901 東横桃子の秘密を暴け [sage] 2009/09/09(水) 14:31:29 ID:2qbyzGNI Be

東横桃子の秘密を暴け


 個人戦二日目、獅子奮迅の快進撃を見せた龍門渕透華とは逆に沢村智紀は順位を著しく落としていた。
 原因は、鶴賀の東横桃子との対局だった。
 智紀は県予選会場内のベンチに座り、不調に終わった桃子との対局を思い返していた。
「不可解な振り込み……。ありえないミス」
 敗因を分析しようとしても、明確な答えは出なかった。
 あえて上げるとしたら、自分の不注意。
 それでも、そんな失敗を予選の本番でするなんてどうしても考えられなかった。

「さっきの対局、見てましたわ」
 不意に声をかけられた。
 意味不明のまま終わった対局を納得できなかった智紀は、相当深く考え込んでいた。
 なので、彼女は人の接近に少しも気付かなかった。
 声で気付いた智紀が顔を上げると、そこには透華が立っていた。
 初心者に役満を振り込んで落ち込んでいた個人戦一日目の場面とは立場が逆になっていた。
 智紀は一日目の場面を思い出す。意気消沈して真っ白になった透華に「つかえない子状態」と、団体戦で言われたことをそのまま言い返した。
 一日目のこともある。また言い返されると智紀は思った。
 だが、透華はそんなことはしなかった。

「団体戦の決勝。私も鶴賀の子に、してやられましたわ」
 智紀は、透華も同じ相手に何度も振り込んでいたことを思い出し、これが偶然なのかと疑問を持った。
 それは透華も同じで、智紀の対局で疑問をある意味確信へと変えていた。
「鶴賀の子、東横桃子と言ったかしら。あの子、普通ではない何かがありますわ。超能力とかそういうのはあまり考えたくないけど」
 智紀は異常な対局を思い返した。とにかく桃子の手が見えなかった。と言うより、気配を全く感じなかった。
「……リーチも気づかなかった」
「智紀も!? やっぱり、何かあるのですわ」
 共感できる相手ができたこともあり、透華はどことなく得意げに頷いて納得していた。
 そして、智紀の肩に手を置いた。

「まあ、野良犬に手を噛まれたと思ってあまり深く考え込まないことですわ。次に対局することになったら、その時は東横桃子をガン見するだけですわ」
 ここまできて、智紀はようやく気遣ってくれていることに気付いた。
 もう一度透華の顔を見ると、彼女は気持ちのいい笑顔をして見せた。
 その笑顔に勇気付けられ、智紀にも笑顔が戻る。
「次は私もそうします」
「まだ個人戦は終わってませんわ。行きますわよ」
 この時、智紀は透華に確かなリーダーシップを感じた。

智紀がベンチを立った所で、こんな会話が聞こえてきた。
「先輩の仇を取れなかったっす……」
「モモでも勝てなかったか」
 聞き覚えのある声に、透華と智紀は振り向いた。
 そこには、鶴賀高校の加治木ゆみと並んで歩く桃子の姿があった。
 透華は智紀の手を引っ張った。
「智紀、今のうちからあの鶴賀の子をしっかり見ておきますわよ」
「見るって……」
 透華は困惑する智紀を連れて、鶴賀の二人の前に立ちはだかった。
「お待ちなさい」
「お前は龍門渕の……」
 ゆみの怪訝な目をものともせず、透華は桃子をひたすら凝視した。
「先輩、恐いっす」
 桃子が恐がってゆみの腕にしがみつくと、ゆみは鋭い目つきで睨み返した。
 団体戦での桃子と透華のこともある。ゆみは因縁を付けられたと思ったのだ。
「何か用でも」
「ちょっとそちらの子に」
「モモの前に、私が相手になるが」
「あなたには関係ありませんわ」
「それはお前が決めることではない」
 一触即発の空気の中、それでも透華は桃子から視線を外さない。
 智紀もさすがに見ているだけではいられなくなり、口を出した。
「透華、相手に失礼」
「そうですわね。でも、十分に見させてもらいましたわ。次は負けませんわよ」
 透華は自分勝手にそう言うと、鶴賀の二人に背を向けて立ち去った。
 智紀はお辞儀をして失礼を詫びると、透華を追った。

 残されたゆみは、よく分からないまま透華の後姿を睨み続けていた。
 そして、桃子はゆみの腕にまだくっついていた。
「先輩、守ってくれてうれしかったっス」
「麻雀やってるとああいうのがたまにいる。モモも気をつけろ」
「じゃあ、先輩のそばにいるっス」
 桃子がゆみの腕を強く抱きしめると、ゆみは頬を赤くした。


 透華が戻ると、はじめがすぐに寄ってきた。
「透華、どこに行ってたのさ」
「ちょっと智紀を探しに」
「ちょっと鶴賀に因縁をつけに」
 透華の奇行を皮肉して智紀が付け加える。
 すると、純が生き生きとした笑顔で腕まくりをした。
「鶴賀とケンカか? だったらオレも加勢するぜ」
「ケンカ!? ねえ透華、ホントなの」
 はじめはただただ透華が心配でうろたえた。
 透華は本気にする二人に呆れて短く息を吐いた。
「してませんわ。少しツラを拝んできただけですわ」
「その言い方だと信用できないんだけど」
「信用しなさい」
「おっ、マジでケンカか?」
 予選会場の一角で騒ぐ龍門渕高校は、いろいろな意味で注目の的だった。


 終

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最終更新:2009年09月15日 16:02