足が、お城の半分を壊してしまい
ました。これはいくら何でもひどいことです。

「ああぁ――――っ!! なんでだよう……きゃぷてんにまだ見せて
 ないんだぞっ!」

「ころもにたてついたお前がいけないんだ。ころもは悪くないもん!」

「なんだとぉーっ!」

これは大変です。あっという間に険悪ムード満点のお砂場になって
しまいました!華菜ちゃんは猫耳を伏せて威嚇し始め、
ころもちゃんは頭のおっきなリボンを不機嫌そうに左右に揺らします。

「ちょっと! 何をしてらっしゃいますの!?」
「華菜……? 何かあったの?」

お砂場の大騒ぎに駆け寄ってきたのは、年長組の透華ちゃん、
そして美穂子ちゃんでした。ブレイクが入ったことで、一触即発の
空気は少しだけゆるみました。でも、ころもちゃんと華菜ちゃんは
まだ収まりがつかないようです。

「きゃぷてん! こいつが、あたしときゃぷてんの愛の巣を壊した!」

「ひとりじめしてたお前がいけないんだー!」

ぎゃんぎゃんと言い争うふたり。このままではラチが開きません。
透華ちゃんと美穂子ちゃんは見つめ合い、うん。とうなづきました。
ここは年長さんの余裕というやつでしょう。

「ダメよ、華菜! こいつなんて言っちゃいけないわ」
「人に対してお前と言ってはいけないと、あれほど言いましたわよね?」

ピシャリと手厳しい、必殺のお叱りを受けて、ちびっ子軍団は
シュン…とうなだれる。

「……だって…だってぇ……せっかくきゃぷてんのために作ったお城…
 壊されちゃって……うぅ…うえええぇぇぇ~~~~~ん!」

「そうだったの…それはちょっと悲しいわね…でもね、華菜? また
 作ればいいのよ? 私と一緒に作りましょ?」

人目はばからず、大粒の涙を流す華菜ちゃんを優しくなでて、
お洋服についたお砂を払ってあげました。

その様子をじっと、無言で見つめていたころもちゃん。
今度は透華ちゃんのお叱りタイムが始まります。

「よそ様の幼稚園に来てまで、わがままを通すのはころもの悪いクセ
 ですわ……ほら、あんなに泣かせたのはあなたなんですのよ?
 少し譲ってあげる気持ちを大事にすれば、あっという間にお友達ですわ」

「……うん。ごめんね、透華。お友達ほしいから、これからはいい子に
 するね…?」

素直に非を認めたころもちゃん。ずーんと凹んでいる様を見越して、
仕方ないなぁ。といった顔で、透華ちゃんは言葉をつなげました。

「謝るのはわたくしにじゃないですわ。華菜ちゃんに謝るんですのよ?」

その言葉に深く何度もうなずいて、とててて…と華菜ちゃんに近寄る
ころもちゃん。おずおずと言いよどんで、だけど、次は大きな声で、

「…華菜ちゃん、ごめんなさい。ころもと仲直りしてくれる?」

涙でぐしゃぐしゃだった華菜ちゃんでしたが、ぐしぐしっと鼻を手で拭って、

「…うん、あたしからも、ごめんなさい。…仲良しさんになろ?」

お互い、おひさまのような笑顔が戻りました。もうお友達ですね。

手に手を取り合って、滑り台の方へ走っていく年少さん組を優しく
見守る透華ちゃんと美穂子ちゃん。
この関係が十数年後も続くなどとは、まだ誰も分かっていなかった頃の
平和な1日を切り取ったお話でした。


-END-

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最終更新:2009年07月11日 21:51