※注意書き
原村さんが白糸台に転転校するというifストーリーです。
書いた動機の通り自分の中ではシリアス一直線です。
基本路線は和→咲、咲→和
それ以外にも照咲、照菫…etc含みます。(見方によって増えるかも?)
視点はほとんど毎回切り替わります←文才ないのですいません。
白糸台メンバーは私の勝手なイメージです。

自身初シリアス長編ものであります。
結構勢いでガーッとやってしまったので、矛盾とか誤字脱字とかあるかと思います。
そういうとこはあんまり突っ込まないであげてください。

 * * *


――それは突然やってくる――


あの日、私はひとつの賭けをした。
もし、今日勝てたなら、彼女に自分の気持ちを伝えようと。
勝てなければ……。



別れは、唐突に訪れた。
いや、分かっていたことだ。
だけど、怖くて今日まで目をそむけていた。

「全国で優勝できたら…、ということだったからな。」

そう、あの負けた瞬間、私の運命は決まった。
あの日の願いは届かなかった。
でも、言えないでいた。

「和ちゃん。私、悔しい。悔しいよ!来年は…来年こそは…!」

彼女は涙を流しながらこう言った。
彼女は知らないから。私が言ってないから。

「来年は絶対ここで優勝しよう!」
「…はい!」

できもしない約束をしてしまった。
小指をからませて、あの時と同じように。
でも、この約束は叶わない。
分かってる。分かってたのに…。

空は青くて風も心地よい。
景色はいつもと変わらない。
変わらないはずなのに、なぜか全てが滲んで見えた。

「和、時間だ。」

忘れないように周りも見渡した。
やっぱり景色は滲んで見えた。

「…はい。」

心の中で皆に謝った。

何も言わないでごめんなさい。
咲さん、約束を破ってごめんなさい。


 * * *


今思えばあの時、和ちゃんは何か言いかけていた。
私が優希ちゃんに手加減しちゃって、和ちゃんに「私も楽しませてください…!!」って言われた日。
私はずっと自分に家の話ばっかりしちゃってた。

「あなたにも色々あるんですね…」

和ちゃんのこと、私は聞かなかったし、深く考えたりしなかった。
神社で和ちゃんが願ったのは、
「これからもずっと宮永さんやみんなと一緒にいられますように」
……そうだ、なんでもっと早く気付かなかったんだろう。




別れは突然やってきた。
全国大会を終え、夏休みが明けた始業式。
彼女はいなくなっていた。
夢だと思った。悪い夢を見ているのだと。
頬をつねったら痛くて、寒気がした。
でも、現実だと思いたくなくて生徒会室に走った。

「咲……。」

部長の目はいつもの輝きがないように見えた。
あぁ、これは現実なんだ。
部長の目が教えてくれているような気がした。


――3日前くらいにね、連絡があったの。そう、和から。
高校進学の時から東京に行くように言われてて、ここに進学したことにも反対だったみたい。
入学した後もずっと反対されてて…。うん、麻雀をすることも。
それで、全国優勝したらここに残ってもいいっていう話だったらしいの。
ね、和は誰にもこのことを言わなかったのよ。
違うわ、咲。
和は咲のことが好きだから、だからこそ、言わなかったんだと思う。
…ねぇ、咲。泣かないで。


部長の声はどこか遠くに聞こえた。


 * * *


「あの原村が東京に来る。」

菫が言った。
そして、どこそこの進学校に転入するらしいと続けた。
原村和…。
私は彼女を知っている。
全中王者、そして先の全国大会に団体・個人戦ともに出場。
彼女は咲と仲が良いように見えた。

「どうして?」
「詳しくは知らないけど、麻雀をやめるという噂は聞いたな。」
「…うちに引っ張ってこないか?」

その言葉は勝手に出ていた。
なんとなく、なんとなく頭に何かが走った、そんな気がしたんだ。
菫はなぜ?とは聞かなかった。


 * * *


「白糸台高校…ですか?」

引っ越して早々にお父さんに連絡があったらしい。
全国大会優勝校である、白糸台からの誘いだったという。
お父さんは気まずそうに目をそらす。
当たり前だ。麻雀をやめるという話だったはずなのだから。
それがなぜ?なぜ、白糸台が出てくるのだろうか…。
お父さんが言い訳をするように言葉を並べた。

「白糸台には昔、とてもお世話になった先生がいてだな…」

つまり、断りにくいということなのだろう。
麻雀を続けられる…
しかし、私は迷っていた。
麻雀をすると否応なく思い出すのは分かっていたから。
運命を決めた試合。咲さんとの約束、思い出。
それに、私は麻雀をやめるという話で長野を去った。
それなのに、再び麻雀をやるということを、咲さんは、みんなはどう思うだろうか。
それを思うと迷わずにはいられなかった。

「少し考えさせてください。」


 * * *


「こんにちは。白糸台高校3年、麻雀部の宮永照です。」

私は、彼女の、原村和の家を訪ねた。
チャイムを鳴らすとすぐに彼女が応対した。
どうやら両親は出かけているらしい。
中へ案内され、椅子に座ると彼女はお茶を用意した。
少しの沈黙の後彼女は私に尋ねた。

「……何の用でしょうか?」

玄関を開けて彼女を見た瞬間に分かっていた。
彼女は私と似ている、と。

「貴女は麻雀をやめる気なの?」

だからそう尋ねた。
きっと迷ってるに違いない、そう確信しながら。

「……迷っています。」

彼女は伏し目がちに答えた。
ほら、やっぱり私に似ている。

「なぜ?」

彼女はなかなか答えない。
私相手だからかもしれない。
私があの子の姉だから。
答えようとしない彼女に私は微笑む。

「貴女はだれよりも強くなれるよ。」


 * * *


初対面の人、まじてや、咲さんのお姉さんであることを思うと答えられない。
黙ったままの私に彼女は微笑んだ。

「貴女はだれよりも強くなれるよ。」

もし麻雀を続けて、強くなれるとしても……。
それは彼女への裏切りじゃないか。
約束はもう破ってしまった。
これでまた、麻雀を続けてしまったらそれは彼女に対する裏切りに他ならない。

「私は……。私は大切な人をこれ以上裏切りたくありません。」

私は彼女に答えた。
彼女は微笑みを崩し俯いた。

「大切な人か……。」

そう呟いたような気がした。

「あなたは……、その大切な人とまた会いたいと思わない?」
「え?」

彼女の表情も、出したお茶の味も熱さも、その後のことも覚えていない。
覚えているのは彼女の言葉。
彼女の言葉が頭の中にこびりついて離れなかった。

「裏切ったとしても、傷つけたとしても……。それでも、その人に会いたいと、思わない?」


 * * *


原村和の家を後にした私は彼女の言葉を思い出していた。

『私は大切な人をこれ以上裏切りたくありません。』

――大切な人、か。

私は大切な人じゃなくて、夢を選んだ。
それが正しいのかはもうわからない。

別居すると聞いた時、私の前に2つの道があった。
1つは長野に残ること。
もう1つは東京に行くこと。
私は悩んだ。
プロ雀士になるという夢に近づくには激戦区東京。
最愛の妹である咲と一緒にいたいならここ長野。
悩み悩んで、私は夢を選んだ。

それを咲に告げた時、私は自分の犯した過ちに気付いた。

東京に来て、麻雀をやめることも考えた。
そんな時、咲は私に会いに来た。
すごく嬉しかった。
だけど、それ以上に後ろめたさの方が大きかった。
あの選択をして咲を悲しませてしまったという気持ちだけが募って何も言えなかった。
帰っていく咲の後ろ姿を見て、涙が出た。

あぁもしかしたら、もう咲は私に会いたくないかもしれない。
もう、会わないかもしれない。会えないのかもしれない。
私のことを嫌いになったかもしれない。
…私のことなんて忘れてしまうかもしれない。


私は麻雀を続けることを決めた。
麻雀を続けることが私自身の証明だと思った。
そして麻雀を続けていれば、また咲に会えるかもしれない。
そう、あの時は考えた。


 * * *


どうして私の大好きな人はみんな私から離れてしまうのだろう…。
お姉ちゃんも和ちゃんも。

目が覚めると私は保健室にいた。

「…起きた?」
「お姉ちゃん…?」

さっき見た夢のせいかもしれない。
私には一瞬お姉ちゃんに見えた。

「…? 咲、大丈夫?」

でもそれは部長で、不思議そうな顔をしてから微笑んだ。
そうか…私は部長から和ちゃんの話を聞いた後、泣いて泣いて泣き疲れて寝ちゃったんだ。
部長が頭をなでてくれた。
夢と重なって、また涙があふれた。


お姉ちゃんが中学2年生、私が小学6年生の秋頃だったと思う。
お姉ちゃんは、悩んでることが多くなった。
お姉ちゃんって呼んでも、返事をしてくれなかった。
きっと私がお姉ちゃんを怒らせちゃったんだって思ってた。
そのときお母さんもお父さんも、いつもイライラしてるみたくて、お姉ちゃんだけが頼りだった私はお姉ちゃんが離れて行っちゃうんじゃないかって思っていた。
そしてあの日、私はお姉ちゃんに告げられた。

「咲、お姉ちゃん、お母さんと東京に行くから。」

嫌われたんだ。
お姉ちゃんは私のこと嫌いになっちゃったんだ。

それでも、私はお姉ちゃんに会いたくて、中学1年生になった春、お姉ちゃんに会いに行った。
お姉ちゃんは私のことを見なかった。
帰る時もずっと、口もきいてくれなかった。

全国大会で再会したお姉ちゃんはさらに変わっていた。
お姉ちゃんと呼びかけると振り返った。
でも口にした言葉は別だった。

「私に…。妹はいない。」


夢の中のお姉ちゃんは昔のままで、優しく微笑んで私の名前を呼びながら頭をなでてくれたんだ…。

「咲……?」

だめだ…。抑えられなくなる。
和ちゃんとの突然の別れが、お姉ちゃんとの別れを思い出させて…。
2つの別れが私を襲う。
堪え切れず、涙が止まらず頬を伝った。


 * * *


高校2年生の時、私はインターハイで優勝した。
自分へのお祝いにと思って、私は咲を見に行った。
会う勇気は私にはなかった。

咲は昔から読書が好きだった。
よく木陰で本を読んでいた。
だから私はいつも咲が本を読む木に向かった。

そこには、あの日から少し大きくなった咲がいた。
変わらない姿に安心した。
咲!お姉ちゃんね、インターハイで優勝したんだよ!
って言いたかった。

「咲、またここか。」

でも、そこにお父さんが現れた。
咲は本に栞を挟んで顔をあげた。

「咲。照がインターハイで優勝したんだってさ。」

お父さんが私の代わりに咲に伝えた。
私は咲が昔のようにおめでとうって喜んでくれると思った。
でも…。

「そっか…。」

咲の反応は冷たく見えた。
期待していた心はしぼんでいった。

「…たまには雀荘にでも行って麻雀しようか?」

たまには…という言葉が気になった。
咲は本を持って立ち上がった。
咲は俯いていて表情が見えない。

「……いや。私、麻雀嫌いだもん。」

その時、私の中で何かが弾けた。


 * * *


「部長……。私、前にもこういうことがあったんです。」

部長に支えられながら私は部長に告白した。
お姉ちゃんとのことを、包み隠さず伝えた。
部長は何も言わないで抱きしめてくれていた。

「私…怖いんです。和ちゃんともお姉ちゃんの時みたいになるような気がして…。」

怖いんです、と繰り返すと部長の私を抱きしめる強さが強くなったような気がした。

「行きましょう。」

そして部長は言った。

「和に会いに行きましょう。会わなきゃ何も分からないわ。」


 * * *


私は…咲さんに会いたい。
会いたい。会いたい。

宮永照が言ったことはもっともなことだ。
麻雀をやめたら、きっと会うこともなくなってしまう。

『裏切ったとしても、傷つけたとしても……。それでも、その人に会いたいと、思わない?』

彼女の言葉を口にしてみた。
もう私は咲さんを裏切って、傷つけている。
それを思うと…。

あのときのマスコットが揺れた。

私は……。






――――――――

次「魔法の呪文」
視点=和咲照和照和照咲照咲照

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年02月19日 01:17